事業用不動産サービスのCBREは5月15日、2021年第1四半期(Q1)の国内の投資市場動向(ジャパン・インベストメントマーケットビュー)および第71回「不動産投資に関するアンケート」(CBRE Japan Cap Rate Survey)の調査結果を発表した。同期の事業用不動産の投資額は対前年同期比24%減の9260億円で、J-REITによる投資額は2770億円と同38%減少、J-REIT以外の国内投資家と海外投資家もそれぞれ同15%、同17%の減少だった。東京の期待利回り(平均値)は、オフィス(⼤⼿町)が前期から横ばい、物流施設(首都圏湾岸部)、賃貸マンション(ワンルーム、ファミリー)、ホテル(運営委託型)が低下。物流施設と賃貸マンションは調査開始以来の過去最低値を更新した。
調査は3月10日から31日にかけ140名(社数139社)を対象に実施、116名(社数115社)から回答を得た。回収率は82.9%。回答者はアレンジャー、レンダー(シニアを主とする)、レンダー(メザニンを主とする)、デベロッパー・不動産賃貸、アセットマネージャー(J-REITを主とする)、アセットマネージャー(同)、エクイティ投資家など。
今期の事業用不動産の投資額は対前年同期比24%減で、これは前年同期の取引額が例年を大きく上回る水準であったことが減少の主因。J-REITによる投資額も同38%減、J-REIT以外の国内投資家と海外投資家も、それぞれ同15%、同17%減少。アセットタイプ別では住宅が対前年同期比11%増加の920億円。J-REIT以外の国内投資家による大型取引がけん引した。
他の主要アセットタイプ(オフィス、物流施設、商業施設)はいずれも前年同期を下回った。一方、主要アセットタイプ以外の投資額が840億円と前年同期より大きく増加した(前年同期は66億円)。藤田観光が売却した太閤園などの大型取引が投資額を押し上げた。
21年1月に2度目の緊急事態宣言が発出されたが、一部で入札などの遅延が発生したほかは、売買市場への大きな影響はなかったとみられる。他方、東証REIT指数は3月26日に2000ポイントを回復、年初から13%上昇した。しかし、今期の公募増資(払込ベース)は6件と前年同期から5件減少、調達額は対前年同期⽐53%減の816億円となった。
今期の調達額の82%は物流施設特化型リートによるものだった。2021年に入り株価は上昇基調とはいえ、公募増資できる投資法人はまだ限られていることが投資額減少の要因とみられる。期待利回りは物流施設と賃貸マンションが最低値を更新、商業施設は2期連続の上昇。
CBREが四半期ごとに実施している「不動産投資に関するアンケート期待利回り」では、東京の期待利回りは、オフィス(⼤⼿町)が前期から横ばい、物流施設(首都圏湾岸部)、賃貸マンション(ワンルーム、ファミリー)、ホテル(運営委託型)が低下した。
物流施設と賃貸マンションは調査開始以来*2の過去最低値を更新した。新型コロナウイルス感染症拡大前の前年同期比で両アセットタイプだけが低下、物流施設は15bps、賃貸マンションは10bps低下した。
一方で、商業施設(銀座中央通り)は2020年Q3まで過去最低値を維持していたものの、Q4以降2期連続で上昇した。東京Aクラスオフィスを対象としたCBRE短観指数(DI)については、前期と⽐べ6項目中3項目が改善、2項目が悪化した。最も大きく改善したのは「不動産取引量」、悪化したのは「金融機関の貸出態度」と「NOI」だった。一方、物流施設(⾸都圏マルチテナント型)については、7項目中4項目が改善、3項目が悪化した。最も大きく改善したのは「売買取引価格」と「期待利回り」、悪化は「金融機関の貸出態度」「空室率」「投融資取組スタンス」だった。
今期の投資額は前年同期を下回ったものの、期待利回りおよびCBRE短観指数に大きな変化はなく、投資意欲は引き続き旺盛とみられる。ただし、コロナ禍で投資家はリスク回避姿勢を強めている。そのような中、同社は「物流施設や住宅は、安定した収益を期待できるアセットタイプとして、引き続き投資家の資金を集めるだろう」と予測。物流施設については今期も利回り水準の低下を示唆する取引が複数あった。また、首都圏の築浅の物流施設の売却案件が少ない中、地方都市や築年数が経過した施設などへの投資のほか、「シティ・ロジスティクス(都市近郊小型物流施設)」や冷蔵冷凍倉庫などの開発投資を検討する投資家も増えている。
打撃を受けていたホテルと商業施設に動きが出てきた。ホテルは大阪・京都を中心に売り物件が増えている。ただし、ディストレスとみられる案件は限られており、売主と買主の間の価格差が大きい案件が目立つ。一方、主要なリテールエリアでは、立地などの好条件な物件で後継テナントが決まるケースが散見される。さらに、大阪の繁華街では今期大型の売買取引があった。コロナ禍収束後の消費回復を見据えた取引のようだ。
東京のオフィス賃貸市場では需給バランスが緩和していることから、投資家は全般的に慎重姿勢を強めている。ただし、グレードAビルなどの大型ビルについては、入札などの利回りは依然として低い水準にあり、投資家の意欲は高い。
一方、賃料の下落傾向が東京よりも緩やかな大阪のオフィスは、期待利回りが3期連続で低下、2003年調査開始以来の最低値を更新した。コロナ禍にあっても取引利回りは横ばいかやや低下傾向にあったことから「投資家の意欲は東京より高い」と同社。投資家は大阪について、比較的高めの利回りや、規模の大きい案件が東京に次いで多いことを評価している。同社は「今後の新型コロナウイルス感染症拡大や、賃貸市場の変化を注視する必要はあるものの、選択肢が限られる投資市場で大阪の存在感は高まっている」としている。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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