事業用総合不動産サービスのシービーアールイー株式会社(CBRE)は5月17日発表したレポートで、世界経済の見通しについて、景気後退の懸念が高まる一方で「やや鈍化しながらも底堅く推移するだろう。経済の成長鈍化は不動産市場にも次第に波及するとみられるものの、アセットタイプによっては引き続き需要は堅調」という見解を示した。
世界経済は2021年から2022年初めにかけて大きく回復したが、いくつかの逆風要因を受け、最近は景気後退懸念が高まってきた。その要因として、CBREは、金利上昇を最初に挙げる。米国連邦準備理事会(FRB)は今年から来年にかけて10~12回の利上げを実施、FFレートを4月末時点の0.25%~0.5%から、23年末までに2.5%~3.5%に引き上げることが予想される。
この点について「過去の傾向を踏まえれば、短期金利が2.5%~2.75%のレンジ(過去5年平均を2.5ポイント上回る水準)を超えてくると、緩やかなリセッションに入る可能性が高いと言える。しかし、リセッションは回避できる」とCBREは見る。理由は「金利上昇による米国企業の景況感へのマイナス影響はまだ出ておらず、ガソリン価格の高騰などにより消費者マインドは弱含んでいるものの消費そのものは冷え込んでいない。需要動向からみて、米国経済は堅調」という見解だ。ただし、住宅ローン金利が上昇していることから、過去の傾向に鑑みて、住宅販売が今後急速に冷え込む可能性には留意すべきとしている。
次に、ウクライナ情勢がある。ロシアへの経済制裁が強化されれば、小麦や半導体の原材料などの供給が一段と逼迫することが想定される。また、ロシアは世界最大の天然ガス輸出国であり、21年の欧州の輸入量の45%を占める。エネルギー価格がさらに上昇すれば、企業の生産活動、消費者マインドの低下と企業の設備投資縮小に繋がる。今のところ欧州企業の景況感(PMI)は安定しているが、消費者信頼指数は悪化している。そんな中でも、同社は「コロナ下で蓄積された預貯金、リベンジ消費を背景に、小売売上高は下がっていない」点に注目している。
三つ目は中国経済の減速だ。中国のQ1のGDP成長率は前年同期比4.8%増と発表されたが、実際はこれを大きく下回り、実質的にはリセッションに入っている可能性もある。また、不動産業界に対する引き締め措置による住宅市場の冷え込みと建設・小売へのマイナス影響も、景気を押し下げる要因となる。中国の景気後退はアジア太平洋地域だけでなく、サプライチェーンの混乱により欧米諸国にも影響は波及する。
ただし、同社は「中国は自国通貨安を誘導し、輸出を喚起しようとしている。中国による『デフレの輸出』は、世界からも歓迎されるだろう」と期待している。
ほか、コロナの変異株の脅威に中国のゼロコロナ政策、足下の金利上昇の不動産への融資に対する懸念もある。米国では、ロシアのウクライナ侵攻を受けて一時的に新規融資がストップしたが、その後再開した。しかし、金利上昇を受けて取引価格が多少見直されるケースも出てきている。同社も「今のところ不動産向けのデットファイナンスは潤沢ではあるものの、金利のさらなる上昇を背景に、今年下期にかけては見通しが不透明」と引き締める。
そのうえで、世界経済は安定しているという見解を維持。「米国と欧州はコロナ後の経済活動再開による恩恵を受けており、比較的高い経済成長率が見込まれる。米国では政府のインフラ投資プログラムの効果も見込まれる。中国は積極的な経済刺激策に踏み切っており、向こう1年程度は元安が物価上昇を抑制し、世界の需要喚起に貢献すると考えられる。そして、民間部門のバランスシートは強固であり、企業による雇用確保の必要性に鑑みても、失業率は安定して推移するだろう」とする。
同社はGDP成長見通しを前回(1月)から下方修正した。ただし「不動産市場はまだ経済全般の動きに対してキャッチアップしつつある段階にあり、ペントアップ需要も始まったばかり。特にオフィス賃貸市場の需要は、想定よりも強くなる可能性がある」との見方を維持する。
不動産投資市場については「過去2年間の高い水準からはやや縮小するだろう。米国のBクラスやCクラスのオフィスや、長期にわたってキャッシュフローが固定されているアセットクラスではキャップレートが上昇する傾向にある」と指摘。一方、ハイグレードオフィスや住宅、物流施設のほか、バリューアッドのポテンシャルがある物件などは、引き続き堅調に推移と予想している。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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