インボイス制度が不動産投資に与える3つの影響とは?対策も解説

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令和5年10月1日から消費税の課税において、インボイス制度が導入されます。居住用不動産の賃貸経営では、現行の税制度において消費税が非課税であり、原則的にはインボイス制度導入の影響を受けません。

一方、事業用物件のオーナーである場合、インボイス制度導入の影響を受ける可能性があります。

本記事では、インボイス制度と消費税の仕組みを簡単に説明した上で、インボイス制度が不動産投資に与える影響とその対応策について解説していきます。

※記事内の税金・税率などは2022年7月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. インボイス制度と消費税の仕組み
    1-1.消費税の仕組み
    1-2.インボイス制度とは
  2. インボイス制度が不動産投資に与える影響
    2-1.居住用賃貸物件のオーナーはほぼ影響ない
    2-2.事業用物件のオーナーの場合、退去あるいは賃料減額要求されることがある
    2-3.事業用物件を購入した場合、消費税還付を受けられないことがある
    2-4.インボイス制度に対応するため課税事業者になると収益性が落ちる可能性がある
  3. インボイス制度の影響を軽減するための対策
    3-1.居住用賃貸物件のオーナーであれば特別な対策は不要
    3-2.事業用物件のオーナーの場合、課税事業者になりインボイス登録・発行をする
    3-3.事業用物件のオーナーの場合、消費税相当額分の賃料を減額する
    3-4.インボイス制度導入の際の収益性下落対策として、簡易課税制度の選択をする
  4. インボイス制度の対策をする際は経過措置も考慮する
  5. まとめ

1.インボイス制度と消費税の仕組み

インボイス制度が不動産投資に与える影響を考える前に、消費税の課税、計算の仕組みを簡単に押さえた上で、インボイス制度とはどのような制度なのか、を見ていきましょう。

1-1.消費税の仕組み

消費税は、消費者が商品やサービスの消費をする際に、消費税が含まれた商品やサービスの代金を支払うことで、その税額を負担する制度です。(※参照:国税庁「消費税はどんな仕組み?」)

消費税の申告・納付は、商品やサービスを提供する事業者がおこないますが、消費税額の計算過程では、以下のように、売上げた際に預かった消費税額から支払った消費税額を控除することができ、課税負担を転嫁する仕組みになっています。

消費税額=課税売上げにかかる消費税額-課税仕入れ等にかかる消費税額

なお、事業者のうち、消費税の申告・納付をおこなうのは、課税事業者に限られます。課税事業者には、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなどの条件を満たす事業者が該当します。

住宅や土地の貸付けは、消費税は非課税とされているため、通常、居住用賃貸物件のオーナーは、消費税の課税事業者にはなりません。(※参照:国税庁「消費税のしくみ」)

1-2.インボイス制度とは

インボイス制度とは、「適格請求書等保存方式」と言われ、税務署に登録した課税事業者が発行できる「適格請求書(インボイス)」を保存することが、消費税額の計算において支払った消費税額を控除する条件となる制度です。(※参照:国税庁「適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されます」)

適格請求書(インボイス)を発行できるのは、税務署に登録した、「適格請求書発行事業者」に限られます。「適格請求書発行事業者」となるには、消費税の課税事業者である必要があります。

インボイス制度は、令和5年10月1日から導入されることが決定しており、適格請求書発行事業者の登録申請は、令和3年10月1日から始まっています。

2.インボイス制度が不動産投資に与える影響

インボイス制度は、消費税の納付額の計算において、売上げた際に預かった消費税額から支払った消費税額を控除する条件に関するものです。

適格請求書が発行されるかどうかは、支払った消費税額を控除できるかどうかにつながるため、消費税の納付額に与える影響は大きいといえます。

それでは、不動産投資にはどのような影響を与えることが考えられるのでしょうか。以下で見ていきましょう。

2-1.居住用賃貸物件のオーナーはほぼ影響ない

住宅の貸付けは消費税の非課税取引であることから、居住用賃貸物件にかかる賃料については、入居者側の消費税申告の際、納付額の計算において、控除できることはありません。入居者が、消費税の課税事業者であったとしても同様に取り扱われます。

