スコープ3とは?排出量の算定方法や東証上場企業の業種別の開示状況も

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2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする、カーボンニュートラルの実現を各事業者が目指しています。温室効果ガスの排出量算定には、事業者自身の直接的な排出量(スコープ1およびスコープ2)だけでなく、製品やサービスの生産、供給、流通などに関わる他社による間接的な排出量(スコープ3)を含む、サプライチェーン全体の排出量を正しく算定することが大切です。

特に近年、スコープ3に区分される温室効果ガス排出量の把握・削減・情報開示などが求められる状況であり、上場企業各社も持続可能な経営や環境配慮を推進すべく対応が急務となっています。

この記事では、温室効果ガスの排出量区分であるスコープ3の概要と、排出量の算定方法、東証上場企業のスコープ3の排出量に関する業種別開示状況を詳しくご紹介していきます。スコープ3の意味を知りたい方や、スコープ3の排出量削減に取り組む企業を調べている方は参考にしてみてください。

※本記事は2023年8月10日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

  1. スコープ3とは?
    1-1 サプライチェーン排出量の削減に取り組む重要性
    1-2 スコープ3の15分類
  2. スコープ3の算定方法
    2-1 活動量×排出原単位
    2-2 具体的な計算例
  3. スコープ3の東証上場企業の業種別開示状況
  4. まとめ

1 スコープ3とは?

スコープ3とは、サプライチェーン排出量全体のうち、自社の事業活動に関連する他社等の温室効果ガス排出量のことです。サプライチェーンとは、企業が提供する製品が消費者の下へ届くまでの一連の流れを言い、具体的には、原材料の調達、製品の製造・在庫管理、製品の販売、製品の使用・消費等を指します。そして、一連の過程における全体の温室効果ガスの排出量が、サプライチェーン排出量です。

サプライチェーン排出量は、以下の通り、「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」の3つから構成されています。

区分 内容
スコープ1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
スコープ2 他の事業者から供給された電気、熱・蒸気を自社が使用する際の排出
スコープ3 スコープ1、スコープ2以外で事業者の活動に関連する他の事業者の排出

スコープ1は、例えば自社が製品の製造等を行う際に、燃料の燃焼や化学反応により発生する温室効果ガスの排出量です。自社内のボイラーやコージェネレーション設備、また自社が所有する営業車等が排出する温室効果ガスも含まれます。

スコープ2は、例えば電気、熱、蒸気など、他社から供給を受けたエネルギーの使用によって発生する温室効果ガスの排出量です。算定には、地域共通の係数を用いるロケーション基準、実際の購入に基づく係数のマーケット基準の二通りがあります。

一方、スコープ3は、例えば原材料の採掘・製造・調達・輸送、製品のフランチャイズ販売、製品の輸送、使用、廃棄の際に発生する温室効果ガスの排出量です。また従業員の通勤や出張時の移動に関連する排出量も含まれます。

1-1 サプライチェーン排出量の削減に取り組む重要性

「スコープ」というサプライチェーン排出量の区分は、「温室効果ガスプロトコル(GHGプロトコル)」で規定されています。GHGプロトコルとは、温室効果ガスの排出量を算定・報告するための世界的な基準であり、GHGプロトコルイニシアチブという国際組織により2011年に公表されました。

GHGプロトコルが規定する温室効果ガスの排出量を算定・報告するための基準内容は、サプライチェーンの観点を重視しているのが特徴です。例えば、クルマという製品は、製造業者のみが関わっているわけではなく、原材料調達や製品販売等の取引先企業、輸配送業者、製品の使用者、廃棄業者を含むサプライチェーン全体が関与しています。

そのため、温室効果ガスもサプライチェーン全体の排出量を考慮することで、製品のライフサイクルを通じた排出量の把握を目指しています。自社だけでなく他社を含めたサプライチェーン全体で取り組むことで、排出量削減の取り組みにおいても十分な成果を実現することが目的です。このため、GHGプロトコルは、スコープ3の区分を含めたサプライチェーン排出量を算定・報告するための基準「GHG プロトコル Scope3算定報告基準」を公表しています。

こうしたGHGプロトコルの基準に沿って、スコープ3を含めたサプライチェーン全体の排出量を削減する取り組みが、グローバル規模で進んでいます。国内においても、環境省と経済産業省が、GHGプロトコルの基準との整合を図りながら、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を2022年に策定し、各企業に対してガイドラインの基準に沿った温室効果ガス削減の取り組みを促しています。
(※参照:環境省「排出量算定について」)

1-2 スコープ3の15分類

自社以外の企業等の温室効果ガス排出量を指すスコープ3を把握するうえで、GHGプロトコルはサプライチェーンを「上流」と「下流」の2つに分類しています。上流とは、自社が仕入れをする原材料や部品等の製造や配送等に関連し、原材料や部品メーカー等が排出する温室効果ガスを指します。一方、下流とは、自社が提供する製品の販売先への配送や、販売された製品の使用や廃棄に関連し、販売業者や廃棄業者等で排出される温室効果ガスです。

