リースバックとは、売却した自宅に貸借人として住み続ける不動産売却の取引形態です。老後資金の捻出などを理由に検討している方もいるのではないでしょうか。
しかし、仕組みを理解していないことで後のトラブルにつながる可能性もあります。そこで今回のコラムでは、リースバックによるトラブル事例とトラブルを回避するための対策について詳しく解説していきます。
目次
- リースバックとは
1-1.リースバックで不動産売却するメリット
1-2.リースバックで不動産売却するデメリット - リースバックで不動産売却をした人のトラブル事例
2-1.契約更新時にリース料(家賃)が高くなった
2-2.買い戻し価格が高く、自宅の買い戻しができなかった
2-3.設備の修理費用をどちらが負担するかで意見が食い違った
2-4.再契約を断られ、家を出ていくことになった - リースバックで家を売却する前に不動産会社の査定を受けておく
- まとめ
1 リースバックとは
リースバックとは、所有している持ち家を不動産会社やリースバック業者に売却し、賃貸住宅として住み続ける不動産売却の取引形態です。家の売却価格によってはまとまった資金を得られたり、売却後も引っ越さなくてもいいなどの特徴があります。ただしこれらのメリットだけではなく注意しておきたいデメリットもありますので、詳しく見ていきましょう。
1-1 リースバックで不動産売却するメリット
リースバックによる大きなメリットは自宅を現金化できることですが、それを含めて代表的なメリットは下記の4点です。
- 売却価格によってはまとまった現金を得られる
- 引っ越す必要がない
- 住宅ローンや固定資産税などの支払いをしなくていい
- 近所に知られずに売却ができる
リースバックのメリットは、自宅を売却することで現金が手に入ることです。売却後も引っ越す必要がないため、引っ越し費用などもかかりません。また自宅を所有することでかかる固定資産税などの税金の支払いもする必要がなくなります。
そのため「老後資金を捻出したい」「住宅ローンの支払いが滞りそう」といったときなどに利用することができます。また多くの場合、期間内であれば買い戻しできる契約となるため、「子どもの大学費用を捻出したい」といったように、一時的にまとまった資金が必要な場合にも検討されています。
1-2 リースバックで不動産売却するデメリット
反対にリースバックによるデメリットや注意する点を見ていきましょう。代表的なのは下記の4点です。
- リース料(家賃)を支払う必要がある
- 住宅という資産を失う
- 契約期間に制限があることもある
- 物件価格が相場価格よりも安い
リースバックのデメリットとして考えられるのが、自宅が自己所有ではなくなることです。また、売却後も居住している間はリース料(家賃)を支払い続ける必要があるため、将来に不安を感じてしまう懸念があります。リース料は売却価格の8〜10%が相場となっており、家賃相場よりも高くなる傾向があります。
また、契約形態が普通借家契約ではなく、定期借家契約となることもあり、その場合は契約期間が満了した時点で退去することになります。そのため長期的に住み続けることができないケースもあります。
これらのメリットとデメリットを把握したところで、どのようなトラブル事例が報告されているのか、見ていきましょう。
2 リースバックで不動産売却をした人のトラブル事例
リースバックは新しい取引形態で、理解が不十分なまま契約しているケースも少なくありません。そのため下記のようなトラブルが発生してしまいます。
- 契約更新時にリース料(家賃)が高くなった
- 買い戻し価格が高く、自宅の買い戻しができなかった
- 設備の修理費用をどちらが負担するかで意見が食い違った
- 再契約を断られ、家を出ていくことになった
トラブルの原因や対策についても解説していきますが、重要なのがリースバックは契約に基づいて行われるということです。この点も注意して、トラブル事例と対策を確認しておきましょう。
2-1 契約更新時にリース料(家賃)が高くなった
「住宅ローンの支払いが難しくなってきたので、思い切ってリースバックを利用しました。リースバックにすると家賃が相場よりも高いというのは聞いていたのですが、1回目の契約が終了する2カ月前にリースバック業者から連絡があり、家賃の値上げが通告されました。提示された家賃では生活がままならないと思い、自宅の買い戻しも諦めて、別の賃貸住宅に引っ越すことになりました。」(40代男性)
トラブルの原因と対策
リースバックではリース料(家賃)の設定がトラブルになります。元々、相場の家賃よりも高く設定されることが多く、さらに家賃が高くなると居住の継続を断念するケースもあり、トラブルに発展してしまうのです。
賃貸住宅はオーナー(この場合はリースバック業者)の所有物なので、家賃の値上げはオーナーの判断によって行われます。しかし、貸借人がいる場合の家賃の値上げは、「借地借家法」32条より、一方的にはできないことになっています。オーナーから家賃の値上げを通告された場合、貸借人は必ず応じないといけないと思っている方もいますが、拒否することも可能なのです。
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
ただし「払いません」といったように強固な姿勢で拒否するのではなく、家賃の値上げに正当な理由があるのか確認し、交渉するようにしましょう。まずはオーナーが家賃を上げる理由を確認することが必要です。家賃を上げる理由としては、「土地の価格が上昇した」「周辺の物件の家賃が値上がりした」「物価が上昇した」などが考えられますので、根拠となる資料を提出してもらい、冷静に話し合うことが大切です。
それでも納得できなければ、即座に家賃の値上げに応じる必要はありません。ただし、オーナーとの裁判となり、現在の家賃が不当に安い設定になっているという判決になると、家賃の値上げが実行されることになります。反対に家賃の値上げには正当な理由がないという判決が下ると、値上げは実行されません。こうした知識も覚えておきましょう。
