若者に増える「浴槽レス物件」のニーズ、ライフスタイルの変化から考える不動産投資

※ このページには広告・PRが含まれています

賃貸物件に求められる設備や機能は、社会のニーズを反映して常に変化しています。その多くは時代と共に進化・高度化する傾向にありますが、一方で、ライフスタイルの多様化を背景とした新たな価値観も生まれています。その一つが「浴槽レス」という選択肢です。

浴槽レスとは、文字通り浴槽を設けずシャワー設備のみを備えた住戸を指します。専有面積を占める浴槽をなくすことで、空間の有効活用や賃料の抑制といったメリットが生まれます。本記事では、若年層を中心とした「浴槽レス」へのニーズや、ライフスタイルの変化を捉えた物件選定の視点について解説します。変化する市場の動向を的確に捉え、不動産投資戦略を最適化するための一助としてご活用ください。

目次

  1. 若年層に広がる「浴槽レス」という選択肢
    1-1.入浴を「面倒」と感じる意識の変化
    1-2.スペース効率の観点から見直される浴槽の価値
    1-3.「浴槽レス」物件が支持を集める事例
  2. 「浴槽レス」がもたらす入居者とオーナー双方のメリット
    2-1.入居者側のメリット
    2-2.オーナー側のメリット
  3. 変化するライフスタイルに対応する物件選定の視点
    3-1.各種調査データから市場のニーズを把握する
    3-2.投資初心者:新築・築浅物件を基本アプローチとする
    3-3.投資中級者以上:築古物件のリノベーションも有効な戦略
  4. まとめ

1. 若年層に広がる「浴槽レス」という選択肢

若年層を中心に、湯船に浸かる「入浴」ではなく、シャワーで済ませるライフスタイルが広がっています。この変化に伴い、賃貸物件においても浴槽のない「浴槽レス」物件への関心が高まっていると考えられます。その背景を解説します。

1-1. 入浴を「面倒」と感じる意識の変化

複数の調査から、若年層は他の年代に比べて「入浴が面倒」と感じる割合が高いことが示唆されています。例えば、SUUMOが実施した20~60代を対象とする調査では、全体の7割以上が「入浴を面倒に思うことがある」と回答しています。

参考:SUUMO「“風呂キャンセル界隈”は面倒だけが理由じゃない!?「浴槽レス」な令和の賃貸住宅新トレンド

また、株式会社クロス・マーケティングによる年代別の調査では、お風呂に対する意識と入浴頻度の関係性が集計されています。

お風呂に対する気持ちと入浴頻度

Cross Marketing「お風呂に関する調査(2025年)」をもとに筆者作成

このデータからは、年代が若くなるほど「入浴が好き」と回答する割合や「毎日入浴する」割合が減少する傾向が見て取れます。20代では約40%が「入浴は面倒」と感じていることが分かります。

入浴の主目的が「体を清潔に保つこと」であるならば、その目的はシャワーでも十分に達成可能です。「入浴は面倒だが、清潔さは保ちたい」というニーズに対し、「浴槽レス」が合理的な選択肢として浮上していると考えられます。

1-2. スペース効率の観点から見直される浴槽の価値

入浴という行為への関心が低い層にとって、浴槽は住戸内の「非効率なスペース」と認識されかねません。浴室は一日のうち利用時間が限られるため、空間の利用効率、いわゆる「スペースパフォーマンス」の観点からは、評価が分かれる場所です。

入浴に価値を見出す層にとっては、リラックス効果などの便益がその非効率さを補う動機となります。しかし、そうでない層にとっては、浴室、特に浴槽は「デッドスペース」に近い存在となり得ます。

また、入浴自体を好む層であっても、浴槽の「手入れ」を負担に感じるケースは少なくありません。湿気が多くカビや汚れが発生しやすい浴槽周りの清掃は、多忙な単身者などにとっては大きな負担です。そのため、普段はシャワーで済ませ、湯船に浸かりたい時は銭湯や温浴施設を利用するというライフスタイルを選択する層も存在します。

