不動産を売却する際に、買主が不安なく暮らせるよう建物や住宅設備などに欠陥がないか確認しておくことも売主の役割の一つです。欠陥部分についてしっかり把握しておくことで、修繕などの対策が練れたり、また後のトラブル回避にもつながるため、双方にとってより良い不動産売買取引になる効果があります。
そこで今回のコラムでは、不動産を売却する前に設備・建物を確認するポイントについて解説していきます。また契約不適合責任や、設備・建物に保証を設けている不動産仲介会社のサービスについても紹介していきます。
目次
- 不動産売却の引き渡し後に起きやすいトラブルとは
- 不動産売却前に確認したい設備・建物のポイント
2-1.付帯設備の有無および状態
2-2.建物の状態
2-3.配管の状態
2-4.土地の状態 - 不動産売却で売主が負う「契約不適合責任とは」
- 不動産売買で行われるインスペクションとは
- 不動産売却の設備保証・物件調査サービス付きの不動産会社
5-1.三井のリハウス「360°サポート」
5-2.住友不動産販売「ステップエスコート」 - まとめ
1 不動産売却の引き渡し後に起きやすいトラブルとは
不動産の売買は、築後10年や20年などの時間が経過しており、建物や住宅設備が劣化していることが考えられます。そのため売買が成立し、引き渡しが行われたあとでトラブルが発生することも少なくありません。特に多いのが下記のような事例です。
- 付帯設備の故障
- 雨漏り被害
- シロアリ被害
- 配管の故障
- 土地や専有面積の広さの違い
- 埋設物や土壌汚染、など
これらのトラブルが起きないようにするには、売却前に売主として適切に確認し、改善できるところは改善しておくことが大切です。そこで、次の項目ではどのようなポイントを確認するといいのか、具体的に見ていきましょう。
2 不動産売却前に確認したい設備・建物のポイント
物件を引き渡したあとのトラブルを回避するために、不動産を売却する前には設備や建物自体を適切に確認しておく必要があります。そのポイントについて詳しく解説していきます。
2-1 付帯設備の有無および状態
付帯設備とは、不動産を売買する際に一緒に引き渡す住宅設備のことです。対象となる代表的な付帯設備は、キッチンやバスルーム、トイレ、洗面台、給湯器、エアコン、インターホン、床暖房、照明器具などです。
引き渡す付帯設備を明らかにするために、不動産売買契約書に付帯設備表を添付し、不具合の有無などの状態も記載します。修復履歴があれば、その旨も記載しておくとなお良いでしょう。
2-2 建物の状態
住宅は日々の暮らしの拠点となり、建物の状態によって入居者の快適さにも影響があります。売主として、建物の傾きやひび割れ、ひずみ、雨漏りやシロアリ被害などについて確認しておきましょう。
雨漏りやひび割れなどが見つかった場合は補修工事などを行い、問題がないようにしておくことも検討しておくと良いでしょう。この場合も修繕履歴を取り、買主へしっかりと説明しておくことが大切です。
ただし雨漏りや物件の傾き、シロアリ被害などは、多額の補修費用がかかる可能性があり、再発してしまう可能性も高い欠陥です。劣化状況に合わせて、価格を下げて売却するといった方法も考えられます。
かかった修繕費用よりも売却価格に上乗せできる価格の方が小さいということもあるため、まずは仲介を依頼する不動産会社に相談するようにしましょう。
2-3 配管の状態
引き渡し後に水漏れが見つかった場合、売主は水漏れの補修をする必要があります。売却する前に給配管の状態を確認しておき、水漏れがある場合は補修工事を行いましょう。
マンションの場合、対象となる配管は専有部分だけで、それ以外はマンションの共有部となります。そのため居宅内の配管以外に問題があった場合、売主が補修する必要はありません。
2-4 土地の状態
土地や一戸建てなどの売買でトラブルになりやすいのは敷地面積の不足です。不動産売買契約書に明記された面積よりも狭い場合、買主は契約の解除や減額を求めることができます。
ただし不動産売買では、公簿売買という方法が広く行われています。土地や建物の面積は公簿(登記事項証明書)によるものとして、実際に測った面積と違った場合でも売買代金は変更されない決まりになっています。公簿売買は法律上も有効となっているため、登記簿面積が明らかになっている場合は敷地面積の実測は必要に応じて行われてます。
その他、敷地内に埋設物や土壌汚染があると、トラブルに発展することがあります。地中に基礎杭やゴミなどが埋まっていることがあり、撤去するためには多額の費用がかかります。掘り起こしてみないと埋設物があるかわからないため、埋設物が見つかった際には契約不適合責任の範囲に応じて売主・買主のいずれかで対処することになります。
しかし、埋設物や土壌汚染があることを売主が認識している場合は告知義務があり、適切に報告する必要があります。仲介を担当する不動産会社に相談し、アドバイスをもらうようにしましょう。
【関連記事】境界標(杭)の無い土地・不動産の売却方法は?確定測量の手順も解説
3 不動産売却で売主が負う「契約不適合責任とは」
これまで売却する前に欠陥がないか設備や建物を確認するポイントを解説しましたが、不動産を売却する際には建物の状態に対して売主に責任が生じることが民法で定められています。それが契約不適合責任です。
かつては瑕疵担保責任と呼ばれていましたが、2020年に民法が改正されて契約不適合責任と名称が変更になっています。民法では、種類や品質または数量に関して契約内容に適合しない目的物を引き渡した場合、買主の求めに応じて売主が適切な対応をする必要があると定めています。
例えば、契約書に添付した付帯設備表に記載しているのにもかかわらず設備が付帯されていない、建物に腐食などの瑕疵(欠陥など)がある場合などです。こうした場合、買主は5つの権利を行使して、売主に下記のような対応を求めることができます。
権利 | 内容 |
---|---|
