アメリカに不動産を所有して不動産投資をおこなっている場合、確定申告手続きをどのように行えばよいのか分からず、お困りの方も多いのではないでしょうか。
日本の不動産投資については自分で確定申告を行っている方でも、アメリカ不動産投資の確定申告では注意したいポイントがあります。例えば、海外で納付した所得税がある場合、一定の算式により計算した金額を外国税額控除として、所得税および復興特別所得税から控除することができます。
本記事では、このような注意点についても触れながら、アメリカ不動産投資の確定申告の手順と必要書類について詳しく解説していきます。
※記事内の税金・税率などは2021年8月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- アメリカ不動産投資では、アメリカの確定申告も必要
1-1.連邦個人所得税の申告、納付
1-2.州個人所得税の確定申告 - アメリカ不動産投資、日本での確定申告の手順
2-1.必要書類・環境を整える
2-2.不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
2-3.所得税の確定申告書を作成・提出する
2-4.所得税・住民税を納税する - アメリカ不動産投資に強い税理士の探し方
- まとめ
1.アメリカ不動産投資では、アメリカの確定申告も必要
アメリカでは、アメリカ国内で発生した所得に対して、外国人についても所得税の課税対象となります。したがって、アメリカの不動産の賃貸や売却による所得について、外国人でも確定申告をして納税することになります。
連邦所得税と州所得税の申告、納付手続きが必要となります。
1-1.連邦個人所得税の申告、納付
アメリカの不動産投資について、アメリカの連邦個人所得税の支払いは、源泉徴収方式あるいは、確定申告方式によることができます。
源泉徴収方式による場合は、テナントが家賃支払いの際にオーナーに代って、家賃の30%を源泉徴収して支払います。管理会社等に委託することを検討してみましょう。
確定申告方式による場合は、日本の場合と同様に、家賃収入から、固定資産税、支払利子、修繕費、管理費、維持費、保険料、仲介手数料、減価償却費などの必要経費を控除して、純利益を翌年4月15日までに申告し、これに累進税率を乗じた税額を納付することとなります。
手順の基本的な流れは、日本の場合と同様ですが、たとえば、課税所得の計算において、控除が所得調整控除と項目別控除の2段階になっているなど、税金計算の仕組みが日本と異なります。
申告、納付をする際は、アメリカ税務に詳しい国際税務を扱う税理士などの専門家に依頼することを検討してみましょう。
1-2.州個人所得税の確定申告
アメリカの不動産投資では、連邦個人所得税以外に、不動産が所在する州に対して、翌年4月15日までに所得を申告し、州個人所得税を納付する必要があります。
州個人所得税は、州ごとに大きく異なりますが、源泉徴収方式によることはできず、確定申告をおこなうことが基本となります。
2.アメリカ不動産投資、日本での確定申告の手順
アメリカ不動産投資の場合であっても、日本でおこなう確定申告は、基本的に日本国内で不動産投資をおこなっている場合と同様となります。日本国内の居住者に該当すれば、国内外において生じた全ての所得について課税対象となるからです。
不動産投資で発生する家賃収入は、不動産所得として所得税と住民税がかかります。税金のかかる不動産所得がいくらなのか、毎年、税務署に対して確定申告をおこなう必要があります。
不動産所得は、「不動産収入―必要経費」によって算出されます。税金は、収入総額に対してかかるのではなく、必要経費を控除した後の利益に対してかかってくるため、この必要経費を漏らさずに計上することが重要になります。
また、サラリーマンなど、不動産所得以外の所得がある人は、給与所得などの他の所得と不動産所得を合算し、その合計額から所得控除を差し引いて、所得税の課税対象となる所得を計算します。
これらを踏まえ、確定申告の手順は大まかには下記のような流れになります。
- 必要書類・環境を整える
- 不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
- 所得税の確定申告書を作成・提出する
- 所得税・住民税を納税する
それぞれの手順を詳しく見て行きましょう。
2-1.必要書類・環境を整える
まず、確定申告に必要な書類を整えます。家賃収入があって確定申告をおこなう不動産投資家であれば、確定申告書(B様式)と収支内訳書もしくは青色申告決算書を提出することになります。
海外不動産投資の申告では、外国税額控除に関する明細書の作成も必要になります。これらの書類を作成するために必要な書類を準備します。自分で申告をおこなう場合は、税務署で所定の様式を揃えておくとよいでしょう。
