相続不動産の査定は、主に不動産会社による無料査定と鑑定士が有料で行う鑑定評価があります。
不動産会社の無料査定は相場の取引価格を知ることができますが、会社によって価格にばらつきがある可能性があります。一方で、不動産鑑定士による鑑定は法規制や複数の評価方法から算出した客観性の高い価格となりますが、費用がかかる点がデメリットです。
本記事では不動産を含む相続の流れ、相続不動産の査定方法2つのメリット・デメリット、トラブルを避けるための注意点を解説していきます。
目次
- 不動産を含む遺産相続の流れ
1-1.相続開始、遺言書の有無を確認
1-2.遺産の調査・評価
1-3.場合によっては相続放棄や限定承認を行う(3ヶ月以内)
1-4.被相続人の準確定申告(4ヶ月以内)
1-5.遺産分割協議を行う
1-6.遺産を分配する
1-7.相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内) - 不動産価格には様々な種類がある
- 相続不動産の2つの査定方法
3-1.不動産会社による無料査定のメリット・デメリット
3-2.不動産鑑定士による鑑定評価のメリット・デメリット - 相続不動産の査定でトラブルを避けるためには
- まとめ
1.不動産を含む遺産相続の流れ
まずは不動産を含めた相続全体の流れを見ていきましょう。
1-1.相続開始、遺言書の有無を確認
被相続人が亡くなったことにより相続開始となります。7日以内に死亡届を提出し、被相続人が遺言書を残しているか否かを確認します。
遺言書には自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があり、被相続人が「自筆証書遺言保管制度」を利用している場合は法務局に、公正証書として作成している際には公証役場に保管されています。
遺言書が保管されている事が多い自宅・銀行の貸金庫を始め、法務局、公証役場に保管されている可能性も考慮しましょう。法務局で保管されている自筆証書遺言、公証役場にある公正証書遺言以外は家庭裁判所で「検認」を行います。
検認は遺言書の偽造・変造を防ぐためのもので、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てを行うことで手続きが可能です。
1-2.遺産の調査・評価
被相続人の遺産を全て調査し、それぞれの遺産に応じた評価を行います。
相続財産は預貯金・有価証券(株式・債権)・骨董品や美術品・不動産など、被相続人が残した「お金に換えられるもの」すべてが対象です。また民法上相続財産ではないものの、実質相続財産となる死亡退職金・生命保険金などは「みなし相続財産」と呼ばれています。
上記のようなプラスの遺産の他に、住宅ローンや借金などマイナスの遺産も相続の対象となります。被相続人が生前取引のあった銀行や不動産会社、保険会社などに確認を行いましょう。
不動産を含む遺産は時価で評価することになっており、例えば、普通預金は相続日の預入残高となっています。評価時期の判断や評価が難しい場合には、国税庁が定めた「財産評価基本通達」に従い評価を行い、税理士に相談するケースもあります。
不動産には時価や相続税評価額など複数の評価方法がありますが、基本的には相続人全員が合意する方法で評価を行います。
1-3.場合によっては相続放棄や限定承認を行う(3ヶ月以内)
プラスの遺産よりマイナスの遺産が多い場合、何らかの事情で相続できないケースでは、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に対して「相続放棄」の申し立てを行い、相続放棄を行います。
相続放棄はプラスの遺産を含むすべての遺産を放棄することになり、基本的に取り消しが不可能ですので慎重に検討しましょう。マイナスの遺産がどの位あるのか分からない時には、「限定承認」という方法で、相続した遺産の範囲内で債務を受け継ぐことができます。
相続放棄と同様に相続開始から3ヶ月以内に申し立てることで手続きが行えますが、相続放棄は相続人1人でも可能であるのに対し、限定承認は相続人全員に共同による申し立てといった違いがあります。
1-4.被相続人の準確定申告(4ヶ月以内)
被相続人が亡くなった年度の1月1日から亡くなった日までの所得税を申告・納付します。相続開始の翌日から4ヶ月以内に、被相続人が亡くなった時の住所を管轄する税務署に準確定申告書・必要書類を提出します。
1-5.遺産分割協議を行う
遺産の分割方法や割合などを相続人全員で話し合います。遺産分割協議には相続人全員で行う、未成年者や判断が難しい方(認知症・知的・精神障害など)には後見人を選任するという決まりがありますので注意しましょう。
遺産分割協議で話がまとまった場合には、話し合った内容を書面化した「遺産分割協議書」を作成します。
1-6.遺産を分配する
遺言書や遺産分割協議で決められた内容で遺産の分配を行います。
不動産を相続する際には、管轄の法務局で所有権移転の登記を行います。登記手続きは必要書類を揃え、法務局の窓口へ行く、郵送する、オンライン申請という3つの方法から選ぶ事が可能です。
