不動産投資は個人の名義だけでなく、法人名義での購入・運用が可能です。個人が役員になって法人を作って不動産投資を行うのと、個人名義で行うのでは、どのような違いがあるのでしょうか。
本記事では、法人名義で不動産投資を行う形態から、個人名義と法人名義との違い、それぞれのメリット・デメリットを比較して解説していきます。
※本記事は2020年12月時点での情報をもとに作成されています。税制上受けられる控除の適用については「国税庁」の情報や税理士へ相談し、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
1.法人名義で不動産投資を行うパターンとは
法人名義で不動産投資を行うと一概に言っても、いくつかのパターンがあります。
まず、不動産投資とはまったく別の既存事業を法人で運営しており、その法人で不動産を取得して不動産投資を行うという形態があります。
次に、サラリーマンなどの個人の方が、新規に法人を設立して不動産投資を行うという形態があります。既に個人で不動産投資をおこなっている方が、法人を設立する場合もこれに含まれます。
さらに、新規に法人を設立して不動産投資を行う場合であっても、不動産を法人で取得する所有型で行うケースと、不動産は個人で取得するものの、管理のみを法人で行う管理型で行うケースがあります。
この記事では、法人名義で不動産を取得して不動産投資を行うケースを念頭に、個人名義で行うケースとの比較をしていきます。
2.個人名義と法人名義の比較
サラリーマンなど個人の方は、不動産投資は個人名義で行うことが多いでしょう。敢えて法人を設立し、手間やコストをかけてまで法人名義で不動産投資を行うメリットはあるのでしょうか。
そこで、以下では、個人名義で不動産投資を行うデメリットと、法人名義で不動産投資を行うメリットに重点を当てて、両者のメリット・デメリットを比較していきます。
2-1.個人名義のメリット・デメリット
個人名義の不動産投資は、規模が小さい方や給与収入が多い方にはメリットがあります。しかし、規模を大きくしていくにつれてデメリットが大きくなってくるといえます。以下で詳しく説明していきます。
個人名義のメリット
不動産投資の規模が小さい場合、余計な手間やコストがかからないメリットがあります。法人を設立したり運営したりする手間やコストは、小規模で運営している際には軽視できません。
個人の給与収入が多い場合にも、個人名義の不動産投資には損益通算などの利用によって税制上のメリットがあるケースもあります。
損益通算とは、所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額を計算する際に他の各種所得の金額から控除することです。
例えば、マンション投資などで建物価格が残っており減価償却費が大きいケースでは、キャッシュフローが出ていても不動産所得が赤字になることがあります。個人所得税の計算では、給与所得と不動産所得の赤字を相殺することが可能です。
このような場合、個人名義で不動産投資を行う税制上のメリットがあると言えます。
個人名義のデメリット
不動産投資を個人名義で行うことのデメリットは、規模が大きくなると税額が高くなることです。
所得税は累進税率制度によって所得が上がるにつれて税率も上がる仕組みになっています。最大45%まで税率が上がってしまい(このほか、住民税10%)、法人税の実効税率29.74%(法人住民税を含む)と比べてかなり高くなっています。
また、個人の所得税では減価償却費が強制償却となっていることや、家事関連費の計上につき事業にかかる部分の按分計算が必要になることから、経費の調整が難しくなるデメリットもあります。
2-2.法人名義のメリット・デメリット
法人名義で不動産投資を行う場合、税制面でのメリットがあり、投資規模の拡大などにも有利に働くといえます。以下で、デメリットと併せて解説します。
法人名義のメリット
法人で不動産投資をおこなっていると、経費計上のコントロールがしやすくなります。個人では減価償却費の調整ができませんが、法人の場合は、限度額の枠内で任意に計上額を調整することが可能です。
また、法人は個人よりも経費として認められる範囲が広く、事業に必要な支出であれば、損金計上が認められるケースが多くなります。そのほか、親族を役員にして役員報酬を支払うことで、法人利益の圧縮と所得分散を図ることが可能になります。
その他、役員が退職した場合には、役員退職金を支払って損金計上することもできます。ただし、役員としての勤務実態があることが前提となります。
このように、法人名義の不動産投資が税制面で個人名義よりも有利であることから、決算上での利益が残りやすくなり、財務諸表の数値が良くなる傾向があります。
財務諸表の数値が良化することで金融機関も融資に積極的になりやすくなり、結果として不動産投資の拡大スピードに影響が出てくる可能性があります。
法人名義のデメリット
法人名義のデメリットは、法人の運営には最低限の費用がかかることです。法人の帳簿作成から毎年の税務申告まで個人がこなすのは難しく、手間もかかります。
なお、税理士などの専門家に依頼すると20万円~30万円程度の費用がかかるため、不動産投資の規模が小さいと投資効果を大きく圧迫することに繋がります。その他、利益が出ていなくても、法人住民税均等割と呼ばれる税金が最低7万円かかります。
これらの費用や法人運営の手間を勘案しても税制上のメリットが得られる投資規模でないと、不動産投資を法人名義で行う必要性が薄いと考えられます。
3.法人名義で不動産投資を検討するケース
法人名義で不動産投資を検討するケースとしては、主には自営業者・会社役員ですでに自己所有の法人のある方や、不動産投資の規模が大きい方、今後規模拡大を視野に入れている方が該当すると言えるでしょう。
法人名義にすることで、経費計上の幅が広がり税制上の様々なメリットを受けられる可能性が高まります。しかし、不動産投資だけで法人運営の手間や経費を超えるメリットを受けるには、多額の投資資金を活用した資産運用が必要となります。
そのため、すでに法人を所有しており、会社登記費用、法人住民税、税理士報酬などの費用を支払っているケースでは、不動産所有に対するコストに大きな影響を与えないため、検討しやすいケースであると言えます。
その他、不動産投資の規模が大きい、もしくは今後の規模拡大が予想される場合においては、新規に法人設立をすることによるメリットはあると言えるでしょう。ただし、法人で融資を受けるためには財務諸表の数値を良化させておく必要があります。
まとめ
個人名義で不動産投資を行うのは、小規模の場合や給与収入が多いサラリーマンの方にはメリットがあることがあります。
一方、投資規模が大きくなると、法人名義で不動産投資を行う方が税制上の選択肢が増え、メリットが大きくなります。
すでに自身の法人を持っている方や、投資規模の拡大を目指している場合、相続まで見据えて利益をできる限り残したい場合などには法人名義での運用が検討出来るでしょう。
ただし、税制改正は毎年行われ、現時点のメリットが翌年から使えなくなるケースは少なくありません。個人・法人名義に関わらず、税制上のメリットの適用を検討する際は税理士に相談し、慎重に判断することが大切です。
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佐藤 永一郎
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