賃貸用物件を購入するには多額の資金が必要になるため、資金を貯めて現金一括で購入する方法と、融資を受ける方法の2通りがあります。
そこで今回のコラムでは、現金で支払うのとローンを活用する際のメリットとデメリットについて解説していきます。現金とローンのどちらがいいのか迷った際には、本記事を参考に比較検討してみてください。
目次
- 現金一括で不動産を購入する場合のメリット
1-1.欲しい物件を購入できる
1-2.購入までの期間が短い
1-3.物件の購入代金が抑えられる - 現金一括で不動産を購入する場合のデメリット
2-1.手持ちの現金が減る
2-2.投資資金の回収に時間がかかる
2-3.レバレッジ効果が得られない - 不動産投資ローンで不動産を購入するメリット
3-1.頭金が貯まった時点で始められる
3-2.金融機関からの信用が得られる
3-3.ローンに関する費用を経費に計上できる - 不動産投資ローンで不動産を購入するデメリット
4-1.申し込みに関する書類が必要になる
4-2.ローンに関わる費用が必要になる
4-3.ローンの返済リスクがある - 不動産投資で現金一括とローンで迷う場合の判断ポイント
5-1.イールドギャップ(投資利回りと金利との差)が取れるか
5-2.2戸(棟)目の拡大戦略を行うか
5-3.購入したい不動産の担保性 - まとめ
1 現金一括で不動産を購入する場合のメリット
現金一括で賃貸用物件を購入する場合の代表的なメリットとして次の3つを紹介します。
1-1 欲しい物件を購入できる
金融機関から融資を受けるには、各金融機関で設けられた審査をクリアしなければなりません。
しかし、融資申し込み者が高齢であり属性が足りないと判断された場合や、再建築不可物件など担保性の低い物件では審査に通らないこともあります。
反対に現金一括で購入できるのであれば、このような融資審査の過程を経ずに自分の欲しい物件を購入することができます。つまり金融機関の審査に左右されることなく、自分の始めたいときに不動産投資を始めることができるのです。
なお、不動産投資ローンが組みにくくなってしまう状況としては下記のようなことがあります。
- 健康状態がよくない
- 年収が低い
- 勤続年数が長くない
- 物件の担保としての評価が低い
- 完済時の年齢が高い
- 保証会社の保証が受けられない可能性がある
このような場合も、現金一括なら賃貸用物件を購入することが可能です。
1-2 購入までの期間が短い
不動産投資ローンを活用して物件を購入する場合は、金融機関への仮審査、本審査の申し込みを行い、審査の決定を待って初めて購入に至ることができます。それに対して現金一括であれば、売買契約を締結してすぐに決済できるので購入までの期間が短くなります。
特に中古物件を購入する際は、ローンを活用する場合は引き渡しまで数週間かかります。ローンの申し込みを行う場合は、下記のような流れになります。
- ローンの仮審査を申し込む
- 物件購入の申し込みを行う
- 売買契約を締結する
- ローンの本審査を申し込む
- 金銭消費貸借契約を締結する
- 融資実行と物件の引渡しを行う
1〜3までに2週間程度、さらに4〜6で2週間程度かかりますが、現金一括で購入する場合は、この期間が必要ありません。
不動産会社によっては現金一括で支払いを行う場合、好条件の物件を優先的に紹介するケースもあります。ローン申し込みの手間や審査落ちのリスクがないためです。
1-3 物件の購入代金が抑えられる
現金一括で物件を購入すると、不動産投資ローンを活用しないので、金利を払う必要がないというメリットがあります。
不動産投資のためにアパートやマンションを購入すると、数千万円の資金が必要です。購入資金にローンを活用した場合、返済期間が20年以上になることも多く、支払う金利負担も多くなってしまうのです。
例えば、返済期間を25年、金利2%とした場合の返済総額を表にすると、下記のようになります。
借入金額 | 総返済額 |
---|---|
2,000万円 | 2,543.1万円 |
3,000万円 | 3,814.6万円 |
4,000万円 | 5,086.2万円 |
5,000万円 | 6,357.8万円 |
5,000万円を借り入れた場合、25年間で支払う利息は1,357万円以上にもなってしまいます。一方、現金一括で支払う場合はこの利息分の支払いがありません。そのため物件の購入に関する総支払額を抑えることができるのです。
中には、売主が売却を急いでいる場合に、交渉によっては物件価格を安くしてもらえるケースもあります。ローンでは審査に時間がかかってしまいますが、現金一括であれば売主はすぐに現金を手にすることができるため、減額をしてでも交渉に応じるケースがあるのです。
2 現金一括で不動産を購入する場合のデメリット
一方、現金一括で物件を購入する際にはデメリットもあります。代表的な3つを紹介します。
2-1 手持ちの現金が減る