環境については、確定申告の手続きの一部を自分でおこなう場合に準備が必要になります。帳簿の作成を自分でおこなうのであれば、会計ソフトとパソコン、ネット環境が必須です。会計ソフトで帳簿を作成すると、税務署に提出する書類まで一通り作成することが可能です。
収入に関する書類の収集
収入帳や預金出納帳などの収入に関する帳簿を作成するために、家賃の入金されている通帳や管理会社が発行する家賃明細などを収集する必要があります。
必要経費に関する書類の収集
現金出納帳、経費帳などの必要経費に関する帳簿を作成するために、管理費や修繕費の領収書などが必要になります。
所有不動産の固定資産台帳を作成するために、所有不動産の購入時の売買契約書なども必要になります。
他の所得や所得税の控除に関する書類の収集
所得税の確定申告書(B様式)を作成するために、給与所得の源泉徴収票などの不動産所得以外の収入明細が必要です。また、所得控除に関する書類として、医療費の領収書や寄附金の領収書などが必要になります。
なお、社会保険料や生命保険料、地震保険料も控除対象になりますが、サラリーマンであれば年末調整で調整済なので、源泉徴収票を用意すれば充分です。
会計ソフト、ネット環境などの準備
上述した帳簿は、会計ソフトを利用することで作成可能です。会計ソフトにはPCにインストールするタイプと、ウェブブラウザで起動・操作するクラウドタイプがあります。
小規模の不動産所得であれば、ソフトを使わずにエクセルで帳簿を作成して集計することも可能でしょう。いずれにしても、帳簿作成を自分でおこなうのであれば、PCとネット環境が必要になります。会計ソフトもできれば用意しておくことも検討してみましょう。
青色申告の65万円控除を受けるために、e-Taxで電子申告をおこなうというのであれば、マイナンバーカードとカードリーダーも必要になります。
2-2.不動産所得の帳簿を作成し決算をおこなう
必要書類・環境を整えたら、不動産所得の収支内訳書もしくは青色申告決算書を作成します。
そのために、不動産所得の収入帳や経費帳などの帳簿を作成、整理して一年分の収入と経費の集計をおこないます。この一年分の集計をおこなって収支内訳書もしくは青色申告決算書(損益計算書、貸借対照表)を作成する作業を「決算」と呼びます。
以下、簡易帳簿の作成と決算手続き、収支内訳書もしくは青色申告決算書の作成方法について説明します。
なお、令和3年分の確定申告より、国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例が創設され、国外不動産の減価償却費の計上によって生じる国外不動産所得の損失は、不動産所得内および、他の総合課税の所得との損益通算ができなくなっています。(※参照:財務省「令和2年度税制改正の大綱:3 租税特別措置等」)
簡易帳簿の作成と決算
不動産所得の簡易帳簿を作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から10万円を控除することができます。簡易帳簿とは、現金出納帳、収入帳、経費帳、固定資産台帳のことを指しています。
現金出納帳は、不動産貸付用の現金の出し入れの状況を取引順に記載する帳簿です。現金で支出した必要経費は、現金出納帳に記載します。家賃収入が預金口座に入金される場合、預金出納帳を作成して記載していきます。
収入帳には、家賃収入を取引ごとに記載します。入金ベースではなく、賃貸借契約ベースで未収家賃も記載していきます。
経費帳は、不動産の貸付けに関する必要経費を、必要経費の科目ごとに分けて記載、集計する帳簿になります。
固定資産台帳は、不動産貸付用の建物や附属設備などの取得費用を、減価償却費として各期間の必要経費に配分していく計算をする帳簿になります。
アメリカ不動産投資では、収入や経費の計上の際、円換算することが必要となります。レートは原則、取引日の仲値を用います。物件を継続保有する場合は、収入は買い相場、経費は売り相場の金額を用いることも可能です。
決算では、未収家賃や未払経費、減価償却費の計上をおこなってから、一年分の簡易帳簿を集計して、収支内訳書や青色申告決算書に転記していくことになります。簡易帳簿による場合、損益計算書の作成のみとなり、貸借対照表は作成しません。
複式簿記による帳簿の作成と決算
不動産所得の帳簿を複式簿記によって作成して決算をおこなう場合、青色申告の届出を提出することで、不動産所得から55万円を控除することができます。
複式簿記とは、取引を、現金と資産の増減という二つの側面(貸方と借方)から記録することで、網羅性・検証可能性・秩序性を備えた帳簿を作成する方法です。正規の簿記の原則を満たす条件でもあります。
作成する帳簿としては、上記の簡易帳簿に加えて、仕訳帳と総勘定元帳になります。仕訳帳とは、すべての取引を日付順に、二つの側面から記録した帳簿です。
