資金調達のシリーズやラウンドって?スタートアップ投資で知っておきたいファイナンスの話

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スタートアップ企業が必要とする資金額は成長段階によって異なります。投資家にとっては、急成長を見込めるスタートアップへの投資は大きなチャンスである一方、成長ステージに応じた資金調達ラウンドの特徴を正しく理解し、リスクとリターンのバランスを考えながら投資判断を行うことが大切です。

この記事では資金調達ラウンドの意味や概要、各ラウンドで必要とする資金額の目安、ラウンドごとの資金を集める方法、個人投資家がスタートアップ企業に投資するメリット・デメリットなどについて詳しく解説するので、参考にしてみてください。


※本記事は2023年8月20日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 資金調達のシリーズやラウンドとは
  2. 各資金調達ラウンドの特徴
    2-1 エンジェル(プレシード)ラウンド
    2-2 シードラウンド
    2-3 シリーズAラウンド
    2-4 シリーズBラウンド
    2-5 シリーズC以降
  3. スタートアップ投資のメリットとデメリット
    3-1 スタートアップ投資のメリット
    3-2 スタートアップ投資のデメリット・リスク
  4. まとめ

1 資金調達のシリーズやラウンドとは

スタートアップの成長段階は複数のフェーズに区分されており、各フェーズにふさわしい資金調達を各ラウンド(=資金調達ラウンド)で受けます。スタートアップは創業初期から成熟期にかけて複数のラウンドを通じて投資家から資金を調達し、成長していきます。ラウンドの区分は考え方によっても異なりますが、以下では5つの局面に分けて見ていきます。

  • エンジェル(プレシード)
  • シード
  • シリーズA
  • シリーズB
  • シリーズC以降

また、ラウンドは資金調達の状況を指すのに対し、スタートアップの成長段階は、「シードステージ」「アーリーステージ」「ミドルステージ」「レイタ―ステージ」と示されます。

資金調達では、企業価値(バリュエーション)がポイントになるため、スタートアップの成長性が適切に評価された株価で資金調達を実行することになります。スタートアップに必要な資金額は、事業内容や資金調達ラウンドによって異なりますが、各ラウンドの目安は以下の通りです。

ラウンド 資金調達目安額
エンジェル(プレシード) 百万円~数千万円
シード 数百万円~数千万円
シリーズA 数千万円~数億円
シリーズB 数億円~数十億円
シリーズC以降 数十億円以上

2 各資金調達ラウンドの特徴

スタートアップの資金調達手段は、大きくエクイティ・ファイナンス(Equity Finance)と、デット・ファイナンス(Debt Finance)に分けられます。エクイティ性のものには、新株発行や新株予約権付社債などがあり、資本の増加につながる一方、金融機関からの借入や社債等のデット性のものは将来的に返済義務のある負債(=他人資本)になります。

ただし、エクイティ・ファイナンスにもデメリットやリスクがあります。自己資本なので資金を返す必要はありませんが、新しい株式を発行することで、既存株主の株式比率が希薄化されます。既存株主の持ち分が相対的に減少する上、スタートアップ側にとっては新たに投資家やベンチャーキャピタルが株主となることで、経営に対する意思決定に影響を及ぼす可能性があります。

それでは、資金調達の各ラウンドの特徴を見ていきましょう。

2-1 エンジェル(プレシード)ラウンド

資金調達の最初のフェーズで、創業前後のプロダクトやサービスがまだ形になっていない、アイデア段階の投資のことです。メンバーや顧客がまだほとんどいない状態にあるのが特徴です。この段階で調達した資金は、創業費用や、製品やサービスの開発やプロトタイプ作成に必要な人材の確保、市場調査等に使用されます。

この段階の主な投資家は、エンジェル投資家やインキュベーターです。エンジェル投資家とは創業後間もない企業に資金を提供する個人投資家です。エンジェル投資家は投資の見返りに株式や転換社債を得るスキームになっていることが多く、またインキュベーターとは、起業や事業創生の支援(インキュベーション)を行う組織のことです。

2-2 シードラウンド

ベンチャーキャピタルなどの機関投資家が参加する、最初の正式な投資ラウンドです。スタートアップがビジネスの大まかな枠組みを確立した段階で行われる資金調達であり、プロトタイプ(試作品)の開発段階で具体的な内容や販売方法などは決まっていないのが特徴です。シードラウンドで調達した資金は、市場調査や製品・サービスの開発、また製品・サービスのテスト版をリリースし仮説検証をする費用などに使われます。

