財産を子や孫などに移転する際、生前贈与と相続では税制度にどのような違いがあるのでしょうか。
特に、贈与税と相続税は高額となることがある一方、大幅に税額が軽減される制度も用意されています。財産移転を検討する際は、それぞれの税制を適切に把握して、軽減制度の利用も検討したいところです。
本記事では、生前贈与と相続において、適用される税制度の違いについて、それぞれ比較しながら解説します。
※記事内の税金・税率などは2021年4月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- 不動産の生前贈与と相続、税金の違いを比較
1-1.基礎控除額の違い
1-2.税率の違い
1-3.贈与税で適用できる非課税の取扱い
1-4.相続税で適用できる軽減税制
1-5.相続時精算課税 - 登録免許税・不動産取得税の違い
2-1.登録免許税
2-2.不動産取得税 - 生前贈与・相続の判断は税理士への相談も検討する
- まとめ
1.不動産の生前贈与と相続、税金の違いを比較
生前贈与と相続では、受贈または遺贈された財産に対してかかる税金の種類が異なります。生前贈与では贈与税、相続では相続税が課されます。
贈与税は、暦年の一年間のうちに、もらった財産額から控除額を差し引いた額に対して課税されます。
一方で、相続税は、被相続人の正味財産額から控除額を差し引き、相続人どうしが法定相続をしたとした場合の仮の税額を算出します。その後、実際の各相続人取得分に合わせて、それぞれに適用される税額控除を考慮し納付税額を計算していきます。
生前贈与と比較すると、他の相続人の事情が税金の計算に大きく影響するのが特徴的といえるでしょう。
1-1.基礎控除額の違い
贈与税、相続税ともに、課税財産の額から差し引くことのできる基礎控除額があります。贈与税は受贈者一人につき暦年一年間で110万円であるのに対し、相続税は被相続人一人につき3,000万円に加えて法定相続人一人につき600万円加算するものとされています。
ただし、贈与税の場合、扶養義務者から生活資金や教育資金を贈与された場合は非課税となり、贈与税はかかりません。また、基礎控除以下の金額の贈与であっても、毎年同額を贈与していると、定期贈与とみなされて、その定期金の合計額の贈与を受けたものとして贈与税がかかることがあります。
このように、相続税の基礎控除額は贈与税に比べて多額であるものの、贈与税では非課税となる範囲が広く、やや曖昧な傾向があるといえるでしょう。
1-2.税率の違い
相続税と贈与税とでは、税率が異なります。以下が、税率の違いを比較した一覧表になります。贈与税の特例税率は、直系尊属(祖父母、父母)から贈与された場合の税率になります。なお、相続税の税率は、法定相続人の法定相続分に対して当てはめて計算します。
基礎控除後の課税価格 | 贈与税率(一般) | 贈与税率(特例) | 相続税率 |
---|---|---|---|
200万以下 | 10% | 10% | 10% |
300万以下 | 15% | 15% | 10% |
400万以下 | 20% | 15% | 10% |
600万以下 | 30% | 20% | 10% |
1,000万以下 | 40% | 30% | 10% |
1,500万以下 | 45% | 40% | 15% |
3,000万以下 | 50% | 45% | 15% |
4,500万以下 | 55% | 50% | 20% |
5,000万以下 | 55% | 55% | 20% |
1億円以下 | 55% | 55% | 30% |
2億円以下 | 55% | 55% | 40% |
3億円以下 | 55% | 55% | 45% |
6億円以下 | 55% | 55% | 50% |
6億円超 | 55% | 55% | 55% |
※参照:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」「相続税の税率」
贈与税は相続税と比較して税率が非常に高く、贈与あるいは遺贈した価格帯によっては、贈与では相続に比べて1.5倍~4倍の税金がかかることになります。
1-3.贈与税で適用できる非課税の取扱い
贈与税で適用できる非課税の取り扱いは、資金の用途によって教育資金一括贈与・結婚子育て資金一括贈与、住宅取得資金一括贈与があります。いずれも、直系尊属からの贈与が条件となり、教育資金・結婚子育て資金の場合には、金融機関等との管理契約も条件となっています。
また、一定の条件を満たす夫婦間では、住宅取得資金一括贈与につき非課税の取り扱いがあります。
教育資金一括贈与・結婚子育て資金一括贈与
直系尊属(祖父母や父母)から30歳未満の人が金融機関等との管理契約に基づいて、教育資金の贈与を受けた場合、1,500万円までが贈与税非課税となります。
また、20歳以上50歳未満の人が金融機関等との管理契約に基づいて、結婚子育て資金の贈与を受けた場合、1,000万円までが贈与税非課税となります。
なお、受贈者が教育資金では30歳、結婚子育て資金では50歳に達した場合、資金管理契約は終了し、残額があれば残額は贈与税の課税対象となります。
住宅取得資金一括贈与
直系尊属(祖父母や父母)から20歳以上の人が自己の居住用の住宅取得資金の贈与を受けた場合、1,000万円(省エネ等住宅では1,500万円)までが贈与税非課税となります。
取得家屋の床面積が40平米以上240平米以下であり、2分の1以上を受贈者が自己居住用にすること、中古の場合は築20年以内であること、増改築の場合は工事費用が100万円以上であること、などが条件となります。
夫婦間の居住用不動産の贈与
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与をした場合、贈与税の課税価格の計算の際、基礎控除に加えて2,000万円まで控除されます。
※参照:国税庁「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
1-4.相続税で適用できる軽減税制