一方、総勘定元帳とは、すべての取引を科目ごとに並べて集計した帳簿です。収入、必要経費、資産、負債などのすべての項目ごとに作成することになります。決算でおこなう集計の調整は、簡易帳簿の場合と基本的には同様です。
手間を考えると、複式簿記による帳簿を作成するには、会計ソフトを利用すると良いでしょう。多くの会計ソフトでは、帳簿の作成と同時に決算をおこなった集計結果を青色申告決算書の様式に出力することができます。
複式簿記による決算では、貸借対照表と損益計算書という2種類の決算書を作成します。複式簿記による決算をおこなうには、簿記の専門知識が必要になるため、税理士などの専門家に任せることも検討するとよいでしょう。
2-3.所得税の確定申告書を作成・提出する
不動産所得の決算書の作成が終了したら、所得税の確定申告書(B様式)を作成します。
確定申告書は、決算で集計した不動産所得の金額や給与所得の金額を集計し、社会保険料控除、医療費控除などの各種控除の金額を控除して、所得税のかかる所得を算定し、実際の所得税額の計算をおこなう書類です。
アメリカ不動産投資の申告では、外国税額控除に関する明細書の作成も必要になります。海外で納付した所得税がある場合、一定の算式により計算した金額を外国税額控除として、所得税および復興特別所得税から控除することができます。
これらの申告書類は、通常は、会計ソフトや税務ソフトに情報を入力して作成することがほとんどです。作成の際には所得税の知識が必要になります。
すべての書類を作成したら、管轄の税務署に提出します。提出方法は、直接持参するか、郵送、あるいは電子申告であればインターネットで送信することによって提出します。所得税の確定申告書等の提出期限は、翌年の3月15日となります。
2-4.所得税・住民税を納税する
書類の提出と納税は別々におこないます。所得税は、納税の期限が3月15日になっており、確定申告書等の提出期限と同じです。現金で支払う場合は、納付書を用いて金融機関等で納めます。口座振替の手続きをすれば、口座振替も可能です。そのほか、クレジットカード納付やコンビニ納付などもできます。
住民税は、確定申告の情報を下に、それぞれの市区町村が税額を計算し、6月以降に納付書を送ってきます。サラリーマンであれば、特別徴収という形式で勤務先企業が給与所得から天引きして納めてもらっています。
なお、普通徴収といって住所に納付書を送ってもらい自分で納めることも可能です。普通徴収であれば、通常は4回の分割払いになります。
3.アメリカ不動産投資に強い税理士の探し方
税理士によって得意な分野は異なり、その費用も依頼先の税理士事務所によって異なります。複数の税理士と面談を行い、費用や受けられるサービスの質などを比較してみましょう。特に、アメリカ不動産投資のような海外の確定申告を行う場合、実施経験があったり、現地の税法について詳しい税理士への依頼を検討することが大切です。
効率的にアメリカ不動産投資に強い税理士を探すには、税理士紹介サイトを利用する方法があります。税理士紹介サイトでは、コーディネーターが、相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。税理士との依頼内容の調整や、料金交渉などもコーディネーターに任せることが可能です。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
報酬引き下げの実績も豊富なため、すでに税理士と契約している方でも利用が可能です。コーディネーターが複数の税理士に相見積りをとり、費用についての交渉までサポートしてくれます。
利用時の主な注意点としては、提携している税理士の紹介しか受けられない点です。提携外の税理士も比較していきたい方は、自身で探してみたり、不動産会社に相談してみたりなどと並行して、利用を検討すると良いでしょう。
まとめ
アメリカ不動産投資で必要となる日本の確定申告手続きは、基本的に日本国内の不動産投資と同様です。
異なるポイントとしては、円換算が必要となること、国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例が適用されること、外国税額控除に関する明細書の作成提出が必要であること、であるといえます。
また、アメリカでの連邦個人所得税、州個人所得税の申告、納付が必要となる点にも注意しましょう。
連邦個人所得税は源泉徴収方式によることも可能ですが、州個人所得税は確定申告が必要となります。国際税務専門など、アメリカ税務に詳しい税理士などに手続きを依頼することを検討してみましょう。
国内の確定申告についても税法の取り扱いは複雑であり、税制改正も毎年おこなわれるため、誤った申告をしてしまうリスクは低くありません。判断に迷ったときや、実際に確定申告をおこなうときは、税理士などの専門家に相談することを検討してみましょう。
佐藤 永一郎
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