日本全体においてサステナビリティが重視される中で、企業においてはSX(サステナビリティトランスフォーメーション)という考え方が経済産業省より提唱されました。社会のサステナビリティに対する貢献をしながら、企業経営の持続性を向上させようという考え方です。
経済産業省と東京証券取引所は、伊藤レポートなどで明確化した日本企業の課題解決とサステナビリティ向上を目指して、SX銘柄を創設し、選定していくことを公表しました。
今回の記事ではSXの基本やSX銘柄の選定について、そして2024年以降のSDGs投資について考察していきます。
目次
- SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?
1-1.社会と企業のサステナビリティを統合
1-2.SX提唱の背景
1-3.SXを実践するうえでの要件 - SX銘柄の創設
2-1.SX銘柄選定の背景
2-2.今後のプロセス - 2024年以降のSDGs投資への考察
3-1.日本企業のサステナビリティへの注目が高まる
3-2.SDGsと企業経営の統合が株価に好影響をもたらすと期待される
3-3.SX銘柄において想定される課題 - まとめ
1 SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?
SX銘柄は、そもそものSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の提唱と密接に関係しております。まずはSXの概念についておさえておきましょう。
1-1 社会と企業のサステナビリティを統合
「サステナビリティ・トランスフォーメーション」はサステナビリティ(持続可能性)を高めるために、企業変革を推進することを意味します。
SDGsの考え方の普及に伴い、社会の持続可能性を高めるための積極的な取り組みが、現代の企業経営における重要な要件に。すでに多くの日本企業は、SDGsの考え方をビジネスに取り入れて、さまざまなアクションを起こしています。
SXでは、社会のサステナビリティに加えて「企業のサステナビリティ」の向上を同時に達成する取り組みを求めているのです。
健全な経営やヒト・モノ・カネといったリソースの適切な活用、透明度の高い情報公開やガバナンスなど、企業のサステナビリティを実現する経営の推進を求めています。
SXを達成すれば、持続的な企業が社会のサステナビリティを高めることで好循環が生まれ、より高いレベルでサステナブルな社会の形成へとつながることになります。
1-2 SX提唱の背景
SXは経済産業省が「伊藤レポート」などにおいて明らかとなった日本企業の課題解決を念頭に提唱されました。
まず、SDGsにおいてグローバルな規模で持続可能性に対するさまざまな課題が浮かび上がっています。SDGsにて17のゴール、169のターゲットを元に明らかになった気候変動や社会問題などの解決に向けて、各社が積極的に取り組みを進めていかなければなりません。
さらに、日本企業自体の持続性が課題として浮かび上がっています。多くの企業がPBR1倍割れで割安なまま放置されるなど、日本企業の魅力が投資家に充分に伝達されていない状況です。
少子高齢化により高成長が見込みづらい中で、日本企業の「稼ぐ力」の強化と、価値を適切に伝達するための投資家との対話などが必要な状況となっています。
以上のような課題意識を背景に、社会のサステナビリティと日本企業のサステナビリティを統合する「SX」という考え方が生まれました。
1-3 SXを実践するうえでの要件
経済産業省が主となって創設された「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」ではSXの3つの要件をまとめております。
- 企業としての「稼ぐ力」の持続化・強化
- 社会のサステナビリティを経営に取り込む
- 企業と投資家による対話
SXで重視しているのは、企業自体のサステナビリティを高めることです。そのため、企業自身が長期にわたり収益を獲得し、また成長していける事業の優位性や独自性を獲得することを求めています。
社会課題を「ビジネスチャンス」として活用することをSXでは求めています。自己犠牲的な社会貢献を多くの企業が長期で継続するのは困難です。
社会の将来像を想像しながら、企業経営にプラスになる形でサステナビリティに貢献する仕組みを作ることをSXでは求めています。サステナビリティを経営に取り込むことで、長期にわたり企業がサステナブルな社会形成に貢献し続けられると考えられているからです。
また、日本の株価が割安に放置されている原因として、企業と投資家の対話に課題があると考えられています。本質が素晴らしい企業だとしても、企業に出資・融資をおこなう投資家の理解が得られなければ、企業の存続は困難です。
企業のサステナビリティに対する取り組みを適切に伝えるための丁寧なコミュニケーションも、SXの一要件となっています。
2 SX銘柄の創設
2023年2月、経済産業省と東京証券取引所はSXを先進的に進める企業をSX銘柄として選定する方針を発表しました。2024年春ごろに最初のSX銘柄が公表される見通しです。
