市況悪化局面でも低利回りで取引されるオフィスとは?CBREスペシャルレポート

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事業用不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE)は9月17日公開したスペシャルレポート「コロナ下でのオフィス投資市場 – 市況悪化局面でも低利回りで取引されるオフィスとは」で、コロナ禍の取得競争の激化によってパンデミック前と同じか、より低い利回りのオフィス取引が散見される東京市場で、低利回りで取引されるオフィスとして、3つのタイプに分類している。一つ目は、今後も安定した収益が期待できる物件。2つ目は、現行賃料がマーケット賃料を大きく下回っている物件。3つ目は、建て替えによりキャッシュフローの増加が期待できる物件である。

パンデミック下の東京の投資市場で、パンデミック前と同じか、あるいはより低い利回りのオフィス取引が散見された。例えば、ヒューリックが買主の「NBF御茶ノ水ビル」は、取得価格161億円、不動産の収益性を示す指標であるNOI利回りは2.8%。国内の合同会社が購入した「中野坂上サンブライトツイン」は400億円、NOI利回り3%だ。パンデミック前に3%を下回る取引は中心部のグレードA相当のオフィスビルだったことを考えれば、オフィスについて投資家の取引利回り目線は低下しているとも考えられる。同社の投資家アンケート調査でも、2021年の投資家のターゲットリターンは、パンデミック前からほとんど変わっていない。

取引利回りが低下する理由として、まず挙げられるのは取得競争の激化がある。機関投資家の潤沢な資金が不動産投資に流入する一方で、パンデミックの影響がより大きい商業施設やホテルは投資対象として未だ敬遠されている。そのような中、投資家の関心は物流施設や住宅だけでなく、キャッシュフローが未だ比較的堅調なオフィスにも向かっていると考えられる。

しかし、東京のオフィス賃貸市場では、オフィス需要が足元で弱含んでいることに加え、今後は大型の新規供給による需給バランスの緩和も懸念されている。東京23区のオールグレードオフィスの想定(新規)成約賃料は、2021年Q2時点ですでに前年同期に比べて5%下落。同社の予測では、25年Q4にかけ、さらに13%下落する見通しだ。

このような状況でも低利回りで成立しているオフィス取引について、同社は3つのタイプに分類する。まず、今後も安定した収益が期待できる物件。具体的には、比較的長期の定期借家契約が締結されている物件や、仮にテナントが退出しても高めの賃料水準で後継テナントを誘引できるだけの競争力を備える物件。2つ目は、現行賃料がマーケット賃料を大きく下回っているとみられる物件。NBFが譲渡した物件の中にも、立地するエリアの新規賃料(マーケット賃料)に比べて現行賃料が2割から3割ほど下回っていると推定されるものがあった。新規賃料が下落傾向にある市場でも、テナント退出後にリニューアルを実施すれば、賃料単価を引き上げる余地はあると同社は考察する。3つ目は、建て替えでキャッシュフローの増加が期待できる物件で、もっとも重要となる要素は立地だ。

なお、足元のオフィス取引利回りの低下は、グレードA以外の物件で特に顕著。パンデミック前の東京都心では、利回りが3%を下回る取引はグレードA相当の物件で複数みられていた。しかし足元では、パンデミックにも拘らず、グレードBビルでも3%を切る取引が散見されている。理由の一つとして、投資家がグレードBビルは今後の新規供給による影響を受けにくいと考えているためと同社は推察している。グレードとグレードAとでは賃料相場の乖離が大きいため、グレードAの新規供給によるグレードBビルからのテナント流出は限定的であり、グレードBビルでは中小企業を中心にテナント需要の層が厚い、という要因もある。

パンデミックの収束の兆しが見えてくれば、オフィスの利回りは上昇する可能性があると同社は指摘する。逆説的ではあるが、リテールやホテルへの投資が再開することが予想され、オフィスあるいはその他のアセットにみられる現状の取得競争がやや緩和すると考えられるためだ。もともとオフィスは流動性が最も高く、まとまった投資規模を一取引で確保できることから投資家の人気は根強い。同社のアンケートでも、オフィス投資を行う投資家は全体の8割を超える。

9月に入り、東京都をはじめ、国内の感染者数は減少に転じている。勤務形態をテレワークからコロナ前の状態に戻す企業が増える可能性は高い。とはいえ、同社は「今後、働き方の変化とともにオフィス形態も変化することが予想される。同社は、これからも投資家の関心を集めるのは「拠点ネットワークの核となる都心のビルだけでなく、よりフレキシブルな働き方を促進・サポートするソフトを備えた都心周辺のビルだろう。オフィスビルの『オペレーショナルアセット化』が進むとみられる中、魅力的な投資対象であり続けるには、AM(不動産の維持管理・収益の最大化)、PM(管理・統括)力がますます重要となるだろう」と締めくくっている。

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HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム

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