中古住宅を購入する際は、物件に欠陥がないかどうか、契約書との齟齬がないか、後のトラブルを避けるためにも自身で確認することが大切です。購入前の内見はそのような欠陥がないかどうかを確かめる機会になり、できるだけ慎重に行いたいポイントです。
不動産販売を行う仲介業者は不動産契約のプロではありますが、物件の欠陥や状態についての専門知識を有していないというケースも多くあります。できるだけ自身でもポイントを絞って判断できることが望ましいと言えるでしょう。
そこで本記事では、中古住宅のインスペクション(物件調査)を行う「株式会社さくら事務所」のインスペクターの友田 雄俊さんがプライベートで購入した物件について、どのような点を確認していったのか詳しくご紹介します。中古住宅の購入を検討されている方、築古不動産の再生投資を検討されている方はご参考ください。
株式会社さくら事務所のホームインスペクター
- 千葉県柏市在住
- 生まれも育ちも千葉(千葉に愛着あり)
- 子供の小学校入学を機に住宅購入
- 二級建築士
- 既存住宅状況調査技術者
- JSHI公認ホームインスペクター
目次
- 中古住宅の外回り・外装のインスペクション体験・手順・見るポイント
1-1.境界標・杭による境界の明示
1-2.水道メーターの確認
1-3.軒の有無
1-4.外壁のメンテナンス状況(ひび割れ、コケの付着など)
1-5.基礎の確認(シロアリの蟻道や、ひび割れなど)
1-6.バルコニー・ベランダの状態
1-7.庭の状態、木の越境など - 中古住宅の内観・室内のインスペクション体験・手順・見るポイント
2-1.建物の傾き
2-2.2階部分のたわみ
2-3.天井・壁・床のシミ(雨漏り・結露)
2-4.水回り(キッチン・換気扇・洗濯機の排水・浴室・洗面台)
2-5.換気扇
2-6.配線(点検口)
2-7.天井・屋根裏
2-8.床下 - 中古住宅のインスペクション専門家へインタビュー
3-1.インスペクションを行うのはどのタイミングが良いでしょうか?
3-2.売買契約の締結後にインスペクションを行って問題が発見された場合はどのような対応が必要ですか?
3-3.インスペクションを専門家に依頼する場合、費用は売主・買主どちらの負担になりますか?
3-4.インスペクションの実施によって金融機関からの評価が上がり、ローンを組みやすくなるなどの効果はありますか? - まとめ
1.中古住宅の外回り・外装のインスペクション体験・手順・見るポイント
中古住宅のインスペクションをどのような手順で行えば良いのか、株式会社さくら事務所のホームインスペクターである友田雄俊さんの購入物件を実際に見せて頂きました。ホームインスペクションの手順としては、始めに外回りや外壁などの外装から確認し、後に内装・室内の確認に移るという流れになります。
外回り・外装のインスペクションでは、まず不動産の全体を俯瞰し、大きな問題が隠れていないかの確認を行います。外壁のひび割れなどの構造や防水の観点で注意すべき不具合があれば、後に室内を確認することで重大な欠陥が起きているかどうかを判断しやすくなるためです。今回確認した箇所は、主には以下のような点です。
- 境界標・杭による境界の明示
- 水道メーターの確認
- 軒の有無
- 外壁のメンテナンス状況(ひび割れ、コケの付着など)
- 基礎の確認(シロアリの蟻道や、ひび割れなど)
- バルコニー・ベランダの状態
- 庭の状態、木の越境など
1-1.境界標・杭による境界の明示
境界標・杭とは、土地の境界(所有部分)を明示するものです。境界標がキチンと設置されており、かつ確定測量図がある場合にはズレがないかどうかを確認します。
1-2.水道メーターの確認
水道メーターの確認は、敷地内や室内で水を流さない状態で行います。水道メーター内に見えるパイロットと呼ばれる銀色のコマがまわっていないことを確認しましょう。このコマがまわっている場合には、どこかで水が流れていることを示しますので、水を流していないにも関わらずコマがまわってしまう場合には、どこかで水漏れが発生している可能性がありますので注意が必要です。
1-3.軒の有無
建物の軒とは、屋根の端の、建物の外部に張り出た部分のことです。軒が短い物件は雨にさらされる外壁部分が多くなることで劣化が早い特徴があり、より注意して外壁調査を行う必要があります。
1-4.外壁のメンテナンス状況(ひび割れ、コケの付着など)
外壁のチェックでは、ひび割れや欠けている箇所がないか、表面の変色が目立つ箇所がないかなどを確認します。また、シーリングと呼ぶ目地材がある場合には、そこもひび割れや隙間が空いていないかなどを注意してみましょう。
外壁やシーリングの状態によっては、雨漏りが発生しやすい状況になりますので特に重要なポイントです。
1-5.基礎の確認(シロアリの蟻道や、ひび割れなど)
シロアリが発生している物件では、物件の木材を食べてしまい、主要構造材の空洞化を引き起こしてしまう原因となります。シロアリ被害が深刻化すると耐震性に問題が起きてしまうこともあるため、駆除を行う必要があります。
