インバウンド需要の高まりで国内の不動産投資市場はどう動く?投資戦略も

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アフターコロナや円安、国内観光地の魅力浸透などでインバウンド需要が増加しています。2024年上半期の訪日外客数は2019年同期を上回って過去最多を更新しており、国内の不動産投資市場も少なからず影響を受けています。

そこで今回のコラムでは、インバウンド需要の増加を受けて、考えておきたい投資戦略の次なる一手について紹介します。

目次

  1. 2024年6月の訪日外客数が過去最多を更新
  2. 訪日外国人の消費額から見るインバウンドの経済効果
  3. インバウンド需要の高まりを狙った不動産投資の戦略
    3-1.賃貸物件を所有する
    3-2.路面店などのテナント用物件を所有する
    3-3.宿泊施設を所有する
    3-4.転売目的で利便性の良い物件を購入する
  4. インバウンド需要を狙った不動産投資エリアの選定ポイント
    4-1.訪日外国人が訪問する都道府県のランキング
    4-2.外国人観光客の消費単価
    4-3.東京都の不動産投資
  5. まとめ

1 訪日外客数が過去最多を更新

日本政府観光省が公表した「訪日外客数(2024年6月推計値) 」によると、2024年6月の訪日外客数は単月として過去最多の313万5,600人となっています。前年同月比では51.2%増、新型コロナ感染症が拡大する直前の2019年同月比では8.9%増となっています。

また、上半期の累計は1,777万7,200人となり、過去最高を記録した2019年同期を100万人以上上回っています。

一方、外国人観光客が日本で消費するお金も増えており、国土交通省が2024年7月19日に発表した「【インバウンド消費動向調査】2024年4-6月期の調査結果(1次速報)の概要」によると、2024年4〜6月期の訪日外国人旅行消費額(1次速報)は2兆1,370億円となっています。これは2023年同期比の73.5%増、2019年同期比の68.6%増となっています。

このようにインバウンド需要が日本国内で増加していますが、不動産投資市場はどのような影響があるのか、次の項目で考えてみましょう。

2 訪日外国人の消費額から見るインバウンドの経済効果

インバウンド需要が増加すると、観光地を中心に経済が活性化されます。「インバウンド消費動向調査」によると、2024年4〜6月期の訪日外国人の消費額の費目別構成比は以下のようになっています。

項目 宿泊費 飲食費 交通費 娯楽等サービス費 買物代
2019年4〜6月期 28.9% 21.1% 9.9% 3.2% 36.8%
2023年4〜6月期 35.0% 23.7% 11.9% 3.8% 25.6%
2024年4〜6月期 33.0% 21.8% 10.4% 3.7% 31.1%

※参照:国土交通省「【インバウンド消費動向調査】2024年4-6月期の調査結果(1次速報)の概要」より抜粋

訪日外国人が何にお金を使っているのかというと、宿泊費と買物代が1/3ずつを占め、飲食代が20%となります。これらの消費活動が不動産投資に与える影響として、下記のような需要増が想定されます。

  • 働く人のための賃貸物件の需要が増加する
  • テナントの需要が増加する
  • 宿泊施設の需要が増加する

インバウンド需要の高まりを加味した不動産投資を検討するのであれば、上記の需要増に関連性の深い投資対象を選択されてみるのが良いでしょう。

ただし、インバウンド需要は増減が激しく、不動産投資を行うにはハイリスクとなりやすい点に注意が必要です。例えば、スキー場や海水浴場など季節性の高いレジャーエリアでは、基本的に繁忙期以外の需要が激減します。また、コロナ禍や地震などの災害によって中長期的に大幅な需要減になることもあります。このようなエリア・投資時期ごとのリスクを考慮して、投資戦略を立てることが重要です。

3 インバウンド需要の高まりを狙った不動産投資の戦略

インバウンド需要の増加を受けて、検討しやすい4つの投資戦略について解説していきます。

3-1 賃貸物件を所有する

観光地が活性化すると、周辺エリアで働く人材も増えることにつながるため、単身者向け賃貸物件が検討できます。

例えば、世界的な観光地となったニセコエリアにおける単身者向け物件の家賃相場は6.2万~7.8万円となっています。北海道内では札幌市が5万~7万円、小樽市が4万~5万円と、ニセコエリアが高めの水準です。(SUUMO「家賃相場・賃料相場情報」2024年8月調査時点)

