固定資産税は市区町村や都が計算をして課税されるため、資産の評価や税額の決定過程、計算の仕組みがどのようになっているのか、納税者には不明瞭な部分も多いといえるでしょう。
固定資産税を適正に安く抑えるには、資産評価の決定過程や税額計算の仕組みを知ることが大切です。
本記事では、固定資産税の評価額や税額が決定過程と計算の仕組み、安く抑える方法について解説していきます。
※記事内の税金・税率などは2021年3月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 固定資産税が決定するまでの流れ
1-1.土地の評価替え
1-2.新築家屋の評価と見直し
1-3.税額の決定と納付書の送付
1-4.行政委員会への審査申出と首長への審査請求 - 固定資産税の計算の仕組み
2-1.計算方法の概要
2-2.土地の課税評価額の減額特例
2-3.家屋の固定資産税額の減額特例 - 固定資産税を抑える方法
3-1.課税標準額・税額の減額適用を受ける
3-2.家屋調査に協力する
3-3.課税明細書をチェックし、不服申立てをおこなう - まとめ
1.固定資産税が決定するまでの流れ
固定資産税は、市区町村や都が毎年1月1日に土地や家屋を所有する者に対し税額を算定し、課税されます。
税額を算定する前に、3年ごと、あるいは新築家屋については適宜、土地・家屋の評価をおこないます。評価は、国が定めた固定資産評価基準に基づいておこなわれます。
税額は納税通知書によって決定・通知されますが、納税者が審査申出や不服申立てをおこなうことも可能です。
1-1.土地の評価替え
土地の評価替えは、市街地宅地評価法(路線価方式)の場合、次のような手順でおこなわれます。市街地宅地評価法は、市街地の宅地についての評価法であり、路線価を基礎として、個々と土地の形状等に応じた補正をおこなって評価額を求める方法です。
- 用途地区、状況類似地域の区分
- 主要な街路、標準宅地の選定
- 標準宅地の適正な時価の評定
- 主要な街路、その他の街路の路線価の付設
- 各筆の評点数の付設と評価額の算出
以下で、それぞれの内容を説明します。
用途地区、状況類似地域の区分
土地の利用状況を基準にして、住宅・商業・工業地区等の地区に区分します。そして、区分した用途地区をさらに街路の状況等が類似した地域ごとに細分していきます。
主要な街路、標準宅地の選定
状況類似地域ごとに、それぞれの地域において、価格事情等が標準的で、土地評価の指標となる街路を主要な街路として選定します。さらに、主要な街路に沿接する宅地のうちから、奥行、間口、形状等が標準的な宅地を標準宅地として選定します。
標準宅地の適正な時価の評定
標準宅地について、地価公示価格、都道府県地価調査価格、不動産鑑定士等による鑑定評価価格等を活用して、その7割を目安に標準宅地の適正な時価を評定します。
主要な街路、その他の街路の路線価の付設
主要な街路に沿接する標準宅地1平米当たりの価格を、主要な街路の路線価とします。状況類似地域ごとに、主要な街路の路線価を基に、街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度などの相違を考慮して、すべての街路に路線価を付設します。
各筆の評点数の付設と評価額の算出
付設された路線価と各筆の地積を基に、個々の土地の奥行、間口、形状等に応じた補正をおこなって、各筆の評点数を求めます。各筆の評点数に、評点一点当たりの価格を乗じて、各筆の評価額を算出します。
1-2.新築家屋の評価と見直し
家屋の評価は、国の定める固定資産評価基準に基づいて、再建築価格を基準とした方法でおこないます。評価する家屋と同様の家屋を新築した場合の建築費を基礎に、新築時から経過年数に応じた減価率を乗じて算出します。次のような手順でおこなわれます。
- 新築・増築家屋の調査
- 再建築価格の算出
- 評価額の算出
以下で、それぞれの内容を説明します。
新築・増築家屋の調査
