ご家族のいる方が不動産投資をおこなう場合には、家族、特にパートナーの同意を得た上で投資を実行する人が多いでしょう。大きな資金投入やローン借り入れが必要な不動産投資を、家族の同意なしに始めてしまうと、後々大きなトラブルに発展するリスクがあるためです。
そのため、妻もしくは夫が不動産投資を検討していれば、自分が「相談される側」になるケースも考えられます。自分が投資に興味がなければ、不動産投資のことを聞かれてもよくわからず、相談されても正常な判断ができない可能性もあるでしょう。
そこで今回の記事では、突然不動産投資について相談されたときに、了承して大丈夫かを判断するうえでのポイントを紹介していきます。
目次
- 不動産投資において家族の合意が重要な理由
1-1.資産構成に大きな影響があるため
1-2.将来の家計の悪化リスクを伴うため
1-3.相続対応が複雑化するため - 家族から不動産投資の相談をされたときの6つの判断ポイント
2-1.自己資金額を払っても家計・貯蓄は問題ないか
2-2.住宅ローンに対する影響は問題ないか
2-3.借入額と収支見通しに問題はないか
2-4.保守的で健全な長期計画が立てられているか
2-5.夫(妻)にもしものことがあった場合の準備はできるか
2-6.購入物件に最低限納得ができるか - まとめ
1 不動産投資において家族の合意が重要な理由
不動産投資を家族持ちの方が行う場合には、家族の合意を得た上で進めるのがよいと考えられます。なぜなら、大きな資金投入やローン借入が必要になるほか、将来リスク・相続などのさまざまなポイントについて、夫婦が二人とも理解しておかなければならないためです。
まずは、そもそもなぜ不動産投資において家族で合意を得る必要があるのかを整理しておきましょう。
1-1 資産構成に大きな影響があるため
不動産投資では、少なくとも数百万円、高いと億円単位の買い物をすることになります。もし全部または多くの部分を今ある現金で手当しようとすると、家族の現預金が大幅に減少することになります。
家計を一つで管理しているのであれば、資産構成が大幅に変動する以上、家族で納得した上で投資を進めなければなりません。家計を夫婦で分けている場合でも、将来にわたり暮らしの計画を立てていくには、やはり大きな収入・出費については共有しておくのが望ましいといえます。
また、多くのケースでは現金だけでなく多額のローンを借りることになります。多額の借金を背負うことを心理的に負担と感じる人は少なくなく、賃料収入が減少し赤字に陥った場合には自己資金から返済に追われるリスクもあります。
将来住宅ローンなどの大きな借り入れが予想される場合は、先に不動産ローンの借り入れることにより住宅ローン審査や限度額に影響して、住宅の選択肢が狭まるリスクもあります。こうしたリスクについて家族で共通認識を持っておかなければいけません。
1-2 将来の家計の悪化リスクを伴うため
全ての投資には損失リスクがつきもので、家計に大きな影響を与える規模の大きい投資については、家族で合意を得て進めるのが望ましいと言えます。
賃料収入を土台とした不動産投資の場合、一度物件を購入してしまえば、正常に経営が進んでいるうちは、賃料収入からローン支払いや諸経費などを引いた部分が毎月の収入となります。うまくいけば家計の足しにすることもできるでしょう。
しかし、空室などが発生して、毎月のコストを賃料収入で賄えなくなると、今度は毎月家計からお金が出ていくことになります。赤字額によっては、家計を大きく圧迫する可能性もあるため、家族としてはこうしたリスクの存在を理解したうえで、それでもチャレンジしてよいか判断しなければなりません。
1-3 相続対応が複雑化するため
オーナーが死亡した場合、不動産は遺族に相続される資産となります。特に団体信用生命保険に加入しているときは、オーナーの死亡によって借金が帳消しになるため、物件価値がそのまま相続資産を構成することになります。潤沢な資産が相続される可能性が高まる点は、家族にとっては前向きな判断材料です。
一方で、人によってはこれまであまり縁のなかった相続対策を考える必要性が高まるケースもあります。相続税は相続資産の総額が3,000万円+(600万円×法定相続人の数)にならなければ発生しないため、これまであまり考えてこなかったという人も少なくありません。(※参照:国税庁「相続税の計算」)
しかし、不動産を所有していれば高額の相続税が発生する可能性が高まります。さらに相続資産が大きいために、相続順序などを整理しておかなければ、遺族間の争いの火種となるリスクもあります。不動産を所有する時点で、こうした将来のリスクを共有し、パートナー同士で協力して相続対策をしておかなければいけません。