また、外国人向けの賃貸住宅も貸し手市場となっています。出入国在留管理庁の報道発表によると、2023年末時点での在留外国人数は341万992人となり、過去最高を更新しています。また、昨年10月末時点の外国人労働者は初めて200万人を突破しており、外国人向けの賃貸物件の需要は高まっていると推測できます。

生活習慣の違いもあり、外国人入居者を受け入れるにはリスクもありますが、国土交通省では「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」を提供しています。また、外国人入居者向けの保証会社や不動産管理会社の活用も検討されると良いでしょう。

【関連記事】外国人入居者向けの賃貸保証会社は?11社の比較・言語対応の有無も紹介
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3-2 路面店などのテナント用物件を所有する

観光客の目につきやすい立地に建つテナントは集客がしやすく、飲食店などの小売店のオーナー・店主からの需要が高い投資先です。利便性の良い立地であれば、退去があっても次の入居店舗が決まりやすいという傾向もあります。

人気のあるテナント物件は供給数が少なく、購入費用が高額などのデメリットもありますが、テナント用物件のメリットとしては以下のようなことが挙げられます。

  • 居住用物件より利回りが高い
  • 原状回復費用がかからない
  • 入居期間が長くなる傾向がある
  • 人気の観光地の場合は安定的な経営ができる

また居住用物件の敷金に当たる保証金は、物件によって家賃の10カ月分などと高めに設定することができます。保証金は店舗が退去する際にオーナー・店主に返却するものですが、家賃の滞納や原状回復などに充てる資金として活用できます。

3-3 宿泊施設を所有する

訪日客が増えていると宿泊施設が不足傾向になるため、宿泊施設を運営するといった戦略も考えられます。個人投資家が所有できる宿泊施設には、旅館やビジネスホテル、民泊施設など様々なタイプがあります。以下宿泊施設のタイプ別稼働率です。

宿泊施設 2024年5月の稼働率 2023年同月との稼働率の差 2019年同月との稼働率の差
全体 58.8% 2.7% -4.4%
旅館 35.6% -2.0% -5.9%
リゾートホテル 57.6% 7.5% -2.0%
ビジネスホテル 75.2% 7.0% -0.6%
シティホテル 73.7% 6.8% -6.2%
簡易宿所 27.5% 1.6% -6.0%

※参照:国土交通省「宿泊旅行統計調査(2024年4月・第2次速報、2024年5月・第1次速報)」より抜粋

個人投資家が投資しやすいのは簡易宿所(民泊)ですが、稼働率で言えばやや低迷しています。しかし、居住用賃貸物件に比べると利回りが高いため、ハイリターンを狙った投資先として人気の高い物件タイプです。

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3-4 転売目的で利便性の良い物件を購入する

2024年8月時点は未だ円安状態にあり、日本銀行の低金利政策などによって日本国内の不動産は割安感が強く、日本不動産の買い時であると考える海外の投資家も少なくありません。国土交通省が公表している不動産価格指数の推移を見ると、いずれのタイプの不動産も価格の上昇が顕著に現れています。

不動産のタイプ 2019年6月の不動産価格指数 2024年6月の不動産価格指数
住宅総合 115.5 137.4
住宅地 104.2 117.3
戸建て住宅 103.3 115.8
マンション(区分所有) 148.6 197.9
店舗 144.5 151.2
オフィス 138.5 170.6
倉庫 115.9 126.9
工場 114.5 120.4

※参照:国土交通省「~不動産価格指数(平成31年3月・第1四半期分)」「~不動産価格指数(令和6年3月・第1四半期分)」より抜粋※2010年平均を100とした数値

上記の表を見ると、すべての不動産のタイプにおいて指数が上昇しています。このような状況が今後も続くとは言い切れませんが、インバウンド需要の高まりによって国内不動産の需要も継続して増え、不動産価格の値上がりが続く可能性はあります。不動産を購入して売却時のキャピタルゲインを狙った不動産投資の戦略も考えられるでしょう。

ただし、キャピタルゲインを狙った不動産投資の戦略はハイリスクになりやすい点に注意が必要です。将来の不動産価格は円安や金利、海外需要などのマクロの情報のみで決まるわけではなく、エリアの人口推移や物件のスペック、管理状況などにも大きく左右されます。様々な観点から、慎重な判断を行っていくことが大切です。

