地球全体に深刻な影響をもたらしている気候変動。我々が持続可能な未来を維持するためには、早急に具体的な対策を講じる必要があります。そんな中、ブロックチェーン技術が注目され、その可能性が気候変動への対策に大きく寄与できると言われています。Linux Foundation Researchは2023年2月、「Web3 とサステナビリティ」についてのレポートを公開しました。この記事では、そのレポートの詳細と、ブロックチェーンが気候変動への影響をどう軽減できるのかについて解説します。
目次
- Linux Foundationとは
- 「Web3 and Sustainability」とは
- Web3が直面する持続可能性の課題とは
3-1.PoW(Proof of Work)コンセンサスアルゴリズム - ブロックチェーンが気候変動対策に貢献できる方法とは
4-1.クリーンエネルギーによるビットコインのマイニング
4-2.自動車産業における天然資源の追跡システム - 気候変動の影響を減らすためにブロックチェーンができること
5-1.注意点 - まとめ
①Linux Foundationとは
Linux Foundationは、Linuxとオープンソースソフトウェアの普及・発展を推進するために設立された組織です。Linuxのコミュニティへのサポートとその経験を活かし、社会で重要なオープンソース技術の設立、構築、保守を援助しています。
具体例を挙げると、新型スマートフォンの80%はAndroidを搭載していますが、その基盤はLinuxカーネルです。さらに、世界の主要な証券取引所、例えばニューヨーク証券取引所やNASDAQ、ロンドン証券取引所、東京証券取引所などもLinuxを利用しています。
Linux Foundationのプロジェクトは、世界各地から2900を超える企業が参加しています。その中には、アメリカ、アジア太平洋地域、ヨーロッパ、中東、アフリカからの企業が含まれています。そして、それらのメンバーには、AT&TやCisco、富士通、日立製作所、Huawei、IBM、Intel、Microsoft、NEC、Oracle、Qualcomm、Samsungといった大手企業も含まれています。さらに金融や医療など多様な分野のスタートアップ企業や中堅企業、専門家も多数参加しており、世界中のイノベーションを推進しているのです。
②レポート「Web3 and Sustainability」とは
今年2月にLinux Foundation Researchが公開したレポート「Web3 and Sustainability : How We Can Reduce the Climate Impact of Blockchains, How Blockchains Can Help Reduce Our Own」は、「Web3とサステナビリティ:ブロックチェーンによる気候変動の影響を減らす方法、そしてブロックチェーン自体ができること」と訳されます。
このレポートは、2022年夏にIntelとLinux Foundationが主催したWeb3エコシステム全体の関係者を集めたラウンドテーブルでの議論を基に作成されました。その場で、各コミュニティが持続可能性をどのように理解し、実現しようとしているのか、それにはどのような取り組みがあるのかが共有されました。議論の中で取り上げられた解決策は多岐にわたり、効率的なブロックチェーンの計算、グリーンエネルギーの活用、技術や会計の基準の導入などが含まれていました。
しかし、気候変動という大きな課題を解決するには、単一の企業や技術だけでは足りません。このレポートの目指すところは、Web3のエコシステムやサステナビリティについて深く知らないテクノロジー関連の人々に対し、全体像の理解や対策のアプローチ方法を示すことです。
③Web3が直面する持続可能性の課題とは
討論会の参加者たちは、デジタル資産への関心が高まる一方で、「ブロックチェーンの気候への影響に対処する必要がある」という意見を共有しました。OnePollが2022年3月に行ったオンライン調査によれば、成人のアメリカ人の53%が暗号資産を「金融の未来」と見ていますが、そのうち3分の1は炭素排出量の少ない製品の増加を求めていることが明らかになりました。この意見は討論会でも反映され、電力を大量に消費するデジタル資産は、投資家にとっての魅力を失う可能性があると指摘されています。
討論会におけるアンケート結果に基づくと、Web3技術が直面している持続可能性の課題は次の通りです。
- PoW(Proof of Work)コンセンサスアルゴリズムを使用するブロックチェーンが消費するエネルギーの大量性。
- そのエネルギー消費の目的とWeb3のイノベーション能力に対する理解不足。
- 社会的・政治的な懸念。
- 技術的・財務的な会計基準および規制の必要性。
これらの課題を解決するためには、ブロックチェーン技術のエネルギー効率性の向上、教育・啓蒙活動による理解の促進、社会的な合意形成、適切な規制の導入などが必要とされます。
3-1.PoW(Proof of Work)コンセンサスアルゴリズム
ビットコインのコンセンサスアルゴリズムとして使われているPoWは、特に高いエネルギーを消費します。これは、取引を承認するノード(マイナー)が解かなければならない計算問題の難易度が高く、これに対してノードが大量の計算リソースを投入することを要求するからです。この計算問題を最初に解いたノードが新たなビットコインの報酬を得ることができるため、マイナーたちは高性能なハードウェアと大量の電力を使って競争します。このプロセスが大量のエネルギーを消費し、持続可能性の課題となっています。
