スマートグリッドは「スマート」が賢い、「グリッド」が送配電網を意味する造語で、優れた次世代型送配電網のことを指します。IT技術を活用することにより、発電や電力消費のデータを自動で収集し、さらにそれに合わせて発送電を自動コントロールするシステムです。
スマートグリッドが実現すれば、現状よりもはるかに効率的に電力が使用できるようになります。また、発電量が不安定になりやすい再生可能エネルギーをさらに普及させるために、スマートグリッドは重要な役割を果たします。
この記事ではスマートグリッドの特徴やメリット、そして普及に向けた課題について紹介します。
目次
- スマートグリッドとは?仕組みや機能
1-1.スマートグリッドとは?
1-2.再生可能エネルギーを普及させるうえでも重要な役割を果たす
1-3.スマートグリッドを実装するのに必要な2つの設備
1-4.日本ではスマートメーターの設置と実証実験が進む - スマートグリッドが普及することのメリット
2-1.電力使用状況を可視化できる
2-2.電力供給の効率化と安定化につながる
2-3.再生可能エネルギーを有効活用できる
2-4.電力の地産地消が可能に
2-5.電力コストの抑制につながる - スマートグリッドの普及に向けた課題
3-1.機器の導入が途上
3-2.導入コストを誰が負担するか
3-3.セキュリティへの懸念 - まとめ
1 スマートグリッドとは?仕組みや機能
スマートグリッドはITを活用した次世代の電力網です。効率的な電力使用が実現するほか、再生可能エネルギーを普及させるうえでも、重要な役割を果たします。
1-1 スマートグリッドとは?
スマートグリッドとは、IT技術を活用することで、発電所など電力の供給サイドと住宅やさまざまな施設など需要側のデータを収集して、需要に応じて電力の供給量を自動制御するシステムです。
普段電力を使用していると意識しづらいですが、電力は太陽光、火力、燃料電池など発電形態によって質や量が異なります。また、動力、照明、熱源など電力の使われ方もさまざまです。スマートグリッドを電力網に導入することで、電力のロスを最小化しながら、電力をさらに安定供給できるようになります。
1-2 再生可能エネルギーを普及させるうえでも重要な役割を果たす
スマートグリッドは、今後再生可能エネルギーによって産出された電力を効率よく、安定的に使用していくうえで不可欠な技術でもあります。
再生可能エネルギーの多くは、自然環境により産み出す電力量や周波数などが変質するのが課題です。
再生可能エネルギーの割合が増えるなかで、電力の需給を効率よく管理する仕組みが整っていなければ、電力の需給バランスなどが崩れて大規模停電が発生する恐れもあります。太陽光発電などが日本中に普及すればするほど、供給サイドの発電施設ごとの電力産出状況が複雑になるため、従来のシステムでの管理が困難になります。
スマートグリッドの導入が本格化すれば、電力需要量と、発電施設ごとの電力産出状況を自動で検知して、需給バランスを自動で調整可能です。将来再生可能エネルギーによる発電シェアが増えても、電力の安定供給を継続できます。
1-3 スマートグリッドを実装するのに必要な2つの設備
スマートグリッドを普及させるためには、スマートメーターとHEMSの普及が不可欠です。
スマートメーターは通信機能を持つ電力計測器のことで、各家庭やオフィス、発電所などの施設に設置するものです。電力の使用量や発電量などを自動計測してくれるようになり、リアルタイムで電力網の状況を把握できるようになります。関東や関西地域では設置が進んでいます。
もう一つはHEMSで、スマートメーターから受け取ったデータを基に、電力の需給をコントロールするシステムです。こちらも太陽光発電を搭載した家庭を中心に導入が始まっているものの、スマートメーターと比べると設置が遅れており、スマートグリッドの実現に向けて普及が望まれるところです。
なお、HEMSは主に住宅に設置されるもので、ビルに設置するBEMS、工場に設置するFEMSなどもあり、HEMS同様に設置が進められています。
1-4 日本ではスマートメーターの設置と実証実験が進む
スマートグリッドを実現させるためには、まず電力網にスマートメーターという電力使用量などのデータを収集できる機器を取り付けて、電力の需給状況の分析をおこなう必要があります。スマートメーターの設置については、日本では大手電力会社を中心に進められている最中です。
たとえば、東京電力管内では2021年3月末時点で一部取り替え作業が困難な場所を除く全ての世帯・事業所となる約2,840万台、関西電力管内では2023年3月末時点で低圧需要の全数となる約1,305万台を導入しています。すでに電力使用の抑制や電気代削減、検針業務や電力使用開始・終了の業務の効率化に役立てられています。
また、東京電力は、新島村で再生可能エネルギー設置システムを構築し、スマートグリッドをさらに加速させるための実証実験を進めています。実証実験の結果をもとに、今後は再生可能エネルギーによる産出電力を効率的に利用できる仕組みを構築していく予定です。
※出典:東京電力「スマートメーターの設置状況について」関西電力「スマートメーター」
2 スマートグリッドが普及することのメリット
スマートグリッドが普及することで、社会に次のような好影響が期待できます。
- 電力使用状況を可視化できる
- 電力供給の効率化と安定化につながる
- 再生可能エネルギーを有効活用できる
- 電力の地産地消が可能に
- 電力コストの抑制につながる
それぞれのポイントについて詳しくみていきましょう。
2-1 電力使用状況を可視化できる
スマートメーターを活用すれば、電力使用状況を可視化できます。各施設の電力使用量、発電量や時間ごとの電力収支の推移などのデータを計測し、自動で収集可能です。この仕組みはすでに前述の東京電力や関西電力管内などで実用化されていて、それぞれ30分ごとに電力使用や発電状況をトラックしています。