4 インバウンド需要を狙った不動産投資エリアの選定ポイント

これまで紹介してきた4つの投資戦略を実行に移す場合、エリアの選定がポイントになります。その基準として参考の一つになるのが観光庁の「訪日外国人消費動向調査(2024年1月〜3月期)都道府県別集計表」です。

4-1.訪日外国人が訪問する都道府県のランキング

訪日外国人が訪問する都道府県のランキングは以下のようになっています。

順位 都道府県 訪問者数
1位 東京都 326.7万人
2位 大阪府 276.4万人
3位 千葉県 249.6万人
4位 京都府 210.1万人
5位 福岡県 85.1万人
6位 北海道 73.9万人
7位 奈良県 59.6万人
8位 山梨県 54.5万人
9位 神奈川県 48.1万人
10位 愛知県 41.1万人

※参照:観光庁「訪日外国人消費動向調査(2024年1月〜3月期)都道府県別集計表」より抜粋

統計資料を見ると、上位4番目までが200万人を超えています。また、大都市圏以外で見てみると、3番目の千葉県にはランドマークとなる「東京ディズニーリゾート」があり、8位の山梨県にも「富士山」があります。エリアを絞る際は、こうした統計資料から訪日外国人の方が求めるランドマークを検討されてみるのもいいでしょう。

4-2.外国人観光客の消費単価

外国人観光客の消費単価も参考になります。以下の表に、都道府県別の消費単価上位をまとめています。

順位 都道府県 消費単価
1位 北海道 16.0万円/人
2位 東京都 14.0万円/人
3位 沖縄県 11.2万円/人
4位 長野県 9.8万円/人
5位 福岡県 9.3万円/人
6位 大阪府 8.2万円/人
7位 新潟県 7.9万円/人
8位 愛知県 7.7万円/人
9位 香川県 6.7万円/人
10位 鹿児島県 6.6万円/人

※参照:国土交通省「訪日外国人消費動向調査(2024年1月〜3月期)都道府県別集計表」より抜粋

訪日外国人の方どのエリアで消費しているかという視点で都道府県別に見ると、三大都市圏に加えて、1位の北海道、3位の沖縄県、4位の長野県などの地方都市の方が上位を占めていることがわかります。

また訪問者数で3位だった千葉県は1.7万円/人となっており46位、7位だった奈良県は0.8万円/人で47位となっており、訪問者数は多くてもあまりお金を使わない傾向があることがわかります。なお、これらの地方エリアはランドマーク以外に消費できるコンテンツが少なく、長く滞在していないといった背景も想定できます。投資先を選定する際にはエリアの開発計画なども参照されてみると良いでしょう。

4-3.東京都の不動産投資

東京都は、インバウンド需要の高まりを狙った投資先としても検討しやすいエリアです。東京の不動産需要はインバウンドのみに依存しておらず、中長期的に不動産価格も上昇傾向にあります。下記、東京都の住宅地の取引価格の推移です。

東京都の住宅地の取引価格の推移


※出所:国土交通省「不動産情報ライブラリ|土地取引価格の概況」(2018年第4四半期の値を100として指数化、各期のデータについては、今後も標本数が追加される可能性があります。特に最新の取引時点について翌期以降大きく標本数が変わることがあるのでご注意ください。)

コロナ禍が始まった2020年以降も不動産価格の大きな低下は無く、緩やかな上昇傾向にあります。感染対策として大規模な金融緩和が行われていたことも要因にありますが、不動産価格の上昇要因がインバウンドだけに依存しておらず、複合的な要因によって上昇が起きているということが分かります。

また、東京都は訪日外国人ランキングの「訪問者数」で1位、消費単価で2位のエリアとなっているエリアです。国内外からの需要が多いエリアであるため、低リスクの運用を行いつつ、インバウンド需要増の好影響を受けたい場合には選択しやすい投資エリアです。

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5 まとめ

インバウンド需要が高まっている日本において、不動産投資の選択肢が広がっていると考えられます。今回はその選択肢として、観光地周辺の賃貸用物件、テナント用物件、宿泊施設などへの投資について解説しました。

インバウンド需要の高まりは世界情勢や為替相場などによっても変動が起きます。リスクも見極めながら、投資検討されていくと良いでしょう。

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倉岡 明広

経済学部経済学科卒業後、出版社や編集プロダクション勤務などを経てフリーライターとして独立。雑誌や新聞、インターネットを中心に記事を執筆しています。初心者が抱く不動産投資の疑問や質問を解決できるよう丁寧な記事を執筆していきます。