国内メーカー企業のESG・サステナビリティの取り組みは?上場企業の取り組み事例も

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ESG・サステナビリティを意識した事業経営は、投資家や消費者からの期待が高まっており、持続可能な事業経営を考えるうえで重要な要素です。特にメーカー企業は、環境負荷の低い製品の開発や、製品ライフサイクルを通したESGへの取り組みなど、様々なアプローチが求められています。

この記事では、国内メーカー企業のESG・サステナビリティの取り組み内容について、詳しく解説しています。ESG・サステナビリティの視点から投資を検討している方は、参考にしてみてください。


※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年8月28日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 国内メーカー企業がESG・サステナビリティに取り組む必要性とは
  2. 国内メーカー企業のESG・サステナビリティの取り組み状況
    2-1 トヨタ自動車(7203)
    2-2 パナソニック(6752)
    2-3 日清食品(2897)
    2-4 資生堂(4911)
  3. まとめ

1 国内メーカー企業がESG・サステナビリティに取り組む必要性とは

メーカー企業は、環境負荷の低い製品・技術の開発や、自社だけでなくサプライチェーン全体での温室効果ガス削減、人権保護など、ESGの観点から幅広い取り組みが期待されています。また、メーカー企業がESGに関する取り組み状況を開示することで、ESGに関心のあるユーザーが十分な情報を得た上で、ESGに配慮した製品やブランドを選べるようになります。

2 国内メーカー企業のESG・サステナビリティの取り組み状況

それでは、国内メーカー企業がESG・サステナビリティに対し、どのように取り組んでいるのか詳しく見ていきましょう。

2-1 トヨタ自動車(7203)

トヨタ自動車は、日本を代表する世界的な自動車メーカーです。2022年の世界新車販売台数では、独フォルクスワーゲン(VW)グループを上回る1,048万台(前年比0.1%減)を達成し、3年連続で世界首位となっています。また、トヨタ自動車単体でも956万台の販売を達成し、VWグループの826万台を上回りました。
(※参照:トヨタ「2022年 年間(1月-12月)販売・生産・輸出実績」、VWグループ「2022 Annual Report」)

トヨタは持続可能な経営を重視し、ESGにも積極的に取り組んでいます。2015年10月には「トヨタ環境チャレンジ2050」を公表し、温室効果ガスによる異常気象、生物多様性の喪失、水不足など、地球環境の深刻な問題に対して、「もっといいクルマ」「もっといいモノづくり」「いい町・いい社会」の3領域で6つのチャレンジを掲げました。

トヨタ環境チャレンジ2050

チャレンジ 内容
ライフサイクルCO2ゼロ
チャレンジ
車両の製造から物流、素材に至るまでのライフサイクル全体で、カーボンニュートラルを目指しています。2030年までに2019年比でGHG排出量を30%削減することを目標として定めています。
新車CO2ゼロチャレンジ 2050年までに新車の走行における平均GHG排出量のカーボンニュートラルを目指しています。
工場CO2ゼロチャレンジ 2050年までにグローバル工場のCO2排出をゼロにする取り組みです。2035年の早期達成に向けて現在取り組んでいます。
水環境インパクト最小化
チャレンジ
水使用量を最小化したり排水を抑えたりすることで、水量や水質を管理する取り組みです。水環境インパクトの大きい地域から優先的に対策を実施しており、すでに北米・アジア・南アフリカの全22拠点でインパクト評価と対策を実施しています。
循環型社会とシステム構築チャレンジ 適正処理やリサイクル技術を使って、資源を効率よく循環させる取り組みです。廃車になったときに車両を解体しやすいような資源循環を推進する設計にしており、すでに30カ所で廃車適正処理のモデル施設を設置しています。
人と自然が共生する未来
づくりへのチャレンジ
「自然と共生する工場」を目指し、工場周辺の生態系維持のため、生物の個体数を調査したり、清掃や外来種の防除を行ったりしています。また、トヨタ環境活動助成プログラム(2020年終了)では、海外プロジェクト1件あたり700万円を上限、国内プロジェクト1件あたり300万円を上限として、環境保全のための次世代を担う人材育成と環境問題の解決を目指す民間非営利団体などが実施するプロジェクトを助成してきました。

水素エンジンの開発

また、トヨタ自動車は、CO2を排出しない水素を燃料とする水素エンジンの開発に取り組んでいます。水素エンジンは内燃機関技術を活用し、水素を燃料とすることで燃焼時に温室効果ガスであるCO2を排出しないのが特徴です。

トヨタは水素エンジン技術を用いた車両を開発し、2014年に量産車「MIRAI(ミライ)」を発売しました。また、2021年5月には世界初となる水素エンジン搭載車両でのレースに参戦しました。耐久レースの過酷な環境下での実践的なテストを通じ、トヨタは水素エンジン技術の発展の迅速化に努めています。

2023年7月からは、燃料電池及び水素関連商品開発のための「水素ファクトリー」という組織を新設し、依然として高額な水素のコストを抑え水素自動車を普及させるため、次世代燃料電池システムの開発や水素製造技術の開発、また水素自動車市場のある地域での開発・生産拠点の設立に取り組んでいます。

