脱炭素に向けた「木造ビル」の事例や各社の取り組みは?耐火・耐震性の取り組みも

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不動産業界の脱炭素化の一環として、木造建築の促進が注目されています。木造建築は鉄筋コンクリート造などよりも建設過程の炭素排出が少なく、更に炭素の固定効果もあるため、脱炭素化に大きく貢献できると考えられているのです。

近年は強度と耐火性に優れた建材開発や建築技術の進歩により、木造での高層ビルの建造が始まっています。今回の記事では木造ビルの先行事例と各社の取り組み、そして耐火・耐震性強化のポイントについてみていきましょう。

目次

  1. 事例①Port Plus®(大林組研修施設)|大林組
    1-1.独自の木造技術「オメガウッド」の採用
    1-2.大林組はさらなる木造高層ビルを計画中
  2. 日本橋の高層オフィスビル|竹中工務店・三井不動産
    2-1.耐火集成材「燃エンウッド」の使用
    2-2.三井不動産「終わらない森づくり」
    2-3.竹中工務店「森林グランドサイクル」
  3. 事例③日本初の木造商業ビル建設|マルイ
    3-1.「Foster+Partners」が設計を手掛ける
    3-2.丸井グループのサステナビリティ
  4. 事例④国内初のハイブリッドホテル|三菱地所
    4-1.高層木造に耐える耐久性の高い耐力壁の導入
    4-2.三菱地所では不動産における木材の利用促進を推進
  5. まとめ

1.事例①Port Plus®|大林組の次世代型研修施設

大林組は2022年5月に自社の研修施設「Port Plus®」を横浜に建設しました。地上11階、地下1階建て、敷地面積約563平方メートル、延べ面積約3502平方メートルの規模です。高さは44メートルとなり、純木造耐火建築物としては日本で最大規模となります。

当施設には大林組の木造建築の最新技術が結集されています。特に大規模化を実現したのが耐震性・耐火性の強化です。板を独自の3層構造にすることで、耐震性を確保するとともに「3時間耐火認定」の取得に成功しています。

こちらのビルでは1990立法メートルの木材を使用しており、構造内に貯蔵される二酸化炭素は1652トンにも上ります。さらに建材加工・建設から解体・廃棄に至るまでの建物のライフサイクル全体で、鉄鋼づくりと比べて40%、1700トンの二酸化炭素の削減効果があると試算されています。

※出典:株式会社大林組「日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus®」(次世代型研修施設)が完成

1-1.独自の木造技術「オメガウッド」の採用

大林組では耐火性・耐震性を高めるために独自の「オメガウッド」という木造建築技術を導入しています。

オメガウッドはエンジニアリングウッド*の一種であるLVLなどを独自の3層構造にし、十字型に加工することで強度を高めた「LVL剛接十字仕口ユニット」をつなぎ合わせた建材を使用するものです。
*木材を原材料としつつ、工場加工を通じて強度・耐火性など建材としての性能を高めた建材

エンジニアリングウッド自体は現代の木造建築ですでに活用されているものですが、大林組は建材の製造過程や建築過程において検証と実践を繰り返しながら吸湿・吸水の影響を最大限抑えて建設することに成功しました。

オメガウッドを導入することで、高層ビルの建設にも耐えるほどの耐火性・耐震性を実現したのです。

1-2.大林組はさらなる木造高層ビルを計画中

大林組では「OBAYASHI WOOD VISION」として、同社の木造建築や建設ライフサイクル全体における木の有効活用について方針をまとめています。

木造建築による脱炭素化への貢献に加えて、植える→伐る→加工する→使う→リユース/リサイクルする→植えるという資源の循環に積極的に貢献することで、資源保護にも貢献しようという取り組みです。

この方針を土台に、大林組では、今後も木造での高層ビル建築を強力に推進する予定です。

既にオーストラリアでは、シドニーに本社があるBuiltとのJVで、高さ182メートルの超高層木造ビルの建設プロジェクトを受注しています。オフィスとホテル・店舗が入居する本格的な複合高層ビルを建てる構想です。

日本の基準の元では、3時間耐火認定を受ければ耐火構造の観点からは木造のさらなる高層建築物(15階以上)の建設が可能に。Port Plus建設の実績を基に国内外で木造高層ビル建築が進められていくと期待されています。

2.事例②日本橋の高層オフィスビル|竹中工務店・三井不動産が手がける木造ビルは国内最大規模へ

日本橋にて建設計画が進む高層オフィスビルの一つを紹介します。竹中工務店と三井不動産が共同で手がける同プロジェクトでは、地上17階建、高さ 約70m、延床面積 約2万6千平方メートルとなっています。

