相続財産を有している被相続人が亡くなると、相続人は相続財産の額によっては相続税を支払わなくてはなりません。
税制の改正までは基礎控除額が大きかったことから、相続税の課税対象外となる方が多くいました。しかし、税制改正で基礎控除額が大幅に小さくなったことによって課税対象者が増えたため、少しでも相続税を抑えたいと考える方も多いのではないでしょうか?
この記事では、不動産の生前贈与を検討している方に向けて、生前贈与のメリット・デメリットや手順、注意点などを解説します。
目次
- 不動産を生前贈与するメリット
1-1.大きな額になるほど相続税のほうが税率が低い
1-2.贈与の相手を選択可能 - 不動産を生前贈与する手順
2-1.贈与契約書を作成する
2-2.法務局で登記申請を行う - 生前贈与を行う際の注意点
3-1.暦年贈与を利用できなくなる
3-2.2,500万円までしか適用できない
3-3.不動産の資産価値が下がると損をする - まとめ
1.不動産を生前贈与するメリット
税制改正によって、2015年1月1日から新しい相続税の基礎控除額が適用されています。改正前と比較すると、40%も基礎控除額が小さくなっており、相続税の課税対象となる方が増えました。
そのため、生前贈与を検討しているという方も少なくないと思いますが、生前贈与を行うことにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
不動産の生前贈与を行うことによる主なメリットとして以下の2つが挙げられます。
- 相続税の節税効果
- 贈与の相手を選択可能
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
1-1.大きな額になるほど相続税のほうが税率が低い
不動産の生前贈与を行った場合は、贈与を行った時点における不動産の資産価値に対して贈与税が課されます。一般的な贈与税の最大税率は55%、相続税の最大税率も55%なので最大税率という点では差がありません。
しかし、贈与税の最大税率が適用されるのは3,000万円超の贈与を行った場合である一方、相続税は6億円超と、適用される額に大きな差があります。
仮に3,000万円超5,000万円以下の相続を行ったとすると20%の税率が適用されるため、贈与税がいかに高い税率が分かります。
このように通常の生前贈与は、相続よりも高い税率が適用されていることが分かります。
相続時精算課税制度を利用した場合はどうなる?
相続時精算課税制度とは、生前贈与を行った時点で贈与税を支払うのではなく、後に相続が発生した時点で相続税として税金を納める制度です。
贈与時点で贈与税が課税されず、2500万円までの控除が受けられるなどメリットの多い制度ですが、「小規模宅地等の特例」などの特例と併用が出来なくなるなどのデメリットがあります。(*2020年2月調査時点 国税庁「相続時精算課税の選択」「小規模宅地等の特例」を参照)
相続予定の不動産の資産価値や相続人の数によって、どちらが税制上のメリットがあるのか、個別に判断する必要があるでしょう。
1-2.贈与の相手を選択可能
生前贈与では、あらかじめ指定した人に不動産を渡すことが可能です。そのため、相続後のトラブルを未然に防ぐ、確実に不動産を指定した人に渡したい時には生前贈与を選択した方が良いと言えるでしょう。
2.不動産を生前贈与する手順
生前贈与は口約束でも成立しますが、「言った」「言わない」によるトラブルを防ぐためにも手順に従って書類を残しておくことが重要です。不動産を生前贈与する際の手順は以下の通りです。
- 贈与契約書を作成する
- 法務局で登記申請を行う
それぞれの手順について詳しく解説します。
2-1.贈与契約書を作成する
贈与契約書を作成すると言っても書類の形式は決まっていません。そのため、1から自分で贈与契約書を作成する必要があります。贈与契約書の内容に不備があった場合は、再提出の手間がかかるほか、贈与契約書を一度作成すると取り消しができない点に注意しなくてはなりません。
贈与契約書を作成する際には、以下の内容を盛り込んでおく必要があります。
- 誰が贈与を行うのか(贈与者)
- 誰が贈与の対象なのか(受贈者)
- 贈与対象の不動産はどれか
法務局のホームページに贈与契約書の雛形(ダウンロード)が用意されています。どのように作成すればいいか分からないという方は、雛形に基づいて作成を進めましょう。
2-2.法務局で登記申請を行う
贈与契約書を作成した後は、その贈与契約書を持って近くの法務局で登記申請を行います。登記申請の際は、贈与契約書以外に以下のような書類も必要になります。
- 不動産の登記識別情報(登記済権利証)
- 贈与者の印鑑証明書
- 受贈者の住民票
- 固定資産評価証明書
- 登記申請書
上記以外の書類が必要になるケースもあるため、近くの法務局に一度確認した方が良いでしょう。また、上記書類の中には、取得に時間や手間がかかるものもあるため、逆算して書類を準備することが重要です。
費用はかかりますが、スムーズに生前贈与を行いたい場合には、弁護士や司法書士といった専門家に相談するのも1つの選択肢と言えるでしょう。
3.生前贈与を行う際の注意点
不動産の生前贈与を行うことによって相続税の節税効果が期待できますが、以下の3つの注意点があるため、それらを理解した上で生前贈与を行うことが重要です。
- 暦年贈与を利用できなくなる
- 2,500万円までしか適用できない
- 不動産の資産価値が下がると損をする
それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
3-1.暦年贈与を利用できなくなる
相続時精算課税制度を利用することで、暦年贈与を利用できなくなります。暦年贈与とは、年間110万円までの贈与に対して贈与税がかからない制度です。
相続時精算課税制度を一度利用すると元に戻すことはできませんので、事前によく考えてから選んだ方が良いと言えるでしょう。
3-2.2,500万円までしか適用できない
相続時精算課税制度で相続時に課税を繰り延べることができるのは2,500万円までです。それ以上を超える部分については、一律20%の贈与税が課されるので注意が必要です。
そのため、不動産の価格が2,500万円を超える場合には、贈与税を抑えることはできても、相続税を抑えることができるとは限りません。
他の資産の贈与との兼ね合いもあるため、どうすればいいのか分からない場合には、税理士や不動産会社などの専門家に事前に相談した方が良いと言えるでしょう。
3-3.不動産の資産価値が下がると損をする
相続時精算課税制度は、贈与時と相続時の不動産評価額を比べて相続時が高かった場合に相続税の節税効果があります。しかし、相続時に下がっていると、贈与時の不動産評価額が採用されて損をすることになるので注意が必要です。
まとめ
不動産の相続税を軽減するために生前贈与をしたからと言って、必ず相続税の節税効果が期待できるわけではないので注意が必要です。
贈与税は相続税よりも金額に対して適用される税率が高いため、生前贈与を選んだことで多くの税金を課される可能性があります。
生前贈与に相続税の節税効果があるかの判断が難しく、手続きに手間と時間がかかります。また、生前贈与を行う際に相続時精算課税制度を一度利用すると取り消すことができません。
後悔しないために、また手続きを速やかに行うためにも、分からない場合は弁護士や税理士、不動産会社などの専門家に事前に相談してから生前贈与を行いましょう。
矢野翔一
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