今後の不動産経営では、省エネ・創エネ・蓄エネに着目して、保有する不動産を選択していくことも大切な視点になってきます。エネルギー効率に焦点を当てた不動産経営は、社会貢献や環境配慮につながるだけでなく、資産価値の保全や収入拡大の手段としても有効な手段の一つです。
今回の記事では、省エネ・創エネ・蓄エネのメリットや注意点について紹介します。エネルギー産出や使用の観点からのESGやSDGsへの貢献方法を模索している人は、ぜひ参考にしてください。
目次
- 省エネ・創エネ・蓄エネとは?
1-1.「省エネ」はエネルギー消費を抑える対策
1-2.「創エネ」はエネルギーを創るシステム
1-3.「蓄エネ」はエネルギーを貯蔵して効率よく消費できるシステム - 省エネ・創エネ・蓄エネを導入するメリット
2-1.収入のアップにつながる
2-2.ランニングコストの削減に
2-3.補助金の取得につながる
2-4.入居者獲得にプラスに寄与する可能性も
2-5.資産価値の保全にも役立つ - 省エネ・創エネ・蓄エネを導入する注意点
3-1.初期費用がかかる
3-2.メンテナンス費用がかかる
3-3.再生可能エネルギーに関する不確実性 - まとめ
1 省エネ・創エネ・蓄エネとは?
省エネ・創エネ・蓄エネはいずれもESGやSDGsに環境面から貢献する取り組みです。それぞれ概念は異なりますが、現代の不動産経営においては、この三つを同時に導入することが、環境保護や資源保護に貢献するとともに、不動産投資の収益性を高めるうえでも有効です。
まずは省エネ・創エネ・蓄エネの3つの考え方について整理しておきましょう。
1-1 「省エネ」はエネルギー消費を抑える対策
アパートやマンションは建物の構造や設備、管理の工夫などによってエネルギー消費を抑える方法がいくつかあります。
- 高断熱・高気密の構造の家
- 窓や風通しを工夫した家
- 省エネな設備の設置
- 適切な設備の維持・管理
高断熱・高気密の家は、自然にしていても夏涼しく、冬暖かくなりやすいため、空調による温度調整が少なくすみます。また、機密性が高い家は効率よく空調の効果が得られるため、クーラーや暖房を使用するときには少ない出力で温度を調整可能です。
また、窓が大きく風通しの良い家は、窓の開閉により自然の風で温度調節がしやすくなります。さらに日あたりがよい場所に窓を作れば、日光も温度調節に活かせます。こうした工夫を通じて省エネ性能を高めることもできます。
そのほか、照明をLEDにしたり、消費電力の少ない空調をシステムを設置したりして消費電力を抑えるのも有効な手段に。物件管理においては、こまめなメンテナンスや機器の交換などによって、新品時点の性能を維持するのも大切です。
1-2 「創エネ」はエネルギーを創るシステム
創エネはエネルギーを産み出すシステムのことですが、特に、CO2を出さずにエネルギーを作り出せるシステムを指します。アパートやマンションにおいては次の二つを活用するケースが多くなっています。
- 太陽光発電によるエネルギー創出
- エネファームによる発電量の強化
創エネの代表的な設備と言えば、現代では太陽光発電です。太陽光発電は建物の屋根に設置して、CO2を排出することなく発電できます。生み出した電力を自家使用できるほか、売電すれば投資家の収益向上にもつながります。
エネファームはガスに含まれる水素と空気の酸素を活用して発電しながら給湯する設備です。エネファームと太陽光発電を組み合わせると発電容量を増やすことができるため、不動産の創エネ性能を高められます。
【関連記事】太陽光発電のCO2排出削減量はどれくらい?投資のメリット・デメリットや注意点も
1-3 「蓄エネ」はエネルギーを貯蔵して効率よく消費できるシステム
不動産経営においては蓄電池を設置してエネルギー管理をおこなう手法が普及しています。
「創エネ」の一環として設置される太陽光発電は、日中に発電量が増える設備ですが、住宅は夕方~夜間に消費電力が増えがちなため、発電設備だけでは発電性能を有効活用できない可能性があります。