(※参照:トヨタ自動車「サステナビリティ」)

2-2 パナソニック(6752)

パナソニックは、白モノ家電が主軸の大手電機メーカーです。2022年度の売上高は8兆3,789億円と、前年度比13%増の伸びを見せました。多様な製品・サービスを提供しており、業務用機器、自動車関連製品、産業機器、エネルギーソリューションなど幅広い領域で事業を展開しています。
(※参照:パナソニック「2022年度決算概要」)

パナソニックは、事業活動を通じて地球環境や人々のウェルビーイングに貢献することを掲げてESG・サステナビリティに取り組んでいます。例えば、CO2の排出量を削減する取り組み「Panasonic Green Impact」では、2050年に向けて世界のCO2総排出量の約1%にあたる、3億トンの削減を目指しており、以下3つの目標に分けて取り組みを進めています。

Green Impact

  • OWN IMPACT(自社バリューチェーンにおける排出削減インパクト)
  • CONTRIBUTION IMPACT(既存事業による社会の排出削減貢献インパクト)
  • FUTURE IMPACT(新事業・新技術による社会の排出削減貢献インパクト)

「OWN IMPACT」は、自社のバリューチェーンにおける排出量を1.1億トン削減するための取り組みです。CO2ゼロの工場を増やし、オフィスや家電商品を省エネルギー化することで、CO2の排出量をゼロにすることを目指しており、すでに日本、ブラジル、コスタリカ、中国の4拠点6工場で取り組みが実施されています。

「CONTRIBUTION IMPACT」は、既存の事業領域で、顧客・社会のCO2排出量1億トンの削減に貢献するための取り組みです。すでに提供されている純水素型燃料電池やEV用リチウムインバッテリーなどの環境にやさしい製品を普及・活用することで、CO2排出量の削減に取り組んでいます。

「FUTURE IMPACT」は、現在開発している新しい技術(ペロブスカイト太陽電池、水素エネルギー等)を使うことで社会全体のCO2排出量1億トンの削減を目指す取り組みです。

水素を活用した自家発電の実証実験

2022年4月、同社は純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせたシステムで自家発電し、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うための実証施設、「H2 KIBOU FIELD」の稼働を開始したことを発表しました。純水素型燃料電池は、水素を燃料として使用し、発電と同時に発生する熱を利用することで高いエネルギー効率を実現する技術です。一方、太陽電池は太陽光を利用して直接電力を発電します。また余剰電力を蓄えるリチウムイオン蓄電池を備えることで、工場の屋上など限られたスペースで発電しつつ、電力使用量ピーク時に蓄電池で補う仕組みを目指しています。

これらの再生可能エネルギーを組み合わせることで、自社の持続可能な自家発電システムを構築するとともに、蓄積されたノウハウを活かし事業化も目指しています。

次世代太陽電池の開発

ペロブスカイト太陽電池とは、次世代の太陽電池技術の一つで、ペロブスカイトと呼ばれる特殊な結晶構造を持つ材料を使用して光エネルギーを電気エネルギーに変換できるのが特徴です。印刷によって基盤に塗布できるため、従来のシリコン太陽電池に比べて製造コストを抑え、活用方法の自由度が高まることが期待されています。

パナソニックは2014年からペロブスカイト太陽電池の開発に乗り出しており、2023年1月にはラスベガスで開催された国際的なテクノロジー展示会「CES 2023」で本太陽電池を用いた展示を行いました。パナソニックが掲げる「Green Impact」目標達成の要素技術として開発に取り組まれています。

(※参照:パナソニック「サステナビリティ」)

2-3 日清食品(2897)

日清食品は、即席ラーメンを製造・販売する大手食品メーカーです。創業者である安藤百福氏によって1958年に設立され、世界的に有名な即席ラーメン「カップヌードル」の発明で知られています。

日清食品は、「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」と呼ばれるグループ独自の環境戦略を策定し、ESG・サステナビリティに取り組んでいます。「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」は、地球資源の保護と有効活用に取り組む「資源有効活用へのチャレンジ (EARTH MATERIAL CHALLENGE)」と、CO2排出量削減に取り組む「気候変動問題へのチャレンジ (GREEN FOOD CHALLENGE)」の2本柱で構成されています。

資源有効活用へのチャレンジ(EARTH MATERIAL CHALLENGE)

「資源有効活用へのチャレンジ (EARTH MATERIAL CHALLENGE)」では、森林や生物多様性の保全、資源問題に対応するため、持続可能な調達率100%を目指しています。例えば、カップヌードルに使用されるパーム油の調達を、RSPO認証のパーム油とする取り組みです。RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)認証とは、持続可能なパーム油の生産に関する国際的な認証制度です。日清食品では、2021年度はRSPO認証パーム油の使用比率は36%でしたが、2030年までにRSPO認証及び自社として持続可能と認められる材料調達に100%切り替えることを目指しています。

