2020年4月の民法改正に伴い、不動産を売却する時に売主は契約不適合責任について把握することが重要になりました。契約不適合責任とは、従来の瑕疵担保責任に変わって制定された、売主の買主に対して負う契約上の責任のことです。
本記事では、不動産の買主から契約不適合責任を追及されると何が起こるのか、追及リスクを軽減するためにはどうすれば良いのか解説します。
目次
- 契約不適合責任の具体的な内容について
1-1.契約不適合責任の概要
1-2.瑕疵担保責任とは何が違うのか - 不動産の売主が契約不適合責任を追及されるとどうなるか
2-1.追完請求
2-2.催告解除
2-3.無催告解除
2-4.代金減額請求
2-5.損害賠償請求 - 不動産の売主が注意したいポイント
3-1.売却する不動産に不具合があるか把握するのが重要
3-2.不具合の有無を確認するためにインスペクションをする
3-3.売買契約書で契約不適合責任の期間を設定する - まとめ
1.契約不適合責任の具体的な内容について
不動産を売却するときは、売主は契約不適合責任に気をつける必要があります。契約不適合責任とは何のことなのか、詳しく解説していきます。
1-1.契約不適合責任の概要
不動産の売買における契約不適合責任とは、民法第636条の規定に基づいて売主が負う責任のことです。売主は、引き渡す不動産の種類や品質について、売買契約の内容と適合させる責任を負います。
このため、引き渡す不動産の建物部分や設備などに不具合がある場合は、不具合の内容を契約書に記載しておかないと、売主は買主から契約不適合責任を追及されることになります。
1-2.瑕疵担保責任とは何が違うのか
契約不適合責任は、2020年4月の民法改正に合わせて新たに規定され、契約不適合責任の規定と同時に従来の瑕疵担保責任は廃止されています。
契約不適合責任の規定では瑕疵担保責任の規定よりも、買主ができることが増えています。瑕疵担保責任より買主保護の傾向を強くしているのが契約不適合責任の特徴です。
瑕疵担保責任では「隠れた瑕疵」が認められないと、買主は売主に対して損害賠償責任などを追及できませんでした。
しかし、契約不適合責任では、責任追及の条件が「隠れた瑕疵の有無」から「取引の目的物と契約内容の整合性」に変更されています。また、瑕疵担保責任では買主が損害賠償請求と契約解除しかできなかったものの、契約不適合責任では買主が請求できる内容が増えている点に要注意です。
2.不動産の売主が契約不適合責任を追及されるとどうなるか
不動産の売主が買主から契約不適合責任を追及されると、売主は何を求められるのか、具体的に解説します。
2-1.追完請求
追完請求とは、売買される不動産が契約の内容と合致しない時に、民法第562条に基づいて買主が以下の内容を売主へ求めることです。
- 不動産の修補
- 代替物の引渡し
- 数量が不足しているものの引渡し
例えば、マンションの売買において給湯器が故障していたものの、不具合が契約書に記載されていなかった場合は、買主は給湯器の修理もしくは交換を売主へ請求できます。設備だけではなく、窓など建物関連の不具合においても同様です。(※参照:e-GOV法令検索)
2-2.催告解除
買主が売主へ追完請求したにも関わらず売主が応じない場合は、買主は対応期限を定めて契約解除を予告できます。契約を解除すると、契約を最初からなかったものとして取り扱い可能です。催告解除は民法第541条に「催告による解除」として規定されています。
2-3.無催告解除
買主が追完請求した結果、売主が履行拒否の意思表示をした場合は、民法第542条に従って買主は契約を無催告解除できます。無催告解除の場合は、催告解除と違って対応期限を定めることなく直ちに契約解除が可能です。
2-4.代金減額請求
買主が売主に期限を定めて追完請求したものの、売主が期限内に追完しない場合は、買主は契約不適合の度合いに応じて代金の減額を請求できます。代金減額請求は民法第563条に基づいています。
なお、売主がそもそも追完できない場合や、売主が追完拒否した場合についても代金減額請求は可能です。買主が売主へ追完請求したものの、売主が対応を拒否した場合は、買主は無罪告示解除と代金減額請求のどちらかを選択できます。
2-5.損害賠償請求
契約不適合の度合いが代金減額請求だけでは補いきれないと判断される場合は、買主から売主に対する損害賠償請求も可能です。場合によって買主が損害賠償請求できる点は、瑕疵担保責任と同様です。
3.不動産の売主が注意したいポイント
不動産を売却する時に、売主は契約不適合責任に関して何に注意すれば良いのか解説します。
3-1.売却する不動産に不具合があるか把握するのが重要
売主が契約不適合責任の追及リスクを軽減するためには、売却する不動産の状態を把握することが重要です。不動産に何らかの不具合がある場合は、必ず売買契約書または告知書などの書面で通知し、当該不具合については責任を負わないと明記する必要があります。
不動産の売買契約書など必要書類を作成するのは取引を仲介する不動産会社です。売主にとっては、不動産会社から契約書の案文が提出されたら、内容を確認することが重要になります。
3-2.不具合の有無を確認するためにインスペクションをする
不動産が有する不具合は、目視で確認できるものに限りません。例えば構造上の問題などに関しては、外観目視だけでは特定できないこともあります。不動産の不具合をできるだけ把握するためには、インスペクションの実施が有効です。
インスペクションとは、専門業者による建物の点検調査のことを指します。インスペクションの対象には、漏水の有無など設備的な不具合に加え、構造壁や柱の強度など建物の不具合も含みます。
例えば築古の木造住宅を売却する場合などは特に、インスペクションの実施は売主のリスクヘッジとして有効です。
3-3.売買契約書で契約不適合責任の期間を設定する
契約不適合責任は売主と買主の双方で合意する期間に設定することが可能です。仮に契約書に明記されていない場合、買主が不備を知った時から1年間は追及する権利を得ることになります。
契約書に期間が設定されていないと、契約不適合責任があり続けてしまうことになり、買主有利の契約となってしまいます。そのため、契約不適合責任が追及できる期間を引渡しの日から数か月程度に設定しておくことが重要になります。
なお、契約不適合責任は売買契約書で免責とすることも可能です。買主からの減額交渉を受ける代わりに、契約不適合責任を免責とするようなケースもあります。
ただし、契約書上で契約不適合責任を免責としていても、例外的に無効となるケースがあります。主には下記の3点です。
- 売主が、契約内容に適合しないことを知りながら、買主に対し、これを告げなかった場合(改正民法第572条)
- 売主自らが第三者のために権利を設定したり、第三者に対し、目的物を譲渡した結果、契約内容に不適合をもたらした場合(同条)
- 売主が宅建業者である場合、2年未満の期間設定は無効(宅建業法第40条)
契約不適合責任を免責としていても、上記の3点に当てはまってしまうと買主からの責任追及を免れない可能性があります。これらの点に注意しておきましょう。
【関連記事】不動産売却、契約不適合責任を免責にする方法は?交渉のコツも
まとめ
民法で契約不適合責任が制定されたことにより、不動産の売主には、より正確な物件の状態把握が求められるようになりました。
インスペクションの実施は法律で義務付けられているわけではありませんが、後にトラブルが起こるリスクを下げるために検討してみるのも良いでしょう。また、物件の状態とともに売買契約書の内容把握も重要です。
2020年4月に民法が改正されたため、まだ対応が追いついていない不動産会社がいる可能性もあります。不動産を売却する場合は、契約不適合責任の対応経験の豊富な不動産会社に依頼することも、重要なポイントとなります。
HEDGE GUIDE 編集部 不動産投資チーム
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