蓄電機能を備えておけば、余剰電力を貯めておいて、消費電力が大きい時間帯に回すなど、太陽光発電で産み出した電力を有効活用できるようになります。火力・原子力などと比較してまだ創出できるエネルギー量が少なく時間帯も限定的な自然エネルギー発電では、畜エネによるエネルギー効率の向上も重要なポイントとなっています。
2 省エネ・創エネ・蓄エネを導入するメリット
環境保護やESG、SDGsへの貢献など、社会貢献的な意味合いが大きいイメージのある省エネ・創エネ・蓄エネですが、不動産経営をおこなう投資家にとっても複数のメリットがある取り組みです。ここからは省エネ・創エネ・蓄エネの投資家目線でのメリットをみていきましょう。
2-1 収入のアップにつながる
創エネ・蓄エネは投資家の収入アップにつなげることができます。太陽光発電で創出した電力を売電する場合には、売電収入を見込むことが出来ます。
電力を入居者が消費する仕組みにした場合には、電気代を賃料に上乗せすることも検討できるでしょう。どちらのやり方にしても、太陽光発電なしの物件と比べて、月々の収入額を増やすことができます。
2-2 ランニングコストの削減に
共用部分の規模が大きく空調を必要とする場合には、高気密・高断熱にし、性能の高い空調設備を導入することで、オーナーが支払うコストを削減可能です。
その他照明もエネルギー効率の高い製品を導入すれば、ランニングコストを抑制できます。このように省エネ性能の高い不動産は、管理費用をおさえられる物件でもあるのです。
2-3 補助金の取得につながる
省エネ・創エネ・蓄エネの設備を兼ね備えた不動産の新築やリフォームにおいては、条件を満たせば補助金を受けられる可能性があります。実質的な二酸化炭素排出量をゼロにすることを条件としたZEH基準の建設を支援する補助金をはじめ、以下のような補助金事業が展開されています。
- ZEH-M支援事業(【環境省ZEH-M】令和4年度 環境省によるZEH-M補助金)
- 地域型住宅グリーン化事業(令和4年度地域型住宅グリーン化事業 グループ募集の開始について)
- 断熱リフォーム支援事業(【全国対象】既存住宅における断熱リフォーム支援事業)
- 住宅省エネ2023キャンペーン(住宅省エネ2023キャンペーン)
補助金制度は申請期間が決まっていたり、所定の審査を受けなければならなかったりする場合もあるため、活用を検討している制度の詳細を事前に確認したうえで、申請の準備を進めておきましょう。
2-4 入居者獲得にプラスに寄与する可能性も
省エネ・創エネ・蓄エネの設備がある物件は入居者にとっても、快適に暮らせる、光熱費をおさえられるなどのメリットがある物件です。また、入居物件を選ぶ際に、環境保護や資源保護を着眼点の一つにする人も増えてきています。
そのため、省エネ・創エネ・蓄エネにより環境に配慮した物件であることをうまくアピールすれば、入居者の獲得にプラスに働く可能性もあります。物件の客付けをおこなう管理会社とも相談しながら、入居者獲得に繋がる物件の紹介方法を工夫してみましょう。
2-5 資産価値の保全にも役立つ
省エネ・創エネ・蓄エネの観点で性能が高い物件は、他の物件と比較して資産価値が落ちにくいと期待されます。足元では多くの投資家や不動産関連の業者が物件の環境性能を意識するようになっていますが、こうした風潮は今後も変わらないと想定されます。
今後は省エネ・創エネ・蓄エネに関する設備や性能の付加価値が適正評価されて、資産価値が維持される可能性が高いと期待できます。不動産の資産価値の保全は、将来売却するときなどに投資家のメリットとなるでしょう。
【関連記事】建築物省エネ法が不動産投資に与える影響は?改正の変更点、注意点も
3 省エネ・創エネ・蓄エネを導入する注意点
エネルギー効率や環境に配慮した物件での不動産経営には注意すべき点もあります。注意点を理解したうえで投資効果の高い手法で省エネ・創エネ・蓄エネ設備を自身の不動産に取り入れていくことが大切です。
