欧州銀行連盟(EBF)、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)、ネットゼロ銀行同盟(NZBA)は7月18日、欧州連合(EU)の脱炭素産業戦略「クリーン産業協定(CID)」の実現に向けた6つの提言を発表した。EUの2030年気候目標達成には年間1.24兆ユーロ(約1兆4,500億米ドル)の投資が必要とされ、欧州経済の約70%を支える銀行セクターの積極的な関与が成功の鍵を握る。
CIDは、2025年2月に欧州委員会が発表したEUの主要産業戦略で、脱炭素化を欧州産業の成長エンジンとすることを目指している。これまでEU加盟国27か国がそれぞれ独自の産業政策を展開してきたことで、国境を越えたイノベーションの停滞やプロジェクトの遅延、民間資本の投資意欲減退といった課題が生じていた。EU全体で統一された産業政策を策定することで、プロジェクト開発者、企業、銀行、金融機関にとっての確実性を高め、クリーン産業の発展を加速させる狙いがある。
今回の提言では、中小企業(SME)への革新的支援の提供が最重要項目として挙げられた。具体的には、銀行によるシンプルで拡張可能なグリーンローンやサステナビリティ連動型商品の開発、信頼性の高い移行計画策定を支援するアドバイザリーサービスの提供などが含まれる。また、水素やグリーンスチールなどの新技術に対する投資リスクを軽減するため、保証やブレンデッドファイナンスの拡大も提案された。新設される産業脱炭素銀行は、補助金、保証、差額決済取引を組み合わせて1,000億ユーロ(約1,170億米ドル)の資金供給を目指している。
さらに、EU排出量取引制度(ETS)や炭素国境調整メカニズム(CBAM)を通じた強力で予測可能な炭素価格設定、許認可プロセスの簡素化による開発期間の短縮、産業政策とエネルギー政策の統合なども重要な提言として盛り込まれた。欧州委員会は2025年第4四半期に「脱炭素化促進法」の公表を予定しており、産業向けエネルギーアクセスと脱炭素化の許認可プロセスを合理化することで、クリーンテクノロジー開発の加速が期待される。
UNEP FIのエリック・アッシャー代表は「CIDは銀行や金融機関の投資リスクを軽減し、経済全体の低炭素開発への資金調達を拡大する大きな可能性を秘めている」と評価。EBFのウィム・マイズCEOは「銀行、企業、政策立案者の主要ステークホルダーを結集することが、CIDへの銀行の参加を最大化する鍵となる」と強調した。
今後2年間で欧州委員会はCID実施を支援する一連の産業政策イニシアティブを策定する予定で、UNEP FI、NZBA、EBFは引き続き政策のさらなる発展に向けて銀行、金融機関、政策立案者間の対話の機会を提供していく方針だ。

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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