2025年に竣工予定で、計画通り建設が完了すれば、新たに日本最大の木造高層ビルとなる見通しです。オフィス街の中心に位置するため、同ビルも賃貸オフィスとして活用される予定となっています。

木材を積極活用することで、同規模の鉄骨造のビルと比較して約20%の二酸化炭素の排出抑制効果が期待されています。また、三井不動産が自社保有する森林の木材や国内材を積極的に活用する方針で、地産地消にも配慮されています。

また、木材の特性を活かして、オフィス街に木独自のぬくもりとやすらぎをもたらし、東京の都心の新たな価値や魅力の創造に貢献する狙いもあります。

※出典:三井不動産株式会社「三井不動産と竹中工務店、日本橋にて国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル計画検討に着手

2-1.耐火集成材「燃エンウッド」の使用

同プロジェクトでは竹中工務店が独自開発した「燃エンウッド」を活用して耐火性を高めています。同技術では構造を支える荷重し支持部と、外の燃え代層(いわゆる建材の表面)の間に、燃え止まり層をつくることで、耐火性を高めています。

この仕組みにより、外側の燃え代層にはスギ・ヒノキ・カラマツなどの代表的な国産材を被膜などで覆わずに使うことができます。

木の質感をしっかり残しつつ、高層ビル建設に耐えるだけの耐火性能を得ることが可能です。同技術は国土交通省からも耐火構造の認定を取得しており、今後も同社の木造建築に積極的に用いられていく見込みとなっています。

2-2.三井不動産「終わらない森づくり」

三井不動産では「終わらない森づくり」のテーマのもと、持続可能な森林資源の維持を積極的に行っています。

同社は北海道に約5,000ha(東京ドーム約1,000個分以上)の森林を保有しています。計画的な植林・育成・伐採により持続的な森林保護をおこないつつ、伐採材を建材として有効活用しているのです。

こちらの森林は「森林が持続可能な方法で適切に管理されていること」の証であるSGEC認証も取得しています。戸建てを手掛ける三井ホームとも連携しながら、木造建設の普及と森林保護の両立を推進しています。

今回の高層ビルプロジェクトの事例のように、今後はビル建設においても自社森林の木材を適切に活用していく方針です。

2-3.竹中工務店「森林グランドサイクル」

竹中工務店では「竹中グループCSRビジョン」において、サステナブルな社会の実現に向けて街づくりの視点から貢献していく方針を打ち出しています。

その中で、「植える・育てる・使う」という日本の森林のライフサイクルを健全に維持していき、森林資源の保護と経済発展の持続的な好循環を産み出す「森林グランドサイクル」を提言し、同提言に沿った事業展開を行っています。

今回の高層ビルに使用した技術「燃エンウッド」のほか、エンジニアリングウッドの一種である「CLT」などを通じて木造の耐火・耐震性能の向上に注力し、木造ハイブリッド建築の普及に努めています。

3.事例③日本初の木造商業ビル建設|マルイ

ファッションや文化の中心地渋谷の代表的な商業施設の一つであったマルイは2022年に休業に入り、新たな商業ビルの建設プロジェクトを進めています。

同ビルは新たな店舗は地下2階から地上9階建てで売場面積は2800平方メートルの予定で、耐火木材などを用いて建材の約60%を木材で建造する計画となっています。ハイブリッド木造ではあるものの、竣工すれば商業ビルとしては初の本格木造ビルとなる予定です。

鉄骨造りで立て替えた場合と比較して、約2千トンの二酸化炭素削減の抑制に貢献すると試算しています。完成は2026年を予定しています。また、日本の日本の伝統的な建築技術を取り入れ、サステナブルな街づくりに貢献する方針です。

3-1.「Foster+Partners」が設計を手掛ける

同プロジェクトでは、サステナビリティに配慮した不動産設計に長年注力してきたイギリスの設計事務所 「Foster+Partners(フォスター・アンド・パートナーズ)」が設計を手掛けています。

同事務所はイギリスのウェンブリー・スタジアムや、アップルの新本社を中心とする施設「アップルパーク」、「スティーブ・ジョブズ・シアター」など数々の建造物を手掛けてきました。これまでの実績を活かしながら、渋谷の持続的な都市形成に資する商業施設を建設予定です。