この他にも、2030年度までに2015年比で廃棄物総量を50%削減、また再資源化率を99.5%にすることを目指しています。2021年6月に、「カップヌードル」製品のフタの形状をWタブに変え、プラスチック製のフタ止めシールを廃止しました。これにより、年間33トンのプラスチック削減効果があると同社は発表しています。また2023年6月からは、「カップヌードル ビッグ」シリーズでもWタブの導入が始まり、年間約8トンのプラスチック削減効果があると同社は見ています。

(※参照:日清「資源循環・廃棄物管理」、「『カップヌードル ビッグ』シリーズに“Wタブ”を2023年6月から採用」)

気候変動問題へのチャレンジ (GREEN FOOD CHALLENGE)

「気候変動問題へのチャレンジ (GREEN FOOD CHALLENGE)」の例としては、スコープ3にあたる、サプライヤー等事業関連会社のCO2排出量を25%削減をすることを目標としています。そのための取り組みとして、環境負荷の低い植物代替肉、培養肉の開発を進めています。畜産に必要な餌や水、また牛のゲップや糞尿から排出されるメタンガスは、温室効果ガスの主要因の一つとして挙げられているためです。同社は、2019年3月にサイコロステーキ状のウシ筋組織の作製に世界で初めて成功しています。

また、「カップヌードル」ブランドの容器を、バイオマスECOカップに切り替え始めています。同社のバイオマスECOカップは、バイオマス度80%以上の容器であり、従来と比べて石化由来プラスチックを50%削減するとともに、ライフサイクル全体で排出するCO2排出量を16%削減する効果があると同社は見ています。

その他にも、2020年3月から東京本社の使用電力の50%をごみ発電電力に切り替えるなど、スコープ1、2にあたる自社及び関連子会社のCO2排出量42%削減を目指しています。

(※参照:日清「サステナビリティ」)

2-4 資生堂(4911)

資生堂は、化粧品の製造や販売を行うメーカー企業であり、2022年12月期決算は売上高1兆674億円と国内化粧品業界トップ規模です。企業のミッションとして「BEAUTY INNOVATION FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」を掲げており、化粧品を手掛けるビューティーカンパニーならではのアプローチで、人々が幸福を実感できるサステナブルな社会の実現を目指しています。
(※参照:資生堂「2022年度決算説明資料」)

美の力によるエンパワーメント

資生堂は、ダイバーシティ&インクルージョンを重要な経営戦略として位置づけており、「ジェンダー平等」と「美の力によるエンパワーメント」を戦略的アクションと設定しました。具体的には、「美」に対する様々な偏見や無意識の思い込み(Unconscious Beauty Bias)を取り払い、「自分らしい美しさ」を誰もが実感、実現できるような社会を目指しています。

同社は、2020年10月に「Sustainable Beauty Actions」に取り組み始めており、その一環として2022年9月に体験型ウェブサイト「SEE, SAY, DO.」プロジェクトを開始しました。このプロジェクトは、美に対する無意識の思い込みを調査(SEE)、議論(SAY)、そして払拭するための行動(DO)の3フェーズで構成されています。リサ・ジェンキンス博士監修のもと、世界10か国で5,000個の体験談を収集・調査し、それをベースに資生堂社員の体験や思いを共有・議論し、具体的なアクションにつなげていく取り組みです。

また、がんサバイバーへの支援として、2008年からがん治療の副作用と外見ケアに関する本を発刊したり、がんサバイバーを支援する「LAVENDER RING」に参画しアジア各国でヘアメイクとポートレート撮影の支援を行ったりしています。誰もが病気にかかるリスクがある中、美の力で病気になっても自分らしく生きることのできる社会を目指しています。

資生堂5Rs

環境への取り組みについては、環境負荷を低減するため、独自の容器開発ポリシーである「資生堂5Rs」に基づきサステナブルな製品を開発しています。「資生堂5Rs」とは、リスペクト、リデュース、リユース、リサイクル、リプレイスの5つのRを指しています。

例えば、リサイクル・リユース可能な設計、バイオマス由来の素材の活用、「つめかえ」と「つけかえ」容器の展開を拡大することで、プラスチック量の削減とサーキュラーエコノミーへの転換に取り組んでいます。2025年までには100%サステナブルな容器に切り替えることを目指しています。

(※参照:資生堂「サステナビリティ」)

3 まとめ

2050年のカーボンニュートラル実現に向けた様々な取り組みが本格化する中、国内メーカー企業も持続可能な社会の実現に向けて、サプライチェーン全体で温室効果ガス削減や再生可能エネルギー活用に取り組む企業が増えています。自動車、家電、食品、化粧品など、自社製品の素材をサステナブルな調達に切り替えたり、自社製品を使ってもらうことで持続可能な社会の実現を目指したり、取り組まれているアプローチは様々です。

国内メーカー企業のESG・サステナビリティの取り組み内容に興味のある方は、ご自身でもお調べになった上で、検討してみてください。

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HEDGE GUIDE 編集部 株式投資チーム

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