このように、居住用賃貸物件のオーナーは、基本的に消費税の申告・納付に関わらない取引をおこなっており、インボイス制度はほぼ影響ないといえます。

2-2.事業用物件のオーナーの場合、退去あるいは賃料減額要求されることがある

事業用物件のオーナーである場合、その賃料は消費税の課税取引に該当します。その事業用物件の入居者側は、消費税申告の際、納付額の計算において、賃料にかかる消費税額を売上高にかかる消費税額から控除しています。

しかし、インボイス制度導入以後は、「適格請求書発行事業者」が発行する適格請求書以外の賃料は、控除できないことになります。

事業用物件のオーナーが「適格請求書発行事業者」でない場合、適格請求書を発行できず、事業用物件の入居者側では、その分の消費税の納付額が増えることになります。

そのため、入居者側では、賃料について「適格請求書」が発行される物件に移転するか、あるいは、消費税額の負担増加分の賃料を減額請求する誘因が働くといえるでしょう。

ただし、事業用物件の入居者が消費税の免税事業者である場合は、消費税の申告・納付をおこなっていないため、賃料が適格請求書で請求されるかどうかが税負担に影響することはないでしょう。

2-3.事業用物件を購入した場合、消費税還付を受けられないことがある

消費税の納付額は、課税売上にかかる消費税額から課税仕入れ等にかかる消費税額を控除することで計算されます。

免税売上が多く課税売上が少なかったり、あるいは、高額な設備投資をおこない課税仕入れ等が多かったりした場合、課税仕入れ等にかかる消費税額が課税売上にかかる消費税額を上回ることになります。このようなケースでは、消費税の納付額計算において、控除不足税額が生じ、その分に相当する還付金を受け取ることが可能です。

事業用物件のオーナーは、その事業用物件が高額であることから、購入時にその物件購入にかかる課税仕入れ等の税額につき控除不足税額が生じ、消費税還付を受けることができます。

しかし、インボイス制度が導入されると、事業用物件の売主が「適格請求書発行事業者」でない場合には、消費税の納付額計算において、事業用物件の購入にかかる課税仕入れ等の税額を控除することができず、消費税還付を受けられないことになります。

2-4.インボイス制度に対応するため課税事業者になると収益性が落ちる可能性がある

従来より、免税事業者が売上高に消費税額を上乗せすることで、その消費税額分が事業者の手許に利益として残ってしまうことが指摘されていました。 (※参照:財務省「事業者免税点制度の概要」)

つまりインボイス制度の導入により適格請求書を発行する必要があり、原則的には免税事業者であった事業者が今まで手許に残っていた預かり消費税分を納めなければならなくなります。このため、収益性が落ちることがあるといえます。

事業用物件のオーナーが、その賃料請求につき適格請求書を発行するには、「適格請求書発行事業者」になる必要があります。そして、そのためには、課税事業者であることが一つの条件となります。

一方で、消費税の課税事業者になるには、基準期間の課税売上高等の条件を満たすこと以外に、自ら、消費税課税事業者選択届出書を提出して、課税事業者になる方法もあります。

3.インボイス制度の影響を軽減するための対策

居住用賃貸物件のオーナーは、インボイス制度の影響はほぼありませんが、事業用物件のオーナーにとっては、入居者の退去や賃料減額請求の要因ともなりうるため、影響は大きいといえます。

ここまで見てきたインボイス制度の影響を踏まえた上で、それらを軽減するための対策について考えていきましょう。

3-1.居住用賃貸物件のオーナーであれば特別な対策は不要

居住用賃貸物件のオーナーは、基本的に消費税の申告・納付に関わらない取引をおこなっており、インボイス制度はほぼ影響ないといえます。したがって、インボイス制度への対策は特に必要ありません。

3-2.事業用物件のオーナーの場合、課税事業者になりインボイス登録・発行をする

事業用物件のオーナーが「適格請求書発行事業者」でない場合、適格請求書(インボイス)を発行できず、事業用物件の入居者側では、その分の消費税の納付額が増えることになります。そのため、入居者側では、賃料について適格請求書が発行される物件に移転したいという誘因が働く可能性があります。