1-3. 「浴槽レス」物件が支持を集める事例

こうしたライフスタイルの変化を捉え、実際に「浴槽レス」物件を供給し、安定した入居率を維持している事例も見られます。

たとえば、シノケンプロデュースが展開するシャワーのみの賃貸アパート「AVAND(アヴァンド)」シリーズは、浴槽レスにすることでコンパクトながら快適な居住空間を創出し、東京23区内で供給されています。一人当たりの専有面積を抑えることで、都心好立地でありながら賃料を抑制できている点も、若年層の需要獲得に繋がっています。

東京23区に展開する浴槽レスの賃貸アパート「アヴァンド」シリーズ

シノケンプロデュース

シノケンの不動産投資セミナー株式会社シノケンプロデュースは、自社施工によるアパート供給で7,000棟以上の実績を持つ不動産投資会社です。個人投資家向けの賃貸住宅経営におけるパイオニアとして、土地の選定から企画・設計、施工、そして竣工後の賃貸管理に至るまで、一貫したサービスを提供しています。その実績は外部からも高く評価されており、全国賃貸住宅新聞社が発表する「賃貸住宅に強い建築会社ランキング」の年間アパート開発棟数部門において、10年連続で第1位を獲得しています。

同社は、厳格な基準に基づく立地選定を行っており、大都市圏の主要駅から電車で30分圏内、かつ賃貸需要が見込める最寄り駅から徒歩10分以内にこだわって土地の取得を行っています。設計面では、画一的なプランではなく、土地の形状や特性を最大限に活かした1棟ごとのオリジナル設計を特徴としています。そのデザイン性は高く評価されており、2016年には2つのアパートシリーズでグッドデザイン賞を同時に受賞しました。

さらに、入居者満足度を追求した設備仕様も強みの一つです。入居者アンケートの結果を反映し、独立洗面化粧台、サーモスタット付混合水栓、システムキッチン、カラーモニター付インターフォンといったニーズの高い設備を標準で採用。加えて、オートロックや防犯カメラ、人感センサー付ライトなどセキュリティ対策も充実させ、入居者の安全な暮らしに配慮しています。これらの総合的な物件力が、98.75%(2024年年間平均/自社企画開発物件)という高い入居率の実現に結びついています。

2. 「浴槽レス」がもたらす入居者とオーナー双方のメリット

「浴槽レス」物件がもたらすメリットを、入居者とオーナーそれぞれの視点から整理します。

2-1. 入居者側のメリット

「入浴にこだわらない」入居者にとって「浴槽レス」は次のようなメリットがあります。

  • スペースを有効活用できる
  • 賃料を抑えられる
  • 清掃やメンテナンスの手間が省ける

浴槽をなくすと、その分スペースを有効活用できます。基本的に浴槽のある浴室より、シャワールームの方が省スペースです。残りのスペースを洗面所や部屋、収納スペースなどに使用することで、ゆとりのある空間となります。

また、浴槽レス化は専有面積の縮小や建築コストの削減に繋がるため、入浴に関心が薄い入居者にとっては、そのぶん賃料が低くなり魅力的な物件となります。

加えて、浴槽がなくなれば、日々の清掃やメンテナンスの手間も省けます。浴室は水回りの中でもスペースが広く、かつ湿気や汚れが溜まりやすいスペースです。定期的な清掃には一定の手間と時間がかかります。入居期間中の浴室の清掃や細かいメンテナンスは入居者が負担する場合が多いため、浴槽がなくなることでその手間が軽減されることになります。

2-2 オーナー側のメリット

安定した賃貸需要が見込めるエリアであれば、「浴槽レス」はオーナー側にも複数のメリットをもたらします。

  • 狭小地でも室数を確保しやすい
  • メンテナンス・修繕コストを抑えられる
  • 風呂なし・3点ユニット物件のリノベーションコストを抑えられる

浴槽レスでアパートを新築すると、1戸あたりの専有面積を縮小できるため、狭小地や変形地でも計画の自由度が高まり、総戸数を確保しやすくなります。

また、浴槽関連の設備費用や施工費が不要となり、建築コストを削減できます。また、退去時の原状回復や将来の大規模修繕においても、水回り関連の費用を抑えることが可能です。

