不動産投資におけるトレーサビリティはなぜ重要?不動産会社の取り組み事例も

※ このページには広告・PRが含まれています

トレーサビリティとは、商品の原料や取引の履歴などをさかのぼって確認できるよう情報公開を積極的に行うことです。トレーサビリティは主に食品の分野で先行しており、原材料である農作物を、産地や農家まで見られることも珍しくなくなりました。

不動産業界におけるトレーサビリティとしては、建造物に使用されている原材料と、投資物件の取引実績という二つの領域に対して注目されます。近年では取引の効率化などの目的でブロックチェーン技術を活用しようとする動きも見られますが、この技術が普及すればトレーサビリティの向上にもつながると期待されています。

今回の記事では、不動産投資におけるトレーサビリティの重要性や推進事例についてみていきましょう。

目次

  1. 不動産におけるトレーサビリティ
    1-1.トレーサビリティとは取引に関する情報を追跡できる状態
    1-2.不動産投資で着目される二つのトレーサビリティ
  2. 不動産投資におけるトレーサビリティの重要性
    2-1.物件の価格が適正か判断しやすくなる
    2-2.資産価値の保全につながる
    2-3.不動産物件のリスク管理がしやすくなる
    2-3.ESGに配慮した不動産の開発・流通を促進する
  3. 不動産業界におけるトレーサビリティの事例
    3-1.大和ハウスリート法人はトレーサビリティ重視のスタンスを明示
    3-2.大和地所レジデンスはPマーク取得と共にトレーサビリティを推進
    3-3.シノケンではアパート建築における原料トレーサビリティの開始
  4. ブロックチェーンの導入とトレーサビリティ向上への期待
  5. まとめ

1 不動産におけるトレーサビリティ

トレーサビリティとは取引履歴の証跡が残されていて、履歴を容易に追跡できる仕組みが整っている状態を指します。不動産業界では主に、木材など建造物に使用される建材や、物件の取引実績におけるトレーサビリティの推進が期待されています。

1-1 トレーサビリティとは取引に関する情報を追跡できる状態

トレーサビリティをイメージしやすいのは食品で、最近では使用した成分の内訳、材料となる農産物の原産地や農家まで情報を入手可能なケースがみられます。

食品の場合には原材料が非常に重要な要素であるため、原料のトレーサビリティに焦点が当たりがちですが、本来トレーサビリティとは、商取引に関わる情報全般を追跡できるものです。たとえば過去の流通経路や取引相手、中古品であれば以前の使用者の属性や使用環境など、あらゆる情報を追跡可能である状態がトレーサビリティの高い状態と言えます。

1-2 不動産投資で着目される二つのトレーサビリティ

不動産においてもトレーサビリティは確実に普及していて、各社積極的に取り組みを進めています。不動産においては、主に次の二つの領域におけるトレーサビリティが重視される傾向にあります。

  • 建造物に使用される原材料
  • 物件の取引実績

一つは物件に使用される建材の原材料です。この分野のトレーサビリティは以前から着目されており、特に木造建築においては、どの地域のどのような木から製造されたかを追跡する目的で、トレーサビリティが推進されてきました。これは海外の森林破壊を抑えようという意識や地産地消という考え方とも結びついたものです。

2023年時点、木材以外の繊維や工業生産される建材についても、使用材料の特性や製造元などがたどれる状態を整備している企業も少なくありません。建材のトレーサビリティは、環境負荷の軽減や、物件の安全性を証明するうえで重要な役割を果たします。

もう一つは物件の取引実績です。まず重要視される傾向にあるのは賃貸物件における過去の借り手です。借り手の属性や使用状況、心理的瑕疵などを起こすような要素がないかなどを追跡できれば、投資家の不動産売買の活発化、市場の流動性の高まりが期待できるようになります

また、トレーサビリティを通じて過去の取引や物件管理、建築過程などに問題がないことが証明できれば、物件の資産価値の保全にもつながります。築古の物件であれば、リノベーション・修繕履歴などの開示も望まれるところです。

2 不動産投資におけるトレーサビリティの重要性

不動産投資の世界において、トレーサビリティの向上にはさまざまなメリットがあります。資産価値の保全や適正な不動産取引、精緻な物件のリスク管理への応用などが期待されています。

2-1 物件の価格が適正か判断しやすくなる

不動産の価格は、立地や地価などのほか、建物自体の質や過去の住人の推移など影響も受ける場合があります。トレーサビリティが発達すれば、建物に使用されている建材や、過去の住人の推移、売買の実績など建物の品質に影響を与える情報の透明性が向上します。

建材に問題があったり、過去に深刻な入居者トラブルがあったりした物件は、買い手がつかず、周辺の適正水準より低い価格で取引されるケースもあるでしょう。情報の透明性が不充分な環境では、単純に相場より割安の物件なのか、何か価値を毀損する背景があって価格が下落しているのかを判断が難しくなります。トレーサビリティが発達することにより、投資家は適正価格の物件を見極めやすくなるのです。

2-2 資産価値の保全につながる

不動産の過去の居住者の推移や修繕の実績などがトレーサビリティにより伝達できれば、その物件に対する信頼性が向上します。質の高い建材を使用していることを示して建物の耐久性や安全性を証明するのも容易になるでしょう。