各自治体の職員が、家屋調査をおこないます。屋根や外壁、内装などに使われている資材の種類や数量および電気・給排水などの設備の状況を調査します。
再建築価格の算出
調査した家屋について、固定資産評価基準を基に再建築価格を算出します。評価方法は、家屋の評点数に評点一点当たりの価格を乗じる方法によって求めます。3年ごとの見直しでは、建築物価の変動割合を適用して新たに再建築価格を算出します。
評価額の算出
評価額は、再建築価格に経過年数に応じた経年減点補正率を乗じて算出します。さらに、積雪又は寒冷によって損耗が増大する地域では、積雪寒冷地域補正率を反映したり、天災・火災などの事由により通常の損耗より大きい場合、その損耗分も考慮して算出します。
1-3.税額の決定と納付書の送付
固定資産の評価額は、その年の3月31日までに市区町村長が決定し、固定資産課税台帳に登録されます。
その後、課税標準額、税額などを記載した納税通知書と所在、地番、地目、地積、評価額などを記載した課税明細書が納税者の下に送付されます。納税者は、その納付書を用いて、通常、4月、7月、12月、2月の4回に分けて納付することになります。
1-4.行政委員会への審査申出と首長への審査請求
固定資産課税台帳に登録された、固定資産の評価額に不服があるときは、固定資産税審査委員会という各自治体に設置された行政委員会に審査の申出ができます。
また、評価額以外の課税内容に不服があるときは、行政不服審査法上の審査請求の手続きによって首長に申し立てることになります。
2.固定資産税の計算の仕組み
ここまで固定資産税がどのように決定されるのかについて解説しました。次に、固定資産税はどのように計算されるのかについて、減額される特例と併せて解説します。
2-1.計算方法の概要
固定資産税の税額は、課税標準額×1.4%の算式で計算します。(※固定資産税の税率については、一部の市町村において標準税率を超える税率で課税されています。)
ただし、固定資産の評価額がそのまま課税標準額となるのではなく、土地の場合、住宅用地の特例措置などによって評価額が減額されることがあります。
家屋の場合、新築住宅・認定長期優良住宅の取得、耐震・バリアフリー・省エネリフォーム、について、固定資産税額が減額されます。
2-2.土地の課税標準額の減額特例
土地については、課税標準額の減額措置があります。主なものは、一般的な住宅用地と小規模住宅用地に関する特例になります。
一般的な住宅用地の減額特例
一般的な住宅用地は、課税標準額が評価額の3分の1に減額する特例があります。敷地の一部を住宅用地とする場合でも適用されますが、家屋の床面積の10倍が限度となります。
なお、通常、小規模宅地の特例と併用され、住宅用地の200平米を超えた部分の面積について適用されます。
小規模住宅用地の減額特例
上述の住宅用地のうち、200平米以下の住宅用地については、課税標準額が評価額の6分の1に減額されます。住宅1戸につき、200平米までが対象となります。
2-3.家屋の固定資産税額の減額特例
新築住宅や住宅の耐震・バリアフリー・省エネリフォームについては、政策目的から固定資産税額を減額措置が設けられています。
新築住宅の減額特例
新築住宅のうち、次の条件を満たす家屋の固定資産税額が、3年間(3階以上の場合5年間)、120平米まで2分の1に減額されます。
- 居住用部分の面積が、2分の1以上であること
- 一戸当たり(区分マンションの場合、専有部分)床面積が50平米以上280平米以下であること
- 居住用部分が全体の2分の1以上であること
なお、長期優良住宅の認定を受けた新築住宅の場合、減額期間が戸建では5年間、区分マンションでは7年間に延長されます。
※参照:国税庁「新築住宅に係る税額の減額措置」
耐震リフォームの減額特例
耐震リフォームのうち、次の条件を満たすリフォームをおこなったとき、翌年度分の固定資産税額が120平米まで2分の1に減額されます。
- 1982年1月1日以前から所在する住宅であり、賃貸物件ではないこと
- 現行の耐震基準に適合する耐震リフォームをおこなったこと