3-1 初期費用がかかる
省エネ・創エネ・蓄エネの機能を高めた物件を建設するためには初期費用がかかります。建設済みの物件を購入する場合も、設備の部分が加味されて周囲の建物より割高な可能性があるでしょう。
例えば太陽光パネルの設置費用は発電容量によって異なってきますが、経済産業省の調査によると1kwあたり30万円前後というのが2021年時点での目安です。(参考:資源エネルギー庁「太陽光発電について 」)蓄電池については機種や蓄電池容量によって価格に開きがありますが、こちらも数十万円~数百万円程度の費用がかかります。
断熱性能の高い壁や風通しの良い物件を建設する時も、建設費用が割高になる可能性があります。質の高い建材を使用することで材料費が高くなったり、建築士の設計費用が発生したりするためです。このように省エネ・創エネ・蓄エネを備えた不動産を所有するには、通常の物件より初期費用が高額になる可能性が高いという点をおさえておきましょう。
3-2 メンテナンス費用がかかる
省エネ・創エネ・蓄エネを工夫した物件はさまざまなポイントでメンテナンス費用が高くつく可能性があります。断熱性能の高い壁は傷や汚れなどによって性能が低下する場合があるため、性能を維持するために定期的な修繕が必要になる場合があります。
蓄電池や太陽光パネルも経年と共に発電能力や蓄電能力が低下するため、修繕や交換が必要に。また、それぞれの設備をできるだけ長持ちさせるためには、継続的なメンテナンスが欠かせません。
性能の高い設備を導入すると、その性能を維持するためには追加的なメンテナンスや修繕コストが発生します。設備投資の収支を試算する場合には、長期的なランニングコストも冷静に加味することが重要です。
3-3 再生可能エネルギーに関する不確実性
再生可能エネルギーによる発電と電力消費にはいくつかの不確実性があります。そのため、計画通りに発電・消費ができなかったり、売電収入が入らなかったりするリスクに留意しましょう。
まず、太陽光発電の発電量は、天候や日照量に大きく左右されます。天候不良はもとより、周囲の建造物の変化により日照時間が短くなることにより、当初想定した発電量が実現しないリスクがあります。さらに、蓄電池は貯蔵できる電力の量に限りがあります。発電と使用量のバランスによっては、電池に電力を貯めきれずに、電力を有効活用できない可能性もあります。
最後に売電価格の変動リスクもおさえておかなければなりません。2023年時点ではFIT価格制度のもと、太陽光発電による売電価格は10kw~50kwの発電容量の場合で1kWhあたり10円で20年間固定、10kw未満の場合は同16円で10年間固定となっています。10年後もしくは20年後の売電価格は現時点では決まっていないため、将来の売電収入の変動リスクには注意しましょう。
特に10kw未満の場合は10年しか価格の固定期間がありません。売電価格の下落により収入が低下するリスクを保守的に計画に織り込んでおくのが適切といえるでしょう。
【関連記事】太陽光発電投資のメリットとデメリットは?2020年以降のFIT制度も解説
まとめ
不動産経営における省エネ・創エネ・蓄エネへの配慮は、ESGやSDGsへ貢献する重要な手法です。社会や環境にプラスなだけでなく、資産価値の向上や売電収入の獲得などの観点で不動産オーナーにもプラスに働きます。
一方で、設備導入に伴う初期費用やランニングコストが追加的にかかる点を加味して、費用対効果を冷静に試算して意思決定をすることが大切です。10~20年後以降は売電価格に不確実性がある点にも注意しましょう。
社会貢献と不動産経営に対する投資効果の両面を加味して、経営者として最も望ましい形で省エネ・創エネ・蓄エネへの取り組みを検討してください。
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伊藤 圭佑
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