相続で不動産を取得したからと言って、その不動産に住むとは限りません。既に自己所有の不動産がある場合、相続不動産を所有していると維持費がかかるので、売却するのは一般的な選択肢と言えます。
しかし、相続不動産を売却する時は、通常の自己所有不動産の売却とは異なるため、どのような手続きが必要なのか気になっている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、相続不動産を売却する時の手順と注意点について解説します。
目次
- 相続不動産を売却する時の手順
1-1.遺産分割協議を行う
1-2.相続登記を行う
1-3.不動産を売却する - 相続不動産を売却する時の注意点
2-1.必ず相続登記を行う
2-2.早めに売却する
2-3.売却価格を協議しておく - まとめ
1 相続不動産を売却する時の手順
相続で不動産を取得しても、相続人が既に不動産を所有している場合には、売却という選択肢を取るのも一般的です。
しかし、自己所有不動産の売却と相続不動産の売却とは様々に異なる部分があるため、事前にどのような手順で売却を進めるのかを確認しておく必要があります。
相続が発生した場合には、まずは以下の手続きが必要です。
- 死亡届を提出する
- 葬儀を行う
- 金融機関に連絡する
- 生命保険を申請する
- 相続財産を調べる
これらの手続きが全て終わって、相続した不動産の売却を残すのみという場合には、以下の手順で相続不動産の売却を進めます。
- 遺産分割協議を行う
- 相続登記を行う
- 不動産を売却する
それぞれの手順について詳しく見ていきましょう。
1-1 遺産分割協議を行う
相続人は複数人いるのが一般的です。遺言書に事前に遺産相続の割合が記載されている場合はその内容通りに遺産相続を行いますが、遺言書がない場合は以下の法定相続の割合に応じて遺産分割を行います。
- 配偶者と子供が相続人:配偶者2分の1、子供2分の1
- 配偶者と直系尊属(父や母、祖父母):配偶者3分の2、直系尊属3分の1
- 配偶者と兄弟・姉妹:配偶者4分の3、兄弟・姉妹4分の1
相続財産が現金のように分けやすいものであれば問題ありませんが、不動産は相続割合に応じて分けることが容易ではありません。そこで、一度共有名義に切り替えてから売却し、現金化した後で分配するという方法があります。しかし、共有名義に切り替えると手続きが複雑になるのであまりおすすめできません。
そこでトラブルを避ける方法として用いられるのが換価分割です。換価分割とは、相続人の中から1人を選んで単独名義に切り替えてから売却し、現金化した後で分配するという方法です。
どちらかを選ぶ必要がありますが、相続人の1人が単独で決められるものではありません。遺産分割をどのように進めていくのかをしっかりと協議して、きちんと書面に協議結果を残しておくことが重要です。
1-2 相続登記を行う
遺産分割協議が終わった後は相続登記に進みます。相続登記を行う際は、主に以下のような書類が必要です。
- 遺産分割協議の内容を記載した書類
- 登記申請書
- 故人の戸籍謄本や住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本や住民票の写し、印鑑証明書
- 相続不動産の固定資産税評価証明書や全部事項証明書
これらの書類を全部用意するのは、なかなか時間と手間がかかります。登記申請書は作成に時間と手間がかかるため、場合によっては司法書士といった専門家に任せた方が効率良く手続きを進められるでしょう。
1-3 不動産を売却する
相続不動産を売却する際は、まずは不動産ポータルサイトなどを使って物件の相場を確認します。その後、複数の不動産会社から相見積もりを取って相場と比較しながら売却価格を決めて、仲介を依頼する不動産会社を選びます。
複数の不動産会社から相見積もりを取る際には、1社ずつに査定を依頼すると時間と手間がかかるため、一括査定サイトを利用すると便利です。一括査定サイトとは、一度物件情報を入力するだけで、複数の不動産会社から査定を受けられるサービスのことで、主なものには大手不動産6社が運営する「すまいValue」やNTTグループの「HOME4U」、収益不動産の売却に強い「リガイド」などがあります。
不動産一括査定サイトを利用すれば、自分の状況に合った不動産会社をより見つけやすくなると言えるでしょう。
2 相続不動産を売却する時の注意点
相続不動産を売却する時は、以下の3つの点に注意が必要です。
- 必ず相続登記を行う
- 早めに売却する
- 売却価格を協議しておく
それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
2-1 必ず相続登記を行う
相続登記は死後いつまでに行わなければならないといった決まりはありません。そのため、相続登記をせずに、そのまま故人名義で放置してしまうケースがあります。
しかし、故人名義のままの場合は、換価分割するために売却しようと思っていても、自由に売却できないというデメリットがあります。また、他の相続人が自分の持ち分だけ登記して勝手に売却することでトラブルに発展する可能性もあるので注意が必要です。
このようなトラブルを未然に防ぐには、相続が発生した時点で共有名義または単独名義のどちらにするか相続人同士で協議して、すぐ相続登記を行うことが重要と言えるでしょう。
2-2 早めに売却する
相続不動産を売却せずに長期間所有していても、固定資産税がかかったり、水道や電気、ガスを契約したままの場合には基本使用料もかかったりするなど、維持費が高くつくので、放置していては無駄になってしまうとも言えます。
一方、相続不動産を売却して譲渡益が発生した場合には、税金を納めなければなりません。しかし、相続税が発生してから3年以内の売却の場合には、取得費加算の特例で売却益を減らせるため、税金を抑えることが可能です。
他にも、条件を満たしていれば、マイホームを売却した場合の3,000万円の特別控除を相続不動産にも適用できます。ただしこの制度は、平成28年4月1日~令和5年12月31日までに売却しないと適用されません。
無駄な支出を抑えるために、また相続不動産の売却で少しでも課税を抑えるためにも、不動産を利用しないのであれば早めに相続不動産を売却することをおすすめします。
2-3 売却価格を協議しておく
相続不動産の名義を共有名義にしていた場合は、売却する際に共有名義人の承諾や印鑑が必要なので、売却を進めるのに手間と時間がかかります。そのため、相続不動産の売却では、共有名義ではなく単独名義にして換価分割するのが一般的と言いました。
換価分割では、単独名義となった相続人が相続不動産を売却しますが、自分の好きな金額で相続不動産を売却すると、売却価格が安かった場合には相続人同士でトラブルに発展する可能性があります。
そのため、それらのトラブルを未然に防ぐためにも、いくらで相続不動産を売却するのかを事前に協議しておくことが重要です。自分だけの相続不動産でない場合には、他の相続人と必要に応じて協議しながら円満に売却を進めていくことが重要と言えるでしょう。
3 まとめ
相続で取得した不動産に住む場合には、当面売却するかどうかを気にする必要は無いでしょう。しかし、相続不動産を売却する時には、自己所有の不動産を売却する時と手順が異なるため、事前にどのような手順で売却を進めるのか確認しておく必要があります。
まずは相続不動産の登記を共有名義にするか単独名義にするかを決める必要がありますが、共有名義は売却する際に手間と時間がかかるため、単独名義にすることをおすすめします。単独名義で換価分割にすれば、売却と遺産分割をスムーズに進めることが可能です。
相続不動産の売却は、葬儀や遺品整理などに追われて後回しになりがちです。しかし、相続不動産の売却が遅れると、無駄な支出が増えるほか、減税の恩恵を受けられなくなるというデメリットがあります。
無駄な支出を減らし、減税の恩恵を受けるためにも、スムーズに相続不動産の売却を進めましょう。
矢野翔一
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