この段階では、機関投資家は優先株を購入するほか、転換社債またはSAFE(Simple Agreement for Future Equity)に投資します。SAFEとは、転換社債から派生した投資形態です。投資した企業が成長すれば、投資家は株式売却で大きな利益を狙えます。

また、スタートアップ企業にとっては、返済義務のないEquity形式で資金を調達することが可能です。その一方で、シードラウンドは、シリーズ投資への準備として市場に対して企業としての成長力を示す段階でもあります。長期的に支援をしてくれる投資家を確保するため、事業の収益性や成長性、テクノロジーの独自性、メンバー力の高さなどの材料をそろえ、アピールする必要があります。

また、成長段階がシードステージにあるスタートアップの主な資金調達先は、以下の通りです。

  • ベンチャーキャピタル(VC)
  • 日本政策金融公庫
  • 株式投資型クラウドファンディング

ベンチャーキャピタル(VC)は、高成長が見込まれるスタートアップなど未上場企業に投資する投資会社のことです。企業に出資するだけではなく、経営やイグジット(出口戦略)に関するコンサルティングも行い、企業価値を向上させるよう努めます。投資した企業が成長して買収されたり、株価が上場したタイミングで株式を売却したりすることで利益を出すことを目指しています。

日本政策金融公庫は、民間金融機関の融資先になりにくい高リスクな事業に融資をしてくれる公的金融機関です。起業して間もなく、信用に乏しい状態でも資金調達できる可能性がありますが、デッド性のため返済義務があります。

株式投資型クラウドファンディングは、非上場企業の株式を発行し、オンラインプラットフォーム上で出資者を募る資金調達手段です。クラウドファンディングなどを利用して多くの投資家から少額ずつ資金を集めます。出資した投資家は未公開株の株主として利益に応じた配当金を受け取れ、個人でも手軽に投資できるのが特徴です。

例えば、将来有望なベンチャー企業に手軽に出資できるサービスの一つに「ファンディーノ」があります。ファンディーノは日本初の株式投資型クラウドファンディングサービスであり、1口数万円~10万円程度の少額からの投資が可能です。

ハイリスクとなりやすいベンチャー企業への投資ですが、ファンディーノでは少額から複数の案件に分散投資が行えるメリットがあります。また案件によっては投資後の情報開示も積極的に行っており、ベンチャー投資に興味のある初心者の方でも取り組みやすいサービスです。

【関連記事】ファンディーノ(FUNDINNO)の評判は?メリット・デメリットやイグジット案件も

2-3 シリーズAラウンド

試作品の段階が終了し、企業が手掛ける製品・サービスが正式リリースされて事業が本格化する段階です。試作品の投入で市場から受け入れられ、売上を拡大させていく段階にあります。積極的なマーケティングで企業の認知度を上げていく必要があり、顧客を多く獲得し事業のさらなる拡大を図りたいステージです。

なお、収益が安定しているわけではないため、事業を拡大させ完全に軌道に乗せるには更なる資金が必要となります。人材獲得や設備投資、マーケティングに多額のコストが発生するため、数千万円~数億円の資金が必要となる場合もあります。

「シリーズA」とは、資金調達時に発行される種類株式名「A種優先株式」が由来です。種類株式とは、通常の株式とは異なる権利や条件を付与して発行される株式のことです。

シリーズAラウンドの主な資金調達先は以下の通りです。

  • VC
  • コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)

VCの投資目的が投資資金の回収にあり、投資で大きな利益を上げることを目指しているのに対し、CVCは自社の事業と関連性のある未上場企業に投資します。CVCの投資目的は自社事業との相乗効果を得ることなので、大手企業の子会社や部門として投資活動を行うことが多く、ビジョンや成長戦略に合わせて投資先を選びます。

また、スタートアップの製品やサービスがリリースされるシリーズAの時期に入ると、実績が積み上がることで、企業価値も上昇します。そうなれば、実績を重視する金融機関からの融資も受けやすくなり、投資先の新たな候補として挙がる可能性もあります。

2-4 シリーズBラウンド

事業が軌道に乗り始めた段階です。顧客が増加し、さらなる事業拡大が狙える時期です。売上を向上させるため、積極的な販促活動の実施により、新規顧客を開拓します。加えて、顧客満足度を向上させるため、優秀な人材を確保したり、研究開発予算を多く獲得したりする必要もあるでしょう。