電力データを活用すれば、電力の授受の効率化が可能です。また、スマートメーターで収集したデータを分析して、より効率的な電力網の開発等にも役立つ可能性があります。電力使用状況を元にした高齢者のみまもり機能や、空き巣対策などに活用する構想も出ています。
2-2 電力供給の効率化と安定化につながる
スマートメーターから集めたデータを基に、発送電を効率化できると期待されています。データを基に電力需要を予測し、電力使用量の少ない夜間に蓄電し、日中に放出することで、少ない発電量で安定的に電力供給を行えるようになるのです。大規模停電の発生リスクが低下し、それを防ぐための節電要請も減るでしょう。
また、電力使用が厳しい状況になって、遠方から電力を融通するような事態も起きにくくなります。長距離送電による電力の低減にも役立ちます。
2-3 再生可能エネルギーを有効活用できる
脱炭素社会の達成に向けて、再生可能エネルギーの普及は今後ますます進むと予想されます。化石燃料の使用による二酸化炭素の排出を抑える一方で、再生可能エネルギーの稼働率は天候に左右されやすいというデメリットがあります。
さらに従来の化石燃料を使用する発電所と比べると、小規模な施設が日本各地に膨大な数で設置されています。膨大な数の発電設備それぞれの発電状況を、効率よく管理していかなければいけません。
再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限発揮するためには、これらの設備すべての発電と、その地域一帯の電力使用状況を効率的に接続する必要があります。それを可能にするのがスマートグリッドなのです。
2-4 電力の地産地消が可能に
スマートグリッドが普及すれば、その地域で使用する電力を、最大限その地域で産出した電力で賄えます。いわゆる電力の地産地消が実現します。
電力の地産地消は、SDGsの推進に貢献する取り組みです。他の地域から電力を融通するとき、発電側が100%再生可能エネルギーでもない限り、その地域にある資源を使用して発電することになります。
日本は化石燃料の産出が難しい地域であるため、海外で生み出されたエネルギーを消費して電力を賄うことになるでしょう。つまり日本の電力網を維持するために、海外のどこかの資源を消費してしまっているのです。
電力の地産地消が進めば、他地域に依存する電力を最小限に抑えられます。日本全体で地産地消が進めば、エネルギー資源の輸入も削減できるため、海外の資源の保護につながるのです。
2-5 電力コストの抑制につながる
ここまで紹介したメリットを最大限享受することにより、電力の発送電コストを抑制できます。電力に関するデータを自動で検知できるようになれば、各家庭の検針の手間がなくなります。
また、長距離送電が減ることで、電力を漏らさず使用できるうえ、長距離送電網の設置や保守のコストも少なくなります。蓄電した電力を効果的に使用することで、電力使用量が膨らむ時間帯に非効率な発電設備を稼働させる頻度も減るでしょう。
以上のようなさまざまな要因から、発送電のコストが低減します。長期的には電気代の低減や上昇の抑制につながるでしょう。
3 スマートグリッドの普及に向けた課題
スマートグリッドの普及に向けては、乗り越えるべき課題が存在します。
- 機器の導入が途上
- 導入コストを誰が負担するか
- セキュリティへの懸念
現在認識されているスマートグリッドの課題についてみていきましょう。
3-1 機器の導入が途上
スマートグリッドは社会全体で設備が整って、初めて効果を発揮するシステムです。前述の通りスマートメーターについては設置が進んでいますが、HEMSなど電力を制御するシステムについては充分に設置が進んでいるとはいえません。
環境省によると令和2年(2020年)時点で、HEMSを使用している世帯の割合は全国で2.7%となっています。(※参照:環境省「家庭のエネルギー事情を知る」)HEMSがなければ、集めたデータを電力制御に活用するのが困難なため、機器の普及が急務なのです。
3-2 導入コストを誰が負担するか
スマートメーターの導入については、大手の電力会社が各社のサービス向上の目的で設置してきました。しかし、スマートグリッドのシステムをすべて整備するとなると、さらに莫大な費用がかかります。
スマートグリッドは社会全体にベネフィットとなるものですが、莫大な導入コストがかかる点が課題です。果たして電力会社だけで負担可能なコストなのか、そもそも、社会全体にとってプラスなのに、その導入コストを電力会社が全て負担するのが本当に正しいのか、議論が進められています。
3-3 セキュリティへの懸念
スマートグリッドでは発送電の情報をネットワーク上で授受することになります。セキュリティがぜい弱だと、ハッキングなどサイバー攻撃に合うリスクが高くなります。
電力使用の状況によって、その住宅に人がいるのか、電力を使用する活動を行っているのかが逐一わかってしまいます。将来電力使用データをもとに電力の発送電を自動化する仕組みができた場合には、スマートメータへのサイバー攻撃を通じて大規模停電を引き起こすこともできてしまう恐れもあるのです。
スマートグリッドの本格導入に向けては、万全のセキュリティ対策を施す必要があると言えるでしょう。
まとめ
スマートグリッドは、電力の効率的で安定的な使用に役立つ次世代技術です。すでにスマートメーターについては一定程度導入が進んでいますが、さらなる設備投資が望まれています。
再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限発揮するためにも、スマートグリッドの普及が欠かせません。脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの使用率を高めるうえでもスマートグリッドが重要な役割を果たすため、現状におけるHEMSの普及率やコスト負担の課題解決に向けた議論が今後も重要となるでしょう。
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伊藤 圭佑
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