シービーアールイー株式会社(CBRE)は9月30日、スペシャルレポート「日本のリテール&ホテルマーケット回復への道 – 鍵となるのは国内需要」を発表した。コロナ禍によるインバウンド需要が激減したリテールとホテルマーケットだが、日本国内の需要の割合はリテール95.4%、ホテル90.7%と、世界の主要地域の中でも高い割合を示している。また、消費活動の抑制や各種給付金によってペントアップ需要(繰り越し需要)は着実に蓄積されていることから、同社は「インバウンドの戻りがしばらく先になっても、国内の人流さえ戻れば国内需要のみでも高い回復力を有する」と見る。
リテールマーケットでは感染拡大抑制のための営業自粛、不要不急の外出自粛の要請があり、ホテルマーケットでは県をまたいだ移動が抑制されたことなどから、観光旅行や出張需要が激減した。また、水際対策として日本国内への入国制限措置が執られたことで、インバウンド需要も消滅した。2020年7月から10月にかけて日本政府は段階的に入国緩和策を取っていたが、国内での感染拡大の状況に鑑み、12月末には一時停止。各国における21年9月時点での入国規制で、日本は最も厳しいレベル4の「国境閉鎖」となっている。9月30日の緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除され、同社は「感染拡大の収束が見えてくることで、入国制限は段階的に緩和されるだろう。ただし、国内外の感染状況に鑑みながら慎重に進める必要があることなどから、入国制限の解除には一定の時間を要する可能性が高い」と予想する。
訪日外客数は18年には初めて3000万人を突破し、インバウンドが日本のリテール、ホテルマーケットの需要の増加を牽引してきた。訪日外客数の増加に伴ってリテールマーケットでは出店ニーズが拡大して賃料が上昇し、ホテルマーケットでは稼働率が向上した。一方で、同社は「需要を底堅く下支えし続けてきたのは日本人を中心とする需要層」であることに改めて注目。主要地域における国内需要層の割合を、人口、小売売上高、宿泊者数の観点から算出し、人口とインバウンド数を合計した人数を当該地域における潜在的な顧客の総体とみなし、そのうち人口の占める割合を算出した。日本のリテールマーケットの国内需要層の割合は95.4%、宿泊マーケットの国内需要層の割合は90.7%で、主要地域の中でも相対的に高い割合を示している。このことから「日本は国内需要のみでも高い回復力を有する」としている。
回復の可能性のもうひとつの鍵は、政府による各種給付金支給や、度重なる緊急事態宣言による消費抑制によって蓄積された繰り越し需要(ペントアップ需要)。20年の家計貯蓄額は前年の6.9兆円から36.0兆円に膨らみ、人流再開とともにこれまで我慢をしていた消費や観光などに向かう可能性が高い。同社は繰り越し需要の顕在化は「消費の回数を増やすより消費の単価を上げる(少し贅沢な消費、観光を行う)形で表れやすい」という見方を示す。
リテーラーや宿泊事業者は、インバウンド需要の再開までの間、国内需要の回復に備えている。リテールマーケットにおいては、ラグジュアリーブランドを中心に主要なリテールエリアにおける路面店舗の出店ニーズが増えつつあり、ホテルマーケットでは、リゾート地における開発や、都市型のラグジュアリーホテルの出店計画が進行している。また、ラグジュアリーブランド以外でも、リテールではブランディングのための新規出店や、ブランド価値向上のためのエリア内移転などが予想される。同社は「ホテルでも旅行者やオーナーから選ばれるためのブランド力を磨くことが回復の鍵となる」と見込んでいる。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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