なお、2023年5月時点で詳細は計画中としていますが、再生可能エネルギーを活用や太陽光の効果的な活用などもテーマに掲げられています。

3-2.丸井グループのサステナビリティ

丸井グループでは「丸井グループビジョン2050」にてサステナビリティに関する目標を定義しています。商業施設の建設や運営を通じて、目標の一つである「将来世代の未来を共につくる」への貢献を目指しています。

木造商業施設の建設を通じて、サステナブルな街づくりに貢献する方針です。また、渋谷のマルイをリニューアルする際には、入店企業についてサステナビリティに配慮する企業を選定する方針で、商業施設全体としてサステナビリティに配慮した運営を目指します。

さらに、同社では2030年度までに事業活動における消費電力を実質100%再生可能エネルギーで賄う方針を掲げています。詳細は2023年5月末時点では未定となっているものの、渋谷のマルイでも再生可能エネルギーを積極的に活用し、脱炭素化に貢献する施設となる見通しです。

4.事例④国内初のハイブリッドホテル|三菱地所

最後は2021年秋に開業した木造ハイブリッド施設である「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」です。札幌市にある同ホテルは三菱地所が手がけた11階建てのビルで、当時は国内初の木造高層ハイブリッドホテルとなっていました。

1階から7階は鉄筋コンクリート造、8階から11階が木造のハイブリッド構造を採用しています。特に9-11階は純木造づくりで、木材には北海道産トドマツを使用するなど、地産地消にも配慮しています。

また、1~7階の鉄筋コンクリート造のフロアも、壁面などには木材を積極的に使用し、当時の技術で可能なレベルで木材化・木質化を積極的に取り入れた建物です。同等の構造体を全て鉄筋コンクリートで建設する場合と比較して、約1380トンの二酸化炭素の削減効果があると試算されていました。

※出典:三菱地所設計「ザ ロイヤルパーク キャンバス札幌大通公園

4-1.高層木造に耐える耐久性の高い耐力壁の導入

同ホテルでは、三菱地所とMoNOplanが共同開発した独自の高耐力枠組み壁工法を導入しています。これにより高層ビルにおいて発生する大きな引張力や圧縮力に木材で耐える耐力壁の建材としての使用が可能となったのです。

梁や柱を持たず仕切る壁を多く使用する「枠組み工法」は居室の多いホテルと相性の良い工法ですが、建設前時点の技術では純木造で多層階に枠組み工法を導入するのが困難でした。

同社は新たに開発した枠組み壁工法「拡張型SSW14工法」を導入することで、耐力性を基準の25.5倍まで引き上げることに成功しました。同技術により従来と比較してビルにおける構造躯体への木造の使用率を飛躍的に高めた木造ハイブリッドビルが実現したのです。

4-2.三菱地所では不動産における木材の利用促進を推進

三菱地所では「三菱地所グループのSustainable Development Goals 2030」のなかで「持続的な木材利用の推進」を掲げています。

国産材・認証材の活用や2×4住宅における小径木や間伐材の利用を積極的に進めているほか、CLTと呼ばれるエンジニアリングウッドの利用促進により、木材の建造物への使用範囲の拡大を推進しています。

2020年には三菱地所や竹中工務店など7社の共同出資によりMEC Industryを設立し、低コストで高品質な木材の建材製造を推進しています。原木の調達から、製材、製造、加工、販売までを一気におこなうことで、効率的な建材製造と、森林の循環の促進を目指しているのです。

まとめ

従来の技術では耐火性や耐震性などの観点から実現が難しかった木造ビルですが、近年の技術開発により、急速に新たな木造ビルプロジェクトがスタートしています。

構造としても、以前は鉄筋コンクリートと組み合わせたハイブリッド構造が中心でしたが、大林組の事例などのように、ついに純木材造りのビルの建設や建設計画も持ち上がっています。

大規模で建材の使用量も多い高層ビルを木材で建設できれば、炭素貯蔵の効果や建設過程のエネルギー使用や炭素排出の抑制により、サステナビリティに大きく貢献が可能です。今後もますます木造ビルが普及し、持続可能性の高い街づくりが進むと期待されます。

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伊藤 圭佑

資産運用会社に勤める金融ライター。証券アナリスト保有。 新卒から一貫して証券業界・運用業界に身を置き、自身も個人投資家としてさまざまな証券投資を継続。キャリアにおける専門性と個人投資家としての経験を生かし、経済環境の変化を踏まえた投資手法、投資に関する諸制度の紹介などの記事・コラムを多数執筆。