入居者のいるアパートを相続する手順は?トラブルを回避する分割方法も

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入居者のいるアパートの相続手順は、入居者への配慮が必要であるだけでなく、家賃収入の分割については遺産分割協議前後で所有の法的取扱いが異なるので注意が必要です。また、相続後の相続人間でのトラブル回避にも配慮したいといえます。

この記事では、入居者のいるアパートを相続する手順と、トラブルを回避する分割方法について解説します。

目次

  1. 入居者のいるアパートの相続手順
    1-1.暫定的な管理者の決定・賃借人への連絡
    1-2.アパートローンの残債の確認とアパート査定を行う
    1-3.遺産分割協議で所有者を決定
    1-4.登記名義の変更・賃貸借契約の引継ぎ
  2. 入居者のいるアパートの家賃は遺産分割協議前後で所有が異なることに注意
    2-1.相続開始から遺産分割協議まで
    2-2.遺産分割協議成立後
  3. 入居者のいるアパートの相続でトラブル回避に有効なのは代償分割
  4. まとめ

1.入居者のいるアパートの相続手順

入居者のいるアパートの相続手順は、時系列に沿って次のような手順で進められます。なお、相続では相続人の調査および他の相続財産の調査が必要となり、相続後は相続税の申告も発生しますが、ここでは、アパートにかかる相続手順に焦点を絞ってみていきます。

  • 暫定的な管理者の決定・賃借人への連絡
  • アパートローンの残債の確認とアパート査定を行う
  • 遺産分割協議で所有者を決定
  • 登記名義の変更・賃貸借契約の引継ぎ

以下で、それぞれの項目について詳細をみていきましょう。

1-1.暫定的な管理者の決定・賃借人への連絡

入居者のいるアパートを所有している人が死亡した場合、遺産分割が決定していなくても、まずは、暫定的な管理者を決めます。不動産賃貸業を運営している以上、一時的にであっても事業運営を行う運営者が必要になるためです。

管理・修繕についての相談窓口、家賃の支払先が変更になる場合には、賃借人にもその旨を伝える必要があります。管理会社が管理や修繕をおこなっている場合でも、家賃の受取りや管理・修繕についての判断の窓口を決めておいた方がよいでしょう。

1-2.アパートローンの残債の確認とアパート査定を行う

入居者のいるアパートでは、アパートローンなどの残債が残っていることがあります。金融機関との金銭消費貸借契約を確認し、残債がどれぐらいあるのか、月々の返済がいくらぐらいであるのかを確認しましょう。この際は、登記簿謄本も確認し、アパートに抵当権がついているのかも確認しておくとよいでしょう。

併せて、アパートの評価を慎重におこなうことが重要です。アパートの評価額が残債の額よりも低く、また収益性が著しく低い場合には、実質的に債務だけを相続することになりかねません。アパート以外の資産状況にもよりますが、そのようなケースでは、相続放棄を視野にいれて検討することになるでしょう。

アパートの評価方法として、不動産会社へ査定を依頼する方法があります。不動産会社の不動産査定は無料で行うことが可能ですが、売却を意図して行われるため不動産会社によって査定額が大幅に変わることがあります。複数社の不動産会社の査定を受け、査定額や査定の根拠を比較するようにしましょう。

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アパートの債務が査定価格よりも大きいオーバローンの状態で相続すると、売却したとしてもローンを解消できない物件の運営をどのように行うのか決める必要がでてきます。相続放棄を含め、相続人全員で慎重に話し合ってみましょう。

また、すでにアパートを管理している特定の相続人がいる場合は、他の相続人は、自らの相続分について不利になることのないよう、その管理者から収支に関する情報を共有してもらい、できる限りそのアパートの公正な評価がおこなえるようにした方がよいといえます。

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1-3.遺産分割協議で所有者を決定

民法では、遺産の分割について、相続人どうしでの話し合いによって、誰が・何を・どのくらい相続するのか、決定することを認めています(民法907条)。これが遺産分割協議です。

遺産分割協議では、まず相続人調査をおこなって、法定相続人全員で協議します。個人の相続財産すべてを洗い出し、評価をおこなって、どのように分割するのかを決めていきます。

不動産などの現物を特定の相続人が取得する場合は、取得者が他の相続人に相続分に応じた金銭を支払うこともあります。

特にアパートについては、財産評価が難しいという側面があるので、慎重に分割の合意をとりまとめ、後々トラブルにならないよう、遺産分割協議書を作成しておいた方がよいでしょう。遺産分割協議終了後、そのアパートの所有者が決定することになります。

1-4.登記名義の変更・賃貸借契約等の引継ぎ

故人から相続人にアパートの名義を変更することを相続登記と呼んでいます。相続登記の申請義務化が2024年4月1日に施行されることに加え、登記名義を変更しないと売却ができず、将来、他の相続人との間で新たな法的問題が起きる可能性もあります。(※参照:法務省「あなたと家族をつなぐ相続登記」)

また、入居者のいるアパートの場合は、相続登記をしないと賃貸人としての地位を賃借人に主張できないため、賃借人との関係で様々な不都合が生じる可能性があります。このような観点からも、登記名義を変更した方がよいでしょう。

