遺産分割協議をやり直す方法は?再協議・取消権・無効の条件について解説

一度遺産分割協議で決定した内容を変えたい場合、相続人全員が合意することで「再協議」が可能です。ただし、再協議は以前の遺産分割協議の「無効・取り消し・解除」を行う必要があり、これらの実行にはそれぞれ一定の要件を満たす必要があります。

本記事では遺産分割協議のやり直しについて、無効・取り消し・解除の方法、再協議の注意点を解説していきます。

※記事内の民法・判例・税金についての説明などは2022年4月時点の情報となります。最新の情報については、裁判所や国税庁などのサイトをご確認のうえ、弁護士・税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 遺産分割協議をやり直す(変更する)方法
  2. 遺産分割協議の無効・取り消し・解除の違いと要件
    2-1.遺産分割協議が無効となる場合
    2-2.遺産分割協議を取り消せる場合
    2-3.遺産分割協議を解除できる場合
  3. 遺産分割協議の再協議の注意点
    3-1.相続税ではなく、贈与税・譲渡所得税が課される事がある
    3-2.各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況
  4. まとめ

1.遺産分割協議をやり直す(変更する)方法

相続人全員で遺産分割協議を行い全員が合意した上で遺産分割協議書を作成した場合、基本的に遺産分割協議をやり直す(変更する)ことはできませんが、相続人全員が合意した際には、取り消し・解除を行い「再協議」することが可能です。

相続人全員の合意を得ることなくやり直しができるケースは、最初の遺産分割に不備があり協議そのものが無効である場合に限定されています。

民法909条「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない」という規定により、一度成立した遺産分割協議を全員の合意で取り消し又は解除し、再び遺産分割協議をすることになります。

なお、「第三者の権利を害する事はできない」という文言は、遺産分割の再協議を行っても第三者の権利は保護されることを意味します。例えば、最初の遺産分割協議により不動産を売却した場合、買主の権利は保護され、不動産の売却を無効にしたり、取り消すことはできません。

遺産分割協議における無効・取り消し・解除の違いと要件について見ていきましょう。

2.遺産分割協議の無効・取り消し・解除の違いと要件

  • 遺産分割協議が無効となる場合
  • 遺産分割協議を取り消せる場合
  • 遺産分割協議を解除できる場合

2-1.遺産分割協議が無効となる場合

「無効」とは、成立した契約に「契約としての効力が無い」ことを意味します。

遺産分割協議にはルールがあり、相続人全員が揃っていない、未成年者や認知症や知的障害・精神障害などで判断能力が乏しい方に後見人を付けていない協議は無効となります。

また、利益が相反する関係の時は特別代理人を選任しなければなりません。例えば、父親が亡くなり母親と未成年の子供が相続人である場合、母親は立場を利用して未成年の子供の取り分を自分の物にできることから後見人となることはできません。(※参照:裁判所「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」)

2-2.遺産分割協議を取り消せる場合

「取消し」とは成立した契約に法律上の取消原因があることから、取消権を持っている人(相続人)が契約を取り消し、最初から契約を無効にする方法です。

遺産分割協議を取り消す事が出来るのは、協議の内容に錯誤(重大な間違い)があった、詐欺、脅迫等があった場合です。詐欺や脅迫によって遺産分割協議で「取り分は〇分の1でいい」「相続しない」といった意思表示をした場合でも取り消す事ができます。

錯誤(間違い)は、遺産の調査で重大な漏れがあった、誤認があり合意の判断に影響したなどのケースです。基本的に錯誤による取り消しは「法律行為の目的・取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」と限られているため、簡単な錯誤で取り消す事は難しいと言えます。

例えば、未成年者や被後見人・被保佐人・被補助人など法律行為を単独でできない人(制限行為能力者)が意思能力を欠いていた際に決めた・合意した事項は、本人・代理人・承継人が取り消す事が可能です。

制限行為能力者とは契約といった法律行為を一人でできない方を指し、認知症・知的障害・精神障害があり「意思能力がない」と判断された方が該当します。

取消件は取り消せる時から5年以内と定められており、重要な間違いが見つかった、脅迫・詐欺があったと分かってから5年以内に主張しないと時効になってしまいます。(※参照:民法 第百二十六条(取消権の期間の制限))

