不動産投資において立地選びは重要な投資判断基準の一つです。再開発が期待されるエリアおよびその周辺における投資は、将来の賃貸需要の増加や地価の向上が期待できるため、立地選びにおける有効な選択肢となります。
この記事では再開発エリアに着目した不動産投資のポイントや注意点をまとめました。後半では東京や大阪で今後注目の再開発エリアについても紹介しているので、自身の投資先を検討するうえでの参考にしてください。
目次
- 都市の再開発とは?
- 不動産投資において再開発に着目すべき理由
2-1.再開発地域の地価と賃料の上昇
2-2.再開発地域の空室リスク・一部の災害リスクの低下
2-3.再開発地域の周辺地域の市況変化 - 再開発に着目した不動産投資の注意点
3-1.購入後の地価の上昇有無や上昇幅は不確実
3-2.計画の遅れによる打撃を受けるリスク
3-3.再開発が失敗して収益向上につながらないリスク - 今後注目の再開発エリア(2023年時点)
4-1.東京都港区|虎ノ門地域の再開発
4-2.東京都中野区|中野駅周辺の再開発
4-3.大阪府大阪市|大阪・梅田駅地区の再開発 - まとめ
1 都市の再開発とは?
再開発とは、都市再開発法を根拠に自治体が計画して進める大規模な土地及び不動産の開発事業です。同法は老朽化や都市運営上の課題を抱えたエリアの健全な開発や再生の枠組みを定めたものです。そのため、再開発により都市景観の整備や、時代に合わせた都市機能の変化・質の向上が期待できます。
正常な再開発では、開発された地域の都市の付加価値や魅力が向上します。商工業の発展によって経済が活性化して地価が向上したり、住みよい住居が供給されることで人口が増えたりします。再開発ではしばしば公共交通機関によるアクセス整備も並行して行われますが、その場合は鉄道・バスなどによる人の行き来も増えるでしょう。
2 不動産投資において再開発に着目すべき理由
不動産投資において、投資先の立地は重要な意思決定要素の一つです。特にファンドやREIT投資ではなく、現物の物件を所有する際には、立地選びの巧拙が不動産経営の収益性に大きな影響を及ぼします。
再開発計画の有無は、不動産の立地選びにおいてしばしば重要な判断要素の一つになります。理由は大きく分けて3つあります。
- 再開発地域の地価と賃料の上昇
- 再開発地域の空室リスク・一部の災害リスクの低下
- 再開発地域の周辺地域の市況変化
それぞれについて詳しくみていきましょう。
2-1 再開発地域の地価と賃料の上昇
最もシンプルなのは、再開発によって都市の魅力が向上して、中長期的に地価や賃料の向上が期待できることです。再開発が軌道に乗って、商業が活性化すれば、その地域の地価が上昇する可能性があります。地価の向上は保有する不動産を売却するときに値上がり益が期待しやすくなるため、不動産の収益性向上に繋がります。
また、住居がある地域の再開発では、賃料の上昇も期待できます。地価の向上は賃料水準にも上昇圧力をもたらします。実需面では、地域の活性化や利便性の向上により賃貸需要の拡大が賃料を引き上げる要素となるでしょう。
2-2 再開発地域の空室リスク・一部の災害リスクの低下
再開発はリスクの低下にも寄与します。都市が新しく生まれ変わることにより魅力が向上すれば、その地域に住みたいという人が増え、賃貸需要が見込みやすくなります。再開発に伴い同じ地域にオフィスや教育施設などが整備されれば、そこに通う若い社会人や学生などが多く住むようになります。
再開発により都市の魅力が高まり、かつ通勤・通学に便利になれば、人が定着しやすく、また仮に退去した人が出ても、すぐに次の借り手が見つかりやすくなるのです。
また、再開発では震災や火災など一部の災害に対する耐性も強化される場合があります。再開発に伴い耐震性能や防火性能が低い建物から、最新の耐震・耐火や防火に優れた建物に整備されることで、その地域の災害発生・深刻化のリスクがおさえられるのです。
2-3 再開発地域の周辺地域の市況変化
ある地域で再開発が行われると、周辺地域の市況も変化することがあります。特に再開発によってオフィスや商業施設が整備される場合は、その地域へアクセスが良い周辺地域についても地価や賃料の上昇が期待されます。その地域に通う人や利用したい人が周辺地域に住もうとすることで、賃貸需要の向上が見込まれるためです。
