不動産投資のリスクの一つが、所有する賃貸用物件の事故物件化です。事故物件になってしまうと、イメージの低下によって家賃の下落や空室の長期化などにつながる恐れがあります。
そこで今回のコラムでは、賃貸用物件が事故物件にならないための対策について紹介します。また事故が発生した後の対応についても解説します。
目次
- 不動産投資における事故物件の定義と4つの告知義務
1-1.心理的瑕疵物件
1-2.物理的瑕疵物件
1-3.法律的瑕疵物件
1-4.環境的瑕疵物件 - 不動産投資で事故物件のリスクを回避するための対策
2-1.事故対応保険に加入する
2-2.入居者の属性審査を厳格化する
2-3.セキュリティを強化する
2-4.室内をリフォームする - 不動産投資で事故が発生した後の対応
3-1.告知義務
3-2.連帯保証人への賠償請求
3-3.入居者の募集 - まとめ
1 不動産投資における事故物件の定義と4つの告知義務
事故物件というと、人が亡くなった部屋という認識を持っている方も多いと思いますが、宅地建物取引業法上、事故物件という定義はありません。一方、契約時に入居者に伝えなければならない告知義務の種類として「瑕疵(かし)」があります。
瑕疵は次の4つに分類されます。
- 心理的瑕疵
- 物理的瑕疵
- 法律的瑕疵
- 環境的瑕疵
不動産投資における瑕疵とは、賃貸用物件が何らかの理由で住空間としての欠陥があることを指します。つまり単に事故に遭った物件という意味ではなく、何らかの理由で住みにくくなり賃貸需要が減少している物件ということを意味しています。
このような瑕疵を隠して賃貸契約を締結してしまうことは入居者へ不利益となってしまうため、告知義務が定められています。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1-1 心理的瑕疵物件
住むことに対して心理的に不快感を抱く物件のことです。代表的な例は、殺人事件や自死、孤独死、変死、不審死などが起きた物件を指します。
ただし、自然死や病死、入浴中の溺死といった日常生活の中の不慮の事故による死亡は該当しません。しかし発見が遅れて腐敗していた場合は、心理的瑕疵物件に該当することになります。
1-2 物理的瑕疵物件
物理的瑕疵物件とは、物件の構造や設備などに欠陥がある状態の物件を指します。建物の場合は、雨漏りやひび割れが起きていたり、シロアリ被害が発生している物件などが該当します。床や建物自体が傾いていたり、古い建物であればアスベストが使われているといったことも物理的瑕疵となります。
また土地にも物理的瑕疵が該当するケースがあります。土壌汚染が潜んでいる土地や、埋蔵物などが埋まっている場合は物理的瑕疵物件となります。
1-3 法律的瑕疵物件
法律的瑕疵物件とは、建築基準法などの法律に違反している違法状態にある物件を指します。具体的には下記のような物件です。
- 建ぺい率や容積率をオーバーしている
- 用途地域を守っていない
- 消防法の基準を満たしていない
- 耐震基準を満たしていない、など
防災や構造上の観点から危険度が高い物件を指し、コンプライアンスを遵守していないためオーナーとしての責任が問われることになります。通常は、法律的瑕疵物件よりも、違反建築物件や既存不適格建築物という言葉が使われます。
1-4 環境的瑕疵物件
周辺の環境を起因として、住みにくい状態にある物件のことを指します。法律的瑕疵物件のように目安となるものがなく判断が難しいのが特徴ですが、代表的な条件には下記のようなことが挙げられます。
- 近隣に市場があるため交通量が多い
- 近隣に反社会団体の事務所がある
- 近隣に宗教団体の施設がある
- 近隣に火葬場がある
- 工場が周辺に多く悪臭がする
- 近隣に産業廃棄物処理施設がある、など
人の感じ方によって瑕疵とするか否かは判断が分かれるものがあります。中には心理的瑕疵に当たるケースもあります。物件そのものには問題がないだけに、オーナーとしては取り扱いが難しい物件と考えられます。
2 不動産投資で事故物件のリスクを回避するための対策
これまで4つの種類に分けて瑕疵物件を紹介しました。このうち一般的に事故物件と言われる「心理的瑕疵」に該当するリスク対策について見ていきましょう。
2-1 事故対応保険に加入する
賃貸用物件には損害保険をかけるケースが大半となりますが、入居者の死亡事故に対して保険金が支払われる損害保険や特約があります。死亡事故対応費用補償や事故対応等家主費用特約などと言い、賃貸用物件内で死亡事故が発生した場合に、その後の空室期間の家賃を補償したり、原状回復費用として保険金が支払われる内容になっています。
万が一のときのためにこうした保険に加入しておくことで、損失額は抑えられます。室内の清掃や遺品整理などが補償内容に含まれている商品もあります。
2-2 入居者の属性審査を厳格化する
入居申し込みの際に入居希望者がどのような人か確認することを「入居者の属性審査」と言います。実務は管理会社や保証会社へ委託することになりますが、入居の可否を最終的に判断するのはオーナーの役割です。
