投資用アパートの維持には様々な経費がかかります。投資計画のシミュレーションをおこなう際、経費の支出を見積もり、出来るだけ正確なキャッシュフローを把握しておくことが重要です。
また、アパート投資では適切な確定申告を行い経費計上することで、課税額を減額できる可能性があります。本記事では、投資用アパートの維持にかかる主な経費を網羅的に解説し、確定申告で計上できる項目とその注意したいポイントについて解説します。
※本記事は2020年11月時点での調査をもとに作成されています。不動産所得の確定申告を行う際は、ご自身でも国税庁のウェブサイトを確認し、税理士への相談を検討しましょう。
目次
- 投資用アパートの維持にかかる主な経費
1-1.税金・損害保険料
1-2.建物・設備の減価償却費
1-3.管理費・修繕費・立退料
1-4.広告宣伝費・仲介手数料
1-5.借入金利息
1-6.士業報酬 - 投資用アパートの確定申告で計上できる経費
2-1.アパートが事業的規模でない場合
2-2.アパートが事業的規模の場合
2-3.アパートの確定申告で注意したいポイント - まとめ
1.投資用アパートの維持にかかる主な経費
投資用アパートを維持していくには、様々な経費がかかります。投資資金計画を立てる際には、どのような経費がどれぐらいかかるか、あらかじめシミュレーションすることが重要です。
また、キャッシュフローの観点からは、それぞれの経費がいつ頃に支出されるものなのか、ということも知っておく必要があります。
確定申告の際に計上できる経費も知っておかないと、利益の予想が立てられず思わぬ税金の支払いが発生してしまいかねません。確定申告では、事業規模によって計上できる経費に制限があるほか、実際の経費の支出と計上タイミングが異なるため注意したい経費があります。
以下では、法人ではなく個人でアパートを所有し、維持管理や税金の確定申告も個人でおこなっていくことを前提とし、主な経費を説明していきます。
1-1.税金・損害保険料
投資用アパートの維持にかかる税金のうち、主なものに、固定資産税・個人事業税があります。
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に対して課せられ、5月頃に市区町村から送られて来る納税通知書によって支払います。1年分を4期ごとに分割納付することができ、価額に対して1.4%の税率によって計算されます。
一方、個人事業税は事業的規模の場合に課せられる税金です。都道府県から所得税の確定申告における不動産所得に基づき課せられ、翌年に2回の分割納付によって支払うことになります。税率は5%ですが、290万の事業主控除があるのが特徴です。
損害保険料は、投資用アパートが火災や地震災害等に遭った場合の補償としてかける、火災保険・地震保険の掛金です。建物管理が原因で入居者に怪我等を負わせてしまった場合、災害時の家賃収入の補償などの特約保険もあります。
1-2.建物・設備の減価償却費
投資用アパートの建物を購入・建築した費用や、建物や設備の修繕費は最も大きな支出となる経費です。確定申告では、維持管理や原状回復の費用と認められる金額以外は、支出した年に全額を経費にすることができません。
これらの費用は、減価償却費として法定耐用年数の期間に按分して経費に計上します。法定耐用年数は、木造アパートの建物は22年、給排水衛生設備やガス設備は15年が原則になります。
1-3.管理費・修繕費・立退料
管理費は、管理会社に投資用アパートの管理を任せている場合の費用です。入居者募集、集金業務、日常的な入居者対応、修繕や原状回復の手配、退去対応などを行う費用になります。
修繕費は、前述した通り、維持管理や原状回復費用になります。定期的な支出に加え、経年劣化による外壁工事などの大規模修繕や、災害による修繕など、大きな支出に備えておくことが大切です。
立退料は、アパートを建て替えるときなど、大家都合で入居者に立ち退いてもらうときに支払う費用です。その他、家賃滞納による立ち退きでは入居者に支払い能力が無い場合も多く、大家側の支出となることがあるため注意しておきましょう。
1-4.広告宣伝費・仲介手数料
管理会社との管理委託契約によりますが、入居者を募集するときに広告宣伝費や仲介手数料がかかることがあります。投資用アパートの運営では入居者が入れ替わることも多く、定期的に発生する経費といえます。
1-5.借入金利息
投資用アパートを購入・建築する際ローンを組んでいれば、そのローンにかかる利息分が経費として出ていくことになります。元本の返済部分も、キャッシュとしては出ていきますが、不動産所得の経費にはなりません。
1-6.士業報酬