相続税で適用できる軽減税制では、被相続人の配偶者に対して大きな税額軽減制度があります。また、被相続人に直近に支払った相続税がある場合や生前贈与について支払った贈与税がある場合に、二重課税分を控除する制度があります。
相続人が未成年者や障害者である場合にも、税額控除制度が設けられています。相続財産が不動産である場合は、税額計算の対象となる財産評価額について、小規模宅地等の特例があることも特徴的といえるでしょう。
配偶者の税額軽減
被相続人の配偶者については、遺贈された正味財産額が1億6千万円と法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかからない税額軽減制度があります。
1億6千万円を超えても、配偶者の法定相続分までは相続税がかからないことになります。ただし、この軽減制度は実際に取得した財産を下に計算されるため、分割されていない財産は対象になりません。
※参照:国税庁「配偶者の税額の軽減」
各種税額控除
相続人が未成年者や障害者であるときは、相続税額から一定の金額を控除できる税額控除制度があります。
相続人が85歳未満の障害者であるときに相続税額から控除できる障害者控除額は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円とされています。
相続人が未成年であるときに相続税額から控除できる未成年者控除額は、その未成年者が満20歳になるまでの年数1年につき10万円となります。
二重課税の負担を軽減する税額控除
相続税には二重課税の負担を軽減する税額控除制度があります。
贈与税額控除では、相続開始前3年以内に被相続人から贈与された財産について支払った贈与税額を控除することができます。ただし、その贈与財産は相続税の課税財産に加算されます。
※参照:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
相次相続控除では、相続開始前10年以内に被相続人が相続によって財産を取得して相続税を課されていたとき、その相続税額のうち、一定の算式により計算した金額を控除することができます。
※参照:国税庁「相次相続控除」
小規模宅地等の特例
一定の条件を満たす小規模宅地等を特定の相続人が相続する場合、相続税の財産評価額を減額する特例の適用を受けられることがあります。
居住用または事業用・貸付用に供されていた小規模の宅地等のうち、特定の親族が相続した分について、相続税の財産評価額が最大80%減額されます。評価額が減額される土地の面積や減額割合は、土地の用途によって区分され決められています。
※参照:国税庁「小規模宅地等の特例」
1-5.相続時精算課税
相続時精算課税は、60歳以上の祖父母または父母から20歳以上の子・孫への財産の移転につき、生前贈与と相続を通算して課税する制度です。
相続時精算課税を選択した場合、その者から贈与される財産額から2,500万円までを控除し、超過した額に20%の贈与税額が課されます。2,500万円の控除枠を使い切るまで何回贈与しても利用できますが、相続時精算課税を選択した贈与者については、以降、贈与税の暦年課税は選択できません。
相続時精算課税を選択した贈与者が亡くなったときは、その贈与された財産を相続財産に加算して相続税額を計算し、既に納めた贈与税がある場合は精算されます。
※参照:国税庁「相続時精算課税の選択」
2.登録免許税・不動産取得税の違い
不動産を生前贈与された場合、相続の場合と異なり、不動産取得税が課されます。また、所有権の移転登記をするにあたって、生前贈与と相続では課される登録免許税の金額が異なります。以下で、詳細を説明します。
2-1.登録免許税
不動産の所有権の移転登記をする際、登録免許税がかかります。この登録免許税の税率は、贈与と相続を原因とする場合では異なります。贈与では、その不動産の価額の2%、相続では4%が原則となります。
また、相続による所有権移転登記については、相続による土地を取得した個人が登記をせずに死亡した場合、その死亡した個人の登録免許税は免税とする措置や、10万円以下の土地についても免税とする措置があります。
2-2.不動産取得税
不動産取得税は、不動産を取得した者に都道府県が課す税金ですが、贈与によって取得した場合には課されますが、相続によって取得した場合は課されません。
なお、通常、不動産取得税の税率は課税標準額の4%とされていますが、住宅及び住宅用地については3%の軽減税率が適用されます。税率面以外にも、住宅および住宅用地には、課税標準額や税額の軽減措置があります。
3.生前贈与・相続の判断は税理士への相談も検討する
不動産の生前贈与・相続は、相続財産の規模や相続人の数・条件がケースごとに大きく異なります。税の知識が不十分だと、受けられると思った特例が受けられなかったり、余分な課税を招いてしまうケースも少なくありません。
詳細な判断に迷ったときには、税理士などの専門家へ依頼することも検討してみると良いでしょう。税理士報酬がかかってしまう点はデメリットとなりますが、適切な税制優遇を受けられたり、追徴課税のリスクを低減させられたりなど、大きなメリットもあります。
不動産相続に強い税理士を探す場合、「税理士紹介サイト」を利用して紹介してもらうという方法もあります。税理士紹介サイトでは、コーディネーターが、相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
不安のある方は、このようなサービスの利用を検討するなどして、手間やリスクを省くことも選択肢の一つと言えるでしょう。
まとめ
生前贈与では、もらう側が教育や結婚・子育て、住宅取得などのために資金を必要なときに、非課税で贈与することができる贈与税の制度があるのが特徴といえるでしょう。
一方、相続では、配偶者が財産をもらうには非常に有利な相続税の軽減制度があります。また、財産に不動産がある場合、小規模宅地等の特例は相続税の軽減に大きな影響を及ぼすため、適用を受けることを検討してみましょう。
佐藤 永一郎
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