現金で支払うということは手元にある現金が減るということになります。
賃貸物件を経営していくには経費も必要で、手元に現金がない場合、急な出費に対応できないことも考えられます。特に資金が貯まるまで、設備の交換や修繕工事ができないといった事態になると、入居者の快適性に関わり退去に至る可能性もあります。
2-2 投資資金の回収に時間がかかる
現金一括で物件を購入する場合、多額の資金が必要になります。そのため、初期投資した金額を回収するのに時間がかかってしまうこともデメリットの一つです。
例えば、3,000万円で購入した物件の家賃収入が月額20万円とします。この場合、3,000万円の投資資金を回収するには、150カ月、つまり12年半かかります。
これに対してローンを活用して600万円の頭金で物件を購入すると、家賃収入が月額20万円であれば、投資した金額は30カ月で回収できることになります。
実際はローンの返済額などもありこの通りではありませんが、投資資金を短い期間で回収できるということは、ローンを活用した時の大きなメリットとなります。
2-3 レバレッジ効果が得られない
例えば、3,000万円の賃貸用物件を自己資金600万円+借入金2400万円で購入した場合、600万円の自己資金で3,000万円分の運用を行うことが可能になります。
しかし現金一括で物件を購入するとレバレッジ効果は得られないため、投資効率が下がります。不動産は値動きの少ない資産であるため、レバレッジを活用しない場合の投資効率は低く、投資規模を拡大するのに時間がかかってしまうデメリットがあります。
3 不動産投資ローンで不動産を購入するメリット
次に紹介するのはローンを活用して物件を購入したときに得られるメリットです。代表的な3つを見ていきましょう。
3-1 頭金が貯まった時点で始められる
賃貸用の物件を現金一括で購入するには、数千万円以上の資金を貯める必要があります。サラリーマンが本業であれば、そこまでの資金を貯めるのには通常何十年もかかる可能性があります。
それに対して、ローンを活用するのであれば、頭金として物件価格の2~3割程度の資金があり、属性に問題がなければ物件を購入することができます。つまりローンを活用すれば、現金一括で購入するよりも、より早い時期に不動産投資を始められるということなのです。
東京・横浜エリアの2,000万円~2,500万円規模の物件価格の多い「湘建」は、他社と比べて購入しやすい価格帯で融資実績も豊富です。まずは自身の融資限度額を知った上で、融資が通る物件を探していくと良いでしょう。
【関連記事】フルローンや低金利など融資に強い不動産投資会社の比較・まとめ
3-2 金融機関からの信用が得られる
不動産投資ローンを組むことは、金融機関からの信用が無ければできないことです。反対に考えると、金融機関からの信頼があるからローンを組めるのです。
またローンを返済することでも金融機関からの信用が上がります。例えば、3000万円の融資を受けて賃貸用物件を購入し、それを当初の計画通りに25年間で返済したとします。
このような場合、ローンを計画通りに返済してくれるオーナーだという印象を金融機関に対して与え、次の融資審査にもプラスに働くことがあります。
こうした実績があれば、次の物件を購入する機会に融資が得られやすくなる可能性があがり、投資規模の拡大を検討しているのであれば大きなメリットと言えるでしょう。
3-3 ローンに関する費用を経費に計上できる
ローンを組んだ場合には金利の支払いを行う必要があります。手元からお金が減ることになるのでマイナスとも捉えられますが、この金利の支払いは経費として計上することができます。つまり、収入から差し引くことができ、それによって課税所得を減らすことが可能です。
ただし、経費を計上して課税所得を減らしたとしても、手元の資金が減っているということには変わりありません。ローンの金利などを見極めて、必要以上に資金が減らないように注意しましょう。
4 不動産投資ローンで不動産を購入するデメリット
ローンを組むにはデメリットもあります。ここでは代表的な3つのデメリットを紹介していきます。
4-1 申し込みに関する書類が必要になる
金融機関でローンの審査をしてもらうには、書類の提出をすることになります。不動産会社が用意してくれるものもありますが、融資申込者が用意するものも数多くあります。下記で確認してください。
- 事業計画書
- 物件概要書(販売図面)
- 物件の家賃表(レントロール)
- 物件の土地・建物の登記情報、公図、建築確認済証
- 物件の売買契約書・重要事項説明書
- 直近3年分源泉徴収票や確定申告書・決算書
- 運転免許証、健康保険証など本人確認書類
- 履歴書
- 借入金がある場合はその返済予定表
- 預金通帳などの金融資産の確認資料
- 納税証明書
これらの書類を用意して初めてローンの審査をしてもらえます。
4-2 ローンに関わる費用が必要になる
