金融庁報告書「老後に2000万円不足」、長期・積立・分散投資の提言も

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金融庁が6月3日公表した金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が波紋を呼んでいる。長寿化が進む「人生100年時代」に金融資産の不足を生じさせないための有識者による提言を取りまとめた内容だが、衝撃を与えたのはこの中の「定年退職後の無職世帯では毎月平均5万円の収支不足が生じ、今後30年では、単純計算で2000万円が必要」と試算した部分だ。

メディアやインターネット上では「国が公的年金の破たんを実質的に認めた」「政府の無策を国民に転嫁している」と強い批判が目立ち、与党への逆風を受けて野党も全面的に追求する構えだ。だが報告書の主旨は保有資産の自助の促進であり、2000万円という数字が独走している感は否めない。改めて読み直してみれば、書かれているのは既知、あるいは至極あたりまえのことだかりだ。

報告書は長寿化と少子化をデータで示し、問題の2000万円は夫65歳以上、妻60歳以上の無職世帯で30年の余生があるという前提で、不足する金額を単純に算定したもの。さらに「公的年金が老後の収入の柱」としながら、支出の再点検や保有資産を活用した資産運用など「資産寿命を延ばす取り組み」が必要とする。

そのうえで、人生を三段階に分け、仕事をして収入のある「現役期」は、老後までの長い時間を利用して、少しずつでも毎月一定額を複数の投資商品に長期間、分散して投資し続ける重要性を説く。併せて長期的につきあえる金融機関や投資アドバイザーを見つけておくことも付言している。

「退職前後期」は退職金や年金受給額などを把握して、マネープランの再検討を推奨。資産の不足が予想される場合は就労期間を延ばすことや、住宅の売却や物価の安い地方への移住も選択肢に含む。心身が衰え始める「高齢期」では、将来起こりうる認知機能や判断能力の低下を想定し、金融資産を整理し、通帳の保管場所や資産情報を信頼できる第三者と共有するといった対策を挙げている。

資産形成や投資を始めている人、考えている人にとって、老後のリスクや備えの重要性を既に十分考慮しているだろう。不足金額2000万円は、定年後に退職金と公的年金だけで生活する場合を前提としており、労働期間の延長やライフスタイルの見直し、資産運用など、複数の手段による自助で補うことができる。報告書は、資産寿命を延ばすために必要なことを尋ねた調査で「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約」のほか、既に約3割は「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」と考えていることを挙げている。さらに、退職金を受け取った後に関するアンケート調査によれば、4人に1人が投資に振り向けており、また、投資に振り向けた人の半数弱は退職金の1~3割を投資に回していた。人数や金額は少なくても、自助の取り組みは既に始まっている。

報告書はまた、資産寿命を延ばす顧客の行動をサポートするため、金融サービス提供者にも対応を求めている。具体的には①顧客本位の業務運営(顧客にふさわしいサービスの提供、手数料の明確化、分かりやすい説明など)②持続可能なサービス③ 「自助」充実のニーズ増に応じた資産形成・管理やコンサルティング機能の強化――だ。

国策の「貯蓄から投資へ」では、少額投資非課税制度(NISA)と個人型確定拠出年金(iDeCo)の活用が促進されてきた。しかし今後は、老後の不安を解消したい人たちが自分に適した方法を熱心に検討し、金融サービス提供者がサポート体制を強化していくとすれば、自助のための資産運用の選択肢はさらに利用しやすく、拡充されていくだろう。焦らずに金融リテラシーをしっかり高めるのが賢策だ。

【参照URL】金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について

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