不動産売却の譲渡益(損失)が損益通算できるパターンは?6つの控除例

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不動産売却で譲渡益または譲渡損が生じた場合、所得税制上、損益通算できる優遇措置があります。

損益通算の適用によっては、税額を大きく軽減できるケースもあります。また、マイホームの売却で譲渡益が生じた場合には、特例の適用選択につき注意したい点もあります。

この記事では、不動産売却の譲渡益または譲渡損が損益通算できるパターンを6つの事例で紹介し、注意点についても解説していきます。

※記事内の税金・税率などは2021年6月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 不動産売却の譲渡益が損益通算できるケース
    1-1.他の不動産売却の譲渡損と損益通算
    1-2.特定のマイホームの買換え等の特例によって課税繰延べ
    1-3.特定の事業用資産の買換え等の特例によって課税繰延べ
  2. 不動産売却の譲渡損が損益通算できるケース
    2-1.他の不動産売却の譲渡益と損益通算
    2-2.特定のマイホームの譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
    2-3.マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
  3. 不動産売却の損益通算を考える際の注意点
    3-1.不動産売却の譲渡益(損失)の損益通算は、例外的である
    3-2.マイホームの買換え特例は、3,000万円控除と比べて適用を判断する
    3-3.特例適用を受けるためには確定申告の際に手続きが必要である
    3-4.税理士など、専門家への相談も検討する
  4. まとめ

1.不動産売却の譲渡益が損益通算できるケース

不動産売却の譲渡益が損益通算できるケースとして、次の3つの事例を具体的な計算方法と併せて紹介していきます。

  • 他の不動産売却の譲渡損と損益通算
  • 特定のマイホームの買換え等の特例によって課税繰延べ
  • 特定の事業用資産の買換え等の特例によって課税繰延べ

1-1.他の不動産売却の譲渡損と損益通算

土地又は建物の譲渡によって譲渡益が生じた場合、同じ年に生じた、土地又は建物の譲渡による譲渡損と損益通算することが可能です。(※参照:国税庁「不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」)

たとえば、取得費・譲渡費用併せて3,000万円の物件を5,000万円で売却し、2,000万円の譲渡益が生じたとします。

同じ年に別の物件を売却して、1,500万円の譲渡損が生じている場合、その年の土地又は建物の譲渡所得は、2,000万円―1,500万円=500万円と計算されます。

ただし、土地又は建物の譲渡による譲渡損との損益通算に限定され、他の分離課税の所得(株式譲渡など)や総合課税の所得(給与、事業など)と損益通算することはできません。

1-2.特定のマイホームの買換え等の特例によって課税繰延べ

特定のマイホームを譲渡した譲渡益を利用して、再びマイホームに買換えた場合、その買換えたマイホームを売却するまでその譲渡益を繰り延べる特例があります。

税制上、厳密には損益通算ではありませんが、実際のキャッシュフローの観点からは、マイホームの売却収入を買換え時の購入支出と相殺できることになります。

たとえば、1,000万円で取得したマイホームを5,000万円で売却し、7,000万円のマイホームに買換えた場合、4,000万円の譲渡益は買換えたマイホームの取得資金に充てたものとされ、その時点では課税されません。

その代わり、買換えたマイホームを売却するときの取得価格は、買換え前のマイホームの取得価格1,000万円と買換え時の上乗せ支出額2,000万円の合計額として譲渡益が計算されます。

なお、譲渡収入をマイホームの購入の際に使い切っている場合、譲渡益はなかったものとみなされます。なお、適用には、主に次のような要件があります。

  • 売却したマイホームについて過去3年以内に一定の特例の適用を受けていないこと
  • 自己が居住しなくなってから3年以内の売却であること
  • 売却した年の1月1日において、所有・居住期間が10年を超えていること
  • 買換える建物の床面積が50平米以上であり、土地面積が500㎡以下であること
  • 売却した年の前年から翌年までの3年以内に買換えること
  • 買換える建物が築25年以内か、一定の耐震基準を満たすこと

※参照:国税庁「居住用財産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算

1-3.特定の事業用資産の買換え等の特例によって課税繰延べ

特定の事業用資産を譲渡した譲渡益を利用して、一定の事業用資産に買換えた場合、買換えた事業用資産を売却するまでその譲渡益の80%を繰り延べる特例があります。この特例も、マイホームの買換え特例と同様、特定の事業用資産の売却収入のうち80%までを買換え時の購入支出と相殺できます。

