寄付と贈与は、どちらも財産を無償で譲り渡す行為であるといえますが、税制上の取り扱いに大きな違いがあります。
特定の寄付では税制上優遇される場合がある一方、贈与では財産を譲り受けた側だけでなく、譲り渡した側でも税金がかかるケースがあり、注意が必要です。
本記事では、寄付と贈与の法的な違いと税制の違い、金銭以外の資産を贈与・寄付する際注意したい税制の取扱いについて解説していきます。
※本記事は2021年6月時点の情報に基づき執筆しています。最新情報は国税庁のウェブサイトの確認や税理士など専門家へのご相談のうえ、ご自身にてご確認頂きますようお願い致します。
目次
- 寄付と贈与の違い
- 寄付と贈与の税制の違い
2-1.寄付と贈与を受けた側の取扱い
2-2.寄付と贈与をおこなった側の取扱い - 金銭以外の資産を贈与・寄付する際に注意したい税制
3-1.個人間の金銭以外の資産贈与の課税価格は時価である
3-2.個人から法人への金銭以外の資産寄付は譲渡所得税の対象となる - まとめ
1.寄付と贈与の違い
寄付とは、公共的な慈善目的のために財産を無償で譲渡することである一方、贈与とは無償で財産を与える契約です。寄付が贈与と大きく異なるのは、無償で財産を譲渡する目的とその対象となります。
寄付は、公共的な慈善目的のために譲渡するという性格から、寄付をおこなった側には税制上、優遇措置が設けられています。優遇措置を受けられる寄付として認められる対象は、国や地方公共団体、公益法人、NPO法人などに限定されることになります。
【関連記事】寄付金控除となる対象団体は?金額の上限や申請手順も解説
個人へ無償で財産を与える行為は、公共的な目的とは言えず、寄付にはなり得ません。また、法人への無償譲渡であっても、寄付と呼ぶにはその法人が公共的な目的のために活動していることが条件となります。
寄付に該当しない無償の財産譲渡は、基本的に贈与となります。贈与は、贈与する側の「与える」という意志と、贈与を受ける側の「貰う」という意志が合致して成立する一種の契約です。
書面によらない贈与であれば解除することは可能ですが、贈与側は、財産を引き渡す義務を負うことになります。
2.寄付と贈与の税制の違い
寄付と贈与の税制における違いは、公益性の高い活動をおこなっている法人が寄付を受けた場合にその収入が非課税となることと、個人が公益性の高い特定の法人に寄付をおこなった場合に寄付金控除を受けられるという優遇措置に表れているといえます。
以下で、寄付と贈与を受けた側と、寄付と贈与をおこなった側に区分して、税制の取扱いを確認していきます。
2-1.寄付と贈与を受けた側の取扱い
寄付では財産を譲り受けた側は、国や地方公共団体、公益法人、NPO法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人など、公益性の高い活動をおこなっています。
法人税法では、収益事業以外から生じた法人の所得には法人税を課さないものとしています。したがって、寄付を受けた団体の寄付金収入は多くの場合で非課税とされています。
これに対して、贈与では財産を譲り受けた側では、個人の場合贈与税あるいは所得税、法人の場合法人税が課されます。
贈与税は、個人が個人から財産を譲り受けた場合、一人の人が譲り受けた金額が、暦年単位で110万円を超えた金額に対し課税されます。個人が法人から贈与を受けた場合は、一時所得として所得税の課税対象となります。
法人税法では、金銭その他の財産の贈与を受けた場合、その金額又は資産の時価相当額を収益の額に算入することとしています。すなわち、法人が贈与を受けた金額は、受贈益として収益となり、その事業年度において法人税が課されることになります。
2-2.寄付と贈与をおこなった側の取扱い
寄付では、財産を譲り渡したのが個人であり、特定の寄付金に該当する場合は、寄付金控除として所得税の所得控除あるいは税額控除、住民税の税額控除の対象となります。
財産を譲り渡したのが法人である場合、法人税の寄付金の損金算入限度額の範囲内で、課税所得の計算上損金となり、法人税額が軽減されることになります。特定の寄付金に該当する場合は、全額を損金に算入することができます。
これに対して、贈与では、個人の場合、原則として税金の軽減対象とはなりません。ただし、交際費等の事業に関係する費用とみなされる場合、事業所得の必要経費に計上でき、所得税が軽減できることがあります。
法人の場合、法人税法上、贈与であっても寄付と取扱いは変わりません。寄付金の損金算入限度額の範囲内で損金となり、法人税額が軽減されます。
3.金銭以外の資産を贈与・寄付する際に注意したい税制
税制の取扱いについて、特に、金銭以外の資産を贈与・寄付する際に注意したい点を、以下で解説します。
3-1.個人間の金銭以外の資産贈与の課税価格は時価である
個人間で金銭以外の資産を贈与するとき、贈与された側はその資産の時価に対して贈与税がかかるので注意が必要です。高級自動車などの高価な資産を贈与する際は、贈与する側も、贈与された側に贈与税がいくらぐらいかかるのかを考慮する必要があります。
また、著しく低い価額で譲り受けた時も、時価との差額分に対して贈与税がかかる可能性があるので注意しましょう。
3-2.個人から法人への金銭以外の資産寄付は譲渡所得税の対象となる
個人が、不動産や株式など、取得時から値上がりしている資産を、法人へ寄付した場合、原則として、その値上がり益が譲渡所得税の課税対象となるので注意が必要です。
個人間の贈与の場合、受贈者側に贈与税が課されることもあり、譲渡所得税課税はおこなわれません。
また、個人が法人へ寄付した場合であっても、相手先の法人が公益法人等である場合、その寄付が公益目的の事業運営に供されることなどを条件に、譲渡所得税が課されないこともあります。ただし、この特例の適用を受けるには、国税庁長官の承認を受ける必要があります。
まとめ
寄付は贈与と異なり、公共的な慈善目的のために財産を無償で譲渡することです。その対象は、多くの場合で個人ではなく法人などの団体に限定されます。
寄付を受けた側と寄付をおこなった側では、税制上優遇措置が設けられています。公益性の高い活動をおこなっている法人が寄付を受けた場合、その寄付金収入は非課税になります。
また、個人が公益性の高い特定の法人に寄付をおこなった場合には、寄付金控除の適用を受けられます。
個人が金銭以外の資産を贈与・寄付する場合、贈与税の課税価格は原則時価である点と、相手先が法人であるときは原則譲渡所得税の課税対象となる点に注意しましょう。
佐藤 永一郎
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