事業や企業の規模をスケールアップさせるため、人材確保や研究開発の充実、マーケティング、広報などに数億円~数十億円の資金が必要であり、調達には半年以上の期間が必要となる場合もあります。また、投資家にとっては、資金回収を考える時期でもあるので、スタートアップ起業としては黒字化を目指したい時期です。シリーズBラウンドの主な資金調達先は、シリーズA同様にVCやCVCが挙げられます

前回のラウンドに比べて企業の評価が上昇し、株価が上昇していれば、複数のVC・CVCから資金を調達できる可能性があります。一方、前回の株価を下回った増資を行った場合(=ダウンラウンド)、投資家の期待を失い、次回のラウンドでの資金調達が難しくなるケースもあります。

2-5 シリーズC以降

シリーズC以降の段階は、企業業績が安定し黒字経営が定着している段階です。IPO(新規上場)やM&A(企業の合併・買収)などのイグジットも視野に入ってきます。収益が増大して資金調達が不要になる企業もありますが、事業規模を拡大するには数十億円規模の資金が必要となる場合もあります。

シリーズC以降になると、事業の多角化や海外進出、上場も視野に入ってくるため、スタートアップと呼べる規模ではない企業も出てきます。シリーズC以降の資金調達先は以下の通りです。

  • VC
  • CVC
  • 金融機関
  • 株式公開
  • シンジケートローン

株式を公開すると数十億円、数百億円の資金を調達できる可能性があります。投資家にとっては上場と同時に株式を売却して利益を得られる可能性もあります。なお、シンジケートローンとは複数の金融機関が団体を結成し、協力して融資する形式なので、借り手はより大きな融資を受けられます。

3 スタートアップ投資のメリットとデメリット

成長性の高いスタートアップ投資は大きな利益が期待できる一方、経営基盤が固まっていない企業に投資するのは大きなリスクを伴います。ここでは、スタートアップ投資をする上で知っておきたいメリットとデメリットについて解説します。

3-1 スタートアップ投資のメリット

まず、スタートアップ企業は、新しいビジネスモデルの開発や、技術革新などを通して新しい価値の創造に取り組むケースが多く、事業が軌道に乗れば大きな収益を獲得できる可能性を秘めています。順調に事業が拡大すれば、株式上場や大手企業による買収など、株式価値が上昇することもあります。そのため、投資家は早い段階から投資をすることで、将来大きなリターンを得るチャンスがあります。また、株主となれば、こうした企業の成長を間近で見ながら、自分の知見を提供したりネットワークを活用したりし応援できるというのも、スタートアップ企業投資の醍醐味の一つです。

スタートアップ企業への投資は、一定の要件を満たすと「ベンチャー投資促進税制(エンジェル税制)」という税制上の優遇措置を受けられる場合もあります。
(※参照:中小企業庁「エンジェル税制のご案内」)

3-2 スタートアップ投資のデメリット・リスク

一方で、スタートアップ企業は新規性の高い事業を展開するケースが多いため、市場に受け入れられるかは未知数です。さらに、資金調達が不十分だったり、事業計画が思うように進まなかったりすれば、事業運営が難しくなり、債務を返済できなくなる恐れもあります。スタートアップ投資では、企業がイグジットをするまで投資資金を回収することが難しいため、投資先企業の存続リスクをしっかり考慮した上で、判断を下さなければなりません。

また、未上場企業の株式は株式市場で売買される上場株式と比べ、流動性に劣ります。上場企業と異なり、スタートアップは株主や投資家向けに財務状況・実績・今後の見通しなどを発表していないため、第三者が企業価値を判断するのは難しく、売却まで時間を要する可能性があります。

こうしたメリットとデメリットを十分に認識したうえで、投資判断を行うことが重要です。

【関連記事】個人でスタートアップ企業に投資するには?ベンチャー投資のメリットやリスクも

4 まとめ

スタートアップ投資で個人投資家が参加しやすいのは、シードやアーリーラウンドのような調達資金が少ない時期です。この時期であればエンジェル投資や株式投資型クラウドファンディングの形で創業期の企業に投資できる可能性もあります。ただし、スタートアップ投資は得られる情報が少なくリスクも大きいので、時間をかけて調査した上で、慎重に投資判断を下すことが大切です。

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