遺産分割が明らかに無効・取り消しであり、取消権の時効を迎えていないにも関わらず再協議に納得しない相続人がいる場合には「遺産分割協議無効確認請求」の訴訟を起こすことで遺産分割協の取り消し・無効となる可能性があります。

2-3.遺産分割協議を解除できる場合

「解除」とは、成立した契約に解除原因がある際に、解除権を持っている人(相続人)が契約を解除し、契約を解消する方法です。相続人全員が合意している際には、既に成立している遺産分割協議の一部または全部の解除が可能です。

なお、解除は一度意思表示をすると撤回できないため、慎重に検討しましょう。

過去の判例では債務不履行による解除はできない

民法541条には解除に関して以下の規定があります。

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

※引用:民法 第五百四十一条(催告による解除)

遺産分割協議の結果で、相続人の1人が他の相続人に債務を負うケースがあります。

例えば、相続人Aが時価5000万円の不動産を相続し、相続人Bに5000万円の代償金を支払うことになったにも関わらず、Aが5000万円を支払わなかった(債務不履行)時、Bは上記の条文により遺産分割協議の解除ができるのかについて、実際の判例から検証してみましょう。

裁判所の判例集、1989年2月9日の「更正登記手続等請求事件」では、「共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法五四一条によって遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である」という判決が下されています。つまり、相続人同士で債務不履行があっても、解除は難しい可能性が高いと言えます。

3.遺産分割協議の再協議の注意点

遺産分割協議の再協議では以下の2点に注意が必要です。

3-1.相続税ではなく、贈与税・譲渡所得税が課される事がある

遺産分割協議の再協議によって取得した財産は、遺産分割以外の方法によって取得したものとして取り扱われ、贈与税・譲渡所得税が課される可能性があります。

例えば、2005年には遺産分割協議に錯誤があり無効であったとして、相続人Cが再度の遺産分割協議を行い、新たに財産を取得したとして贈与税を課されることになりました。(※参照:国税不服審判所「平17.12.15裁決、裁決事例集No.70 259頁」)

Cは「贈与に当たらない」と国税不服審判所に贈与税の決定処分取り消しの請求を行いましたが、請求は棄却されました。棄却の自由は下記のように記されています。

遺産分割の再協議は無効又は取り消すべき原因があるなど、特段の事情がない限り、その再配分した財産は、遺産分割による取得とは関係なく、贈与や交換などによる財産の移転と考えるのが相当であり、その態様に応じ相続税以外の新たな課税関係が生ずる。

※引用:同上

不動産の場合は再協議の結果によっては登記名義人を変更する必要があります。その場合は一度被相続人名義に戻して所有権移転登記を抹消し、再分割協議の結果通りに相続登記を行います。そのため登記費用・不動産取得税も課されることがあります。

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3-2.各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況

民法906条では遺産分割の基準について以下のように定められています。

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

※引用:民法 第九百六条(遺産の分割の基準)

遺産の性質や種類に加え、相続人の年齢・職業、心身状態など様々な事情を考慮しながら遺産分割を行う事が定められています。これらの注意点は再協議を行う場合でも変わらず有効となるため、何度も再協議を繰り返してしまわないよう、慎重に確認を行いましょう。

まとめ

遺産分割協議のやり直し、無効・取り消し・解除の違いや要件、再協議の注意点について解説しました。遺産分割協議で決定した内容を変えるには、基本的に相続人全員が合意する必要があります。

その他、相続人全員の合意を得ることなくやり直しを行うには、最初の遺産分割に不備があり協議そのものが無効である場合に限定されています。これらの要件に当てはまるかどうか慎重に検証し、弁護士など専門家への相談も検討しておきましょう。

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田中 あさみ

田中 あさみ

経済学部在学中に2級FP技能士(AFP)の資格を取得。ライターとして不動産投資を含む投資や年金・保険・税金等の記事を執筆しています。医療系の勤務経験がありますので、医療×金融・投資も強みです。HEDGE GUIDEでは不動産投資を始め、投資分野等を分かりやすくお伝えできるよう日々努めてまいります。