高齢になる親が資産を有している場合、資産管理を自分で行うのが難しくなってくることがあります。また、親が認知症になると自由に資産を動かすことができなくなり、大きなリスクとなります。
本記事では、そのようなリスクを未然に防ぐため、高齢になる親の資産管理を他の家族がスムーズに行える方法と手順、事前にできる対策について解説します。
目次
- 高齢の親の資産管理の重要性
- 高齢になる親の資産管理の方法と手順
2-1.代理人による預金管理・株の運用、定期預金や証券口座の解約
2-2.不動産の査定と意思確認
2-3.家族信託による管理
2-4.任意後見人制度の利用 - まとめ
1.高齢の親の資産管理の重要性
親が高齢になってくると、病気のリスクが高くなったり、体力的に衰えたりして、親本人が資産管理をすることが難しくなってくることがあります。
そのうえ、親が認知症になり意思能力がない状態になると、株式や不動産などの処分を行うことが難しくなるリスクがあります。特に不動産は管理上のリスクが高く、所有者が認知症になると以下のような問題が発生します。
- 自由に不動産を売却・活用することが出来なくなる
- 成年後見人の費用がかかる
- 特定空き家に指定される可能性がある
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そのような状態にならないうちに、資産管理を他の家族がスムーズにおこなえるよう、事前に対策を講じておくことが重要です。
具体的な対策は資産の種類や親の意思によって異なりますが、株式や不動産などを運用していきたい場合には、特に注意する必要があります。親の意思を確認し、他の相続人とも相談したうえで、適切な対策を講じていきたいといえます。
2.高齢になる親の資産管理の方法と手順
高齢になる親の資産管理の方法として、預金の引出しや株式運用であれば、代理人を指定する手続きが考えられます。現金化のしやすさを考え、定期預金や証券口座を解約しておくのも有効です。
不動産であれば、相続も見据え、現金化するのか、あるいは残して管理・運用するのかなど、の意思確認をしておくことが必要になるでしょう。
資産が株式や不動産の場合、管理だけでなく運用にも重点を置くのであれば、家族信託を利用する方法があります。認知症になった場合に備え、トラブルリスクに配慮する場合、任意後見人制度を利用することも考えられます。
なお、相続を見据えるのであれば、生前贈与や相続時精算課税の利用なども考えられますが、ここでは、相続人に所有権を移転せずに資産管理する段階の方法を紹介しています。
以下、それぞれの方法について、その内容と簡単な手順を説明します。
2-1.代理人による預金管理・株の運用、定期預金や証券口座の解約
高齢の親が病気で動けないため、日常の預金の引出しや株式の運用などを管理したいという場合、代理人を指定する方法があります。
代理とは、あらかじめ定められた範囲内で、本人に代わり一定の行為を代理人が行うことができる民法上の行為です。代理人キャッシュカード発行制度や代理人指名制度を設けている銀行もあります。そうでない場合は、代理人届や委任状によって代理人を指定して管理することになります。
株式や投資信託、債券などの運用取引も、口座を開設している証券会社で代理人手続きを行うことで、指定された代理人が取引銘柄、売買時期の判断を行うことができるようになります。
代理人手続きの手順は、銀行・証券会社所定の届出書類をもらい、本人と代理人が自署、届出印を押印して、本人確認書類とともに銀行・証券会社の担当者が意思確認をするという流れになります。各金融機関によって取扱いは異なるので、問い合わせて確認しましょう。
親が代理人に管理を任せたくないという考えの場合、非常時に備え、定期預金や証券取引口座を解約しておくという対策も重要です。口座解約は代理人でもできないという取扱いをしている金融機関が多いため、事前に解約して現金化しやすくする方法も有効といえます。
2-2.不動産の査定と意思確認
高齢の親が不動産を所有している場合、長期的なスパンでの対策になるため、相続を見据えた資産管理を行うことが重要になります。
まずは不動産の査定をおこない、金銭面や税金面も考慮したうえで、売却あるいは活用、またはそのまま維持するのか、親や相続人と相談して検討していくことが大切です。