不動産所得を含めた所得税の確定申告を税理士に委託していれば、その報酬も経費になります。この場合、確定申告は毎年行わなければならないため税理士報酬として年1回は最低発生する経費といえます。
この他、投資用アパートの入居者やその隣地所有者とトラブルになったりして、その解決を弁護士に依頼した場合などの報酬も経費として発生することがあります。
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2.投資用アパートの確定申告で計上できる経費
不動産収入を生み出す投資アパートの維持管理に直接要した費用は、確定申告で不動産所得に計上できる経費になります。(※国税庁「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」)
なお、不動産所得を構成する不動産が5棟10室以上を目安とする事業的規模とみなされる場合、計上できる経費の範囲が一定の間接的な費用にまで広がります。
以下では、事業的規模でない場合と事業的規模である場合に区分して説明します。
2-1.アパートが事業的規模でない場合
事業的規模でない場合、不動産収入を生み出す投資アパートの維持管理に直接要した費用は、不動産所得の確定申告で必要経費として計上できます。
上述した、税金(固定資産税)、損害保険料、建物・設備の減価償却費、管理費、修繕費、立退料、広告宣伝費、仲介手数料、士業報酬は、すべて投資アパートの維持管理に直接関連する費用です。
しかし、性質や収入との対応時期の問題から計上できなかったり計上時期がずれたりするケースもあるため、税理士などの専門家への相談も検討しておきましょう。
2-2.アパートが事業的規模である場合
不動産所得が事業的規模であるとみなされる場合、事業的規模でない場合と比較して、確定申告で計上できる経費の範囲は広くなる傾向にあります。
事業的規模とは、5棟10室以上の不動産を貸し付けていることが目安となりますが、実質的に事業性があるかどうかによって判断します。継続性・反復性がある場合や、人的な労力が相当程度費やされている場合には、事業性があると解されています。(※国税不服審判所「不動産所得を生ずべき事業」)
したがって事業的規模の場合、不動産賃貸業に関する業務に従事している親族に支払う給与、賃貸料が回収できなかった場合の貸倒損失、賃貸用不動産の取り壊しにかかる費用などが必要経費になります。
このような取扱いから、不動産賃貸業を継続して運営する上で必要な事務所家賃や事務所水道光熱費、通信費、交際費なども必要経費に計上できる可能性が高くなります。
2-3.アパートの確定申告で注意したいポイント
投資用アパートの必要経費を計上するにあたり、一部の経費項目には、その性質や収入との対応時期の観点から注意したいポイントがあります。
以下で、経費の項目ごとにアパートの確定申告で注意したいポイントを説明します。
損害保険料の注意したいポイント
損害保険料の支払いでは、契約時に1年以上の期間分を前払いすることがあります。その場合、1年を超える期間分の保険料は翌年以降に繰り越すことになり、その年の必要経費にはできません。
また、保険料には将来の支払いに充てる積立部分が含まれているケースがあり、この場合、積立部分は必要経費にはできません。
減価償却費の注意したいポイント
減価償却費も、支出した年にすべてを必要経費にできず、翌年以降の法定耐用年数期間に繰り越し各期間に按分して必要経費に計上していきます。
上述したように、一括で支出した場合、建物と設備で法定耐用年数は異なるため各資産項目に適切に割り振ることが重要です。また、中古資産の見積耐用年数を適用すれば、短期間で必要経費に計上することが可能になります。
間接的な運営費の注意したいポイント
事務所家賃や通信費、交際費などの不動産賃貸業の運営費用は必ずしも投資用アパートの維持管理に直接要する費用とは言えず、家事上の経費と明確に分けることが必要になります。
家事按分の方法や必要経費の計上にあたっては、税理士などの専門家に相談するなどして慎重に行うと良いでしょう。
まとめ
投資用アパートの維持にかかる経費として、建物・設備の減価償却費、修繕費、管理費、税金、損害保険料、立退料、広告宣伝費、仲介手数料、士業報酬など、直接的に要する費用があります。このような費用は、確定申告においても必要経費に計上することが可能です。
不動産所得が事業的規模である場合は、親族に対する給与などの経費計上が認められるなど、確定申告における必要経費の計上範囲は広がるといえます。
ただし、賃貸業運営上の間接的な経費については計上判断が難しい項目も少なくありません。税理士などの専門家に相談しながら慎重に行いましょう。
佐藤 永一郎
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