不動産投資では、様々な税務リスクがあります。たとえば、税法の法令に基づいた適正な確定申告をしていない場合、税務調査によって税務署から指摘を受けると、加算税などの追徴課税が課され、投資家にとって大きな負担になることがあります。
税務リスクを軽減するには、専門家である税理士に依頼することが有効です。この記事では、不動産投資に潜在する税務リスクと、それらのリスクが税理士に依頼することでどのように軽減されるのか、について解説します。
※記事内の税制内容は2021年8月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 不動産投資の税務リスク
1-1.年間の不動産所得が20万円を超えた場合、確定申告をする必要がある
1-2.税務調査で指摘を受けて修正申告をすると加算税がかかる
1-3.間違った税金の軽減対策をおこなってしまうことがある - 税理士に依頼することで回避できる税務リスク
2-1.正確な確定申告の作成代行を依頼できる
2-2.税金に関する適正な相談ができる
2-3.税務調査のリスクを減らすことができる
2-4.追徴課税リスクを減らすことができる - 不動産投資に強い税理士の探し方
- まとめ
1.不動産投資の税務リスク
不動産投資では、税法の法令に則った適正な申告をしていなかった場合、税務調査で指摘され修正することになると、加算税や延滞税がかかるなどのリスクがあります。
また、税法や会計の取扱いは複雑で多角的な視点を必要とすることから、税金を軽減するための対策を間違えるリスクもありえます。このような視点から不動産投資の税務リスクについて整理し、詳しく見て行きましょう。
1-1.年間の不動産所得が20万円を超えた場合、確定申告をする必要がある
不動産投資で年間の不動産所得が20万円を超えた場合、確定申告をしないと、無申告加算税などのペナルティが課せられる可能性があります。無申告加算税とは、本来の納税額に上乗せしてかかってくる税金です。
無申告加算税の額は、本来の納税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%となっています。ただし、期限内に自主的に申告をする意思があったと思われる一定の場合には、無申告加算税がかからないことがあります。(※参照:国税庁「確定申告を忘れたとき」)
1-2.税務調査で指摘を受けて修正申告をすると加算税がかかる
税務当局は、納税者を訪問して帳簿などを検査し、税金が法令に基づいて適正に申告・納付されているかどうかを調査する税務調査をおこなっています。
国税庁が公表している「令和元事務年度の所得税及び消費税調査等の状況」によると、令和元事務年度の所得税の実地調査は、約6万件おこなわれており、そのうち申告漏れ等の割合は8割以上、1件当たりの追徴税額は166万円となっています。
税務調査で、法令に基づいた適正な確定申告をしていなかったことなどにより、納めた税金が少な過ぎた場合、当局から修正申告をするように促されることがあります。そのような場合、新たに納める税金に加えて、その税額の10%~15%相当額の過少申告加算税がかかります。(※参照:国税庁「確定申告を間違えたとき」)
その他、納期限の翌日から申告書提出日までの延滞税が課されます。延滞税の税率は、年ごとに変わる特例基準割合によって決定されます。
令和3年8月現在の延滞税の税率は、納期限の翌日から2カ月以内は2.5%、2カ月を超えた場合は8.8%となっています。さらに、所得等を隠蔽又は仮装したと認められた場合、本来の納税額の35%~40%の税率の重加算税が課されることもあります。(※参照:国税庁「延滞税について」)
1-3.間違った税金の軽減対策をおこなってしまうことがある
税法や会計の仕組みは複雑であるため、専門的な知識に基づかずに安易に税金の軽減対策をおこなっても、税金が思うように軽減されなかったり、結果的に支払う税額が増えてしまったりすることがあります。
例えば、不動産投資では、建物部の減価償却費を計上することで赤字になった不動産所得と、他の総合課税の給与所得などを損益通算することが可能です。
しかし、減価償却費の計上は、収益物件の取得費用を不動産所得の経費に配分する性格のものであり、その分、物件の売却時の譲渡所得の取得費用を減らしていくことになります。実質的に、売却時まで税金を繰り延べていることになり、総合課税の税率が譲渡所得税の税率よりも低い場合は、支払う税額は増える可能性もあります。
このような税金の仕組みを理解しないまま運用を続けていると、売却時の譲渡所得税を支払うことができず、売却のタイミングを逃してしまうことも考えられます。このような状況に備えるには、税法や会計の仕組みについて理解を深めるか、専門家への相談を検討することが重要になってきます。
2.税理士に依頼することで回避できる税務リスク
これまで述べてきた税務リスクは、次のような業務を税理士に依頼することで、それぞれのリスクを軽減することが可能です。
2-1.正確な確定申告の作成代行を依頼できる
税理士は税務、会計の専門家であり、税法の法令や会計知識に基づいた適正かつ正確な確定申告をおこなうことができます。
確定申告の前提となる不動産所得の計算をする際、税法の専門知識に基づいた適正な必要経費計上が可能です。青色申告特別控除の適用を受けるために必要な、正規の簿記による帳簿作成などについても、簿記や会計の専門知識が必要です。
また、確定申告業務は、単なる書類の作成代行ではなく、納税者に代わって税務署に主張を伝えるという税務代理業務であるため、税務署から問い合わせなどがあった場合、税理士に対応してもらうことが可能です。