たとえば、1,000万円で取得した事業用資産を5,000万円で売却し、7,000万円の事業用資産に買換えた場合、4,000万円×0.2=800万円が譲渡所得として売却時に課税されます。

譲渡益の残額4,000万円×0.8=3,200万円は、買換え資産の取得価格となり、買換え資産の売却まで課税が繰り延べられます。なお、主な適用条件は次のようになっています。

  • 売却した年の1月1日において、その事業用資産の所有期間が10年を超えること
  • 売却した年の前年から翌年までの3年以内に買換えること
  • 買換えした事業用資産を取得日から1年以内に事業の用に供すること

※参照:国税庁「事業用の資産を買い換えたときの特例

2.不動産の譲渡損が損益通算できるケース

不動産売却の譲渡損が損益通算できるケースとして、次の3つの事例を具体的な計算方法と併せて紹介していきます。

  • 他の不動産売却の譲渡益と損益通算
  • 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
  • マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例

2-1.他の不動産売却の譲渡益と損益通算

土地又は建物の譲渡によって譲渡損が生じた場合、同じ年に生じた、土地又は建物の譲渡による譲渡益と損益通算することが可能です。

たとえば、取得費・譲渡費用併せて5,000万円の物件を3,000万円で売却し、2,000万円の譲渡損が生じたとします。同じ年に別の物件を売却して、2,500万円の譲渡益が生じている場合、その年の土地又は建物の譲渡所得は、2,500万円―2,000万円=500万円と計算されます。

ただし、他の分離課税の所得(株式譲渡など)や総合課税の所得(給与、事業など)との損益通算には特例を活用する必要があります。こちらについては項目「2-3.マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例」で解説します。

2-2.特定のマイホームの譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例

住宅ローンの残っているマイホームを、住宅ローン残高を下回る価格で売却して譲渡損が生じたとき、その譲渡損を給与所得や事業所得などと損益通算することができます。その年に控除しきれなかった部分の損失は、売却後3年間、繰越控除して損益通算することができます。

たとえば、取得費・譲渡費用併せて5,000万円のマイホームを3,000万円で売却し、住宅ローン残高が4,000万円だったとします。ローン残高と売却価格の差額4,000万円―3,000万円=1,000万円が、この特例の損益通算及び繰越控除の対象となります。(※説明を簡潔にするため、減価償却などは考慮していません。)

売却年の給与所得が600万円だったとすると、売却年の課税所得は、600万円<1,000万円であり、ゼロとなります。1,000万円―600万円=400万円の損失が翌年以降に繰越されます。売却の翌年の課税所得も600万円であるとすると、翌年の課税所得は、600万円―400万円=200万円と計算されます。

主な適用条件は、次のようになります。

  • 売却した年の1月1日において、そのマイホームの所有期間が5年を超えていること
  • 買い換える建物の床面積が50平米以上であること
  • 自己が居住しなくなってから3年以内の売却であること
  • 売却したマイホームの売却日前日において、返済期間10年以上の住宅ローン残高があること
  • マイホームの譲渡価格が住宅ローン残高を下回っていること

※参照:国税庁「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき

2-3.マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例

マイホームを売却して、新たなマイホームに買換えた場合、元のマイホームの売却によって譲渡損が生じたときは、その譲渡損失を給与所得や事業所得などと損益通算できる特例があります。その年に控除しきれなかった部分の損失は、売却後3年間、繰越控除して損益通算することができます。

たとえば、5,000万円で取得したマイホームを4,000万円で売却し、4,000万円のマイホームに買換えたとします。売却年の給与所得が600万円であるとすると、1,000万円の譲渡損との損益通算により、売却年の課税所得はゼロとなります。(※説明を簡潔にするため、減価償却などは考慮していません。)

1,000万円―600万円=400万円の損失が翌年以降に繰り越されます。売却年の翌年の給与所得も600万円であるとすると、繰越控除により、翌年の課税所得は、600万円―400万円=200万円と計算されます。

主な適用条件は次のようになります。

  • 売却した年の1月1日において、そのマイホームの所有期間が5年を超えていること
  • 買い換える建物の床面積が50平米以上であること
  • 自己が居住しなくなってから3年以内の売却すること
  • マイホームを売却した年の前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 新しいマイホームを購入してから1年以内に居住すること
  • 売却したマイホームの売却日前日において、返済期間10年以上の住宅ローン残高があること

