「相続予定の不動産があるが利用する予定もないので売却したい」「相続不動産を現金化しておきたい」という場合、どのようなタイミングで売却するのがよいでしょうか。
特に、相続前と相続後では、相続手続きや税金の側面から大きな差が生じる可能性があります。それぞれのメリット・デメリットを勘案し、不動産を売却するタイミングについても事前に考えておくことが大切です。
本記事では、相続予定の不動産を売却するタイミングについて、相続前と相続後との違い、それぞれの注意したいポイントについて解説します。
目次
- 相続前に不動産売却を行う場合
1-1.遺産分割のトラブルを避けることができる
1-2.マイホーム特別控除を適用できることがある
1-3.相続手続きを円滑に進められる可能性が高まる - 相続後に不動産売却を行う場合
2-1.相続税の課税評価額を圧縮できる
2-2.小規模住宅地等の特例の適用を受けられることがある
2-3.相続税の取得費加算を利用できる
2-4.空き家の特別控除の適用を受けられることがある
2-5.相続後の売却は3年以内 - まとめ
1.相続前に不動産売却を行う場合
相続前に不動産を売却する際に重視したいポイントとして、遺産分割トラブルの存在と、譲渡所得税のマイホーム特別控除の適用の2つが挙げられます。それぞれ相続前の売却判断と売却タイミングに与える影響について説明します。
1-1.遺産分割のトラブルを避けることができる
相続後に不動産を売却する場合、相続人が複数いると、遺産分割にあたってトラブルになる可能性があります。不動産は公平に分割することが難しく、一人が相続して他の相続人に代償財産を渡す場合、代償財産の算定や資金確保などの問題が生じることがあります。
相続前に相続予定の不動産を売却して現金化しておくことで、遺産分割手続きが円滑に進みやすくなり、相続人同士のトラブルを避けられる可能性があります。
1-2.マイホーム特別控除を適用できることがある
不動産を売却すると、売却による利益(譲渡所得)に対して譲渡所得税と住民税がかかり、大きな負担になりえます。譲渡所得税と住民税の税率を合計すると、短期(5年以内)の譲渡の場合39.63%、長期(5年超)の場合20.315%に及びます。
このような譲渡所得税を減額する方法として、相続予定の不動産が自己居住用不動産である場合に、マイホームの特別控除の適用を受けることができます。
マイホームの特別控除とは、自己の居住用財産を住まなくなってから3年以内に売却したときに、譲渡所得から3,000万円までの控除を認める特例です。
相続前に売却することでマイホームの特別控除を適用できる可能性がありますが、相続後に売却した場合であっても、一定の条件を満たせば同様の控除を認める特例(空き家の特別控除)が適用できるケースがあります。
※参照:国税庁「マイホームを売ったときの特例」
1-3.相続手続きを円滑に進められる可能性が高まる
相続前に不動産を売却することで、円滑な相続手続きが可能になります。相続人の間で遺産分割トラブルが発生する可能性がある場合や、代償財産の確保が難しい場合などは、相続前の売却のメリットが大きいと言えるでしょう。
自己居住の不動産で売却益が生じる場合には、マイホーム特別控除の適用を受けるために、住まなくなってから3年以内に売却することを検討してみると良いでしょう。
ただし、税金面からは相続後の売却の方が有利な場合が多いと言えます。現金を相続するよりも、不動産を相続する方が、相続税の課税評価額を圧縮もしくは軽減できる可能性が高く、相続税が安くなる傾向があるからです。
2.相続後に不動産売却を行う場合
相続後の売却では、相続税の課税評価額を軽減できること以外にも、税金面から検討したいポイントがあります。それが、相続税における小規模宅地等の特例の適用と、譲渡所得税における相続税の取得費加算・空き家の特別控除の適用、になります。
相続後の不動産売却についても詳しく見て行きましょう。
2-1.相続税の課税評価額を圧縮できる
不動産を相続する場合、その不動産に課税される相続税の算定において、土地は路線価を基準に、建物は固定資産税評価額を基準にして評価がなされます。
路線価は実勢価格(実際に売却をする際の価格)の約80%、固定資産税評価額は実勢価格の約70%となり、現金で相続した場合よりも相続税の財産評価額が低くなる傾向があります。
このように、実際に不動産が売買される実勢価格と相続税評価額に差が出ることを利用して、現金化の前に不動産相続を行うことで実質的に課税額を圧縮できる可能性があります。
2-2.小規模住宅地等の特例の適用を受けられることがある
不動産を相続する場合、相続税の算定時に小規模宅地等の特例の適用を受けられることがあります。小規模宅地等の特例とは、居住用または事業用・貸付用に供されていた小規模の宅地等のうち、特定の親族が相続した分について、評価額を最大80%減額する、という制度です。