不動産査定は1社の不動産会社だけでなく、複数の不動産会社へ査定依頼できる「不動産一括査定サイト」の利用を検討してみましょう。不動産はおおよその相場があるものの明確な現金価値は定められておらず、不動産会社によって査定価格に大きな差が出るケースが少なくないためです。
また、不動産一括査定サイトは売却するかどうかを査定後の価格を見た後に判断することができるため、まずは価格を知りたいという時にも便利に活用できるサービスです。下記、主な不動産一括査定サイトの特徴をまとめた表になります。
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なお、不動産を売却せずに残す場合、家族信託の利用や任意後見人の選定などによって、管理権限を移していく対策を行います。この時点で、親や相続人の合意があれば、生前贈与や相続時精算制度の利用による所有権を移転する方法も選択肢として検討できます。
2-3.家族信託による管理
2007年に施行された信託法に基づく家族信託という仕組みを利用すると、生前から資産の管理・運用を家族に委託し、認知症になった場合や、相続にも備えることができます。
家族信託は、委託者の所有している不動産や金融資産を別扱いにして、受託者に管理・処分を委託できる制度です。信託財産から生じる利益を受け取る受益者は、受託者とは別に指定することができます。
信託の目的についても、特定の受益者に収益不動産の運用益を渡したいなど、委託者が自由に決めることができ、その目的が達成された段階で、その資産は委託者が決めた帰属先に引き渡されます。
信託の目的の範囲内で、受託者が自由に管理・処分できるため、株式や収益不動産の運用に適しているといえます。任意後見人制度では資産の処分にはかなり制限がありますが、家族信託では、株式や収益不動産であっても、受託者による売却が可能です。
ただし、家族信託手続きは、複雑な手続きであるうえ、専門家でも得意不得意が分かれる分野です。家族信託契約の締結や、信託専用口座の開設、信託不動産の名義変更などは、家族信託を専門とする司法書士への依頼を検討してみましょう。
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2-4.任意後見人制度の利用
資産管理を他人に任せるとしても、公的機関に監督してもらいたいという考えを親が持っている場合もあります。特に、家族信託の場合、受託者の資産管理内容によっては、相続の際、相続人間トラブルを招くおそれもあるでしょう。
できる限りトラブルを避けるには、任意後見人制度を利用するという方法があります。任意後見人制度は、自分の判断能力が不十分になった場合に、あらかじめ選んだ代理人に、資産管理などの代理権を与えるものです。
任意後見人の行為を家庭裁判所が選任する任意後見監督人が監督するのが特徴です。資産管理や日常の預金引き出しなどは行えるものの、不動産の売却などの重要な資産の処分には、家庭裁判所の許可が必要になります。
被後見人の資産を守ることを目的としている制度であるため、資産運用には適さない場合があります。
任意後見契約の締結は、公証人立会いの下、公正証書の作成によって行われます。実際に任意後見人が資産管理などを行うのは、任意後見を引き受けた者が、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してほしいと申し立て、任意後見監督人が選任されてからになります。
なお、親がすでに認知症などで意思能力がない場合には、法定後見人制度を利用することになります。
まとめ
高齢になる親の資産管理は、預金の引出しや株式の運用を代わりに行う代理手続きや、定期預金や証券取引口座を解約し、現金化しやすいように準備しておくことが有効です。
不動産がある場合は、資産性を査定して確認したうえで、売却あるいは活用、維持などの方向性を決めましょう。相続時まで不動産を残すのであれば、家族信託や任意後見などによって管理していくことが、認知症によって資産が動かせなくなるリスクへの対策となります。
任意後見制度は、家庭裁判所のチェックが入るためトラブルになるリスクは抑えられますが、その分自由に処分できないため、運用には適さないことがあります。不動産や株式を管理しつつ運用にも重点を置くのであれば、家族信託の利便性が高いといえるでしょう。
佐藤 永一郎
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