相続人自身でも申請できますが、複雑なケースでは司法書士に依頼することもあります。
1-7.相続税の計算・申告・納付(10ヶ月以内)
相続開始から10ヶ月以内に相続税を計算・申告・納付します。
相続税は基本的に遺産が基礎控除額「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超える際に発生しますが、配偶者控除・未成年者控除など基礎控除以外の控除により各相続人に税金がかからないケースもあります。
2.不動産価格には様々な種類がある
不動産は売買や相続・贈与など様々な場面で取引されるため、1つの不動産に対し主に4つの価格が存在します。
- 実勢価格(時価):不動産市場における実際の取引価格
- 公示価格:1年に1回国土交通省が発表する取引の指標となる価格
- 固定資産税評価額:固定資産税・都市計画税などの計算の基となる価格
- 相続税評価額:相続・贈与の場面で税金の算定に用いられる価格
不動産を相続する際、相続税の計算には相続税評価額が用いられます。しかし、不動産を売却し、現金化した時の価格は「実勢価格」となります。
相続税評価額は実勢価格よりも低く設定されているケースが多く、相続税評価額をもとに遺産分割を行うと、後に相続人間でトラブルとなってしまうこともあります。
遺産を分割するにあたっては、これらの評価方法によって価格が違うことを理解し、相続人全員で協議を行い、皆が合意する方法で評価することが重要になります。
3.相続不動産の2つの査定方法
遺産分割を実勢価格で行う場合、不動産査定の方法として、主に以下の2つの方法があります。
- 不動産会社による無料査定
- 不動産鑑定士による鑑定
3-1.不動産会社による無料査定のメリット・デメリット
不動産一括査定サイトを利用して複数の不動産会社に査定額を提示してもらい、数社に絞り訪問による査定を依頼します。周辺環境や日当たりなど細かい条件を確認してもらい、再び査定額を提示してもらいましょう。
不動産会社の査定によって、取引価格の相場が分かります。4つの評価方法における「実勢価格」に該当します。無料で査定できる点がメリットですが、場合によっては会社によってばらつきがある点がデメリットです。
不動産会社によって得意とする分野と不得意な分野があります。例えば、戸建ての場合は取引件数が多い不動産会社に依頼することで適正な価格を出してもらえる可能性が高くなります。加えて、査定の際に疑問に感じたことは担当者に査定の根拠を尋ねてみましょう。
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3-2.不動産鑑定士による鑑定評価のメリット・デメリット
不動産鑑定士による「不動産鑑定評価額」は、法規制や地理的状況などから客観的に判断された不動産の価額が分かります。
鑑定により書面として発行される「不動産鑑定評価書」は法律に基づき作成されますので、不動産会社による査定より公的な色合いが強い価格と言えるでしょう。遺産分割調停・裁判などいざという時に証拠力が高い点もメリットです。
一方、不動産鑑定のデメリットは、数十万円の費用がかかることです。相続不動産の資産価値が低い場合には、費用をかけてまで公平性を保つメリットが薄い可能性もあるため、注意しましょう。
4.相続不動産の査定でトラブルを避けるためには
相続不動産の査定方法について相続人同士の意見がまとまった時には、必ず「遺産分割協議書」を作成しておきましょう。遺産分割協議書は、遺産の評価方法・分割方法・割合や相続人などを明記した書類で、相続手続きに必要であり、後でトラブルになった時に役立つ可能性があります。
相続人同士で話がまとまらない時には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。調停では調停委員会(裁判官と調停委員)を通じて相続人間で意見の調整を行い、解決に向けて話し合いを続けます。
また、相続後に「聞いていなかった」「理解していなかった」という方がいると、トラブルに発展してしまうことがあります。法的な手順を進めつつも、分割方法について理解をしっかりと得られるよう、情報共有をすることも重要なポイントとなります。
まとめ
相続不動産の査定方法は、相続人全員の同意した方法で行うことになります。無料査定に合意している場合には無料査定、意見が異なる場合には客観性の高い不動産鑑定士による鑑定評価額で査定を行うケースが多くなります。
不動産相続で後のトラブルにならないようにするには、法的な手段だけでなく、相続時にしっかりと相続人同士で話し合いを行い、それぞれが相続状況を理解できていることが望ましいと言えます。大切な資産がトラブルの基にならないよう、慎重に話し合いを進めてみましょう。
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田中 あさみ
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