不動産投資ファンドの重要指標「LTV」を見るポイントは?計算方法も解説

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LTVはLoan to Valueの略であり、不動産やファンド投資における総資産と有利子負債(ローン)の比率から計算される割合のことです。LTVが低いほど有利子負債の貸し倒れリスクが低く、健全な経営を行っていることを意味します。

この記事ではLTVの見方や計算方法、種類などについて詳しく紹介します。ファンド投資だけでなく、現物の不動産投資にも役立つ考え方なので、参考にしてみてください。

目次

  1. 不動産投資ファンドのLTVの意味と計算方法
    1-1.LTVとは債務と資産の比率
    1-2.2つのLTV計算方法
  2. 不動産投資ファンドのLTVの目安や考え方
    2-1.LTVの最大値の目安は80%程度
    2-2.LTVが低ければ低いほどよいとは一概に言えない
  3. LTVはファンド投資にも不動産投資にも活用できる
    3-1.不動産ファンドの健全性の把握
    3-2.個人の不動産投資においてもLTVは活用できる
  4. 不動産ファンドのLTVを見るときの注意点
    4-1.簿価と時価のずれにより実態を反映していないリスクがある
    4-2.時価=売却価格とは限らない
  5. まとめ

1 不動産投資ファンドのLTVの意味と計算方法

総資産と負債の割合であるLTVはファンドの健全性指標の一つです。資産部分を時価・簿価のどちらで計算するかによって複数の計算方法があります。まずはLTVの意味合いと計算方法についておさえておきましょう。

1-1 LTVとは債務と資産の比率

LTVは英語でLoan to Value(Loan to Value ratioと言われることもありますが、意味は同じ)の略です。日本語にすると「総資産有利子負債比率」となります。不動産経営や不動産ファンドにおいては、投資物件の資産価値と、融資や債券発行などによる負債の割合をパーセンテージで表現したものです。

LTVは財務のリスクを見るための指標で、比率が低ければ不動産の価値に対して負債が少なく、健全性の高い不動産経営を行なっていることを意味します。一方でLTVが極端に低い場合には、ローンによるレバレッジをうまく活用して投資を行えていないともいえます。

LTVは単体の不動産物件における資産運用の健全性評価にも、REITをはじめとした不動産ファンドの評価にも活用できます。なおファンドのLTVを評価するときには、ファンドに組み入れられている不動産の合計と、ファンドの有利子負債の合計で評価します。

1-2 2つのLTV計算方法

LTVは物件価格を、計算する時点の市場価格である時価で評価するか、帳簿に記載された価値で評価するかによって変わります。簿価は大きな減損などがなければ、ファンドに組み入れられた時点の価値から減価償却額を控除した額で算出されます。

時価LTVとはその時の不動産の市場価格をもとに算出したものです。また、期末などのタイミングで簿価に含み損益を加味した鑑定評価LTVという指標もあります。

鑑定評価LTVは実質的に期末など特定のタイミングの時価LTVでもあるため、時価LTV=鑑定評価LTVとみなされるケースも少なくありません。

  • 簿価LTV(%)=(有利子負債額)÷(不動産簿価)×100
  • 時価LTV(%)=(有利子負債額)÷(不動産時価)×100
  • 鑑定評価LTV(%)=(有利子負債額)÷(不動産簿価+含み損益)*×100

*含み損益が金額ベースの場合。含み損益率の場合、(不動産簿価×(1+含み損益率))となる。

不動産の簿価と時価に乖離があれば、LTVは実態を反映していない可能性があるため注意しましょう。その点で言えば、時価LTVや鑑定評価LTVの方が、現在の価格を反映した数値であることから、より信頼性の高い指標となります。

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2 不動産投資ファンドのLTVの目安や考え方

一つの目安として、LTVは80%以下に抑えるのが望ましいと考えられています。LTVが低いほど健全な不動産経営を行っていることは確かですが、一方で、全ての投資家にとって「LTVが低いほどよい」とは限らない点にも注意しましょう。

2-1 LTVの最大値の目安は80%程度

LTVの水準の目安には厳格な決まりはありませんが一つの目安として80%が望ましいと考えられます。厳格な決まりがないのは、債務がいくら多くとも、賃料収入から債務返済を進められるうちは実害は出ないので、高いからと言って直ちに危機に陥るとは限らないためです。

ただし、LTVが高い=投資先の資産価値に対して債務が多いと、少しの不動産価格の下落や賃料収入の減少が、たちまち債務超過や貸し倒れなどの危機的状況を招くリスクが高くなります。