ビットコインのマイニングには、確かに大量のエネルギーが必要であり、これが一部の人々がブロックチェーン技術に対して持つ懸念の一つとなっています。その一方で、討論会の参加者は、エネルギー消費が報酬を得るための必要な手段であるならば、そのエネルギーを効率よく使うこと、そして可能な限り省エネルギーの方法で資産を創造することを奨励すべきだと主張しました。
④ブロックチェーンが気候変動対策に貢献できる方法とは
また、ブロックチェーン技術が気候変動対策にどのように貢献できるかについては、以下のような見解が討論会で投票されました:
4-1.クリーンエネルギーによるビットコインのマイニング
再生可能エネルギーを用いたビットコインのマイニングは、ブロックチェーンとサステナビリティを両立させる一つのアプローチです。具体的には、再生可能エネルギー証書を用いて、再生可能エネルギーによるビットコインのマイニングを奨励するプラットフォームが存在します。このプラットフォームでは、投資家は再生可能エネルギー証書を購入し、その証書を持続可能なエネルギー源の開発に貢献するために使用することができます。これにより、ブロックチェーン技術の進化と持続可能性の推進が同時に実現できる可能性があります。
ビットコインのプロトコルは、一種の分散型自律組織(DAO)とも言えます。その一部を担っているビットコインのマイナーたちは、クリーンエネルギーを利用したマイニングを行うことで、ビットコインというデジタル資産としての報酬を受け取ることができます。これは、環境に優しいマイニング手法を推進する目的で行われています。
4-2.自動車産業における天然資源の追跡システム
英国に本拠を置き、世界中で事業を展開しているCirculorは、ブロックチェーン技術を活用したサプライチェーンの追跡ソリューションを提供しています。これにより、自動車やエレクトロニクスの製造に必要な鉱物や天然資源の起源を詳細に追跡することが可能になっています。
Circulorのシステムを用いれば、供給業者と購入業者は、コバルトなどの重要な原材料をサプライチェーン全体で追跡し、ほぼリアルタイムでその情報を入手できます。これにより、ハードウェア製造業者はリサイクルを行う際に、リサイクルされた材料を原料として再利用することが容易になります。
そして、再生可能エネルギー分野でも、ブロックチェーンは重要な役割を果たしています。たとえば、非営利団体であるエネルギーウェブ財団は、Web3の進展により、電力市場への参加がより広範で多様になっていると指摘しています。消費者自身が、より手頃な価格で電力を生産し、蓄積、管理することが可能になったのです。この具体例として、「LO3エナジー」が開発したブロックチェーンベースのマイクログリッドが挙げられます。これにより、ブルックリンの住民は、自宅で生産した太陽光エネルギーを安全に隣人と直接取引することが可能になりました。
⑤気候変動の影響を減らすためにブロックチェーンができること
これまでの議論を踏まえて、地球環境の保全に向けてブロックチェーンがどのように役立つか、その活用方法とメリットを以下にまとめます。
1. グリーンエネルギーの追跡可能性
ブロックチェーンは、エネルギーの起源を追跡する際に非常に助けとなります。グリーンエネルギー発電所で生成される電力やその際に排出される二酸化炭素量などをブロックチェーンに記録することで、エネルギーの追跡可能性が確保されます。結果として、消費者は持続可能性を基準にエネルギープロバイダーを選ぶことができ、これがグリーンエネルギー需要の拡大を後押しします。
2. カーボンオフセット市場の効率化
また、ブロックチェーンはカーボンオフセット市場の効率化にも一役買います。カーボンクレジットや排出権といった取引をブロックチェーン上で行うことにより、取引の透明性と信頼性を向上させることが可能です。さらに、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を用いれば、排出削減目標に基づいた自動的な取引も実現できます。これにより、企業や個人は複雑な手続きを省略し、手軽にそして確実にカーボンオフセットを達成できます。
3. 分散型エネルギーネットワークの支援
ブロックチェーンは分散型エネルギーネットワークの構築にも寄与します。太陽光発電や風力発電といった小規模なエネルギー発電源をブロックチェーンを介して接続することで、余剰の電力を共有し、ネットワーク内で効率的に利用することが可能になります。このような分散型ネットワークはエネルギーの無駄を削減し、地域ごとの持続可能なエネルギー供給を支えます。
5-1.注意点
エネルギー購入者が一部のエネルギーをコンピューティングに使用し、残りを地域経済に注ぎ込んで、コミュニティ全体がエネルギーリングを活用できるようにするというプロジェクトが討論会で提案されました。しかし、こうしたモデルの成功は、プロジェクトを適応させる社会的、政治的、文化的、そしてインフラ的な文脈に大いに依存します。具体的には、中心となる開発者や人材パイプラインが整っているか、参加者の増加が見込めるか、そして長期的な運営計画が存在するか、などが重要な要素となります。
⑥まとめ
ブロックチェーン技術は、気候変動の影響を緩和するための取り組みにおいて、透明性、信頼性、追跡可能性、効率化などの側面で大いに役立つと理解されてきました。グリーンエネルギーの管理、カーボンオフセット市場の改善、分散型エネルギーネットワークの構築といった様々な分野でブロックチェーンの活用が期待されています。
この技術がさらに普及していくことで、より持続可能な社会の実現に寄与する可能性があります。Linux Foundation Researchのレポートに興味を持った方は、ぜひ公式サイトをご覧ください。
立花 佑
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