- 耐震リフォームの費用が50万円を超えること
※参照:国税庁「耐震改修工事をした場合(住宅耐震改修特別控除)」
バリアフリーリフォームの減額特例
一定のバリアフリーリフォームのうち、次の条件を満たすリフォームをおこなったとき、翌年度分の固定資産税額が100平米まで3分の1に減額されます。
- 築10年以上の住宅であり、賃貸物件ではないこと
- 工事後の床面積が50平米以上280平米以下であり、居住用部分が全体の2分の1以上であること
- バリアフリーリフォームの費用が50万円を超えること
- 65歳以上の高齢者、要介護または要支援認定を受けた者、障害者、のいずれかが住んでいること
※参照:国土交通省「バリアフリー改修に係る所得税額の特別控除」
省エネリフォームの減額特例
一定の省エネリフォームのうち、次の条件を満たすリフォームをおこなったとき、翌年度分の固定資産税額が120平米まで3分の1に減額されます。
- 2008年以前から所在する家屋であり、賃貸物件ではないこと
- 省エネリフォーム後の床面積が50平米以上280平米以下であり、居住用部分が全体の2分の1以上であること
- 省エネリフォームの費用が50万円を超えること
- 省エネリフォーム後の部位が2016年省エネ基準に適合すること
※参照:国土交通省「省エネ改修に関する特例措置」
3.固定資産税を抑える方法
固定資産税を抑えるには、税額の計算過程における減額措置の適用を受けること、そして、土地や家屋の実態を適正に評価額や税額決定に反映してもらうこと、が重要であるといえます。
3-1.課税標準額・税額の減額適用を受ける
固定資産税には、課税標準額や税額の減額措置があります。土地であれば住宅用地の特例、家屋であれば新築・各種リフォームの特例です。
住宅を取得したりリフォームをおこなったりする際、これらの減額措置の適用を受けることができると、固定資産税を抑えられる可能性があります。
土地であれば、1戸につき200平米以下になるようにすれば、小規模住宅用地の特例が適用され、課税標準額が6分の1になります。
新築戸建であれば、床面積を50平米以上280平米以下の範囲にして、長期優良住宅の条件を満たすようにすれば、5年間税額が2分の1になります。
3-2.家屋調査に協力する
固定資産税を適正な金額に抑えるには、地方自治体の家屋調査にできる限り協力することが大切です。
税額の基準となる評価額は、家屋調査を下に決められるため、調査員に協力することで土地や家屋の実態を正確に把握し、評価額に反映してもらうことが可能になります。
また、何がどのように査定されるのか、について調査員に聞いておけば後で評価額が決定されたときに検証することもできるでしょう。
3-3.課税明細書をチェックし、不服申立てをおこなう
固定資産税の課税明細書をチェックし、疑問点があれば行政委員会への審査申出や首長への不服申し立ての手続きを検討しましょう。
土地評価額については、現況地積が実態と合っているかを確認し、1平米当たりの評価額が公示地価の7割程度になっているかも合わせて確認しておくと良いでしょう。
また、課税標準額に適用されるべき減額措置が適用されているか、家屋についても、床面積や構造、減額措置の適用を確認しましょう。
疑問点や不明点があるときは、まずは、市区町村・都の固定資産税担当部署に問い合わせることが大切です。審査申出や不服申立てをおこなうときは、弁護士などの専門家に相談を検討してみると良いでしょう。
まとめ
固定資産税は、新築時の家屋調査や3年ごとの評価替えをおこなって評価額を決定し、税額を算定しています。税額算定の際には、課税標準額や税額が減額される特例もあります。
税額を抑えるには、減額特例措置を利用すること、家屋調査の際に調査員に協力することが大切です。また、送られてきた課税明細書は内容をチェックし、疑問点があれば、担当部署に聞いてみたり、審査申出や不服申立ての手続きも検討するとよいでしょう。
佐藤 永一郎
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