不動産売却にかかる税金はいくら?計算手順や税控除に使える特例も紹介

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不動産の売却は収入額が大きくなりやすく、多額の税金が発生する場合があります。不動産売却で売却益が出た際の譲渡所得税の計算と確定申告は税理士などの専門家へ相談するか、自分で行う必要があります。

サラリーマンの方は、給与の所得税納付は会社の年末調整に任せており、確定申告は馴染みが薄いという場合も多いでしょう。しかし、譲渡所得税の計算手続きでは特別控除などの特例があり、それを利用することで納める税金が大きく軽減される場合があります。

適正な納税をおこなうためには、譲渡所得税の計算の仕組みや特例について正しい知識を備えておくことが大切です。

そこでこの記事では、不動産売却にかかる税金について網羅的に説明したうえで、特に、譲渡所得税にかかる計算手順や特別控除などの特例について解説します。

※記事内の税金・税率などは2021年4月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁のウェブサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。

目次

  1. 不動産を売却したときにかかる税金とは
    1-1.印紙税
    1-2.登録免許税
    1-3.譲渡所得税・住民税
  2. 譲渡所得税の計算方法
    2-1.取得費の計算方法
    2-2.取得費が不明な場合
    2-3.売却費用の計算方法
  3. 不動産売却に関する譲渡所得税の特別控除と特例
    3-1.マイホームの特別控除と買い換え特例
    3-2.損をしたときの損益通算と繰越控除の特例
  4. 相続した不動産の売却と利用できる特例
    4-1.相続税の取得費加算
    4-2.空き家の特別控除
  5. 譲渡所得税の計算例
  6. まとめ

1.不動産を売却したときにかかる税金とは

不動産を売却したときにかかる税金は、主に、印紙税、登録免許税、譲渡所得税、住民税の4つになります。売買契約時には、売買契約書の作成について、売買代金に応じた印紙税がかかります。

この時、登記手続きが必要になれば、登録免許税がかかります。売却について利益が出た場合、翌年以降、譲渡所得税と住民税がかかることになります。

1-1.印紙税

売買契約書の作成の際には、契約書に収入印紙を貼付して印紙税を納めることになります。不動産の売買価格によって印紙税の金額は次のようになっています。なお、令和4年3月31日までに作成される「不動産譲渡契約書」の印紙税は、軽減措置により原則の半額となっています。

売買価格 印紙税額
1万円未満 非課税
1万円超50万円以下 200円
50万円超100万円以下 500円
100万円超500万円以下 1,000円
500万円超1,000万円以下 5,000円
1,000万円超5,000万円以下 10,000円
5,000万円超1億円以下 30,000円
1億円超5億円以下 60,000円
5億円超10億円以下 160,000円
10億円超50億円以下 320,000円
50億円超 480,000円

1-2.登録免許税

物件にローンが残っていて、設定されている抵当権を抹消しなければならないなど、個別事情により、登記が必要な場合は、それぞれ規定の登録免許税がかかります。

登記の種類 登録免許税額
抵当権抹消登記 不動産1個につき1,000円 
住所変更登記 不動産1個につき1,000円 
相続による所有権移転登記 不動産の固定資産税評価額×0.4% 
贈与による所有権移転登記 不動産の固定資産税評価額×2%
分筆登記 不動産1個につき1,000円 

1-3.譲渡所得税・住民税

不動産の売却について利益が出た場合、売却した年の翌年3月15日までに確定申告をおこない、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税が課されることになります。

不動産の譲渡所得税は分離課税という方式を採用しており、総合課税の所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)とは、分離して所得や税額を計算するという特徴があります。

住民税は、譲渡所得税の確定申告の計算に基づいて、各市区町村が翌年6月頃に決定し、賦課してきます。それぞれの税率は、売却した不動産の保有期間に応じて下表のようになっています。

短期譲渡所得(5年以下) 長期譲渡所得(5年超)
譲渡所得税(復興所得税を含む) 30.63% 15%
住民税 9% 5%

2.譲渡所得税の計算方法

譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。

譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除

譲渡価格は売却した価格です。取得費は不動産を入手するのにかかった費用、売却費用は売却するときにかかった費用、と考えることができますが、それぞれ、含めることができる費用はある程度決められているといえます。

また、建物を売却したときは、減価償却費を取得費から差し引かなければなりません。以下では、取得費と売却費用の計算方法について解説します。

2-1.取得費の計算方法

譲渡所得における取得費は、次のように計算します。

取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)

取得価格とは、購入時の価格のことです。なお、土地から建物を建築した場合は建築費用になります。

主な取得費用

取得費用には様々な種類のものが考えられますが、主に次のような費用となります。

  • 仲介手数料・登記費用
  • 登録免許税・不動産取得税・印紙税
  • 立退料
  • 土地の造成費用
  • 測量費用
  • 所有権確保のための訴訟費用
  • 建物付き土地の建物取り壊し費用
  • 土地・建物利用開始前の借入利子
  • 購入契約時の違約金