また、スコープ3を算定するにあたり、間接的に温室効果ガスを排出する活動を、上流・下流を通して以下の15つのカテゴリーに分類しています。

上流

カテゴリー 算定対象
1 購入した製品・サービス 調達した原材料・サービスに関する製造等に伴う排出量
2 資本財 自社の施設や設備の建設等に伴う排出量
3 スコープ1、スコープ2に含まれない燃料およびエネルギー活動 他社から調達するエネルギーの発電等に必要な燃料調達に伴う排出量
4 上流区分における輸送、配送 自社が委託した物流に伴う排出量
5 事業から出る廃棄物 自社の事業活動から発生する廃棄物の自社以外での輸送や処理に伴う排出量
6 出張 自社の従業員の出張等、業務時の移動に使用する交通機関における燃料・電力消費に伴う排出量
7 雇用者の通勤 自社の従業員の通勤に使用する交通機関における燃料・電力消費に伴う排出量
8 上流区分におけるリース資産 自社が賃借しているリース資産の操業に伴う排出量

下流

カテゴリー 算定対象
9 下流区分における輸送、配送 自社が製造・販売した製品・サービス等の物流に伴う排出量
10 販売した製品の加工 製造・販売した製品・サービス等の事業者による加工に伴う排出量
11 販売した製品の使用 製造・販売した製品・サービス等の使用者による使用に伴う排出量
12 販売した製品の破棄 製造・販売した製品・サービス等の廃棄処理に伴う排出量
13 下流区分におけるリース資産 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の運用に伴う排出量
14 フランチャイズ 自社がフランチャイズ主宰者の場合、フランチャイズ加盟者(フランチャイズ契約を締結している事業者)における排出量
15 投資 投資(株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなど) の運用に伴う排出量

上記表のうち、1~8までのカテゴリーは上流に区分され、9~15までのカテゴリーは下流に区分されます。上記表のカテゴリーに該当する温室効果ガス排出量の具体例をいくつかご紹介していきます。

例えば、1の「購入した製品・サービス」とは、企業が調達する原材料・部品等の製造の際に排出される温室効果ガスなどを指します。自動車の製造業者が他社から部品を購入する際、その購入する部品が製造された時に発生した温室効果ガスが該当します。

次に、3の「スコープ1、スコープ2に含まれない燃料およびエネルギー活動」とは、自社が製品製造のために使用する燃料やエネルギーを、他社から調達し、他社が採掘・精製したときに発生する温室効果ガスを指します。

また、13の「下流区分におけるリース資産」とは、自社が他社にリース(賃貸)している場合に関連して発生する温室効果ガスの排出量です。例えば、A社の所有物であるオフィスをB社に貸していた場合、B社がオフィス内の照明やパソコン、冷暖房機器などの電力を使用する際に発生する温室効果ガスの排出量が該当します。A社とB社の間でダブルカウントやミスカウントが生じないようにすることが重要です。

2 スコープ3の算定方法

サプライチェーン排出量は、スコープ1、スコープ2、スコープ3の排出量を合計する形で算出します。具体的には、以下の流れで、スコープ3の排出量の算定が行われます。

  1. 算定目的の設定
  2. 算定対象範囲の設定
  3. サプライチェーン上の各活動をスコープ3の15カテゴリーへ分類
  4. 各カテゴリーの算定対象の範囲を特定
  5. データ収集し各カテゴリーの排出量を算定

こうして集められたスコープ3の排出量データと、スコープ1、スコープ2の排出量データを合算し、サプライチェーン全体の排出量を算定します。スコープ3の排出量を算定しなければ、サプライチェーン排出量を算出することはできません。以下では、スコープ3排出量の算定方法と具体的な計算例をご紹介していきます。

2-1 活動量×排出原単位

スコープ3排出量の算定には、サプライチェーン内の取引企業等から排出量の提供を受けて計算する方法と、「活動量×排出原単位」の計算式で算定する方法の2種類あります。

サプライチェーン内の取引企業等から排出量情報の提供を受けて計算する方法のほうが、より正確な排出量を算定できますが、サプライチェーンのすべての団体からスコープ3に該当する排出量情報の提供を受けるのは現実的に難しいという場合もあります。

その場合は、自社が購入・取得した製品またはサービスの物量・金額データ(活動量)に、製品またはサービスの資源採取段階から製造段階までの「排出原単位」をかけて算定します。

「活動量」の例として、仕入れをした原材料・部品等の購入量、電気の使用量、廃棄物の処理量、貨物の輸送量等が挙げられます。物量データが望ましいものの、物量データを得ることが難しい場合は金額データを用いることが推奨されています。

また、活動量を把握する上で参照する資料は、実際の購入・使用データなどの一次データが推奨されますが、取得が難しい場合はカタログ値、業界平均データや統計値などの二次データが挙げられます。