シロアリが発生しているかどうかを確認するために、蟻道(ぎどう)と呼ばれるシロアリの通り道があるかを確認します。蟻道は、土壌や木材のカスにシロアリの排泄物・分泌物を練り合わせたセメントのような形状をしています。茶色い土のようなトンネル道が、地面から基礎の表面に伸びている場合には、蟻道の可能性があるので注意しましょう。
シロアリが発生している物件であれば、購入するかどうか慎重に検討する必要があります。シロアリ駆除には面積に比例しておおよそ5,000~10,000円/1坪程度の費用が発生し、また、建物の構造や被害状況によっては、修理や補強に数十万以上の費用がかかるケースもあります。
基礎部分のひび割れについては、髪の毛程の細さのひび割れ(ヘアークラック)であれば問題ありませんが、ひび割れの太さが0.5mm以上の場合には早めの補修が必要になります。0.5mmのシャープペンの芯が入ってしまうようであれば注意した方がいいという目安にしましょう。
1-6.バルコニー・ベランダの状態
バルコニー・ベランダのある物件は、地上から見上げて雨漏りが起きていないか確認します。特にベランダの四隅に注目し、シミが出来ている場合には、どのような原因がシミに繋がっているのかを判断する必要があります。
室内からも床面のひび割れ、排水のための勾配などがあるかチェックしていきましょう。その他、子供のベランダ事故の対策も大切です。ハシゴのように登れてしまう格子タイプや、手すりが1.1m以下のベランダは事故の可能性が高まります。
1-7.庭の状態、木の越境など
庭に木材や切り株、ゴミや木の葉などが散乱しているとシロアリの餌になってしまうことがあるため、日常的にメンテナンスが為されているかを確認する必要があります。また、木の枝が伸びて隣地に侵入していると近隣とのトラブルの原因となるケースもあるため、越境がおきているかどうかも確認しておきましょう。
2.中古住宅の内観・室内のインスペクション体験・手順・見るポイント
建物の外から調査を行った後、内観・室内のインスペクションを行います。外観で問題が見られた箇所については、建物内からもしっかりと確認することが大切です。調査する箇所としては、主に以下のポイントとなります。
- 建物の傾き
- 2階部分のたわみ
- 天井・壁・床のシミ(雨漏り・結露)
- 水回り(キッチン・換気扇・洗濯機の排水・浴室・洗面台)
- 換気扇
- 配線(点検口)
- 天井・屋根裏
- 床下
2-1.建物の傾き
建物の傾きを確認します。傾きについては、売買契約時の物件状況等報告書などに記載される事項ですが、売主自身が気付いておらず告知されないケースもあるので、購入前に自身でもしっかり確認をしておくことが大切です。
建物の傾きの確認方法として、ビー玉が転がるかどうかをイメージされる方も多いかもしれませんが、この方法では部分的な床のへこみであるのか、建物全体の傾きが起きているのかの判断ができないという点に注意が必要になります。
より本格的なインスペクションでは、重力に対して水平・垂直の基準線を出力できるレーザー墨出し器を使用して、建物の傾きを調査していきます。
複数箇所でレーザーと床や壁とのズレがないかどうかを確認していき、6/1000mm以上の差(傾き)がないかどうかを調査していきます。広範囲にわたって6/1000以上の傾きが見られる場合には、構造上の問題がある可能性がありますので、注意が必要になります。
なお、どの程度の傾きが起きているかという観点も大切ですが、「どのような原因で傾きが起きているか」という視点がより重要なポイントになります。仮に地盤に原因があった場合は修復が困難であったり、多額の費用を必要としてしまう、耐震性に問題があるなど、重篤な課題を抱えている可能性が高まるためです。
2-2.2階部分のたわみ
2階建て以上の建物では、適切な設計・施工が行われていても、建物の重みなど経年劣化によって構造上の骨組みに変形や歪みが生じることがあります。2階に立っている時に傾きを感じるようなことがあれば、前述した傾き調査と同様に複数箇所で墨出し器を使用して調査を行った方が良いでしょう。
2-3.天井・壁・床のシミ(雨漏り・結露)
天井・壁にシミがある場合は、まずは雨漏りの可能性を疑います。雨漏りが発生している物件では高額な修繕費用が発生し、修繕後も再発する可能性を含む物件となるためです。
雨漏りではないということであれば、次に結露の可能性を確認していきます。結露は外部と内部の気温差によって起きますが、壁内の結露が頻繁に起きていると耐震性能の低下が起きている可能性があります。結露についてはどのような物件でも起こり得るものであるため、建築時の初期性能と日常のメンテナンスが大切です。
いずれの場合もシミの原因が分からない場合には、より詳細な調査を行うか、購入を検討しなおすなど、慎重な判断を行いましょう。
2-4.水回り(キッチン・換気扇・洗濯機の排水・浴室・洗面台)
水回りでは、主に給水管や排水管などの配管まわりをチェックしていきます。設備の下部にある排水部分などについて、カビ臭さや下水臭などのニオイの確認、水漏れがないかなどを確認していきます。
空き家の購入の場合、長期間水を使用していない物件である可能性もあります。この場合、下水のにおいが上がってきてしまっていたり、害虫の発生につながっている可能性もあるため注意が必要です。