ローンを組む場合は物件の購入費用以外にも、金融機関に支払う事務手数料などの諸費用が必要になります。
下記にまとめましたので参考にしてください。
- 事務手数料:金融機関により異なるが1万円〜3万円が相場
- 保証料:ローンの元金1000万円に対して20万円程度が相場
- 登録免許税:不動産登記を行う際に支払う税金。所有権移転登記のほか、抵当権設定登記の登録免許税など。
- 司法書士への報酬:所有権移転登記、抵当権設定登記に関する報酬
4-3 ローンの返済リスクがある
不動産投資でローンを活用する場合、家賃収入を原資にしてローンの返済を行っていきます。
しかし不動産投資には空室リスクや災害リスクなどのリスクがあり、空室になると家賃収入がゼロになることもあります。これらのリスクによってローンの返済が滞った場合、最終的には金融機関の抵当権によって物件を手放すことになる可能性があります。
このような返済リスクを抑えるためには、厳しくシミュレーションを行い、借入金額に対する収益のバランスを意識することが大切です。大きな借入をしてレバレッジをかけるほど投資効率が高くなりますが、返済リスクも高まってしまう点に注意しましょう。
5.不動産投資で現金一括とローンで迷う場合の判断ポイント
いずれの場合も、「現金一括」か「ローンを利用するか」について普遍的な回答はなく、投資家の資金状況や投資目的、また投資対象となる物件の個別の事情によって異なってくると言えるでしょう。準備できる自己資金と投資目的を再確認し、できるだけ長期的な視点で投資判断を行っていくことが大切です。
不動産投資で現金一括か、ローンを利用するかで迷う場合は、下記の3点に注目してみましょう。
- イールドギャップ(投資利回りと金利との差)が取れるか
- 2戸(棟)目の拡大戦略を行うか
- 購入したい不動産の担保性
5-1.イールドギャップ(投資利回りと金利との差)が取れるか
イールドギャップとは投資利回りと金利の差のことで、不動産投資においては経費を差し引いた月々の家賃収入と金利負担の差を表します。例えば、月々の家賃収入による利回りが3%であるのに対し、金利が4%であればイールドギャップが取れず、融資を利用する分損失が出てしまうということになります。このような物件を購入するのであれば、現金一括で保有するか、キャピタルゲイン(売却益)を狙って保有するなどの戦略になるでしょう。
2022年時点、日本の政策金利は非常に低い水準に設定されており、イールドギャップが取りやすい状況にあると言えます。しかし、その分不動産の価格上昇を招いており、都心部にある低リスクの物件などでは十分なイールドギャップが取れないケースも見られています。このような物件への投資を検討する場合には、現金一括での購入も選択肢の一つと考えることができます。
5-2.2戸(棟)目の拡大戦略を行うか
不動産投資ローンを活用する場合は2戸(棟)目の購入を検討しているか、拡大戦略をどのように設定しているかという視点も重要です。1戸(棟)目で自身の与信枠を使い切ってしまうと、次の資金計画が立てられず、売却するまで異なる物件への投資が出来なくなる可能性もあります。
一方、現金一括の場合には与信枠を使わずに済みますが、次の購入物件の初期費用や、いざという時の余剰資金が準備できるかどうか、という点が重要になってくるでしょう。
5-3.購入したい不動産の担保性
最後に、購入する不動産の担保性も重要なポイントになります。担保価値の低い物件で多額の融資を引いてしまうと、後の拡大が出来なったり、住宅ローンや車のカーローンなど、私生活での融資に悪影響を与える可能性もあります。
一方、現金一括の場合でも、できるだけ担保価値の高い物件を購入しておくことで、後の融資で共同担保に入れ、良い融資条件でローンを組める可能性が高まります。現金一括では融資を利用しないため担保価値の低い物件も投資対象とすることができますが、後に拡大を検討するのであれば慎重な判断が必要になります。
まとめ
記事で紹介したように、現金一括で購入するケースと、ローンを活用して購入するケースには、それぞれメリットとデメリットがあります。
現金一括の場合には、ローンを利用しないことで金利の支払いや審査が不要になるメリットがありますが、投資効率が下がってしまい、投資資金の回収に時間がかかる点がデメリットとなります。
一方、不動産投資ローンを活用すると投資効率が上がり、金融機関との関係性作りにもメリットがありますが、ローン審査の手間や費用負担、返済リスクを負うことになる点はデメリットとなります。
オーナーとしての経営スタイルや投資スタイルによって、どちらが合っているのか見極めるようにしましょう。
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倉岡 明広
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