今回は、Carbonplaceについて、一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- 「Carbonplace(カーボンプレイス)」とは
1-1.「Carbonplace(カーボンプレイス)」の概要
1-2.「Carbonplace(カーボンプレイス)」設立の背景
1-3.「Carbonplace(カーボンプレイス)」の創立メンバー - Carbonplaceの仕組み
2-1.取引のトレーサビリティの確保
2-2.二重計算のリスク軽減
2-3.カーボン・クレジットの同時決済
2-4.デジタル・ウォレットの提供 - Carbonplaceの特徴
3-1.ネットゼロ経済への移行を目指している
3-2.基準を満たしたクレジットが取引される
3-3.イーサリアムプラットフォーム上に構築されている
3-4.世界中のさまざまな企業や取引所と提携している - Carbonplaceの今後の展開
4-1.CIX(Climate Impact X)との提携
4-2.23年内の本格稼働を目指す - まとめ
近年、世界中の企業が脱炭素への取り組みを進めており、「カーボン・クレジット」取引にもますます大きな注目が集まっています。一方で、クレジットに対する客観的な評価基準がない点や取引環境がしっかりと整備されていない点など、カーボン・クレジット市場が抱える問題点が浮き彫りになっていることもまた事実です。
そんな中、ブロックチェーン技術を活用してこれらの課題の解決を目指す「Carbonplace(カーボンプレイス)」が話題となっています。Carbonplaceはカーボン・クレジットの取引決済プラットフォームであり、各国のさまざまな大手金融機関が参画するプロジェクトとして世界中から関心が寄せられています。
そこで今回は、今年中に稼働が開始されると見られているCarbonplaceについて、その概要や仕組みなどを詳しく解説していきます。
①「Carbonplace(カーボンプレイス)」とは
1-1.「Carbonplace(カーボンプレイス)」の概要
「Carbonplace(カーボンプレイス)」とは、イギリスのロンドン発のブロックチェーン技術を活用した「カーボン・クレジット」の取引決済プラットフォームのことを指します。
そもそもカーボン・クレジットとは、企業が森林の保護や植林、または省エネルギー機器の導入などを実施することによって生まれた、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット(排出権)」として発行し、他の企業などとの間で取引することができる仕組みのことを言います。「炭素クレジット」とも呼ばれるこの仕組みは、特に欧米企業を中心として需要を拡大しており、日本国内においても企業間で活用の動きが進んでいます。最大限の削減努力を行ってもどうしても削減しきれない温室効果ガスの排出量については、カーボン・クレジットを購入することで排出量の一部を相殺し、穴埋めするという方法があり、これを「カーボン・オフセット」と言います。
Carbonplaceは、現在需要が拡大しているこうしたカーボン・クレジットを比較的簡単に取引できるプラットフォームを提供しており、気候変動問題の解決の促進および、民間が主導するカーボン・クレジットである「ボランタリー・カーボン・クレジット」の活用、また市場の拡大に尽力しています。
1-2.「Carbonplace(カーボンプレイス)」設立の背景
現在、世界では「パリ協定」に沿って地球の平均気温上昇を1.5℃に抑えるため、温室効果ガスの排出をできるだけ回避する取り組みが進められています。
パリ協定とは、15年12月にフランスのパリで開催された「COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)」において、世界約200か国が合意して成立した協定です。パリ協定の中では世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求することなどが設定されています。そして、パリ協定に則って、現在世界中の企業が温室効果ガスの排出を可能な限り回避し、削減し、除去するための取り組みを活発化させており、カーボン・クレジット市場に対する注目度も一気に高まっている状況となっています。
一方で、これまでのカーボン・クレジット市場はこのような急速に高まっている需要に対応する準備ができておらず、取引環境の整備も十分になされていない状況でした。特に、「ボランタリーカーボンマーケット(VCM):自主的炭素市場」は二国間取引に依存しており、取引にかなりの時間がかかるほか、取引内容が不透明でリスクが高く、市場への信頼低下を招いていました。
そんな中、Carbonplaceはブロックチェーン技術を駆使することによってこれらの課題を解決し、簡単で透明性が高く、且つより信頼できるカーボン・クレジット市場の構築を目指して、独自のCarbonplaceプラットフォームを開発したということです。
1-3.「Carbonplace(カーボンプレイス)」の創立メンバー