再開発地域からの距離も重要ですが、都市部の場合は公共交通機関でアクセスするうえでの利便性が着目されます。都市部では通勤に鉄道をはじめとした公共交通機関を利用する人が多いためです。特に再開発に合わせて新駅の開業や最寄駅の停車本数の増加などがあると、周辺地域への波及効果は大きくなると期待できます。
なお、周辺地域の影響という観点では、逆に再開発地域へのアクセスが悪い地域の賃貸需要の一部がアクセスの良い地域に移る可能性もあります。その地域では、再開発の影響で地価や賃料が下がるリスクもゼロではありません。
再開発の周辺地域の不動産市況は、交通機関のアクセスによってポジティブ・ネガティブ双方に動く可能性が考えられます。
3 再開発に着目した不動産投資の注意点
再開発に着目して投資先を決めるのは、不動産投資の定石の一つと考えられがちですが、再開発ならではの不確実性や注意すべき点もあります。ここから紹介する注意点やリスクを踏まえて投資先を検討してください。
3-1 購入後の地価の上昇有無や上昇幅は不確実
再開発地域に着目して投資をした場合に想定される失敗の一つが、物件を高値掴みしてしまうことです。再開発は計画が具体化すれば、将来の需要拡大に対する期待が高まるため、早いうちから物件価格が高騰する場合があります。時には再開発が完了する前から将来の値上がりを織り込んだ価格で取引されていて、再開発の恩恵を受けられないケースも考えられるでしょう。
仮に思惑通り価格が上昇していくとしても、流動性の低い相対取引のみで成立する不動産市場では、再開発の付加価値を的確に不動産価格に織り込むのは困難です。最終的な価格の上昇幅についても不確実性が大きいことを理解しておく必要があります。
3-2 計画の遅れによる打撃を受けるリスク
再開発は大規模な工事となるため、さまざまな要素により工事の進捗が遅れる場合も珍しくありません。
最近の例で言えば、2024年春の新幹線延伸に合わせて計画されている福井駅周辺の再開発について遅れが発生しており、新幹線の開業に間に合わない2026年3月の工期に変更されています。(※参照:福井市「福井駅前南通り地区第一種市街地再開発事業 事業計画書」)
都内の例では、東京オリンピックを契機に神宮地域の再開発が進められていますが、当初予定の2027年から2031年へと、完成が大幅に後ずれする見通しとなっています。(※参照:東京都都市整備局「神宮外苑地区のまちづくり」)
再開発の計画が送れれば、それだけ再開発のメリットを受けるタイミングも後ずれしてしまいます。特に周辺地域に築古の物件を所有した場合などには、再開発の効果が現れる前に経年劣化の影響が大きくなって思うような投資効果が得られないリスクもあります。計画通りに進まないリスクを念頭に、それでも収益性が見込める物件で投資を行うのが有効な方法と言えるでしょう。
3-3 再開発が失敗して収益向上につながらないリスク
どの地域でも再開発をすれば活性化して賃料収入が増えるというものではありません。少子高齢化が進む日本において、人口減少の影響を不動産開発でカバーできるとは限らないのです。
特に地方都市の再開発においては、需要に見合わない規模での開発などにより、結局都市の活性化が起こらず、ただ都市の財政だけが圧迫されたケースも見られます。その場合は不動産投資においても、地価の上昇や賃料収入の増加といった恩恵を受けられない恐れがあります。
再開発を期待して投資を行う場合は、その地域の人口動態や経済力などを見て、再開発による効果が期待できる地域をうまく選んで投資していくことが大切です。
4 今後注目の再開発エリア(2023年時点)
2023年時点、日本各地で再開発計画が進行しています。ここからは、不動産投資における波及効果が期待できる東京と大阪の大規模再開発について紹介します。
4-1 東京都港区|虎ノ門地域の再開発
東京都心部の虎ノ門は近年再開発が進められています。全国的にも知名度の高い「虎ノ門ヒルズ」もこの再開発の一環で建てられた高層ビルですが、2023年時点も再開発事業は進行中です。