洗面台や浴槽では水をため、破損による水漏れが起きていないかも確認しておきましょう。
2-5.換気扇
キッチンや浴室に設置されている換気扇の動作チェックも行いましょう。換気扇は稼働していても実際に空気の排出を行えていない可能性があります。排出されていない場合、コウモリなどの害獣が入り込んでパイプのつまりが起きているケースもあります。
2-6.配線(点検口)
室内の配線を点検できる点検口が、主に浴室の天井に設置されています。配線や湿気対策に問題がないか確認をします。
2-7.天井・屋根裏
屋根裏の点検口がある物件では、内部の状態も確認することができます。湿気やカビ、雨漏りなどが発生していないかどうかをチェックします。
接合部分の釘のさびや木材の腐食なども確認しておきましょう。また、日中であればライトを消して光漏れがあるかを確認します。光漏れが発生している場合には、天井に亀裂や穴が開いている可能性もあります。
2-8.床下
床下の点検口がある物件などでは、床下の状態を確認することも可能です。今回の物件では、キッチンの床下収納部分と、洗面所に点検口が設置されていました。
床下では基礎コンクリート、給排水管、断熱材の状態、シロアリ被害の有無などを確認していきます。点検口からのぞき込むだけでもおおまかな状態を確認することができますが、入り込むスペースがある場合、中に進入してより厳密に内部の状態を調査します。
3.中古住宅のインスペクション専門家へインタビュー
3-1.インスペクションを行うのはどのタイミングが良いでしょうか?
「まずは物件の内見時に簡易的な目視での確認を行うと良いでしょう。初めのインスペクションで欠陥の疑いが出てきた際には、より詳細な調査が行える専門家の依頼を検討されてみてください。
ただし、入居中の物件である場合には室内の状態を詳しく見ることが出来ないため、売買契約後の引き渡しの直前に、室内が空っぽの状態で詳しく調査を行うことも大切です。」
3-2.売買契約の締結後にインスペクションを行って問題が発見された場合はどのような対応が必要ですか?
「売買契約の締結後にインスペクションによって問題が発覚した場合は、原則として売主様との契約内容に応じて修繕のご相談をすることになります。物件の状態や発生する修繕費用、売買契約の内容によってどのような対応が必要になるかはケースバイケースですが、基本的にはすぐに契約の撤回ということにはなりません。」
【関連記事】契約不適合責任をわかりやすく解説!売主が注意したい3つのポイントも
3-3.インスペクションを専門家に依頼する場合、費用は売主・買主どちらの負担になりますか?
「弊社では、売主・買主どちらからのご依頼もございますが、8~9割ほどが買主様自身で費用負担されるご依頼となっています。インスペクションを行う際に直接色々とアドバイスを行いますので、購入に際して不安ごとの多い買主様が診断を希望されることが多いですね。
業界的には売主様や不動産仲介様が費用負担されるケースも多くありますので、誰が費用負担するのかは特に決まっていないということになります。」
3-4.インスペクションの実施によって金融機関からの評価が上がり、ローンを組みやすくなるなどの効果はありますか?
「現状では、インスペクションと金融評価が直接結びつくという仕組みや制度が出来上がっているわけではありませんが、売買時には周辺売り出し物件と相対比較されることになる関係上、状態の良い物件の方がより好条件で売却しやすくなったりしますし、フラット35等も利用しやすくなるなどのメリットもあります。
また、不動産売買時の重要事項説明においてインスペクションの説明は義務付けられており、不動産業界での注目度も非常に高まってきています。中古住宅の流通の活性化に向けてインスペクションの重要性の認知を広げ、資産性の評価という観点からインスペクションが重視されていくことが、今後の課題であると考えています。」
まとめ
中古住宅の売買では、経年劣化により新築時にはなかった問題点が起きている可能性があります。不動産の欠陥は分かりやすいものだけではなく、売買時点では気づかないままに契約を行ってしまい、引き渡し後にトラブルに発展してしまうケースもあります。
売買契約書に明記されていない物件の欠陥については、契約不適合責任によって売主へ責任追及することが可能です。しかし、どの程度の補償を受けられるかは双方の相談となり、最終的には民事での判断に発展してしまうため、できるだけ購入前に問題点については気づいておくことが重要になります。
また、不動産の劣化状態によっては居住者の健康被害に及んでしまうケースや、災害時などは重大な事故につながる可能性もあります。中古住宅の売買では、物件調査を適切に行ったうえで、購入判断を慎重に行うことが大切です。
今回は株式会社さくら事務所の専門家の方に、実際に購入した物件でのインスペクションを体験させて頂き、見るべきポイントやインスペクションの手順について詳しく解説して頂きました。不動産の購入前には、本記事のポイントを参考に自身でもインスペクションの実施を検討されてみると良いでしょう。
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