2-2 買い戻し価格が高く、自宅の買い戻しができなかった
「主人がリストラに遭ってしまったので、将来の買い戻しを見据えてリースバックを活用することにしました。主人の新しい仕事が決まり、契約期間内の買い戻しを目指しましたが、買い戻し価格が高くて結局断念しました。契約期間が満了になったあとで、別の中古住宅を購入し、現在はそちらで生活しています。」(50代女性)
トラブルの原因と対策
リースバックでは買い戻しができるように、期間と買い戻し価格を設定しています。しかし、買い戻し価格は売却時の価格よりも約1割~3割程度高く設定されているため、相場よりも高い金額に設定されてしまうこともあります。
買い戻しを希望する場合は、買い戻し価格が希望に合うような業者を選ぶようにしましょう。
業者によっては契約期間内に自宅を売却してしまい、所有権が第三者に移転してしまうこともあります。その場合、当初の買い戻し価格よりも高い金額が設定されたというトラブルも報告されています。こうしたトラブルに遭わないためにも、リースバック業者を選ぶ際は慎重に行いましょう。
ただし、愛着のある家ではありますが、数年前に売却した価格よりも高い価格で買い戻すことに納得できないという考え方もあります。今回の事例の方のように、新しい住宅を購入することも悪くはないと切り替えることも、トラブル回避には大切なポイントです。
2-3 設備の修理費用をどちらが負担するかで意見が食い違った
「リースバックを活用して、自宅にそのまま住み続けることにしました。しかしエアコンが故障した際に、リースバック業者と揉めたのが修理費用です。賃貸契約期間中の故障になるため、オーナーの負担になると主張しましたが、『契約書に記載している通り、そちらの負担です』とリースバック業者に言われました。契約書を確認したら確かにそのように記載されており、仕方なく修理代を支払うことにしました。」(50代男性)
トラブルの原因と対策
通常の賃貸物件では、通常摩耗や経年劣化による故障や劣化に対する修理・交換は、オーナーの負担になります。これは国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にも定められています。しかし特約などによって、修理や交換、修繕費用は貸借人が負担することもあります。
リースバックの場合、今回のトラブルのように契約期間中の修理や交換は貸借人が負担する契約になっていることがあります。ただし、重要事項説明などで契約時にお互いにコンセンサスを得ておく必要があります。この点が曖昧になりやすく、トラブルに発展しやすいことも覚えておきましょう。
貸借人としてできることは契約を締結する際に入念に契約書を確認し、不明な点や疑問点、不安な点を適切に解消しておくことです。これがトラブル回避につながります。
2-4 再契約を断られ、家を出ていくことになった
「老後資金を捻出するために、リースバックを活用しました。リース契約の際に、契約期間終了後に再契約できるとのことでしたので、定期借家契約にしました。しかし1回目の契約終了間近に、契約を終了する旨の通知が届きました。リースバック業者に交渉しましたが、再契約に応じてもらえず、その後引っ越しをしました。」(60代女性)
トラブルの原因と対策
賃貸物件の契約形態には、普通借家契約と定期借家契約の2つの種類があります。主な違いは下記になります。
項目 | 普通借家契約 | 定期借家契約 |
---|---|---|
契約方法 | 書面もしくは口頭での契約 | 書面による契約 |
契約更新の有無 | 正当な事由がない限り、自動的に更新される | 更新がない |
契約期間 | 1年以上 | 自由 |
普通借家契約と定期借家契約の大きな違いは更新の有無です。定期借家契約の場合、更新されないケースが多いといえますが、双方が合意すれば再契約ができるケースもあります。
リースバック業者によりますが、早期に売却して利益を得たいという思惑もあり、定期借家契約での契約しか受け付けていないケースもあります。そのため今回の事例のようなトラブルが起きてしまうのです。リースバックを活用する際に継続して居住したい場合は、普通借家契約で契約できるリースバック業者を選ぶことが必須になります。
3.リースバックで家を売却する前に不動産会社の査定を受けておく
リースバックによる不動産売却は、自宅に住み続けられるメリットがある反面、金銭的なデメリットがある売却方法と言えます。買戻しの際にはさらに金銭的な負担がかかってしまうため、まずは通常の仲介売却をした時の価格と比較してみるのが良いでしょう。
リースバックのような買取方式の不動産売却では、仲介売却より2~3割ほど安い価格での売却となります。また、不動産会社によって査定金額も異なってくるので、1社だけの査定金額ではなく、複数社の意見を比較して判断してみましょう。
下記、複数の不動産会社へ査定依頼ができる不動産一括査定サイトの一覧です。下記のサイトは悪質な業者の排除を積極的に行い、全国エリアに対応しているサイトを厳選しています。
主な不動産一括査定サイト
サイト名 | 運営会社 | 特徴 |
---|---|---|
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まとめ
リースバックは10年くらい前から始まった新しい契約方法で、システムの周知がされていないこともトラブルが起きやすい原因の一つです。そのため、リースバックの仕組みを正しく理解することが、トラブル回避には重要です。また下記のような点も、トラブル回避には必要です。
- 疑問点をそのままにしない
- 契約書を入念に確認する
- 相場を調べてから取引を行う
- 信頼できる業者を選定する
リースバックには、自宅を売却しても住み続けることができるなどメリットがあります。そのメリットを活かすためにも、トラブルに遭わないように気をつけましょう。
倉岡 明広
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