一方、「排出原単位」とは、活動量における温室効果ガス排出量のことです。例えば、1kWhの電気使用における二酸化炭素排出量、1tの廃棄物焼却における二酸化炭素排出量等です。環境省のホームページにも、排出原単位のデータベースが掲載されているため、この資料を基準に排出原単位を算定することが可能です。

どのようなデータが利用可能かによって、算定の精度や算定範囲のカバー率が変わってくるため、目的に応じて最適なデータの入手・利用を検討する必要があります。

2-2 具体的な計算例

それでは、上表のカテゴリー1「購入した製品・サービス」とカテゴリー3「スコープ1、スコープ2に含まれない燃料およびエネルギー活動」における排出量を計算してみます。

「購入した製品・サービス」については、活動量を「調達量または調達金額」、「環境省の排出原単位データベース、産業連関表ベースの数値」を排出原単位として排出量を算定します。例えば、飲食店がご飯をメニューとして提供するため、業者から200万円で販売されている米を仕入れた場合の排出量は、200万円(活動量)×6.26t-CO2eq/100万円(生産者価格の金額ベースの排出原単位)=12.52t-CO2eqと計算されます。

次に、「スコープ1・スコープ2に含まれない燃料およびエネルギー活動」は、活動量を「燃料の調達量」、「環境省の排出原単位データベース、電気・熱使用量あたりの数値」を排出原単位として排出量を算定します。例えば、自社が300kWh(1時間当たりの消費電力)の電力を他社から調達した場合の排出量は、300kWh(活動量)×0.0682kgCO2e/1kWh(燃料調達時の排出原単位)=20.46kgCO2eと計算されます。

3 スコープ3の東証上場企業の業種別開示状況

気候変動は世界全体で取り組むべき最重要課題です。気候変動に関する情報開示と企業の取り組みを促すため、2015年、FSB(金融安定理事会)によりTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)が設立されました。

TCFDは、気候変動要因に関する適切な投資判断を促すため、一貫性、比較可能性、信頼性、明確性をもつ情報開示を促す提言を、2017年6月に公表しました。国内でも2021年にJPX(日本取引所グループ)のコーポレートガバナンス・コード(企業統治の原則)が改定され、企業による気候変動を含むサステナビリティへの取り組み、および気候変動が企業に与える影響等について、必要なデータを収集・分析した上で情報開示することが求められるようになりました。

このような状況の中、JPXは、2022年度にTCFDの提言に沿った企業の情報開示の実態調査を行い、その結果を2023年1月に公表しました。調査対象は、2022年10月時点のJPX日経インデックス400構成銘柄(東証等に上場する企業から選ばれた400企業)です。

温室効果ガス排出量に関する情報開示を行っている上場企業の業種別割合の結果は、以下の通りです。

業種 調査対象企業数 スコープ1、2に関する開示 スコープ3に
関する開示
情報・通信業 41社 46% 32%
電気機器 41社 76% 59%
化学 35社 86% 60%
小売業 31社 45% 29%
サービス業 27社 37% 22%
機械 21社 76% 57%
建設業 21社 57% 52%
卸売業 19社 68% 42%
食料品 19社 53% 58%
医薬品 17社 88% 53%
不動産業 16社 50% 44%
輸送用機器 13社 69% 46%
銀行業 12社 92% 58%
その他金融業 10社 30% 20%

スコープ1、2の排出量と比べると、スコープ3の排出量に関する情報開示を行っている企業の割合は全体的に少ない傾向です。しかし、「電気機器」「化学」「機械」「建設業」「食料品」「医薬品」「銀行業」の7業種については、調査対象企業数の半数以上の企業がスコープ3排出量に関する情報開示を行っています。

一方、「情報・通信」「小売業」「サービス業」「その他金融業」で、スコープ1及び2、またスコープ3の排出量に関する情報開示を行っている企業の割合は、それぞれ50%未満、30%未満といまだ少ない傾向にあります。持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためにも、気候変動対策やリスクに関する今後の開示が期待されています。

4 まとめ

カーボンニュートラル実現のため、各企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体で発生する温室効果ガス削減への取り組みを求められています。自社以外で発生するスコープ3排出量の削減への取り組みは、顧客や取引先の企業等、サプライチェーン全体で協力しながら行っていくことが重要です。

スコープ3排出量の削減に取り組むことで、環境負荷の低い製品やサービスを顧客が安心して選べたり、サプライチェーン排出量削減に関する適切な情報開示を行うことで企業の社会的信頼性が向上し、サステナビリティに関心の高い投資家が投資機会を得られたりするなど、社会的・経済的な観点からも期待されています。

スコープ3の情報開示や排出量削減に取り組む企業に興味のある方は、この記事等を参考にご自分でもお調べになってみてください。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チームは、株式投資に関する知識が豊富なメンバーが株式投資の基礎知識から投資のポイント、他の投資手法との客観的な比較などを初心者向けにわかりやすく解説しています。/未来がもっと楽しみになる金融・投資メディア「HEDGE GUIDE」