2 家族から不動産投資の相談をされたときの6つの判断ポイント
不動産投資は本人だけでなく家族、とくに妻もしくは夫といったパートナーが必ず納得したうえで進める必要があります。自身が相談される側の立場になった時、不動産投資の経験がなければ、どのような点をみれば良いのか判断が難しいでしょう。
そこで、家族から不動産投資について相談されたときに、了承するかどうかの判断ポイントを6つ紹介します。
2-1 自己資金額を払っても家計・貯蓄は問題ないか
第一に、不動産物件を購入するときの自己資金額がなくなっても、家計に問題がないかを確認します。日々の生活費が立ち行かなくなるのであれば、その投資は中止したほうがよいでしょう。加えて急な病気・トラブルなどに対処できるだけの貯蓄はあるか、子供の教育費や自分たちの老後資金など将来の出費に対する貯蓄が充分残るかなども、みておきましょう。
自己資金を投じた後でも充分な蓄えが残るなら、ひとまず問題はないと考えられます。一方で、一時的に貯蓄を大きく減らしても、賃料収入を積み上げて資産形成を図るという計画の場合は注意が必要です。投資にリスクがつきものであることを理解、納得の上進めるのであれば、このような考え方が絶対にいけないというわけではありません。
ただし、不動産投資に失敗すれば貯蓄は増えない、むしろ赤字になって減るリスクもあることを念頭に、長期の計画をより保守的にみておきましょう。
2-2 住宅ローンに対する影響は問題ないか
不動産投資においては、多くの人が不動産ローンを活用して物件を購入しますが、その場合住宅ローンとの兼ね合いについては注意する必要があります。
住宅ローンを借り入れるときには、借り手の与信状況が審査項目の一つになります。不動産ローンによって与信が圧迫されていると、審査落ちしたり、限度額が下がったりして、住宅購入の選択肢が狭まる可能性があるのです。
逆に不動産投資ローンは物件自体の収益性が高いとプラスに評価されます。オーナーに一定の収入があれば住宅ローンの借入があっても審査が通る可能性は充分にあります。
従って、住環境を優先するのであれば、住宅購入を先にした後に不動産投資を検討するのが良いでしょう。すでに住宅を保有しているなら問題ないですが、住宅購入が将来に控えているのに不動産投資を始めようとしているなら、慎重に考えておきたいポイントと言えます。
2-3 借入額と収支見通しに問題はないか
自己資金の支払額を絞るために、多額の借入によって不動産投資にチャレンジしようとする人もいます。借入額が大きくなると賃料収入に対して月々の返済額が大きくなり、収益性が低下するリスクがあります。無理な計画の下投資を始めてしまうと、わずかな空室率で赤字になってしまうため、注意しなければなりません。
年間で10%程度の空室率を目安にシミュレーションを組み、ストレスをかけた状態で経営が継続できるかどうか判断してみましょう。すなわち、満室想定の家賃より10%程度割り引いてもなお充分な収益が得られるかを見ておく必要があります。
また、ローン支払い以外にかかるコストについて加味されているかもみておいてください。例えば管理会社へ支払う管理料や、修繕積立金、年に一度支払う税金(固定資産税や所得税など)、退去者が出たときに発生する原状回復費用などを無視してはいけません。
このように空室率も加味した収益から諸費用とローン支払いを差し引いて、なおも充分な収益が残るのであれば、ひとまず検討の余地があるといえます。
2-4 保守的で健全な長期計画が立てられているか
長期的な計画をどのように立てているかも見ておく必要があります。
まず着目しておかなければならないのは、修繕への対応です。特にアパート投資の場合は10~15年に一度大規模な修繕が必要となるケースが多く、その時には数百万円単位の出費がかかります。毎月の収支が問題ないように見えても、実は修繕コストを加味すると赤字で、のちのち手痛い出費を強いられる人は少なくありません。
また、賃料の下落リスクについても保守的に加味しているかを見ておきましょう。特に新築や築浅は注意が必要で、築10年ごろまでは経年により年あたり1~2%程度を目安に家賃が下落する傾向にあります。そのあとは下落ペースは落ち着きますが、それでも保守的に検討するのであれば0.5~1%は下落するとみておいた方がよいでしょう。
最後に注意しなければならないのが、減価償却・ローンの金利部分の支払いと将来の税金の関係です。不動産投資では建物部分の資産について価値が年々下がることを加味して、減価償却費を計上できます。
これに加えてローンの金利部分も費用として計上できます。これらの費用は所得の圧縮につながるため、投資開始当初はキャッシュフローの規模の割に所得税が少ないケースが多くなります。
