傾斜地・崖地の物件で、擁壁がある不動産を売却する場合、どのように売却するのがよいのか悩む方も多いのはないでしょうか。
擁壁は、土地の価値の根本的な部分に関わるため、売却後にトラブルを招く要因にもなりかねません。また、擁壁がある不動産は売りにくく、売却期間が長期化してしまう可能性もあります。
本記事では、擁壁がある不動産を売却する際の注意点、トラブル回避のポイントを解説していきます。
目次
- 傾斜地・崖地で擁壁がある不動産売却の注意点
1-1.擁壁の材質や形状に問題がないかをチェックする
1-2.国土交通省のマニュアル等を利用して擁壁の状態をチェックする
1-3.宅地造成等規制法の区域かどうかに応じ、役所で調査する
1-4.擁壁の所在する都道府県等のがけ条例を調査する
1-5.地方公共団体等で再建築する場合の指導内容をヒアリングする - 傾斜地・崖地で擁壁がある不動産売却のトラブル回避のポイント
2-1.擁壁の状態について、点検や保証を付けて売却する
2-2.擁壁の状態について、売買契約書等に記載して買主に説明する
2-3.擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策を施した上で売却する
2-4.擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策費用を差し引いて売却する - まとめ
1.傾斜地・崖地で擁壁がある不動産売却の注意点
傾斜地・崖地で擁壁がある不動産を売却する際に注意したい点は、以下のような点になります。
- 擁壁の材質や形状に問題がないかをチェックする
- 国土交通省のマニュアル等を利用して擁壁の状態をチェックする
- 宅地造成等規制法の区域であるかどうかに応じ、役所で調査する
- 擁壁の所在する都道府県等のがけ条例を調査する
- 地方公共団体等で再建築する場合の指導内容をヒアリングする
以下で、それぞれについて詳しく説明します。
1-1.擁壁の材質や形状に問題がないかをチェックする
まず、擁壁の材質に問題がないかどうかをチェックしましょう。擁壁の材質や形状によっては、現行法令において、宅地の擁壁として安全性に問題があり適さないとされているものがあります。(※参照:国土交通省「宅地擁壁について」)
単に石を積んだままの空石積み擁壁や、ブロックなどを継ぎ足して作られた増積み擁壁、下部の擁壁のすぐ上に別の擁壁がある二段擁壁などは、現行法令では宅地の擁壁に適さないとされています。
これらの擁壁に該当する場合、売却の際には擁壁の安全性について、何らかの対策を講じて売却することを検討しましょう。
1-2.国土交通省のマニュアル等を利用して擁壁の状態をチェックする
擁壁の状態に問題がないかどうかをチェックしましょう。国土交通省の「我が家の擁壁チェックシート(案)」では、地盤や設備などの周辺環境が排水良好であるかどうかに加え、練石積み・コンクリートブロック積み、重力式コンクリート、鉄筋コンクリート、それぞれの擁壁のタイプに応じて、変状がないかどうかのチェック項目を紹介しています。
クラックや水平方向のずれ、沈下などがチェックすべき変状ポイントとなります。このようなチェックマニュアルを利用するなどして、擁壁の状態をチェックするようにしましょう。
擁壁に問題があるような場合、売却の際には擁壁の安全性について、何らかの対策を講じて売却することを検討しましょう。
1-3.宅地造成等規制法の区域かどうかに応じ、役所で調査する
宅地造成等規制法の区域内の擁壁であれば、切土2メートル超、盛土1メートル超、切盛2メートル超の工事によるものは、都道府県等の許可申請が必要です。都道府県等に宅造許可、検査済の記録が残っているかどうかを確認してみましょう。(※参照:国土交通省「宅地造成規制法の概要」)
この区域外の擁壁であれば、建築基準法の基準により、切土盛土に関わらず2メートル超の擁壁を築造する際、工作物の確認申請が必要となるため、市区町村等に建築確認、検査済の記録が残っているかどうかを確認してみましょう。
これらの記録がない場合、適法でない擁壁である可能性があります。売却の際には擁壁の安全性について、何らかの対策を講じて売却することを検討しましょう。
1-4.擁壁の所在する都道府県等のがけ条例を調査する
法令上の安全性基準を満たさない擁壁は、がけ扱いとなり、建物を建築する際、都道府県等のがけ条例の規制を受けます。
がけ条例の規制は、都道府県等によって異なります。例えば、東京都では、東京都建築安全条例において、高さ2メートルを超え、かつ2分の1勾配を超える「がけ」に近接して建物を建てる場合、擁壁の築造を義務づけたり、基礎や構造を制限したりしています。(※参照:東京都北区「建築敷地周辺に高低差がある場合(東京都建築安全条例第6条)」)