追完請求 | 代わりのものを提供するか、修理するなどで契約内容を満たすことを求める権利(例えば、雨戸の鍵が壊れていたケースでは、鍵の交換などで対応する) |
代金減額請求 | 欠陥があって追完請求をしても売主が修理をしない時、あるいは修理ができない場合に買主が売主に代金の減額を求める権利 |
催告解除 | 追完請求をしても売主が修理をしない場合に、買主が契約を解除できる権利 |
無催告解除 | 追完請求をしても売主が修理をしないと想定される場合に、買主が契約を解除できる権利 |
損害賠償請求 | 売主に過失があった場合に、買主に認められている損害賠償請求の権利 |
売却予定の物件に瑕疵があるとわかっている場合は、仲介を担う不動産会社に正確に伝えることが大切です。「修繕をする」「(瑕疵を報告して)減額して販売する」などのアドバイスをしてくれるので、トラブルを回避することができます。
このほか、引き渡し後のトラブルを回避するには、インスペクションを行う方法や、保証つきの不動産仲介会社に依頼する方法などがあります。次の項目から詳しく見ていきましょう。
【関連記事】契約不適合責任をわかりやすく解説!売主が注意したい3つのポイントも
4 不動産売買で行われるインスペクションとは
インスペクションとは、建築士などの専門家に行ってもらう建物検査のことです。国土交通省ではガイドラインを設けており、原則としてガイドラインに準じて検査が行われます。
主に目視が中心ですが、必要に応じてデジタル水平器やレーザー距離計などの計測機器を使用して、建物の状態を確認していきます。雨漏りやシロアリによる腐食がないか、あるいは建物が傾いていないかなどを調べ、品質が保たれているかを確認します。
確認する劣化事象については、ガイドラインでは下記のように記載されています。
① 構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの
(例)蟻害、腐朽・腐食や傾斜、躯体のひび割れ・欠損等
② 雨漏り・水漏れが発生している、又は発生する可能性が高いもの
(例)雨漏りや漏水等
③ 設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの
(例)給排水管の漏れや詰まり等
※引用:国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」
評価は通常「合格」と「不合格」で行われ、「不合格」があっても売買できない訳ではありません。修繕して基準を満たしてから売却するか、減額して売却するか、という判断を行います。一方、不具合がない場合は売却時のアピールポイントにもなり、価格設定や価格交渉に備えて受けられる方もいます。
【関連記事】中古住宅の内見で見るポイントは?初心者でも可能な物件調査の方法を体験
5 不動産売却の設備保証・物件調査サービス付きの不動産会社
不動産売買の仲介を担う不動産会社では、建物や設備の調査をして保証を設定するサービスを用意していることがあります。この項目では、「三井のリハウス」と「住友不動産販売」のサービスの例を紹介していきます。
5-1 三井のリハウス「360°サポート」
三井のリハウスが提供しているのは、「設備チェック&サポートサービス」と「建物チェック&サービス」です。それぞれ、売主と買主が安心して取引ができるように無償で提供している「360°サポート」のメニューの一つです。
売却する前の建物や住宅設備の状態を担当者が独自の基準でチェックし、売買が成立する前に状態を明確にしてくれます。対象となるのが、給湯器やガスコンロなどの40の住宅設備の動作確認、雨漏りやシロアリなどの被害状況などです。また築30年以内の一戸建ての場合は、専門家による建物状況調査も無償で実施しています。
事前に調査した時点で不具合がなく、引き渡し後に契約不適合が見つかった場合は、20万円を上限に修理や交換・補修・駆除費用を三井のリハウスが負担する内容です。また建物にシロアリ被害などが見つかった場合は、450万円(シロアリ被害の場合は、シロアリ駆除として50万円がプラス)を上限に補修を実施してもらえます。
5-2 住友不動産販売「ステップエスコート」
住友不動産販売ではさまざまなサービスメニューを揃えた「ステップエスコート」を用意しており、安心して不動産売買が行えるようサポートしています。その一つが「建物保証」と「設備保証」です。
「設備保証」は、室内設備の保証サービスです。対象物件は築30年以内の一戸建ておよびマンションで、引渡時に担当者が動作・目視確認を行い、故障・不具合が発生していないと認められた設備が対象となります。引き渡し後に不具合があった場合には、製造から10年以内の設備であれば1作業あたり110,000円、製造から10年以上が経過している設備であれば1作業あたり22,000円~66,000円の修理・交換費用を同社が負担することになっています。
また「建物保証」は、雨漏りやシロアリ被害のほか、主要部分に腐食などが発見された場合に、最高500万円を補修費用として保証するサービスです。対象期間は、引き渡しから2年間となっています。
まとめ
法律上の決まりはありませんが、不動産を売却する際には、建物や住宅設備に不具合がないように売主が確認するようにしましょう。引き渡したあとに瑕疵などが見つかった場合、契約不適合責任に問われることもあります。特に不動産売買は、個人間の取引になることに加え、取引額が大きくなります。次に入居される方が安心して暮らせるように、瑕疵への対応を積極的に行うことも売主として大切なポイントです。
今回のコラムでは、引き渡したあとにトラブルへ発展しないように、売却前に確認するべきポイントを解説しました。またインスペクションや保証付き仲介サービスなど、トラブルを回避するのに役立つサービスについても紹介しています。ぜひ参考にしてください。
倉岡 明広
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