取得後の改良費と減価償却費

取得後の改良費とは、修繕費ではなく物件の価値を高めるような費用になります。例えば、原状回復ではない大規模な修繕支出であれば、取得後の改良費に含められます。

建物を売却した場合は、減価償却費を差し引かなければなりません。減価償却費というのは、経年劣化によって目減りした価値部分です。減価償却費は目的や構造によって償却率が決まっていて、次のように計算します。

減価償却費=建物の取得費×0.9×償却率×経過年数

居住用建物の償却率は次のようになっています。ただし、賃貸などの事業用に供していなかった場合、法定耐用年数の1.5倍を用います。

構造 耐用年数(法定の1.5倍) 償却率(法定の1.5倍) 
木造 22(33) 0.046(0.031)
軽量鉄骨 27(40) 0.038(0.025)
鉄筋コンクリート 47(70) 0.022(0.015)

2-2.取得費が不明な場合

購入時の売買契約書を紛失してしまったり、相続によって取得した先祖伝来の不動産であったりして、購入時の取得費が不明な場合もあります。その場合、売却価格の5%を取得費とできる概算取得費の制度があります。

しかし、これでは譲渡所得がかなり大きくなってしまい、実態にそぐわないということも考えられます。そのため、合理的な計算方法によって推計された取得費であれば、認められる可能性もあります。

たとえば、国税不服審判所の判断では、土地取得価格については市街地価格指数、建物取得価格については着工建築物構造別単価を用いることを認めたケースもあります。

ただし、これは一事例であり税務慣行とまでは言えません。取得費が不明な場合は、税理士に相談するなどして慎重に計算するようにしましょう。

2-3.売却費用の計算方法

売却する時に要した費用として、譲渡所得の計算に含めることができるのは、税務慣行上、次のようなものに限定されているといえます。

  • 仲介手数料
  • 立退料
  • 土地の上にある建物の取り壊し費用
  • 売却に伴って生じた違約金

不動産の売却のために直接要した費用であり、維持または管理のための費用は含まれないので注意が必要です。

3.不動産売却に関する譲渡所得税の特別控除と特例

譲渡所得の計算において控除できる特別控除には、マイホームの3,000万円特別控除があります。特例には、買い換え特例と損をしたときの損益通算・繰越控除の特例があります。

3-1.マイホームの特別控除と買い換え特例

マイホームの特別控除は、マイホームを、住まなくなってから3年以内に売却したときに、譲渡所得から3,000万円までの控除を認める特例です。売却した年の前々年から、その年まで、マイホームの特別控除等の適用を受けていないことが条件となり、実質、3年に1度しか利用できません。

マイホームの所有期間が10年を超えている場合、譲渡所得のうち6,000万円までは税率が次のように軽減されます。6,000万円をこえた部分については、長期譲渡所得の通常税率が適用されます。なお、この特例はマイホームの3,000万円特別控除と併用できます。

税目 軽減税率
所得税(復興所得税を含む) 10.21%
住民税 4%

この特別控除を受けた場合、3年以内に新たにマイホームをローンによって取得するときは、住宅ローン控除の適用が受けられないので注意しましょう。

マイホームの買い換え特例

マイホームを売却して、その売却価格よりも高い価格のマイホームに買い換えた場合、譲渡所得課税を繰り延べることができる特例があります。主な適用条件は次のようになっています。

  • 売却した人が10年以上住んでおり、所有期間が10年を超えていること
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 買い換える建物の床面積が50平米以上であり、土地の面積が500平米以下であること
  • 元のマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却すること
  • 元のマイホームを売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 買い換えたマイホームが築25年以内であること
  • 3年以内にマイホームの特別控除等の適用を受けていないこと

また、元のマイホームの売却額よりも新しいマイホームの取得額の方が安い場合、その差額のうち次の算式によって計算した部分が、譲渡所得として課税されます。

(旧マイホーム売却額[イ]-新マイホーム取得額[ロ])-(旧マイホーム取得費+譲渡費用)×([イ]-[ロ])/[イ]

事業用資産の買い換え特例

事業用資産を売却して、一定の事業用資産に買い換えた場合、売却利益の80%は譲渡所得課税を繰り延べることができます。賃貸用の土地建物もこの特例の対象となります。主な適用条件は、次のようになっています。

  • 元の事業用資産を10年超所有していること
  • 買い換え資産の面積が、元の資産の面積の5倍以内であること
  • 元の資産を売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 買い換え資産を購入してから1年以内に事業用に利用すること

3-2.損をしたときの損益通算と繰越控除の特例

不動産売却によって損失が生じた場合であっても、不動産の譲渡所得は分離課税であり、原則として、総合所得課税の給与所得や事業所得、不動産所得などとは損益通算はできません。