既存の擁壁ができた後に新たにがけ条例が制定されている可能性もあるため、がけ条例の規制について調査し、規制を満たしている擁壁であるのかどうかを調査してみましょう。規制を満たしていない場合には、売却の際に何らかの対策を講じて売却することを検討しましょう。
1-5.地方公共団体等で再建築する場合の指導内容をヒアリングする
現行法令に照らし、擁壁の安全性に問題がある可能性が高いことが判明した場合、地方公共団体等で再建築する場合にどのような指導を受けるのか、ヒアリングすることを検討しましょう。
擁壁の安全性に問題がある不動産を売却する際、売却の最大の障害となるのは、再建築する場合にどのような規制を受けるかという点になります。
再建築の際には、地方公共団体等で建築確認申請をおこなう必要があります。その申請を受け付ける窓口に、擁壁の現状を説明し、再建築の際の指導内容についてヒアリングしてみるとよいでしょう。(※参照:一般社団法人住宅金融普及協会「建築基準法に基づく確認検査の申請手続きのご案内」)
2.傾斜地・崖地で擁壁がある不動産売却のトラブル回避のポイント
擁壁がある不動産売却については、擁壁の安全性をチェックし、法令上、安全性に問題がないかどうか、という点に注意したいといえます。それでは、売却する際にトラブルを回避するにはどのような点に気を付ければよいのでしょうか。
以下のようなポイントが挙げられます。
- 擁壁の状態について、点検や保証を付けて売却する
- 擁壁の状態について、重要事項説明書に記載して買主に説明する
- 擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策を施した上で売却する
- 擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策費用を差し引いて売却する
2-1.擁壁の状態について、点検や保証を付けて売却する
擁壁の状態をチェックして安全性に不安を感じた場合には、専門業者に擁壁の点検を依頼することを検討しましょう。売却前に点検をおこなっていることを証明できれば、売却をスムーズにおこなうことができることがあります。
国土交通省の指針等に沿って擁壁の安全性を診断し、地盤調査などもおこなったうえで、擁壁の安全性について保証をおこなう公益団体もあります。そのような保証サービスを付加して売却することを検討してみてもよいでしょう。
2-2.擁壁の状態について、売買契約書等に記載して買主に説明する
擁壁の安全性に問題がある場合、土地に瑕疵が存在する可能性があるため、売却時には売主は買主に対して十分に説明して了承を得た上で売買契約を締結することが大切です。売買契約書等において、擁壁の状態について記載し、安全性に問題があり、瑕疵が存在する可能性を了承の上買い受けることを明確にするとよいでしょう。
売買物件における擁壁にひびがあり、売買時にそれを明確にしていなかったものの、特約において擁壁の検査済証がないことを了承の上買い受ける旨記載があったケースでは、買主は土地に瑕疵が存在する可能性について十分な説明を受けたと認められる、とした判例があります。(※参照:一般財団法人不動産適正取引推進機構「擁壁と瑕疵の説明義務」)
2-3.擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策を施した上で売却する
擁壁の安全性に問題がある場合、法令上の安全性基準を満たすような安全対策を施した上で売却することも検討してみましょう。費用はかかりますが、法令上の安全性を満たす擁壁であれば、不動産売却がスムーズに進むことが期待できます。
2-4.擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策費用を差し引いて売却する
擁壁の安全性に問題がある場合、安全対策をおこなう上で必要な費用に相当する分を相場価格から差し引いて売却するのも売却方法の一つです。
その際、法令上の安全基準を満たすために必要な具体的対策を明確にし、その安全対策を講じるのにかかる費用の見積りなどを提示できるようにしておくとよいでしょう。
まとめ
擁壁がある不動産を売却する際は、安全性に問題がないかどうかをチェックしましょう。擁壁の安全性は法令上の基準があります。宅地造成等規制法の区域であるかどうかや、都道府県等のがけ条例の規制に注意して調査してみましょう。
法令上の安全性だけでなく、現状のチェックも国土交通省公表のマニュアル案などを利用しておこなうとよいでしょう。
なお、売却する際、トラブルを回避するには、安全性について点検し、点検の結果問題があると分かった場合であっても、買主に説明して了承した上で売買契約を締結するようにしましょう。
不動産会社によっては傾斜地・崖地で擁壁がある物件の売買に慣れていない可能性もあります。過去に取引実績がある不動産会社への依頼も検討されておくと良いでしょう。
佐藤 永一郎
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