不動産経営では、購入や売却のタイミングに迷ったり、経営に問題が無いかどうか不安になるといった方も少なくありません。このような経営判断を行う際には、不動産に関連した資格や知識が役立つことがあります。
今回のコラムでは、不動産経営に必要な知識と役立つ資格について解説していきます。それぞれの資格を取得する方法や、不動産経営での活用例についても紹介します。
目次
- 不動産経営に必要な知識
1-1.不動産に関わる知識
1-2.アパートやマンション経営に関わる知識
1-3.経理・税務
1-4.経営学に関する知識 - 不動産経営に役立つ資格
2-1.不動産実務検定
2-2.簿記
2-3.ファイナンシャルプランナー技能士
2-4.賃貸不動産経営管理士
2-5.宅地建物取引士
2-6.そのほかの資格 - まとめ
1 不動産経営に必要な知識
不動産経営では業務のほとんどを代行業者に委託することができますが、最終的な判断をするのは物件のオーナーです。不動産経営にはリスクもありますが、不動産知識があることで適切な経営判断ができるようになることにつながります。
不動産経営にはどのような知識が役立つのか見て行きましょう。
1-1 不動産に関わる知識
不動産経営をするには不動産を取得したり、売却したりといった不動産に関わる実務をする必要があります。契約には何が必要か、どのような税金がかかるのか、といったことを把握している方がスムーズに進められ、リスクも減らせます。
具体的には下記のような知識を持つようにしましょう。
- 不動産を取得する方法
- 不動産の売買契約に関わる知識
- 不動産にかかる税金
- ローンに関わる知識
- 火災保険に関わる知識
- 土地が値上がりする仕組み、など
不動産に関わる事業にはいくつかの法律が関係します。すべての法律を熟知する必要はありませんが、売買や土地などに関する法律についてはある程度理解できるようにしておきましょう。
1-2 アパートやマンション経営に関わる知識
アパートやマンション経営は、所有している不動産を貸借人に賃貸し、賃料を得ることで利益を上げるビジネスモデルです。アパートやマンション経営に関わる知識として、下記のような内容があります。
- 入居者を獲得するための知識
- 建物や内装のメンテナンスに関する知識
- 修繕に関する知識
- 住宅設備機器のトレンドに関する知識
- 入居者ニーズに関する知識
- 管理業務に関する知識、など
1-3 経理・税務に関わる知識
不動産経営によって所得が20万円以上ある場合、確定申告を行う必要があります。これの経理業務は税理士などに代行してもらうことができますが、税務・経理のノウハウをある程度知っておくことで、どのような物件を所有していくのか、どのようなタイミングで売却していくのか、方針を決める際にも役立ちます。
- 収入と支出に関する知識
- 経費に関する知識
- 帳簿に関する知識
- 確定申告に関する知識
- 納税に関する知識
- インボイス制度に関する知識、など
また、経理は税務だけでなく経営の基本という意味でも押さえておく意味があります。不動産経営には毎月収支があり、利益を出していく必要がある一方、例えばメンテナンスの必要があっても資金がなければできません。不動産経営のキャッシュフローを正確に把握していくためにも、経理に関する知識は物件オーナーにとって重要であると言えます。
1-4 経営学に関する知識
不動産経営は賃貸や売却によって利益を上げるスキームになっており、その物件に「住みたい」と思う入居者や、「欲しい」と考える購入者などの相手方が必要になります。このような需要が見込めるかどうかを判断するために、基礎的な経営学も役立ちます。
- 商品の差別化に関する知識
- 付加価値に関する知識
- 市場分析に関する知識
- マーケティングに関する知識
- ファイナンスに関する知識、など
不動産経営では不動産が商品となります。賃貸の場合、契約に至らなかった部屋は空室の状態(無収入)が続くことになります。つまり、入居者を募集している物件が数多くある中で選ばれるためには、借り手にとって魅力的に見えるような戦略を立てることが必要です。
2 不動産経営に役立つ資格
不動産経営をするには資格は必要ありませんが、経営をしていく上で役に立つ資格があります。代表的な5つの資格を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
2-1 不動産実務検定
不動産運用にまつわる実践知識を体系的に網羅したのが、一般社団法人日本不動産コミュニティーが提供している「不動産実務検定」です。ライフプランニング、不動産投資、満室経営、税金対策、建築、ファイナンス、土地活用コンサルティングなど、不動産経営に役立つ知識を学ぶことができます。
技能検定は、2級、1級の他、インストラクターになれるマスター検定もあります。
資格を取得する方法
全国各地で展開されている認定講座に申し込みをし、12時間の講座を受けます。その後、認定試験、修了試験を受けて正答率の基準に達すると合格となります。認定講座を受けずに、検定試験を直接受ける方法もあります。
資格の活用例
「不動産実務検定2級認定講座」では、賃貸管理運営(満室経営)に関する知識を学ぶことができます。人口動態から需給予測をしたり、募集や契約、管理、トラブル対処に関する知識などが身に付きます。このような知識を得られることで、空室対策や家賃滞納問題、敷金精算問題などに的確に対応できるようになります。
2-2 簿記
簿記とは帳簿をつけるのに必要な技能のことで、不動産経営においては利益や負債、帳簿の仕方、収支バランスといった財政状態についての知識を身に付けることができます。
資格は複数の団体や機関などが提供していますが、認知度の高い検定の一つに「日商簿記検定」があります。レベルごとに初級、3級、2級、1級の4段階があります。2級以上は難易度が上がるため、初心者であれば初級や3級から始めると良いでしょう。
資格を取得する方法
