マンション投資において、入居者が退去したあとに行うのが原状回復工事です。この際の工事内容は物件の状態で異なりますが、相場や目安を知ることはオーナーにとって大切なことです。
そこで今回のコラムでは、マンション投資の原状回復費の相場や目安について解説していきます。また原状回復をめぐるトラブルを回避するための対策も紹介します。
目次
- マンション投資の原状回復とは
1-1.原状回復の定義
1-2.オーナーが行う原状回復
1-3.マンション投資の原状回復工事の内容と目安の金額 - マンション投資の原状回復におけるトラブル対策
2-1.入居時の部屋の状況を記録しておく
2-2.契約時には注意事項を双方で確認しておく
2-3.退去時の立ち会いを適切に行う - まとめ
1 マンション投資の原状回復とは
原状回復とは、貸借人が退去する際に、入居前の状態に戻すということを意味しています。ただし、貸借人がすべてを戻すのではなく、どこまで戻すべきかはガイドラインによってルールが決まっています。そのためまずは原状回復とは何かについて、詳しく解説していきましょう。
1-1 原状回復の定義
数ある賃貸物件では日々入退室が繰り返されており、その度に原状回復が行われています。原状回復にどの程度の費用をかけ、どのように費用の負担割合を決めるのかについてはオーナーと貸借人の利益が相反するため、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を設けて、トラブルを防止しています。
この中で、原状回復とは、下記のように定義されています。
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること
またガイドラインを定めた目的の一つとして、以下のようなことも記述されています。
- 建物の価値は居住の有無に関わらず時間の経過とともに減少するもの
- 契約通りの使用方法、社会通念上の使用法で使用していても状態は悪くなるもの
つまり、原状回復とは、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にしているのがこのガイドラインなのです。
要約すると、普通に使用していて摩耗や劣化した部分は貸借人の責任ではないということです。貸借人が故意あるいは不注意で壊したもの以外は、オーナーの責任において原状回復するというのが現在の考え方になっています。
そこで原状回復工事では、どのような工事が行われるのかを次の項目で見ていきましょう。
1-2 オーナーが行う原状回復
ガイドラインでは、原状回復はオーナーが負担する分と貸借人が行うものに分けて考えています。貸借人が行うのは故意や不注意で破損したものですが、それ以外の通常摩耗および経年劣化による原状回復工事はオーナーが負担することになります。
具体的にどのようなことがオーナー負担になるのか、ガイドラインでは事例をいくつか紹介していますので、詳しく見ていきましょう。
箇所 | 内容 |
---|---|
床 | ・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡 ・畳の変色、フローリングの色落ち、など |
壁・天井 | ・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ) ・クロスの変色(日照などの自然現象によるもの) ・エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡 ・壁に貼ったポスターや絵画の跡、など |
建具 | ・網戸の張替え(破損等はしていないが次の入居者確保のために行うもの) ・地震で破損したガラス、など |
設備 | ・設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの) ・浴槽、風呂釜等の取替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のため行うもの)、など |
※参照:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より抜粋。
ただしこれはあくまでもガイドラインであり、物件オーナーが契約書に独自の内容を盛り込んでいる場合はそちらが効力を持つことになります。例えば、退去後のハウスクリーニングやエアコンを貸借人が取り付けた場合の原状回復は、ガイドラインではオーナーの負担になっていますが、貸借人が退去時に費用を負担する契約になっている例があります。
ただし、あくまでも契約書に正しく記載され、重要事項説明などで正しく説明されている場合です。この点も踏まえて、オーナーが行う原状回復工事について見ていきましょう。
1-3 マンション投資の原状回復工事の内容と目安の金額
オーナーが負担する原状回復工事について把握したところで、具体的にどのような内容の工事が行われ、目安の金額はいくらになるのか、解説していきましょう。
クロスの張り替え
壁紙や天井のクロスを張り替える際は、壁紙のグレードにもよりますが、1,000円〜1,500円/㎡が目安です。部屋の構造によって壁や天井の面積が異なるため、一概には言えませんが6畳の部屋であれば下記のような計算で求めることができます。
- 6畳の部屋の天井の面積→3.6m×2.7m=9.72㎡
- 6畳の部屋の壁の面積→3.6m×壁の高さ×2+2.7m×壁の高さ×2
この場合、壁の高さが2.4mであれば、壁全体の面積は「3.6m×2.4m×2+2.7m×2.4m×2=30.24㎡」となります。例えば、1,500円/㎡の壁紙クロスで壁だけ張り替えるのであれば、30.24×1,500で45,360円、天井も同時に張り替えるとすると、9.72×1,500=14,580を足して、59,940円となります。
フローリングやカーペットなどの張り替え
フローリングやカーペットなどの床材もグレードや材質によりますが、目安は10,000円〜30,000円/㎡となります。6畳の部屋を20,000円/㎡のフローリングで張り替えるのであれば、9.72㎡×20,000円=194,400円となります。ただし一部分だけ張り替える、補修をするといった場合は、数千円から数万円程度になります。