※参照:国税庁「小規模宅地等の特例」
以下で、小規模宅地等の特例の適用を受けられるケースと条件を紹介します。
住んでいた土地を相続する場合
住んでいた土地を相続する場合、小規模宅地等の特例の適用を受けられる土地とその取得者は下表のようになります。これらの条件をみたす土地の相続税評価額は、330平米まで、80%減額されます。
土地の区分 | 亡くなった人と取得者の関係 |
---|---|
亡くなった人が住んでいた土地 | 配偶者、同居親族、家なき子 |
生計が同一の親族が住んでいた土地 | 配偶者、生計が同一の親族 |
ただし、同居親族と生計が同一の親族の場合、居住を継続して、かつ相続税の申告期限(相続日から10カ月以内)まで所有する必要があります。
なお、家なき子とは下記のすべての条件をみたす親族をいいます。
- 亡くなった人に配偶者がいない
- 亡くなった人と同居している法定相続人がいない
- 土地を相続する人が亡くなる前3年間に自己あるいは自己の配偶者
- 3親等内親族の所有家屋に住んでいない
- 亡くなったときに土地を相続する人が住んでいた家屋を過去に所有していない
家なき子が特例の適用を受ける際も、相続税の申告期限まで所有する必要があります。
事業をしていた土地または貸付けていた土地を相続する場合
亡くなった人あるいは生計が同一の親族が、事業または貸付けをしていた土地を相続し、かつ相続税の申告期限まで所有して、その事業または貸付けをおこなっている場合も、小規模宅地等の特例の適用を受けられます。
事業用の場合400平米まで80%、貸付用の場合200平米まで50%、その土地の相続税評価額が減額されます。
2-3.相続税の取得費加算を利用できる
相続した不動産を売却した場合、その売却にかかる譲渡所得税の計算では、その不動産の相続で納付した相続税分を、取得費に加算できる制度があります。ただし、この特例の適用を受けるには、相続した財産を相続日から3年以内に譲渡する必要があります。
なお、相続で取得した不動産の譲渡所得税の計算では、取得価格は亡くなった人がその不動産を取得した時の取得価格が引き継がれます。
※参照:国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
2-4.空き家の特別控除の適用を受けられることがある
一定の条件に該当すると、相続した空き家を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。主な適用条件は、以下のようになっています。
- 亡くなった人が一人で居住していたこと
- 昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること
- 相続によって取得した人が、その土地建物を耐震リフォームするか、あるいは取り壊して相続日から3年以内に売却すること
- 相続時から売却時まで空き家であること
なお、相続で取得した不動産に自分が居住した後売却した場合は、譲渡所得税のマイホーム特別控除の適用を受けられる可能性があります。
※参照:国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
2-5.相続後の売却は3年以内
相続税の取得費加算と、空き家の特別控除の適用は、相続日から3年以内に売却することが条件になっています。相続税の納付があった場合や、空き家の特別控除の適用を受けられる他の条件が揃っている場合、相続後3年以内に売却することが一つの目安となります。
なお、小規模宅地等の特例の適用は、配偶者以外の場合、相続税の申告期限まで所有することが条件になっています。この特例の適用を受けられる他の条件が揃っている場合、相続税の申告期限までは売却しないことも検討してみると良いでしょう。
まとめ
相続予定の不動産を売却するタイミングは、相続の事情によっては、トラブルを避けるために相続前に現金化した方がよいこともあります。
しかし、税金面からは、相続税の財産評価額を圧縮することができるため、相続後に売却する方が有利なケースが少なくありません。特に、小規模宅地等の特例が適用できる場合は、相続税の税額が現金で相続するよりも大きく軽減される可能性があります。
また、資産運用の観点から、建物の老朽化によって資産価値が落ちたり、大規模修繕が必要になったりして、売却を検討したいタイミングもあります。相続予定の不動産の売却タイミングは、相続の事情、税金面、資産運用面を総合的に検討して判断することが大切です。
税金の計算や特例の適用条件は複雑であり、改正がおこなわれることもあるため、税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。
佐藤 永一郎
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