理論的にはLTVが100%以下であれば、不動産の価値が債務総額より高い状態であるため、最悪経営が行き詰まっても不動産を売却して債務返済に充てれば解決できると考えられます。

しかし、不動産は株のようにその時の価格ですぐに売却できるとは限りません。売却の交渉・手続きの過程で価格変動が起こるリスクもあり、売却に伴いコストがかかることもあります。

これらのリスクやコストを考慮すると、現実的には100%より一定程度低いLTVでなければ健全とは言えないでしょう。そのため、価格変動や売却時にコストが発生するリスクなどを加味して、LTVは80%以下が一つの目安とされています。

2-2 LTVが低ければ低いほどよいとは一概に言えない

LTVは低ければ低いほど健全ですが、投資に積極的ではないと考えることもできます。そのため80%を下回っていることを前提とすると、全ての投資家にとって「LTVは低ければ低いほど良い」とは一概に言えません。

LTVが低いということは負債をあまり活用していないということになります。負債を使えばより多くの不動産に投資して収益性を高めるチャンスがあるのに、その機会を逃している可能性があるのです。

例えば、投資家から100億円を集めたファンドが、100億円分の不動産に投資を行った場合には、負債を活用していないため、LTV=0%です。このとき、ファンドの賃料収入の利回りが5%だったら、ファンドの収益は5億円となります。(簡単化のため不動産の価格変動はないものとします)

これに対して、100億円の原資に、80億円の借入を行って180億円の物件に投資したとします。このときLTVは44%となります。

もしファンドの賃料収入の利回りが5%で、借入の利率が2%だったとしたら、賃料収入は9億円で、利息支払いが1.6億円のため、収益額は7.4億円となり、借入を行なった方が収益性が高いということになります。

下記にそれぞれの計算式をまとめておきましたので、参考にしてください。

計算例の前提

  • ファンドの原資:100億円
  • 賃料収入の利回り:5%
  • 借入の利率:2%
  • 不動産価格の変動はないものとする

借入を全く使わない場合

  • LTV:0÷100億円=0%
  • 賃料収入:100億円×5%=5億円

*借入がゼロのため、賃料収入がそのままファンド収益に

80億円の借入を活用する場合

  • 投資先の価値:100億円+80億円=180億円
  • LTV:80億円÷180億円=44%
  • 賃料収入:180億円×5%=9億円
  • 借入利息の支払い:80億円×2%=1.6億円
  • ファンド収益:9億円-1.6億=7.4億円

このように、負債の利率が低く、不動産の市況が良好なときには、LTVをむやみに下げすぎないほうが、収益性が見込めるケースも考えられます。

健全なLTVの低いファンドと、収益性が期待できるLTVの高いファンドのどちらを選ぶべきかは、投資家のリスク許容度によって異なります。少なくとも全ての投資家にとってLTVは低いほどよいとは限らないということを、おさえておきましょう。

3 LTVはファンド投資にも不動産投資にも活用できる

不動産経営における財務の健全性の指標であるLTVは、不動産ファンドにおける投資判断や投資先の財務状況を把握する時に有効です。また、自分で不動産投資を行うときにも応用できます。

ここからはLTVの不動産投資における活用法について紹介します。

3-1 不動産ファンドの健全性の把握

REITなどの不動産ファンドは、多くの投資家から多額の資金を集めて運営を行う分、投資先の資産規模も、借入の規模も大規模になりがちです。そのため、財務の健全性は個人で行う不動産経営以上に重要な着眼点といえるでしょう。

先ほどは最大値の目安として「80%」と紹介しましたが、大手のJ-REITは次の表のようにLTVを抑制し、健全性を重視した運営を行っています。おおむね40%前後というのが、2022年度時点のJ-REITのLTVの目安となっています。なお、各法人の決算発表タイミングが異なるため時点は統一されていないという点にご注意ください。

銘柄 LTV
日本ビルファンド投資法人
(2022年6月30日)
42.0%
日本プロロジスリート投資法人
(2022年11月30日)
37.8%
ジャパンリアルエステイト投資法人
(2022年9月30日)
42.0%
野村不動産ジャパンリアルエステイト投資法人
(2022年8月31日)
43.8%
日本都市ファンド投資法人
(2022年8月31日)
44.0%