※参照:国税庁「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき

3.不動産売却の損益通算を考える際の注意点

不動産売却の譲渡益または譲渡損の損益通算などを検討する際は、次の3つの点に注意するとよいでしょう。

  • 不動産売却の譲渡益(損失)の損益通算は、例外的である
  • マイホームの買換え特例は、3,000万円控除と比べて適用を判断する
  • 特例適用を受けるためには確定申告の際に手続きが必要である
  • 税理士など、専門家への相談も検討する

3-1.不動産売却の譲渡益(損失)の損益通算は、例外的である

土地又は建物等の譲渡による譲渡所得は、所得税制では分離課税とされており、給与所得が事業所得、不動産所得などの総合課税の所得と損益通算できず、株式等の譲渡所得などの他の分離課税の所得とも損益通算できないものとされています。

また、土地又は建物の譲渡による譲渡所得であっても、過去の年分の損失を翌年以降の利益と損益通算(繰越控除)することは原則できません。マイホームを売却あるいは買換えた場合の損益通算や繰越控除、課税の繰延べなどの優遇税制は、例外的な制度であることに注意しましょう。

3-2.マイホームの買換え特例は、3,000万円控除と比べて適用を判断する

マイホームを売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除する優遇税制もあります。いずれか一方の特例適用を受けた場合、他方の特例の適用を受けることができなくなります。買換え特例と3,000万円控除の特例とを比較してどちらの適用を受けるかを判断するようにしましょう。

3,000万円控除の特例は、譲渡所得税を繰り延べるのではなく軽減することができます。譲渡益が3,000万円以下であれば利用することを検討してみましょう。

譲渡益が3,000万円を超えており、買換え後のマイホームを長期的に保有する見込みである場合は、買換え特例を選択するメリットも大きいといえるでしょう。

3-3.特例適用を受けるためには確定申告の際に手続きが必要である

不動産を売却した場合、譲渡所得税の確定申告を行います。マイホームを売却あるいは買換えた場合の損益通算及び繰越控除の特例などの適用を受けるときは、通常の確定申告書に加えて、所定の明細書や計算書、添付書類を付けることが必要になります。

添付書類は、マイホームに関する登記事項証明書や売買契約書の写し、借入金の残高証明書などを添付することが必要になります。適用を受ける特例によって添付すべき書類が異なるので、確定申告の前に確認し、準備しておくようにしましょう。

3-4.税理士など、専門家への相談も検討する

不動産売却における損益通算を行うには、高度な税の知識を必要とし、特例の適用条件の確認や、確定申告の手間など様々な作業が発生します。これらの作業は自身でも行うことが可能ですが、不動産売却の手続きと並行して行うには大きな手間と時間を要します。

例えば、マイホームの買換え特例と3,000万円控除の特例は同時に適用できず、どちらからを選択すると一方の適用が出来なくなります。税制改正も頻繁に行われるため、特例の適用条件を誤ってしまうケースも考えられます。

これらの手間やリスクを排除したい方は、税理士への相談も検討してみると良いでしょう。税理士報酬がかかってしまう点はデメリットですが、確定申告を代行してもらえたり、的確な税関連のアドバイスをもらうことが可能になる点は大きなメリットです。

不動産売却に強い税理士を探す場合、「税理士紹介サイト」を利用して紹介してもらうという方法があります。税理士紹介サイトでは、コーディネーターが相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。

例えば、無料で利用できる「税理士ドットコム」は、全国5,900名の税理士の中から希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。

それぞれ税理士には得意分野があります。不動産売却に関連したことを依頼するのであれば、複数の税理士を比較し、不動産売却に強い税理士を探してみましょう。

まとめ

不動産売却の譲渡益または譲渡損は、同じ年の不動産売却の譲渡損または譲渡益とのみ損益通算できるのが原則です。特例もありますが、例外的な措置であることに注意しましょう。

なお、適用を受ける場合には、確定申告の前に要件や手続きを確認しておくことも大切です。マイホームの売却で譲渡益が生じた場合、特例の適用を検討する際は、3,000万円控除と買換え等の特例を比較してみましょう。

これらの手続きや適用すべき特例が分からない場合は、税理士への相談も検討することが大切です。税理士報酬はかかりますが、手間やリスクを抑えられるうえ、費用以上の税制メリットを受けられることもあります。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。