トレーサビリティに積極的な物件の方が買い手から信頼され、適正な売値がつきやすくなることから、市場価格でみたときの資産価値の保全につながるのです。

2-3 不動産物件のリスク管理がしやすくなる

トレーサビリティが発達すれば不動産物件それぞれに想定されるリスクが可視化されます。たとえば、過去に浸水した実績があれば、浸水対策を手厚くしておく必要があります。犯罪が懸念されるということであれば、質の高い防犯対策が必要になるでしょう。修繕実績をもとに、次に修繕が必要になる箇所の見通しを立て、合理的な計画を立てられるようにもなります。

一部の情報は、ハザードマップなど行政が公開する情報をもとにある程度の把握が可能ですが、物件自体の過去の情報を追跡できれば、より精度の高いリスク管理が可能になるでしょう。

2-4 ESGに配慮した不動産の開発・流通を促進する

最近は不動産セクターにおいてもESGを意識する企業及び投資家が増えてきましたが、特に「E」に対する貢献を果たすためには、トレーサビリティの推進は欠かせません。

環境負荷の少ない建材の使用や建築手法の導入は、不動産における環境貢献において重要な要素です。しかし、建築時に使用された建材や建築手法の情報が蓄積していなければ、投資家はESGに対する貢献度の高い物件の選別ができません。トレーサビリティは、ESGに配慮された物件を適正に評価するうえで欠かせない取り組みといえるでしょう。

3 不動産業界におけるトレーサビリティの事例

不動産業界では、物件のESG評価を正しく行うために建材のトレーサビリティを推進する法人が多数みられます。また、取引情報の保全を情報漏洩への対策や個人情報の保護と合わせて進める企業も出てきました。

3-1 大和ハウスリート法人はトレーサビリティ重視のスタンスを明示

明示的かどうかの差はありますが、実情として多くの不動産セクター企業やREITなど法人がトレーサビリティを重視しています。

明示的な例としては大和ハウスリート法人のケースがあります。同法人は「環境への取り組み」の中の生物多様性への貢献において「トレーサビリティが担保できる木材の使用」を掲げています。木材は、しばしば森林破壊の温床になりやすい素材です。同社は、環境負荷の低い木材を使用できているかを評価するうえで、トレーサビリティの推進が欠かせないと考えています。

【関連記事】REIT(リート)の始め方は?初心者でも分かる投資手順や銘柄選びを解説

3-2 大和地所レジデンスはPマーク取得と共にトレーサビリティを推進

大和地所レジデンスは、顧客の情報管理体制の強化とトレーサビリティ推進を同時におこなっています。同社では「MylogStar」というクライアント操作ログ管理ソフトウェアを採用して、顧客の機密情報や取引ログの管理や情報漏洩リスクの低減などを実現しました。

取引証跡の精緻な管理が可能となったため、個人情報の保護体制の質の高さを証明するプライバシーマーク(Pマーク)を取得しています。

同ソフトウエアの導入により過去の取引証跡や顧客情報を適切に残すことができるようになったため、トレーサビリティの向上にもつながりました。万が一、重大な事故や不正などが発生したとしても、取引証跡をたどり原因究明や再発防止策を迅速に行える体制を構築しています。

3-3.シノケンではアパート建築における原料トレーサビリティの開始

大手不動産投資会社シノケングループの100%子会社である「シノケンプロデュース」では、アパートの建築に必要な木材などの原料トレーサビリティを開始しています。

個人が事業のオーナーとなるアパート経営では、入居者の生活面・安全面に大きな影響を有することになります。自分が長期間経営することになるアパートに責任をもち、またアパートの入居者にも安心して暮らしてもらうためには、住宅資材である木材の安全性についても考慮することが大切です。

木材のトレーサビリティは、アパートに欠陥木材が使用されていないか、また問題が起きた時にどのような要因があったのかを確認するためにも大切な情報となり得えます。

【関連記事】社会貢献と収益の両立へ。アパート経営でできるSDGs・サステナビリティの取り組みは?

4 ブロックチェーンの導入とトレーサビリティ向上への期待

すでに一定程度進んでいる不動産業界でのトレーサビリティは、不動産取引でのブロックチェーン技術の導入が進めば飛躍的に向上すると期待されています。

ブロックチェーンとは、暗号技術を用いて取引記録を多数の参加者で分散・共同管理する仕組みで、暗号資産に用いられている技術でもあります。現在の不動産取引は、紙ベースでの多数の契約書や取り決めをもとに進められる煩雑なものとなっています。その点、ブロックチェーンにより正確に取引記録を残せるようになれば、ペーパーレスでの効率的な取引が実現するでしょう。

ブロックチェーンの普及により詳細な取引記録が残るため、トレーサビリティの向上にもつながると考えられます。ブロックチェーンは従来型の中央集権的なネットワークよりも改ざんや不正侵入が難しいため、膨大な取引証跡を正確に残していけると考えられます。今後ブロックチェーンによる不動産取引が普及すれば、トレーサビリティの飛躍的な向上が見込まれます。

5 まとめ

トレーサビリティは農作物や食品などで普及していますが、不動産投資においても無視できない考え方です。物件に使用している建材や、不動産の取引、管理実績などの情報の透明性を高めることで、資産価格の保全や、リスク管理の精緻化といった効果が見込まれます。

先進的な企業や法人ではすでにトレーサビリティを意識する動きが見られますが、今後ブロックチェーンを活用した取引が普及すれば、ますます不動産取引におけるトレーサビリティが向上するでしょう。

The following two tabs change content below.

伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。