不動産投資における事故物件化のリスクを回避するのであれば、入居者の属性審査を厳格化することも検討しておきましょう。室内で孤独死する可能性があるだけではなく、火の不始末によって火災が発生することもあります。
2-3 セキュリティを強化する
所有する賃貸用物件内で殺人事件を防止するためには、セキュリティに力を入れることも対応策の一つです。セキュリティを強化するには下記のような方法があります。
- オートロックを導入する
- 防犯カメラを導入する
- 防犯ガラスを導入する
- モニター付きインターホンを導入する
- セキュリティサービスを導入する
- 電子キーを採用する、など
投資用マンションの場合、モニター付きインターホンなどはマンション全体で導入することになるため、管理組合への提案が必要になります。購入後に対応していくには非常にハードルが高いため、物件の選定時に注意しておくことが大切です。
このようにセキュリティを強化することで、防犯意識の高い入居者から選ばれることもあり、事故物件を回避することにもつながります。
2-4 室内をリフォームする
厚生労働省が発表した「人口動態調査(2019年)」によると、2018年の「家庭における主な不慮の事故による死因」の総数は13,800件で、そのうち溺死が1位となっています。その次に多いのが食物の誤嚥などによる窒息死で、ベランダからの転落死などに続きます。
順位 | 死因 | 件数 |
---|---|---|
1位 | 不慮の溺死 | 5,673件 |
2位 | そのほかの不慮の窒息 | 3,187件 |
3位 | 転倒・転落・墜落 | 2,394件 |
※参照:人口動態調査「家庭における主な不慮の事故による死因」より抜粋
1位の不慮の溺死のうち「浴室での溺死」が5,166件で、約9割を占めています。これはヒートショックなどが原因です。そのため冬季間でも浴室や洗面所の気温が下がらないような対策をすることで、こうした浴室での溺死を防ぐことができます。
また3位の転倒・転落・墜落の中では、「スリップやつまずきおよびよろめきによる同一平面上での転倒」が1,444件を占めます。室内で滑りやすい床材などの使用を避けたり、バリアフリーにするといった対策を施すことで、室内での不慮の事故を防ぐことができると考えられます。
不慮の事故による死亡は心理的瑕疵に当たりませんが、腐敗などが進むと事故物件に該当することもあります。そのためこのような不慮の事故が起きないようにすることも、事故物件化を回避する対策の一つとなります。
3 不動産投資で事故が発生した後の対応
これまで紹介したような事故物件化を回避する対策を講じていても、事故が起きてしまうこともあります。そこで、事故が発生してしまった場合の対応についても確認しておきましょう。
3-1 告知義務
所有する物件で事件や事故が発生した場合、宅地建物取引業法に基づいて告知義務が生じます。この義務は、主に「重要事項説明書への記載」と「契約者への告知」です。
事故物件であることを隠して契約すると、入居者の利益が損なわれる可能性があります。あらかじめ瑕疵に関する内容を告知し、入居するかどうか判断をしてもらうことになります。
ただし、事故物件かどうかの判断基準が明確ではないケースもあるため、賃貸管理を依頼している不動産会社などのアドバイスを受けて判断するようにしましょう。
3-2 連帯保証人への賠償請求
室内で死亡事故や事件があった場合、通常の室内清掃では原状回復が難しいこともあります。汚れだけではなく、匂いなどが残る可能性があり、その場合は特殊清掃が必要になります。さらに壁紙や床材の張り替え、ユニットバスの交換などの大規模な修繕を行うこともあり、オーナーとしての支出が予想外に増えることになります。
ただし、こうした費用は入居者の連帯保証人に対して賠償請求することができます。管理会社と相談しながら、どのように進めていくか決めていきましょう。
3-3 入居者の募集
心理的瑕疵物件の場合、新たに入居者を確保するのは難しいことが想定されます。そのため家賃を下げて募集することも視野に入れておきましょう。最近は家賃を抑えたい人のために、事故物件専用の入居者募集サイトもあります。管理会社と相談して、こうしたサイトの利用も検討されてみると良いでしょう。
また区分マンションであれば、売却することも一つの手です。家賃を下げたり、空室期間が長くなることが想定されるのであれば、買取専門の不動産会社に売却し、その資金をもとに賃貸用物件を購入して新たに運営を始めるのもいいでしょう。
なお、事故発生から入居があり、その後退去した場合には告知義務が無くなります。一度安い家賃設定で入居してもらうことで、告知義務を解消することも対策の一つです。
まとめ
入居者の死亡事故などが原因で事故物件となった場合、オーナーの損出は大きくなります。部屋の清掃費用だけでなく、その後の入居者の確保も難しくなるケースもあります。
そのため今回紹介したような対策方法を必要に応じて取り入れ、事故物件にならないように注意深く管理・運営していくことが大切です。事故物件化してしまった場合に備え、対策方法についても予め確認しておきましょう。
倉岡 明広
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