またフロアカーペットの場合は、5,000円/㎡〜が目安となります。
サッシの交換
サッシの部品に不具合がある場合、部品の交換費用は数千円からとなります。またサッシ全体に不具合があり、交換する場合は30,000円〜50,000円程度が目安となります。
ただしマンションの場合、サッシは共用部分に当たる可能性があるため、管理規約を確認したり、管理組合に相談することが重要です。
網戸の張り替え
網戸に穴が開いたり、劣化して汚れている場合などは張り替えを行う必要があります。窓の大きさにもよりますが、張り替えだけでは1,000円〜5,000円前後が目安となります。
ただしフレームごと交換する場合は、10,000円〜50,000円程度となります。
キッチンやトイレ、バスルームの修理・交換
不具合や故障がある場合、部品の交換だけであれば数千円からになります。ただし、全体を交換する場合は、下記のような費用がかかります。
- キッチン…100,000円〜600,000円程度
- トイレ…50,000円〜100,000円程度
- バスルーム…500,000円〜800,000円程度
エアコン、給湯器などの修理・交換
不具合や故障がある場合、部品の交換だけであれば数千円からになります。ただし、全体を交換する場合は、下記のような費用がかかります。
- エアコン…50,000円〜150,000円程度
- 給湯器…100,000円〜300,000円程度
水道の水栓などの修理・交換
パッキンなどの部品を交換するだけであれば数千円からになりますが、水栓を交換する場合は10,000円〜20,000円程度になります。
それぞれの工事箇所ごとに費用の目安を紹介しましたが、物件の状態によってすべてが一度に必要となる訳ではありません。そのため交換時期の目安も覚えておくようにしましょう。
- 壁紙・床材の張り替え…10年〜15年
- キッチン、トイレ、バスルームなどの交換…10年〜20年
- エアコン、給湯器などの交換…10年〜20年
- 窓や建具まわりの交換…20年〜30年
原状回復工事は、物件の状態によって範囲が異なります。また、オーナーの判断によって行うものであるため、一度の原状回復工事としての目安は求めづらいものです。
例えば、家賃の1カ月分程度に抑えておけば、経営上大きな支出とはならないという考え方もあります。また一度に大規模な修繕を行うパターンと、退去時に少しずつ修繕を行っていくパターンなど物件オーナーによって考え方は異なるものです。
「原状回復工事は家賃の◯カ月以内」「5年ごとに大規模なクロス張り替え」といったように、オーナーご自身で目安を設けておくのもいいでしょう。
2 マンション投資の原状回復におけるトラブル対策
貸借人が退去する際にトラブルになりやすいのが、この原状回復に関する事案です。通常摩耗や経年劣化はオーナー負担、故意あるいは不注意による破損は貸借人負担というガイドラインがあります。
まずはガイドラインを確認し、原状回復におけるトラブル対策を行っておくと良いでしょう。そのほか、以下では原状回復におけるトラブルを回避するポイントをご紹介します。
2-1 入居時の部屋の状況を記録しておく
入居時にはなかった損傷が、退去時にできている場合があります。この損傷が貸借人の故意や不注意であれば、貸借人が原状回復する必要があります。
そのためいつ損傷ができたのか確認できるように、入居時の部屋の状態を写真などで記録しておくようにしましょう。「入居前からあった損傷」か「入居中にできた損傷」か判断をつけることができます。
2-2 契約時には注意事項を双方で確認しておく
部屋の賃貸借は契約の元に行われます。しかし、前述したようにハウスクリーニングやエアコン取り外し後の原状回復など、個別の物件によって契約内容が異なることもあります。そのためトラブルを回避するには、契約内容を双方が理解していることが重要です。
オーナー側は自身の物件であるため細かな条件について把握できている方も多いと思われますが、貸借人側は正しく理解していないこともあります。そのため契約を締結する際には、お互いに理解を深めて、齟齬がないようにしてから契約するようにしましょう。
2-3 退去時の立ち会いを適切に行う
通常、貸借人が退去する際は、管理会社の担当者などが立ち会いを行い、双方が確認をします。このとき、破損や汚れがあった場合、どちらに責任があるかを明確にしておく必要があります。そのため立ち会いを適切に行い、責任をはっきりしておくことがトラブル回避には重要です。
しかし、中には引っ越しなどの影響で、貸借人が十分な時間を取れないこともあります。そうしたことがないように、立ち会いの時間を十分に設けるように事前に手配をしておくようにしましょう。
また、担当者の経験が少ない場合、責任の所在を曖昧なままにしたり、部屋の確認を適切に行えないこともあります。管理会社が退去時の立ち会いを適切に行っているか、オーナーとして確認するようにしましょう。自身が納得いかない場合は、管理会社に掛け合って、その時の状況について説明を受けることも大切です。
まとめ
マンション投資において原状回復工事を行い、住環境を適切に保っていくことは重要なポイントです。しかし、原状回復工事はどのように費用を負担するのかという点で貸借人と物件オーナーの利益が相反するため、トラブルになりやすい事案と言えます。
今回のコラムでは、原状回復工事における相場や目安について解説し、トラブルを回避する対策方法についても紹介しました。原状回復は、通常摩耗や経年劣化の場合はオーナー側の負担となるため、あらかじめ費用の目安を確認しておくと良いでしょう。
こうした原状回復に関する知識を深めることでトラブル回避ができ、原状回復や修繕工事を見据えたマンション投資ができるようになります。本記事を参考に、適切なマンション経営を行えるよう準備を進めていきましょう。
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倉岡 明広
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