スタートアップの資金調達で注目される投資事業有限責任組合(LPS)とは?

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投資事業有限責任組合とは、ベンチャー企業への投資を促進するために整備された制度です。スタートアップによる資金調達の選択肢が広がる仕組みであるほか、投資対象としてセキュリティトークンも含まれる解釈通知が経産省より公表されたことで、新たな資金調達の手段として期待されています。

この記事では、投資事業有限責任組合の概要やスタートアップの資金調達で注目されている理由などを中心にご紹介します。投資事業有限責任組合の投資対象の変化や資金調達の方法などもご紹介しますので、スタートアップ期の資金調達などを検討されている方は参考にしてみてください。

目次

  1. 投資事業有限責任組合(LPS)とは
    1-1 投資事業有限責任組合の投資スキーム
    1-2 投資家にとってのメリット
  2. 投資事業有限責任組合(LPS)がスタートアップの資金調達で注目されている理由
    2-1 スタートアップでも資金調達が可能
    2-2 官民共同ファンドの募集がある
    2-3 特定分野に特化して投資するLPSもある
  3. セキュリティトークンへの投資も可能
  4. まとめ

1 投資事業有限責任組合(LPS)とは

投資事業有限責任組合(LPS)は、中小企業などへ投資しやすくするために作られる組合です。もともとは、ベンチャー企業などへ投資しやすくするために整備された制度であり、英語で「Limited Partnership」と表記することから「LPS」とも呼ばれています。

日本では、1980年代前半頃より投資家から資金を集めて出資先企業に出資金などの形で資金を提供するため投資事業組合が生まれました。投資事業組合は民法上の組合に該当することから、出資者が出資金を超えて責任を負う無限責任だったため、投資家の足かせとなり十分に資金を集めることができないという問題点もありました。

この問題を解決するため平成10年に制定された法律が、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」です。投資事業有限責任組合(LPS)の形を採用することで、株式を公開していない中小企業に投資する投資家は出資額までしか責任を負わないという有限責任性が民法の特則として設けられ、中小企業への投資で資金を集めやすくなりました。

その後、複数の改正を経て平成16年4月30日に「投資事業有限責任組合契約に関する法律」へと名称変更になり、中小企業に限定されていた出資先が大企業や上場企業へも可能となった上、投資対象も株式の取得だけでなく金銭債権の取得や融資へと広がりました。

※出典:経済産業省「投資事業有限責任組合(LPS)制度について

1-1 投資事業有限責任組合の投資スキーム

投資事業有限責任組合は、無限責任組合員と有限責任組合員が共に出資し、その出資金を基に共同で投資を行う組合です。

無限責任組合員はGP(General Partner)とも呼ばれ、出資金の運用など業務執行を行います。名前の通り無限責任を負い、事業運営上発生する損失など投資した資金以上の損失を被る可能性がある組合員です。一方、有限責任組合員はLP(Limited Partner)とも呼ばれ、出資額以上の責任を負わない有限責任性が認められています。

投資事業有限責任組合は、資産運用者(GP)と投資家(LP)の契約により成立する組合で、資産運用者が投資家から出資金を募り、集まった資金は将来上場などを目指す企業の経営者が保有している未公開株や将来株式に転換できる社債(新株予約権付社債)などに投資する方法が通常です。

平成16年の改正により融資や金銭債権の取得なども可能になったことから、直接の金銭貸し付けや投資先企業に対して銀行が持っている債権を買い取るなどの方法でも投資が可能となっています。

1-2 投資家にとってのメリット

投資事業有限責任組合は投資家にとってメリットの多い投資スキームです。代表的な特徴として挙げられるのが出資額以上の責任を負わない有限責任性で、これにより投資家は出資した金額に対してのみリスクを負うこととなり、リスクを限定しながら投資することができます。

さらに、投資事業有限責任組合は、パススルー税制の対象となる点も投資家にとってメリットです。投資事業有限責任組合は民法上の特例とされており法人格を有しないため、組合が得た配当や株式売却益などの利益は、設立時などに定めた損益分配割合に応じて資産運用者と投資家に帰属し、投資家は自身に帰属する利益に対してのみ所得税が課されます(パススルー税制)。

これにより、投資事業有限責任組合での課税後の利益に対して所得税が課されるという二重課税が回避でき、投資効率を高めることができます。

このほか、銀行法では、銀行とその子会社が他の事業会社の株式の5%超を保有することを禁じていますが、投資事業有限責任組合による投資は対象外です。これにより、銀行なども投資家や資産運用者として参加することが可能となるため、投資資金を集めやすくなっています。

このように、投資事業有限責任組合は投資家にとってメリットの多い制度で資金を集めやすいという特性があることから、資金調達をしたいスタートアップや事業者にとってもチャンスの多い投資スキームとなっています。

2 投資事業有限責任組合(LPS)がスタートアップの資金調達で注目されている理由

最近は様々な投資事業有限責任組合がスタートアップの中小ベンチャー企業に投資していることからスタートアップの資金調達手段としても知られています。こちらでは、その理由を確認していきましょう。