※出所:日本ビルファンド投資法人「2022年6月期(第42期)決算説明会資料」、日本プロロジスリート投資法人「第20期(2022年11月期)決算説明資料」、ジャパンリアルエステイト投資法人「2022年9⽉期 決算説明資料」、野村不動産マスターファンド投資法人「14th2022年8月期決算説明資料」、日本都市ファンド投資法人「第41期2022年8月期決算説明会資料

なお、不動産ファンドのLTVは簿価LTVで計算されている場合がしばしば見られます。たとえばJ-REITの日本ビルファンド投資法人ではLTVを貸借対照表上の総資産と有利子負債の比率で計算しています。そのため、簿価と時価の乖離が財務の健全性に影響を及ぼすリスクがある点には注意が必要です。

一方で、例えばジャパンリアルエステイト投資法人のように、決算説明資料で簿価LTVと時価LTVを並記しているJ-REITはより正確に財務状況を把握できるため、リスクを検証できるエビデンスが多く、より確度の高い投資判断ができるでしょう。

3-2 個人の不動産投資においてもLTVは活用できる

LTVはファンド投資だけでなく、個人の不動産経営においても考え方を応用することができます。

個人で不動産経営を行う場合も、金融機関の不動産投資ローンを活用して「レバレッジ効果」を得ることができます。少ない自己資金で収益を拡大できるという点は、不動産投資のメリットの一つとして考えられています。

不動産投資においてLTVを高めるということは、自己資金を抑えて多くの借入を活用し、レバレッジ効果を高めることを意味します。このメカニズムを次の計算式で確認してみましょう。

物件購入当初のLTVと自己資金比率の関係

  • ① LTV=ローン借入額÷物件価格
  • ②自己資金額=物件価格-ローン借入額

②を変形して①に代入すると、下記の式が成り立ちます。

LTV=1-(自己資金額÷物件価格)

※上記は簡略した計算式のため、諸費用は考慮していません。

以上の計算をもとにすると、LTVは1から自己資金比率(物件価格に対する自己資金の比率)を引いた数値と等しくなります。LTV=80%以下が目安ということは、自己資金比率でいえば20%以上が目安ということになります。

実際に個人が不動産投資をおこなう場合には、諸費用が更に必要となることを加味すると、自己資金比率が物件価格25~30%となるのが適正水準と考えることが可能です。

4 不動産ファンドのLTVを見るときの注意点

不動産投資において、LTVは簡単に確認が出来てわかりやすい指標ではありますが、いくつか注意すべきポイントがあります。不動産の簿価や時価の性質を理解してLTVが実態を反映しないリスクがあることを理解しておきましょう。

4-1 簿価と時価のずれによりLTVの実態を反映していないリスクがある

J-REITの多くがそうであるように、不動産ファンドのLTVは簿価で公表されるケースが多いです。簿価は通常購入時点での価格(もしくは合理的な資産価値)から減価償却部分を控除して算出されますが、その時の市場価格は考慮されません。

物件の魅力低下や地価の急落などにより投資先の市場価格が簿価より低い場合には、ファンド本来の資産価値も簿価より低いということになります。そのとき時価LTVは簿価LTVよりも高くなり、時価でみたときの健全性も簿価ベースで評価するよりも低くなるのです。

4-2 時価=売却価格とは限らない

時価LTVであればより実態に則した健全性を確認できます。しかし、不動産は株式のように取引所で活発に売買されているものではなく、株価のような指標もないため、正確な市場価格をリアルタイムで把握することはできません。

さらに、不動産の売買はすぐに成立するわけではなく、実際の売却価格は相手との交渉で確定し次第になります。物件を売却しようとしたところ買い手がみつからず、思わぬ安値での取引を強いられるリスクもあるのです。不動産投資においては、時価と売買価格が乖離するリスクがあることをおさえておかなければいけません。

5 まとめ

LTVは資産価値と有利子負債から計算される簡単な健全性指標です。低いほど健全性が高く投資先として安心できます。一方で、ファンドLTVが低いということは、負債を活用して積極的に投資をおこなっていないという意味にもなります。

LTVの目安である80%を下回っている限りにおいて、どの程度のLTVのファンドを投資先に選ぶのが良いかは、投資家それぞれのリスク許容度によって変わってきます。

なお、LTVの簿価はその時の市場価格と乖離しているケースがあり、かつ認識されている時価と同額で物件が売却できるとは限りません。そのため、LTVが不動産やファンドの健全性を正確に反映していないリスクがあることもおさえておきましょう。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。