このように、税理士に確定申告を依頼することで、確定申告に関連して修正申告などによる加算税がかかる税務リスクを減らすことができます。
また、期限内に確定申告をするつもりであっても、本業などが忙しく手間のかかる確定申告作業にエネルギーを割けない場合もあります。そのような場合、税理士に確定申告を依頼することで、無申告の状態を回避することが可能です。
2-2.税金に関する適正な相談ができる
不動産投資では、日常的に税務判断の必要な問題が発生することがあります。
例えば、中古物件を新たに取得したとき建物部分の取得価格や耐用年数をどのように算出するか、大きな修繕をおこなったときにその支出を費用に計上してよいのかなど、不動産の税務に詳しい方でないと難しい判断を迫られることになります。
これらは、税額の計算にも大きな影響を与える問題です。このような選択にあたっては、物件売却までの長期的な視点から税額をシミュレーションして判断しないと、税金の総額を軽減することができない場合もあります。
税理士と顧問契約をすることで、多角的な視点から適正に税金を軽減するための相談を行うことができ、迅速な経営判断にもつながるといえるでしょう。
2-3.税務調査のリスクを減らすことができる
税理士の書面添付制度は、税理士があらかじめ申告書に、その申告書の作成に関して、計算・整理し、又は相談に応じた事項を記載した書面を添付して提出することで、税務調査の際、税理士に意見聴取の機会を与える制度です。
税理士による書面添付がされている場合、税務当局が申告審理や調査の要否等の判断において活用されることになります。また、納税者に対する税理士の責任の範囲が明確化されるため、個人の税務リスクを限定的にすることにつながります。
さらに、意見聴取の段階で申告書内容に関する疑問点が解消すれば、税務調査の必要性がないと認められ、実地調査に至らないこともあります。このように、税理士に書面添付を依頼することで、税務調査で当局に指摘を受けて、修正申告をするようなリスクが軽減されることになります。(※参照:国税庁「書面添付制度について(33条の2の書面及び35条の意見聴取)」)
2-4.追徴課税リスクを減らすことができる
税務調査が入ることになった場合、税理士に税務調査対応を任せることで、税法の法令に基づいて、納税者の解釈を税務署に主張した上で、交渉することができます。
税務調査では、主に、確定申告書の作成過程につき、税法の法令に照らして適正であるかどうかが問われます。ただし、税法の法令の解釈や適用方法は必ずしも一通りではなく、税法理論に基づく反論をすることで、税務署と交渉可能な場合もあります。
税法の専門家である税理士に税務調査対応を任せることで、税務調査で税務署に誤りや不適正な部分を指摘され、修正申告によって追徴課税を受けるリスクを減少させることができる場合もあるでしょう。
3.不動産投資に強い税理士の探し方
税理士に税務の相談を検討するのであれば、報酬だけでなく、不動産投資に強い税理士を探すことが大切です。それは、業界によって計上できる経費の考え方や適用できる税制上の特例などが多岐にわたり、年々改正される税法にも対応していかなければならないため、依頼する税理士・税理士事務所によって専門とする業界は大きく異なってくるためです。
発生する報酬の費用面だけでなくどのような実績があり、どのようなサポートが受けられるのか、という視点でも比較してみるとよいでしょう。
不動産投資に強い税理士を探すのであれば、税理士紹介サイトを利用して税理士を紹介してもらうという方法もあります。税理士紹介サイトでは、コーディネーターが、相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。税理士との依頼内容の調整や、料金交渉などもコーディネーターに任せることが可能です。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
報酬引き下げの実績も豊富なため、すでに税理士と契約している方でも利用が可能です。コーディネーターが複数の税理士に相見積りをとり、費用についての交渉までサポートしてくれます。
利用時の主な注意点としては、提携している税理士の紹介しか受けられない点です。提携外の税理士も比較していきたい方は、自身で探してみたり、知人から紹介を受けてみるなどと並行して、利用を検討すると良いでしょう。
まとめ
不動産投資では、確定申告をしなかったり、または税法の法令の解釈、適用を間違えてしまったりする可能性があり、加算税などのペナルティを課されたり、本来支払うべき税額よりも多額の税額を支払ってしまうリスクもあります。
このような税務リスクに備えるためには、税理士に確定申告を依頼したり、税務顧問契約を結んだりするとよいでしょう。
税務調査のリスクを減らすためには、書面添付サービスを依頼することも検討してみましょう。また、税務調査が入ることになった場合は、税理士に対応を任せることで、追徴課税を受けるリスクを減少できる可能性もあります。
佐藤 永一郎
最新記事 by 佐藤 永一郎 (全て見る)
- 公認会計士が不動産投資をするメリット・デメリットは?体験談・口コミも - 2024年9月20日
- 不動産投資を小さく始める方法は?初心者向けの手順や注意点を解説 - 2024年8月25日
- 中古マンション投資のメリット・リスクは?初心者向けの注意点も - 2024年7月27日
- 不動産小口化商品のリスクは?購入・投資前に確認しておきたい5つのポイント - 2024年6月2日
- 相続不動産を売却したら税金はいくら?シミュレーションで解説 - 2024年3月31日