しかし、減価償却は耐用年数が切れると計上できなくなり、ローンは元利均等返済の場合、年々金利部分の支払い割合が下がるため、徐々にキャッシュフローに対する所得税の計上額が大きくなっていきます。
これらの要素を加味しても、投資期間にわたり充分な投資効果を得られるシミュレーションを立てているかを見ておきましょう。
2-5 夫(妻)にもしものことがあった場合の準備はできるか
不動産投資は長期にわたる投資となるため、経営中に直接のオーナーとなる夫(妻)が大病にかかったり、死亡するリスクもあります。元気なうちは目を背けがちなことではありますが、もしもの時の備えや計画を立てておかなければいけません。
まず、よほどの貯蓄がある、自分もいざとなれば不動産経営に参加したいなどの特別な事情がない限り、団体信用生命保険には加入してもらうようにしましょう。
不動産投資の場合は団信加入なしでもローンを借りれる場合がありますが、そうするとオーナーが亡くなったときなどは、家族が不動産経営を引き継がざるを得ません。団信があれば債務が解消されるなら、直ちに売却して現金化する選択も取りやすいため、遺された家族にとってメリットがあります。
その他、相続関係の整理や相続税に対する対処も必要です。オーナーが亡くなった時の相続相手や相続割合、相続税の手当てなどについて整理しておきましょう。必要に応じて遺言の作成なども視野に入れておいてください。
また、入院などで柔軟な対応が難しくなる場合に備えて、管理会社とのコミュニケーションなど必要最低限の不動産経営に関する対応はできるようにしておく必要があります。契約内容や物件管理の実施要領の基本的な所は理解しておきましょう。
この辺りは相手が積極的に対応する意思があるかどうかだけでなく、自身が理解できる、対応できると思えるかどうかもポイントとなります。いざというときに全く責任が取れそうにないということであれば、無理に不動産投資を進めるのは適切とはいえません。
2-6 購入物件に最低限納得ができるか
本来であれば夫(妻)が購入予定の物件について、投資物件として魅力的であるか、利回りは適切か、割高すぎないかなどの判断ができれば良いのですが、いきなり相談を持ちかけられてそのような判断ができる人は、そもそも今回の主題のような悩みを抱えることはないでしょう。
そのため、厳密な投資判断についてはある程度相手を信用するしかない部分もありますが、せめて最低限自分も納得できる物件を購入してもらうようにしましょう。
比較的初心者でも確認できるポイントは次のような点です。このあたりで初心者の目から見ても問題がありそうなら、無理に投資に踏み切るのは辞めましょう。
- 立地
- 物件の設備や内外装
- 家賃水準
まず着目したのは立地です。どんなに優良物件でも人口稀薄地帯にあれば入居者を募るのは非常に難しくなります。大都市もしくは大都市にアクセスできる近郊である、都市部なら徒歩10分以内、地方でも15分以内に利便性のよい交通網があるなど、自分が暮らすことを想定しても不便過ぎない地域やアクセスであることを最低限確認しましょう。
また、物件の設備や内外装についてもみておきましょう。必要な設備やセキュリティは満足にそろっているか、間取りは使いやすいか、通路など共用部分に問題はないか、外観は好感が持てるか、など自分が住むことを想定して考えてみてください。
家賃水準は厳格に相場観を出すのは難しいですが、せめて周辺の家賃水準と比較して割高すぎないかはみておきましょう。 周辺の賃料相場は、賃貸のポータルサイトで検索すればある程度把握できます。周辺に全く賃貸物件がないような地域は、賃貸需要自体が乏しいと懸念されるため、別の物件を検討したほうがよいでしょう。
3 まとめ
不動産投資は今後の家計や資産状況、相続について大きな変化をもたらす可能性があります。ポジティブな要因もリスクもしっかり把握したうえで、投資の可否を判断しましょう。
オーナー本人だけでなく、相談された家族の方の将来や家計状況、生活に大きな変化をもたらす可能性があります。他人ごとにせず、自分として納得のいく投資なのかを判断してください。
厳格な判断を下すのは難しいという方は、まずは今回紹介した6つのポイントをみるようにしてください。投資判断において重要度が高く、比較的確認しやすいポイントでもあります。不動産投資は家族の協力が良い効果をもたらす投資方法でもあるため、これらのポイントについて全て納得できて、不動産投資に賛成できる状態になってから進められると良いでしょう。
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伊藤 圭佑
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