2-1 スタートアップでも資金調達が可能

投資事業有限責任組合は、もともと中小ベンチャー企業の投資をしやすくするために整備された制度です。現在もベンチャーキャピタルなどの資産運用者が投資事業有限責任組合の形態で投資家から資金を募り、ファンドを組成してスタートアップ期の企業に投資しています。

対象となるのは創業準備中の「シード」から創業直後の「アーリー」、成長段階の「ミドル」、上場前の「レイター」と幅広く、スタートアップにおける様々な段階で資金調達できる点は大きな特徴です。

また、経済産業省の認定を受けた投資事業有限責任組合はエンジェル税制の対象になることから、スタートアップを対象に投資する組合は個人投資家からの資金を募りやすいのも特徴です。(※参照:経済産業省「エンジェル税制」)

これにより、投資事業有限責任組合からの出資や貸付などは今後もスタートアップの有力な資金調達方法の一つになると考えられています。

【関連記事】資金調達のシリーズやラウンドって?スタートアップ投資で知っておきたいファイナンスの話

2-2 官民共同ファンドの募集がある

投資事業有限責任組合は官民共同で組成されているファンドもあり、自治体が投資家として参加している場合、地域や業種を限定した募集などを行っているケースがあります。これらの条件に合致する場合、スタートアップ資金を調達できる可能性が高まることから資金調達の一つの手段として知られています。

例えば、山梨県が有限責任組合員として出資している「やまなし新事業応援投資事業有限責任組合」は地元の山梨中央銀行や商工会議所なども投資家に名を連ねており、山梨県経済の活性化を図るためスタートアップ企業などへ投資・育成などを行う目的で組成されたファンドです。

このファンドは平成26年8月26日に設立され、山梨県に拠点などを置く、化学、エネルギー、機械などの様々な業種のスタートアップ企業に投資しています。

また、大阪市は公募により選定した事業者を無限責任組合員とする「ハック大阪投資事業有限責任組合」へ三菱UFJ銀行や三井住友銀行などメガバンクと共に出資し、住宅や自動車などの先進的なITにより変革される新産業成長領域のスタートアップ企業への投資を行っています。

2-3 特定分野に特化して投資するLPSもある

官民共同ファンド以外にもベンチャーキャピタルや民間企業などが組成する投資事業有限責任組合が存在し、これらのファンドの中には特定の分野に特化して投資を行うものもあります。

例えば、生命保険大手のT&Dホールディングス(8795)が出資している「T&Dイノベーション投資事業有限責任事業組合」は国内のヘルスケアやペット、保険分野のFinTechと言われるインシュアテックのスタートアップに特化して投資を行うファンドです。

また、ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)株式会社が運営する「UMI投資事業有限責任組合」は素材と化学分野に特化して投資を行うファンドで、アイデア研究が終わった段階のスタートアップなどを中心に投資しています。

このように、様々な分野に特化して投資するファンドは数多くあるため、スタートアップで始める事業が投資事業有限責任組合の投資分野にマッチすれば、資金調達のチャンスがより広がります。

3 セキュリティトークンへの投資も可能

投資事業有限責任組合の投資対象となる資産は、投資先企業の株式に限らず社債や貸付金も対象となるほか、2023年4月19日、経済産業省はセキュリティトークンへの投資が可能との法解釈を出しました。(※参照:経済産業省「ニュースリリース(2023年4月19日)」)

セキュリティトークンとは、ブロックチェーンの技術を有価証券に応用したデジタル有価証券です。資金調達する事業者は、セキュリティトークンを利用することで従来の株式や債券だけでなく、モノやプロジェクトなどにも投資してもらえるため、円滑な資金調達が可能になる手段として期待されています。

また、投資事業有限責任組合から出資を受ける際に事業者が株式などの代わりに暗号資産(仮想通貨)を渡せるよう、国内外における事業者のトークンによる資金調達の実態や課題等を調査した上で、今後、LPS法上の取扱いについて検討を行う予定となっています。

これは、法改正によりベンチャーキャピタルから投資を呼びやすくすることで、スタートアップの資金調達の多様化を図ることが目的となっています。

このように、最近は投資事業有限責任組合の投資対象となる資産が拡大しつつあり、スタートアップの事業者が資金調達しやすくなるような環境の整備が進められています。

まとめ

投資事業有限責任組合は元来スタートアップなど中小ベンチャー企業に投資しやすくするため整備された制度です。投資家にとっては出資の範囲でリスクを負う有限責任性が認められているため、スタートアップの資金調達先としても活用されています。

最近は、投資事業有限責任組合の投資対象が投資先のセキュリティトークンにも拡大されるなど、事業者の円滑な資金調達が可能になるよう様々な環境整備なども進んでいます。今後もスタートアップの資金調達において、投資事業有限責任組合は有力な選択肢の一つとなる見込みです。

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