日本商工会議所が主催する日商簿記検定は、年に3回(1級は年2回)の検定試験を実施しています。試験日の約2カ月前になったら、申し込み受付などについて発表されることになっています。申し込みは、インターネットと郵送による方法があります。
資格の活用例
所得が20万円以上になると確定申告をする必要があり、青色申告を選択した場合は複式簿記をすることになります。簿記についての知識があると、勘定科目を決める際や仕分けなどに活用できます。
また帳簿の内容を把握することで、不動産経営の財政状態がわかるようになり、今後の経営方針の方向性を決めるのにも役立ちます。
2-3 ファイナンシャルプランナー技能士
金融や税制、住宅ローン、保険、年金制度といったお金に関する専門知識を持ち、資産設計のアドバイスなどができるファイナンシャルプランナーの技能を認定する国家資格です。取り扱っているのは「日本FP協会」と「金融財政事情研究会」の2機関ですが、どちらも同じ資格です。
3級、2級、1級の3つのレベルがありますが、3級の合格率は80%以上と高く、独学でも合格できる可能性があります。
資格を取得する方法
インターネットから申請をし、受験手数料の支払いを行います。またウェブサイトや日本FP協会認定教育機関で受験申請書を入手し、受験手数料の支払い明細書と申請書を同封して郵送にて申し込む方法もあります。
3級と2級は学科と実技によって試験が行われます。3級の場合は、学科がマークシートで60問、実技がマークシートで20問となっています。2級の場合は、マークシート60問と記述式による実技試験が行われます。
資格の活用例
お金の流れが理解できるため、収支シミュレーションなどを把握することができます。そのため金融機関からの融資や家賃設定などに関する判断にも役立ちます。また税金や相続などの知識も豊富になり、的確な資金の使い方ができるようになります。
2-4 賃貸不動産経営管理士
「賃貸不動産経営管理士」は、賃貸不動産を経営する幅広い知識を身につけるための国家資格です。窓口は一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会が担当しています。
資産の有効管理、貸借人の安全や安心を確保するための知識などを学ぶことができます。資格保有者は、200戸以上の賃貸物件を管理する事業所に配置することが義務付けられている「業務管理者」になることも可能です。
資格を取得する方法
試験は毎年11月に行われ、7月下旬頃から受験の申し込み手続きが開始されます。学習教材である「賃貸不動産管理の知識と実務」で知識をつけることで、受験することができます。
試験に合格しても管理業務に関する実務経験が2年に満たない場合は、実務講習を受けてから登録手続きをする必要があります。登録手続きが終了したのち、毎年4月1日に資格が付与されることになっています。
資格の活用例
アパートやマンションオーナーとして、建物管理や設備のメンテナンスなどでトラブルが発生した際などにスムーズな解決を目指す上で知識が役立ちます。また適切な設備投資、外壁の改修計画、排水管洗浄といった専門的な知識を身につけることもできます。
2-5 宅地建物取引士
「宅地建物取引士(宅建士)」は、不動産業を営むのであれば欠かせない国家資格となっています。不動産売買契約の際の重要事項の説明や重要事項説明書への記名・捺印は、宅地建物取引士のみが行えることになっています。
また、不動産を反復継続して売却できるのは宅建資格を持つ宅建業者のみとなっています。複数の物件を反復継続して売却していると宅建業違反となってしまう可能性もあるため、このような側面からも重要な資格と言えます。
不動産売買契約などに関わる法律などの幅広い知識が必要で、国家試験は毎年10月に行われます。
資格を取得する方法
10月に行われる試験を前に、毎年6月〜7月に申し込みが開始されます。申し込み方法はインターネットと、郵送による方法があります。郵送の場合は、申込書がついている試験案内を指定の配布場所で受け取り、期限までに郵送します。
試験は4択で50問あります。11月下旬に合格者の発表が行われ、合格証書が送付されます。
資格の活用例
宅建士の勉強をすることで、不動産売買契約や不動産賃貸契約などに関わる知識が身に付きます。
ただし、宅地建物取引業を行う場合は管轄している自治体からの免許が必要のため、宅建士の免許を保有しているだけでは売買の取引はできません。一方、自己所有の物件について不動産賃貸契約を締結する際には、宅建業免許がなくても業務ができます。
そのため宅建士としての資格が役に立つ上に、仲介手数料や広告料が発生しないというメリットもあります。
2-6 そのほかの資格
これまで紹介した以外にも、不動産経営の業務に役立つ知識を学ぶことができる資格があります。代表的なのが下記です。
- 不動産鑑定士
- 管理業務主任者
- マンション管理士
- 中小企業診断士
- 電気工事士
- 建築士、など
このほか、税理士や司法書士、行政書士、弁護士などの資格も不動産経営の実務の一部に役立ちます。
資格を取得しなくても、不動産経営に関わる知識などを勉強するというのも良いでしょう。例えば、経営に興味があれば経営学やマーケティング論、機械や電気のことに詳しいのであれば電気工事士、建築について学びたいというのであれば建築士などといったように、自分の得意分野の勉強をすることで不動産経営に活用できることもあります。
まとめ
不動産経営をする上で必要な知識、役立つ資格について紹介しました。管理業務は管理会社、経理に関することは税理士など専門家に代行してもらうことができますが、オーナー自身で判断する場面も多く、これらの知識が役立つ場面も少なくありません。
ただし、限られた時間の中で全ての知識を網羅するのは困難であり、税制や不動産市場のトレンドなどは日々変化しています。不動産経営をしながら、少しずつ必要な知識を学ぶといった心づもりでも良いでしょう。
倉岡 明広
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