アパート経営の帳簿の付け方は?経費にできる費用科目も解説

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アパート経営で、小規模の形態であれば、自分で帳簿の作成をしたいという不動産投資家の方も多いのではないでしょうか。

帳簿作成は、手間がかかるものの、税制優遇を受けることができ、投資家として収支管理を意識するという意味でもメリットがあります。

本記事では、個人がアパート経営をおこなう際の正しい帳簿の付け方、経費に計上できる科目について解説していきます。

※記事内の税制内容は2021年10月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. アパート経営の帳簿の付け方
    1-1.青色申告10万控除・白色申告の場合、簡易簿記による帳簿
    1-2.青色申告55万(65万)控除の場合、複式簿記による帳簿
  2. 不動産所得の計算で計上できる経費
    2-1.税金・損害保険料
    2-2.建物・設備の減価償却費
    2-3.管理費・修繕費・立退料
    2-4.広告宣伝費・仲介手数料
    2-5.借入金利息
    2-6.給料賃金・士業報酬
    2-7.その他経費
    2-8.専従者給与
  3. 自身で帳簿をつけて確定申告を行う税務リスク
  4. まとめ

1.アパート経営の帳簿の付け方

アパート経営で帳簿を付ける最大の意義は、帳簿から決算書を作成し、確定申告をおこなって適正な税金納付をおこなうことにあります。個人の場合、適正な帳簿を付けて青色申告の要件を満たせば、所得から最大65万円の控除を受けることができます。

その他、帳簿を付けることによってアパート経営の収支管理を行いやすくなります。また、帳簿から作成される決算書は、金融機関から融資を受ける際にも必要となります。

1-1.青色申告10万控除、白色申告の場合、簡易簿記による帳簿

個人が不動産所得について所得税の確定申告をおこなう際、その不動産所得が適正な金額であることの証明書類として、日々の取引を所定の帳簿に記録し、その帳簿を下に所得計算をおこなうことが義務付けられています。

そして、不動産所得のある個人や青色申告による10万円控除の適用を受ける個人については、簡易簿記による帳簿を付けることとされています。簡易簿記による帳簿とは、端的には、現金の入出金と増減を記録していく現金主義による帳簿といえます。

決算では、未収家賃や未払経費、減価償却費の計上をおこなってから、一年分の簡易帳簿を集計して、収支内訳書や青色申告決算書に転記していくことになります。簡易帳簿による場合、損益計算書の作成のみとなり、貸借対照表は作成しません。

以下で、簡易簿記による帳簿の種類と内容を説明していきます。

現金出納帳

現金出納帳は、不動産貸付用の現金の出し入れの状況を取引順に記載する帳簿です。現金で支出した必要経費は、現金出納帳に記載します。家賃収入が預金口座に入金される場合、預金出納帳を作成して記載するとよいでしょう。

収入帳

収入帳には、家賃収入を取引ごとに記載します。入金ベースではなく、賃貸借契約ベースで未収家賃も記載していきます。

経費帳

経費帳は、不動産の貸付けに関する必要経費を、必要経費の科目ごとに分けて記載、集計する帳簿になります。

固定資産台帳

固定資産台帳は、不動産貸付用の建物や附属設備などの取得費用を、減価償却費として各期間の必要経費に配分していく計算をする帳簿になります。

1-2.青色申告65万(55万)控除の場合、複式簿記

不動産所得の帳簿を複式簿記によって作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から55万円(電子申告などの要件を満たせば65万円)を控除することができます。

複式簿記とは、取引を、現金と資産の増減という二つの側面(貸方と借方)から記録することで、網羅性・検証可能性・秩序性を備えた帳簿を作成する方法です。正規の簿記の原則を満たす条件でもあります。

作成する帳簿としては、上記の簡易帳簿に加えて、仕訳帳と総勘定元帳になります。決算では、これらの帳簿から貸借対照表と損益計算書という2種類の決算書を作成します。

仕訳帳

仕訳帳とは、すべての取引を日付順に、現金と資産の増減という二つの側面から記録した帳簿です。左側(借方)に資産と費用、右側(貸方)に負債・資本金と収益を記載します。一取引につき、左側と右側に記載された金額の合計額は常に等しくなるようにしていきます。

総勘定元帳

総勘定元帳とは、仕訳帳をベースにして、科目ごとに転記して集計した帳簿です。収入、必要経費、資産、負債などのすべての項目の科目ごとに作成することになります。

集計が大変な作業になるため、簿記の知識がなくても取引明細から自動で読み取り帳簿・仕訳をしてくれる「freee」や、分からないことがあった場合でも専門スタッフがサポートしてくれる「やよいの青色申告」などの会計ソフトを用いて作成することが多いといえます。決算でおこなう集計の調整は、簡易帳簿の場合と基本的には同様です。

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2.不動産所得の計算で計上できる経費

不動産所得の計算で計上できる経費は、不動産収入を生み出す物件の維持管理に直接要した費用となります。このような費用として、税金(固定資産税)、損害保険料、建物・設備の減価償却費、管理費、修繕費、立退料、広告宣伝費、仲介手数料、士業報酬などが挙げられます。