登記名義を変更したら、賃貸借契約等の引継ぎをおこないます。民法により賃貸人の地位は相続人に承継される(民法896条)ため、法的には賃貸借契約を賃借人と結び直す必要はありません。しかし、賃借人には、少なくとも賃貸人変更と賃料の支払先の通知をおこなった方がよいでしょう。

故人がアパートにかけていた火災保険や地震保険なども、相続人に契約は承継されるのが基本ですが、保険会社の手続き上、名義変更が必要であることが多いので確認するようにしましょう。

2.入居者のいるアパートの家賃は遺産分割協議前後で所有が異なることに注意

アパートを所有していた故人の相続人が複数いると、遺産分割をしなければならず、その協議がまとまるまでに時間がかかることがあります。その間、複数の相続人のうち、アパートが誰のものか確定的でないことになります。

しかし、入居者のいるアパートからの家賃は、その間にも発生し続けます。その家賃は、遺産分割協議成立前後で、誰のものになるのか、が異なります。同様に、管理や修繕にかかる費用も誰が負担すべきなのかが異なります。まずは、その法的根拠とともに整理してみていきましょう。

2-1.相続開始から遺産分割協議まで

相続開始から、遺産分割協議が成立するまでは、アパートは相続人全員の共有という扱いが原則になります(民法898条)。

したがって、入居者のいるアパートから生じた法定果実である、家賃も共有ということになり、共有者は持分に応じた家賃を取得する権利があるといえます(民法206条、89条2項)。また、その管理や修繕にかかる費用も共同で負担すべきということになるといえます(民法253条1項)。

ただし、遺産分割は、相続開始のときにさかのぼって効力が生じる(民法909条)とされており、遺産分割協議が成立する前に共有財産から生じた家賃も、分割確定後の持分に応じてさかのぼって分配するのか、という疑問が生じ得ます。

この問題については、最高裁平成17年9月8日判決が、相続開始から遺産分割決定までの間の賃料債権は遺産とは別個の財産であって、遺産分割の影響は受けず、共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すると解される、としました。

つまり、遺産分割前の家賃は遺産分割の結果にかかわらず、共有の状態を前提に持分が決まるということになります。原則として、各相続人が法定相続分の持分を受け取ることになる、と考えることもできるでしょう。ただし、相続人全員の同意があれば、遺産分割の対象にすることも可能です。

管理・修繕費用についても、原則通り、共同相続人が法定相続分の持分に応じて負担することになります。所得税の確定申告も、各相続人が法定相続分の不動産所得をおこないます。

2-2.遺産分割協議成立後

遺産分割協議が成立した後は、その遺産分割によって収益不動産の所有権を取得した相続人がアパートから生じる家賃の所有権も取得します。また、管理・修繕費用についても、パートの所有者となった相続人が負担することになります。

なお、アパートを複数の相続人同士で共有にした場合は、生じる家賃も共有持分に応じて分割して受け取ることになります。一見して、共有分割は遺産分割協議の前と後で家賃の持分も変わらないため公平性があり、メリットの多い分割方法に見えます。

しかし、共有持分としたアパートは権利関係が複雑となり、アパートの解体や売却などに支障をきたすうえ、二次相続などでさらに権利の複雑化を招くため、原則的にはあまり選ばれない分割方法となっています。

アパートにかかる不動産所得の所得税確定申告も、所有者となった相続人がおこなうことになります。

3.入居者のいるアパートの相続でトラブル回避に有効なのは代償分割

入居者のいるアパートを相続人どうしで分割する際、トラブルを招きにくい分割方法として、代償分割の方法があります。

代償分割とは、相続人の1人や一部の人が現物で遺産を相続し、現物を受け取っていない又は受け取った額が少ない相続人に対して、代償として代わりの財産を渡す方法です。

代償分割をおこなうことで、アパートを相続人どうしの共有にせずに、特定の相続人が取得することができます。共有分割にした場合に招きやすい、共有者どうしの収益取り分や管理負担分のトラブルを回避することが可能です。

また、相続人間の相続分の調整として代償財産を受け渡すため、相続人間で公平性を確保することができます。現物で相続した場合に招きやすい、相続人間の不公平感を回避することができるといえるでしょう。

代償分割のデメリットとしては、その他の相続財産がアパートの時価に対して少ない場合や、他の相続人に十分な資産がないと公平性のある支払いが難しくなるという点です。

なお、公平性の観点からは、アパートを一旦売却して現金に換え、それを分割する換価分割という方法もあります。現金のため公平性の高い分割が可能になりますが、アパートを手放してしまうという点はデメリットになります。いずれの場合も相続人同士でしっかりと話し合いを進めて行くことが大切です。

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まとめ

入居者のいるアパートの相続をするとき、家賃は、遺産分割協議前後で取扱いが変わることになります。特に、遺産分割協議前は、法定相続分の家賃を受け取る権利がすべての相続人にあるので注意しましょう。所得税の確定申告も必要になります。

アパートを手放さずに相続し、なおかつ相続人同士のトラブルを回避するために、相続人間の相続分の調整として代償財産を受け渡す代償分割の方法によって分割することを検討しておくと良いでしょう。難しい場合には売却も視野に入れ、相続人同士で慎重に話し合いを進めることが、後のトラブル回避にもつながります。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。