2-1 SX銘柄選定の背景
経済産業省と東京証券取引所は、日本株のグローバルな評価が充分に高まっておらず、PBR1倍割れの企業が多数存在する事態に課題意識を持っています。
そこで、SXを積極的におこなう企業を明確化することで、日本の投資市場独自のサステナビリティへの取り組みをアピールし、日本企業及び株式市場を再評価してもらう狙いがあるのです。
SXの要件の一つとなる「投資家との対話」の積極化にもつながり、日本企業のサステナビリティに対する取り組みへの正当な評価を通じて、日本企業に対する期待形成に寄与すると期待されています。
2-2 今後のプロセス
2023年5月時点では、細かい選定プロセスは検討中となっていますが、今後、審査基準などより詳細な選定方法が公表される見通しです。
同制度は公募制となる予定で、詳細を公表したのち2023年7月ごろに公募を開始、2024年春ごろに、最初のSX銘柄を選定・公表する見通しとなっています。「2年目以降も概ね同じスケジュール」「終了時期は定めない」(引用:経済産業省「SX 銘柄評価委員会の設置」)としているので、来年以降も年々SX銘柄が選定されていく見通しです。
3 2024年以降のSDGs投資への考察
2024年にはSX銘柄の公表が始まり、日本企業のSDGsに対する取り組みの再評価が進むと期待されます。ここからは2024年以降に考えられるSDGs投資の変化について紹介していきます。
3-1 日本企業のサステナビリティへの注目が高まる
政府が主導して企業及び社会へのサステナビリティに積極的な企業を選定することで、国内外から日本企業に対する再評価が進むと期待されます。
SDGsへの貢献を、日本政府と投資市場が共に後押しする姿勢が、投資家からの再評価につながります。選定された企業の株価や事業においての好影響、また日本の投資市場全体に対しても好影響があるでしょう。
3-2 SDGsと企業経営の統合が株価に好影響をもたらすと期待される
日本においては社会貢献は、ボランティアなど「社会奉仕」とイメージとして結びつきやすい側面があります。
太陽光発電関連の産業など、一部の先進的な企業ではSDGsをビジネスチャンスととらえる動きもあるものの、日本産業全体で見ればSDGsと企業業績の強化や価値向上との結びつきが不明確な部分もありました。
SXでは、持続的な企業がサステナビリティに取り組むことで、長期にわたり社会の変革や改善が実現できるとして、企業経営とSDGsの考え方を統合させています。
今後は多くの日本企業全体が「稼ぐ」ための取り組みの一環として、SDGsへ取り組む動きが積極化すると期待されます。
このようなアクションがうまく機能すれば、企業業績の向上や競争力強化がSDGsへの貢献と同時進行することになります。投資家との対話も積極化することで、グローバルに日本企業への投資が促進されるでしょう。
3-3 SX銘柄において想定される課題
SX銘柄が適切に機能するうえではいくつかのリスクが想定されます。
- 有名な大企業に選定が集中するリスク
- 株価に対する好影響が起こらないリスク
- 見せかけのSXが横行するリスク
銘柄の政府認定制度では、経営基盤の大きい大企業ばかりが選定されてしまうケースもあります。
例えば、2020年よりDXに積極的な銘柄として「DX銘柄」を選定していますが、2022年ではブリヂストン、日立製作所など、元から知名度のある企業が中心となっています。
日本全体の競争力や投資の魅力を高めるためには、今後成長が期待できる企業を発掘することも重要です。しかし、DX銘柄の選定結果をふまえると、期待通りの成果を上げるとは限りません。
また、SXは「企業経営の強化」や投資家からの再評価を重視して選定する仕組みですが、政府が認定したからと言って、必ず投資需要を喚起するとは限りません。
さらに、認定獲得が主目的化して実態の伴わない企業が出てくるリスクがあります。選定においては、本質的にSXの要件を満たす企業を適切に選定する機能が求められます。
以上のようなリスクを克服できれば、SX銘柄は真に日本の投資市場と産業の発展に役立つと期待されます。
まとめ
伊藤レポートをもとに、経済産業省と東京証券取引所はSX銘柄を選定して、日本におけるサステナビリティの促進を企業評価の向上と同時並行で推進していく考えです。
この仕組みがうまく機能すれば、日本全体としてSDGsへ貢献するとともに、日本の産業全体の発展や日本株への再評価が進むと期待されます。一方で、過去の政府主導の認定銘柄の実績を見ると、いくつかのリスクも存在します。
今後の認定プロセスや審査要件、そして実際の認定企業の顔ぶれなどを元に、SX銘柄の認定が日本の投資市場に好影響をもたらすのかどうかをみていきましょう。
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伊藤 圭佑
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