最後に、築古で見られる「風呂なし」や「3点ユニットバス」の物件をリノベーションする際、浴室の新設は大きなコスト要因でした。シャワールームのみを設置する選択肢は、コストを抑制しつつ現代のニーズに応える有効な手法となり、投資戦略の幅を広げます。

3. 変化するライフスタイルに対応する物件選定の視点

「浴槽レス」の潮流のように、ライフスタイルの変化は賃貸需要に大きな影響を与えます。こうした変化を捉え、安定した賃貸経営を実現するためには、以下の視点を持つことが重要です。

  • 各種調査データから市場のニーズを把握する
  • 投資初心者:新築・築浅物件を基本アプローチとする
  • 投資中級者以上:築古物件のリノベーションも有効な戦略

それぞれのポイントについて、詳しく解説していきます。

3-1. 各種調査データから市場のニーズを把握する

不動産ポータルサイトや各種メディアが定期的に公表する、住環境に関する意識調査やアンケート結果を注視することが求められます。一見、不動産と直接関係のないライフスタイルに関する調査にも、物件選びのヒントが隠されていることがあります。

例えば、コロナ禍以降は在宅勤務の普及により、都心からの距離を許容する代わりに、ワークスペースを確保できる広めの住戸への需要が高まりました。近年では、省エネ性能や断熱性能への関心も高まっています。こうしたマクロなトレンドを把握し、ターゲットとする入居者層のニーズに合致した物件を選定することが、円滑な入居者募集の鍵となります。

3-2. 投資初心者:新築・築浅物件を基本アプローチとする

不動産投資の初心者や、安定稼働を特に重視する投資家にとっては、新築または築浅の物件を選ぶのが基本的なアプローチです。

デベロッパーやハウスメーカーは、建築時点で最新の市場調査に基づき、入居者を集めやすい間取りや設備を企画・設計します。そのため、新しい物件ほど、現代のライフスタイルのトレンドを的確に反映している可能性が高いといえます。最新のニーズを理解した上で、ターゲット層に合致する新築・築浅物件を選定することは、失敗のリスクを低減する有効な手法です。

3-3. 投資中級者以上:築古物件のリノベーションも有効な戦略

不動産投資の経験が豊富な投資家であれば、あえて築古物件を取得し、リノベーションによって現代のライフスタイルに適合させるというアプローチも考えられます。

既存の物件が、必ずしもターゲット層のニーズを完全に満たしているとは限りません。魅力的な物件が市場にない場合、自ら理想的な住空間を創出することも有効な選択肢です。新築に比べて安価に取得した築古物件に、トレンドを反映したリノベーションを施すことで、結果的に新築より高い利回りを実現できる可能性もあります。市場ニーズを的確に捉え、物件を再生させる知見を持つ投資家にとっては、挑戦する価値のある戦略といえるでしょう。

4 まとめ

生活スタイルや住まいに対する価値観は、年々変化するものです。最近では「入浴が面倒」「清潔さが保てれば十分」と考える人が増え、浴槽を設けない「浴槽レス」物件が注目を集めています。

浴槽を省くことでスペースを有効活用でき、賃料を抑えたり収納や居室を広げたりできる点が若者層に受け入れられています。また、掃除やメンテナンスの手間を軽減できるのも、人気の理由の一つです。

オーナーにとっても、浴槽レスは狭小地でも室数を確保しやすく、建築コストや修繕費を抑えられるなどの経済的メリットがあります。築古物件をリノベーションする際にも、浴槽を設けないことでコストを下げつつ、ニーズに合った住空間を提供可能です。

アパート投資では、こうしたライフスタイルや価値観の変化を敏感に捉えることが大切です。調査データや社会の動向を踏まえて入居者の本質的なニーズを理解し、柔軟に物件設計や投資戦略を最適化することが、安定した賃貸経営につながるでしょう。

The following two tabs change content below.

伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。