Carbonplaceは、創立メンバーとして各国の大手金融機関が名を連ねていることでも知られています。具体的には、CIBC(カナダ帝国商業銀行)やブラジルのイタウ・ウニバンコ(Itaú Unibanco)銀行、NAB(ナショナルオーストラリア銀行)、イギリスのナショナル・ウエストミンスター銀行(National Westminster Bank)、スタンダードチャータード銀行、スイスUBS銀行、BNPパリバ銀行、スペインのBBVA(ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行)などが挙げられます。
また、22年5月12日には日本の三井住友銀行が創立メンバーに参画しました。
三井住友銀行はCarbonplaceに参画した理由について、「国内外のクライアントがより質の高いカーボン・クレジットに簡単にアクセスできる機会を提供するため」と説明しており、プラットフォーム本格稼働後の日本国内における普及にも注目が集まっています。②Carbonplaceの仕組み
2-1.取引のトレーサビリティの確保
Carbonplaceはブロックチェーン技術を活用することによって、取引のトレーサビリティを確保しており、これまで問題視されていた取引の透明性についての課題を克服しています。
不正や改ざんが極めて困難であるというブロックチェーンの特性を活かして、カーボン・クレジットの創出からその活用、また無効化や償却までの一連のライフサイクルをブロックチェーン上に記録することによって、そのすべての段階を追跡可能な状態にしています。これによって、クライアントはそれぞれのカーボン・クレジットについての詳しい情報を参照することができるようになるため、トレーサビリティを十分に確保できるようになり、より高い透明性を実現できるというわけです。
このほかにも、トレーサビリティが確保されることによって、これまで分かりにくいとされていた価格決定のプロセスもより一層明確になるため、信頼性の担保された取引が可能になります。
2-2.二重計算のリスク軽減
前述した通り、Carbonplaceではカーボン・クレジットについてのトレーサビリティはすべてブロックチェーン上に記録される仕組みとなっているため、偽造や改ざんが極めて困難なことから、二重計算のリスクを大幅に軽減することができるようになっています。
これまでのカーボン・クレジット市場においては、同一の排出削減に基づいた複数のクレジット発行や複数の使用などといった二重計算や、実際は認証が行われていないクレジットを利用した詐欺まがいの取引などが横行していました。
そんな中、Carbonplaceではブロックチェーン技術を駆使することによってこれらの課題を解決し、クライアントが詐欺のリスクを心配せず、より安心して取引を行うことができる環境を実現しています。
2-3.カーボン・クレジットの同時決済
Carbonplaceでは、ブロックチェーン技術を駆使することによって、プラットフォーム上におけるカーボン・クレジットの同時決済を可能にしています。そのため、クライアントが支払いを行う際にクレジットの所有権が即座に移動する仕組みとなっており、これまでのカーボン・クレジット取引と比べても、よりスピーディ且つ効率よく取引を実行することが可能になっています。
また、銀行を通してカーボン・クレジットの買い手と売り手を結びつける仕組みとなっているため、より信頼性の高いサービスであると言えるでしょう。
2-4.デジタル・ウォレットの提供
Carbonplaceではデジタル・ウォレットの提供が行われる予定となっており、これによってクライアントは自身の有するカーボン・クレジットを簡単に管理することができるほか、リアルタイムで取引することもできるということです。
③Carbonplaceの特徴
3-1.ネットゼロ経済への移行を目指している
Carbonplaceは、「ネットゼロ経済」への移行を目指しています。
そもそも「ネットゼロ」とは、温室効果ガスの排出量を「正味ゼロ」にすることを指し、温室効果ガスの排出量から吸収量や除去量を差し引いた合計をゼロにするという意味の言葉です。
Carbonplaceでは、ボランタリー・カーボン・クレジット市場を世界に開放することによってネットゼロ経済への移行に積極的に取り組んでいくとしており、安全で効率的な取引を可能にすることで、信頼できる市場の構築を実現すると語っています。
なお、ボランタリー・カーボン・クレジット市場に対する世界の需要は2030年までにおよそ15倍に、また2050年までにはおよそ100倍にまで増加すると予想されており、アクセシビリティ、信頼性、透明性を兼ね備えたインフラストラクチャが必要不可欠となっています。
このような状況の中、Carbonplaceは安全な流通ネットワークを介したクレジットの取引プラットフォームを提供することによって、新たなカーボン・クレジット市場の在り方を提案しています。
3-2.基準を満たしたクレジットが取引される
Carbonplaceが提供する取引プラットフォームでは、「VCS(Verified Carbon Standard)」や「Gold Standard」などといった国際的に認められた認証基準のボランタリー・クレジットが取引される予定となっています。そのため、クライアントは詐欺などの心配をする必要がなく、常に質の良いクレジットのみを取引できる環境が整えられています。
3-3.イーサリアムプラットフォーム上に構築されている