このようなケースへの対応策として、オーナーが「適格請求書発行事業者」となることで、賃料につき適格請求書を発行するという方法が考えられます。

消費税の免税事業者であっても、自ら課税事業者を選択して課税事業者となることで、「適格請求書発行事業者」の登録要件を満たし、登録が可能になります。

なお、令和5年10月1日のインボイス制度導入のタイミングで課税事業者の選択をする免税事業者は、原則として「消費税課税事業者選択届出書」の提出は必要ありません。

3-3.事業用物件のオーナーの場合、消費税相当額分の賃料を減額する

事業用物件のオーナーが適格請求書を発行できず、入居者側の消費税負担が増えてしまうケースへの対応策として、その消費税の負担増加分の賃料を減額するという方法もあります。

インボイス制度導入に伴う入居者側のデメリットは消費税の負担増加であり、オーナーにとってはその分、物件の価格競争力が落ちてしまうことが問題であるといえるでしょう。競争力の下落に対応する分、物件の賃料価格を引き下げることで、問題は解決します。

また、物件の競争力は立地や建物などの個別性に影響を受けることも多く、市場環境によっては賃料を減額する必要のないケースもあるでしょう。

3-4.インボイス制度導入の際の収益性下落対策として、簡易課税制度の選択をする

インボイス制度導入にあたり、入居者側の消費税負担増加に配慮するため、今まで免税事業者であった事業用物件のオーナーが、課税事業者になった場合、収益性が落ちる可能性があります。

そのようなケースへの対応策として、簡易課税制度の選択が有効であることがあります。簡易課税制度とは、課税売上にかかる消費税額から控除する消費税額を、簡易的に課税売上高の一定割合とすることができる制度です。不動産業の場合、この一定割合は40%に定められています。※参照:国税庁「簡易課税制度

不動産賃貸業では、売上高から控除することができる経費が少ないため、簡易課税制度を選択することで、消費税の納付額を軽減することができ、収益性下落対策となりうるでしょう。

なお、簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることが条件となっており、選択する際には、その課税期間の始まる前までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があるので注意しましょう。

4.インボイス制度の対策をする際は経過措置も考慮する

インボイス制度には、インボイス制度導入の影響を軽減する経過措置が設けられています。

インボイス制度導入後は、原則として「適格請求書発行事業者以外の者」から行った適格請求書(インボイス)を備えた経費にかかる消費税額のみ、課税仕入れ等の税額として控除できることになります。

しかし、例外的に、一定期間はその一部を控除することが認められています。

具体的には、令和5年10月1日から令和8年10月1日までの3年間は、課税仕入れ等の税額の80%、令和8年10月1日から令和11年10月1日までの3年間は、課税仕入れ等の税額の50%が控除可能です。 (※参照:国税庁「適格請求書等保存方式の概要」)

事業用物件のオーナーであり、何らかのインボイス制度導入対策を講じた方がよい場合であっても、このような経過措置があることを念頭に置き、段階的に対策を講じていくことを検討してみましょう。

まとめ

インボイス制度は、消費税の納付額の計算において、売上げた際に預かった消費税額から支払った消費税額を控除する条件に関するものです。「適格請求書(インボイス)」が発行されるかどうかは、支払った消費税額を控除できるかどうかにつながるため、消費税の納付額に与える影響は大きいといえます。

マンションやアパートなどの居住用物件のオーナーにとってインボイス制度の導入の影響は限定的です。一方、事業用物件のオーナーにとっては、入居者側の消費税申告の際、納付額の計算において賃料にかかる消費税額を控除できなくなり、退去や賃料減額請求の要因となる可能性があります。

オーナー側の対策としては、消費税の免税事業者であっても、課税事業者を選択して「適格請求書発行事業者」となり、賃料につき「適格請求書(インボイス)」を発行する方法や、入居者の消費税負担増加分の賃料を減額する方法があります。

インボイス制度を導入したオーナーでは、収益性が下落する可能性がありますが、簡易課税制度を選択することが有効な場合があります。インボイス制度には、経過措置も設けられており、実際に影響が生じるのは段階的であるため、その段階を見据えて、しかるべき対策を講じることを検討してみましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。