しかし、一定のマイホーム売却によって生じた損失については、損益通算と繰越控除が認められる特例があります。

マイホームの買い換えの譲渡損失の損益通算と繰越控除

マイホームを買い換えた場合で、元のマイホームの売却によって損失が生じたときは、その譲渡損失を給与所得や事業所得などと損益通算できる特例があります。

その年に控除しきれなかった部分の損失は、売却後3年間繰越控除ができます。主な適用条件は次のようになっています。

  • 売却した人が元のマイホームを5年超所有していること
  • 買い換える建物の床面積が50平米以上であること
  • 元のマイホームを、住まなくなってから3年以内に売却すること
  • 元のマイホームを売った前年から翌年までの3年以内に買い換えること
  • 新しいマイホームを購入してから1年以内に住むこと
  • 返済期間10年以上の住宅ローンを借りていること

特定のマイホームの譲渡損失の損益通算と繰越控除

住宅ローンのあるマイホームを、住宅ローンを下回る価格で売却して損失が生じたとき、一定条件をみたす場合は、その譲渡損失を給与所得や事業所得などと損益通算できます。

その年に控除しきれなかった部分の損失は、売却後3年間繰越控除ができます。主な適用条件は、買い換えの譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例と同様ですが、売却時に売却価格が住宅ローン残高を下回っていることが条件になります。

4.相続した不動産の売却と利用できる特例

相続した不動産の売却では、譲渡所得の計算上、取得費や所有期間について、被相続人が行った行為が引き継がれることになります。取得費は、被相続人が取得した価格を下に計算します。

譲渡所得税の税率や特例の適用の基礎となる所有期間は、被相続人が所有していた期間が含んで算定します。さらに、相続した不動産を売却した場合の譲渡所得税では、利用できる特例が2つあります。以下で詳細を説明します。

4-1.相続税の取得費加算

相続した不動産を売却した場合、その売却にかかる譲渡所得税の計算では、その不動産の相続で納付した相続税分を、取得費に加算できる制度があります。

ただし、この特例の適用を受けるには、その相続した財産を、相続日から3年以内に譲渡する必要があります。取得費に加算できる相続税額は、次のように計算します。

その者の相続税額×売却した財産の価額/(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)

4-2.空き家に係る譲渡所得の特別控除

一定の条件に該当すると、相続した空き家を売却して利益が生じた場合、譲渡所得税の課税所得から3,000万円の控除を受けることができます。主な適用条件は、以下のようになっています。

  • 被相続人が一人で居住していたこと
  • 昭和56年5月31日以前築の一戸建てであること
  • 相続によって取得した人が、その土地建物を耐震リフォームするか、あるいは取り壊して相続日から3年以内に売却すること
  • 相続時から売却時まで空き家であること

なお、相続で取得した不動産に自分が居住した後売却した場合は、譲渡所得税のマイホーム特別控除の適用を受けることができます。

5.譲渡所得税の計算例

譲渡所得税の計算方法を分かりやすくするため、簡単な売却事例を設定して、譲渡所得税の試算をしてみます。以下が売却した不動産の条件とします。

構造、経過年数、用途 木造、築10年、自己居住(マイホーム)
購入価格 土地:3,000万円 建物:2,000万円
購入時費用 200万円
譲渡価格 5,000万円
売却時費用 200万円

まず、取得費の要素を算定するため、建物から控除すべき減価償却費を計算します。自己居住用として利用していたため、償却率は法定の1.5倍を用います。

2,000万円×0.9×0.031×10=558万円

取得費を計算します。

取得費=3,000万円+2,000万円+200万円-558万円=4,642万円

譲渡所得の要素が揃ったので、算式にあてはめます。

譲渡所得=5,000万円-(4,642万円+200万円)=158万円

譲渡所得は158万円になります。通常は、この158万円に対して長期所有の税率が適用され、譲渡所得税15.315%、住民税5%がかかります。

ただし、この事例はマイホームの売却あるため、3,000万円の特別控除の適用が受けられます。158万円≦3,000万円となり、居住用財産の特別控除の適用を受ければ、課税される譲渡所得は0となり、税金はかからないことになります。

まとめ

不動産を売却したときにかかる税金の主なものは、譲渡所得税と住民税です。譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を引いて計算し、プラスになればそれに対して税率を乗じて課税されます。

取得費の計算では、購入時の取得価格が不明であると多額の納税になるおそれがあります。可能な限り、購入時の契約書などを用意しておきましょう。

譲渡所得から差し引くことのできる特別控除も、該当する場合には利用を検討しましょう。損失が生じた場合にも、損益通算や繰越控除により税金を減額できる特例があるので確定申告をしておくようにしましょう。

譲渡所得税は、自分で計算して税務署に申告する必要があります。譲渡所得税の計算において判断に迷うときや、自分で申告することが難しい場合は、税理士などの専門家に相談することを検討しましょう。

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佐藤 永一郎

筑波大学大学院修了。会計事務所、法律事務所に勤務しながら築古戸建ての不動産投資を行う。現在は、不動産投資の傍ら、不動産投資や税・法律系のライターとして活動しています。経験をベースに、分かりやすくて役に立つ記事の執筆を心がけています。