Carbonplaceは、アメリカに拠点を構える「コンセンシス(ConsenSys)」によって開発された、プライベート型のイーサリアムプラットフォーム上に構築されています。
コンセンシスとは、イーサリアムを専門に取り扱うブロックチェーンソフトウェア技術企業のことで、デジタルウォレットとして知られる「メタマスク(MetaMask)」など、イーサリアムブロックチェーンのアプリケーションやインフラの開発を行っています。
3-4.世界中のさまざまな企業や取引所と提携している
Carbonplaceは世界中のさまざまな企業や金融機関、取引所やマーケットプレイスなどと提携しており、多大なる流通能力を有しています。また、クライアントの数は何百万にも上るとされており、世界中の買い手と売り手に対して質の高いカーボン・クレジットの取引サービスを提供するとしています。
④Carbonplaceの今後の展開
4-1.CIX(Climate Impact X)との提携
Carbonplaceはカーボン・クレジット取引所との提携を積極的に進めており、22年3月にはシンガポールを拠点とするカーボン・クレジット取引所である「CIX(Climate Impact X)」の新たな取引プラットフォーム「Project Marketplace」において実証事業が発表されました。その内容は、Carbonplaceが手がける決済機能やウォレット機能などを導入するというもので22年12月19日には実証実験が成功したことが報告されています。
この実証実験ではCarbonplaceとCIXの買い手と売り手について、プラットフォーム上で実行されるであろう主な三種類のトランザクションなどがテストされたということです。実証実験の成功を受けて、今後CarbonplaceのテクノロジーがCIXに組み込まれる予定となっており、Carbonplaceの導入によってCIXの取引機能がより高度化することが期待されています。また、その結果として、CIXのクライアントの利便性が大幅に向上するほか、CarbonplaceのクライアントのCIXへのアクセスも可能になると見られており、取引のさらなる活性化にも期待が集まっています。
4-2.23年内の本格稼働を目指す
Carbonplaceは23年2月8日、独立法人となったことを発表し、同時に初代CEOとしてフィンテック企業のエグゼクティブであるスコット・イートン(Scott Eaton)氏を任命したことを報告しました。スコット・イートン氏は元々、イギリスのブロックチェーンスタートアップ企業である「ニヴォーラ(Nivaura)」において最高経営責任者(CEO)を務めており、ブロックチェーン業界に精通した人物として期待されています。
また、今回の発表では、設立銀行コンソーシアムから4500万ドル(約59億円)の資金を調達したことも明らかにされており、プラットフォームの23年内の本格稼働およびその規模の拡大に向けて、取り組みを加速していく考えを示しました。具体的には、今回の投資資金を活用して、プラットフォームの拡張およびチームの成長を図るほか、より多くの金融機関へとサービスを拡大することによって、カーボン・クレジット市場の参加者とのパートナーシップをより一層推進していくということです。今回の資金調達を経て、各銀行は新会社の株式を均等に保有することになると報告されています。
Carbonplaceは元々、22年12月ごろの稼働開始が予定されており、本来の計画からは少々遅れている状況となっています。しかし、今回の発表によると、23年後半ごろにはプラットフォームの本格稼働をスタートさせる予定だということで、その動向に世界中から大きな関心が集まっています。
⑤まとめ
イギリスのロンドンを拠点とするCarbonplaceは、ブロックチェーン技術を活用したカーボン・クレジットの取引決済プラットフォームを開発しており、民間が主導するカーボン・クレジットである「ボランタリー・カーボン・クレジット」の活用、また市場の拡大に尽力しています。Carbonplaceには、すでに世界各国の大手金融機関が創設メンバーとして参画を表明しており、22年5月12日には日本の三井住友銀行もそのメンバーに加わるなど、世界的に注目を集めるプロジェクトとなっています。
Carbonplaceはブロックチェーン技術を駆使することによって、これまでのカーボン・クレジット市場が抱えていた問題点を解決できると期待されており、現在開発が進められている取引プラットフォームは今年中に本格稼働が開始される見込みであるということで、どのような動きに発展するのか注目されるでしょう。
中島 翔
最新記事 by 中島 翔 (全て見る)
- 脱炭素に向けた補助金制度ー東京都・大阪府・千葉県の事例 - 2024年10月22日
- 韓国のカーボンニュートラル政策を解説 2050年に向けた取り組みとは? - 2024年10月7日
- NCCXの特徴と利用方法|ジャスミーが手掛けるカーボンクレジット取引所とは? - 2024年10月4日
- Xpansiv(エクスパンシブ)とは?世界最大の環境価値取引所の特徴と最新動向 - 2024年9月27日
- VCMIが発表したScope 3 Flexibility Claimとは?柔軟なカーボンクレジット活用法を解説 - 2024年9月27日