不動産所得を構成する不動産が5棟10室以上を目安とする事業的規模とみなされる場合、計上できる経費の範囲が一定の間接的な費用にまで広がります。事業的規模の場合、従者給与、貸倒損失、賃貸用不動産の取壊し費用などが必要経費になります。

その他、不動産賃貸業を運営する上で必要な、事務所家賃や事務所水道光熱費、通信費、交際費なども部分的に計上できる可能性が高くなります。

青色申告特別控除(10万円、55万円、65万円)を控除するには、その年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。確定申告の期限より1年前の3月15日が提出期限になっているので注意しましょう。

2-1.税金・損害保険料

投資用物件の維持にかかる固定資産税、個人事業税などの税金は必要経費となり、損害保険料についても、投資用物件にかかる火災保険・地震保険の掛金が必要経費となります。

2-2.建物・設備の減価償却費

投資用建物を購入・建築した費用や、建物や設備の修繕費は最も大きな支出となる経費です。確定申告では、維持管理や原状回復の費用と認められる金額以外は、支出した年に全額を経費にすることができません。

これらの費用は、減価償却費として、法定耐用年数の期間に按分して必要経費に計上します。法定耐用年数は、木造アパートの建物は22年、給排水衛生設備やガス設備は15年が原則になります。

2-3.管理費・修繕費・立退料

管理会社に投資用物件の管理を任せている場合の管理費も、必要経費となります。管理とは、入居者募集、集金業務、日常的な入居者対応、修繕や原状回復の手配、退去対応などを行う費用になります。維持管理や原状回復費用などの修繕費も、必要経費になります。

大家都合で入居者に立ち退いてもらうときに支払う費用があれば、これも必要経費に計上できます。

2-4.広告宣伝費・仲介手数料

投資用物件の運営では、入居者が入れ替わるなどして入居者を募集するときに広告宣伝費や仲介手数料がかかることがあります。これらも、不動産所得の必要経費といえます。

2-5.借入金利息

投資用物件を購入・建築する際に組んだローンの利息分は、必要経費として計上できます。ただし、不動産所得が赤字の場合は、土地に関する利息分は必要経費として計上できなくなることに注意しましょう。

2-6.給料賃金・士業報酬

不動産所得を含めた所得税の確定申告を税理士に委託していれば、その報酬も必要経費になります。確定申告は毎年必要ですので、税理士報酬は年1回最低発生する経費といえます。この他、投資用物件に関連して士業に支払った報酬も必要経費になります。

また、物件の管理を個人に依頼するなどして給料賃金を支払った場合、それも必要経費に計上できます。個人に報酬や給料賃金を支払っている場合、原則として、その支払った分についての源泉所得税を納付する義務もあるので注意しましょう。

2-7.その他経費

不動産所得が事業的規模とみなされる場合、貸倒損失、賃貸用不動産の取壊し費用なども必要経費に計上できます。

また、事務所家賃や通信費、交際費などの不動産賃貸業の運営費用についても、家事上の経費と明確に分けることで必要経費に計上できる場合があります。家事按分の方法や必要経費の計上にあたっては、税理士などの専門家に相談して慎重に行うことも検討しましょう。

2-8.専従者給与

不動産所得が事業的規模とみなされる場合、専従者給与を必要経費に計上することが可能です。専従者給与とは、生計が同一である親族が、不動産賃貸業に従事している場合に支払った給与を必要経費に計上できる制度です。

青色申告の承認を受けていることや青色事業専従者給与の届出を提出していることが条件になります。届出書の提出期限は、適用を受けようとする年の3月15日なので注意しましょう。

青色申告の適用を受けていない場合でも、一定額を実質的に必要経費に計上できる事業専従者控除制度があります。

3.自身で帳簿をつけて確定申告を行う税務リスク

アパート経営のメリットの一つには、一定規模まで拡大をすると計上できる経費の科目が増えるということがあります。

しかし、どこまで経費として計上できるのか、税法は解釈によって適用が異なるために難しい部分があり、自身で経費仕分けを行う場合、後の税務リスクについても全て自己責任となってしまう点に注意が必要です。

計上できる経費の計算で迷ったときは、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。ただし、税理士によって得意とする専門分野が異なるうえ、料金設定にも違いがあります。複数の税理士・税理士事務所を比較し、自分の状況に適したサービスを受けられるかどうか検討してみましょう。

税理士ドットコム

税理士ドットコム税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。

報酬引き下げの実績も豊富なため、すでに税理士と契約している方でも利用が可能です。コーディネーターが複数の税理士に相見積りをとり、費用についての交渉までサポートしてくれます。

まとめ

アパート経営の帳簿の付け方と経費にできる科目についてみてきました。簡易簿記による帳簿であれば、比較的簡単に作成することができます。アパート経営の収支管理ツールを利用するなどして、自分で作成することを検討してみると良いでしょう。

複式簿記による帳簿は、一つの取引を借方と貸方に仕訳をおこなう作業が必要であり、簿記の専門知識が必要となりますが、アパート経営の場合、比較的会計処理は簡便であるため、簿記の勉強をしながら自分で作成するのも一つの方法でしょう。

ただし、税法の改正は頻繁に行われるうえ、適切な申告を行わないと追徴課税のペナルティがあります。詳細な判断に迷ったときや、実際に確定申告をおこなうときは、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。