同エリアは国家戦略特区プロジェクトにおける「国際的ビジネス拠点」地区と位置付けられていて、外資系企業や金融系企業の積極的な誘致をおこないグローバルなビジネス拠点の形成を目指しています。国際交流の拠点としての性質も期待されていて、外国人就業者の交流・情報交換の場としても活用される見通しです。
また、緑道・緑地の整備による居住性の向上や環境配慮、最新鋭の防災設備の導入など、都市の基本的な機能の向上も追求されています。
交通機関としては、元からあった東京メトロの虎ノ門駅や新たに開業した虎ノ門ヒルズ駅などが同地域の拠点となる見込みです。また、虎ノ門〜豊洲・晴海といった地域はBRTが開業し、交通アクセスが飛躍的に向上しました。
この再開発により、虎ノ門区域内の物件の需要拡大・安定が見込まれます。また虎ノ門は都内有数の高地価地域であるため、他地域から通う人も多いと想定されます。虎ノ門・虎ノ門ヒルズ駅から高アクセスの地域や豊洲・晴海までのBRT沿線の賃貸需要の向上も期待できます。
※出典:内閣官房・内閣府 総合サイト「都市再生特別地区(虎ノ門一・二丁目地区) 都市計画(素案)の概要」
4-2 東京都中野区|中野駅周辺の再開発
中野駅は世界有数の乗降客数を抱えるJR新宿駅から3駅(中央線快速なら隣)の場所です。2000年ごろから駅周辺の再開発が進められており、2023年時点では「中野周辺まちづくり」の名のもと、周辺110haの再開発を行う計画となっています。
中野駅といえば、コンサートホールの印象が強い中野サンプラザがありますが、同ホールも周辺の商業施設とともに一時休業し、再開発に合わせてリニューアルする予定です。北側には「シンボルタワー」という仮称が付けられた高層ビルが建設される計画に。
中野は駅によって街が南北に隔てられている印象が大きいエリアですが、再開発では南北の流動を高めると共に、南側もオフィスやマンションの建設が進められているなど、南北の市街地の一体開発が進められているのも特徴です。
中野は駅中心地を少し外れれば住宅地が多く存在する地域なので、中野駅周辺の居住需要を狙った投資を行う余地も大きいでしょう。また、東西線や中央線、総武線(各駅停車)といった中野駅に一本で行ける路線の沿線にも好影響が期待できます。
※出典:中野区「中野周辺まちづくり」
4-3 大阪府大阪市|大阪・梅田駅地区の再開発
東京以外では大阪の都心部の再開発が注目されます。2025年に万博開催を控える大阪では、その前後を目掛けて複数の再開発が進行していますが、その中でもとりわけ規模が大きいのが大阪・梅田地区の再開発です。
2023年春にはもともと「北梅田駅」と計画されていた、大阪駅のうめきたホームが開業したばかりです。今後も2030年代にかけて梅田の北側地域、通称「うめきた」の開発が進められています。
北梅田駅を取り囲む地域では、高層ビルを公園や緑地帯が取り囲む緑豊かな都市区域「うめきたの森」の工事が進められています。同地域は「みどり」と「イノベーション(技術革新)」がキーワードとなっています。住居と商業施設やオフィスなどの複合開発がおこなわれる一方で、創薬、ヘルスケア、ロボットなど12の分野で、先進的な技術革新に取り組む予定です。
大阪駅・梅田駅は大阪最大の駅のため、アクセスできる路線は多数あります。JR各線のほか阪急、阪神、大阪地下鉄の路線が乗り入れています。そのため、大阪駅周辺だけでなく大阪近郊への波及効果も期待できます。
※出典:グラングリーン大阪 「CONCEPT」
5 まとめ
老朽化した街を作り変えて付加価値を高めたり、都市機能を再生させたりする再開発は、その地域や周辺の地価や賃料にポジティブな効果をもたらす可能性があります。不動産投資において、再開発の有無を基準に立地を選ぶのも有効な選択肢の一つといえるでしょう。
ただし、工期の遅れや再開発の失敗など、リスクがないわけではありません。再開発に潜むリスクを理解したうえで、将来有望な開発を行なっている地域を見つけることが大切です。
伊藤 圭佑
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