マンションの売却をして利益が生じたとき、譲渡所得を計算して申告し、所得税・住民税を納付する必要があります。
譲渡所得の計算では、取得費を算出する際に、建物部分の減価償却費を差し引かなければなりません。マンションの譲渡所得計算では、建物部分の価格割合が大きく、減価償却費の計算方法を間違えると、税額が大きく変わることになります。
本記事では、マンション売却の際の、減価償却費の計算方法について、初心者向けに分かりやすく解説していきます。
※記事内の税制内容は2021年9月時点の情報となります。最新の情報については、国税庁などのサイトをご確認のうえ、税理士などの専門家へのご相談もご検討ください。
目次
- マンション売却時には「減価償却費」の計算が必要になる
1-1.譲渡所得の計算における「取得費」の算出
1-2.「減価償却費」とは - マンションの「減価償却費」の計算方法
2-1.建物部分の取得価格の算出
2-2.耐用年数は建物の構造、用途によって異なる
2-3.非業務用マンションの減価償却費の計算例 - 中古マンションの取得費用
3-1.業務用マンションの中古見積耐用年数
3-2.業務用マンションを中古で取得した場合の減価償却費計算例 - マンション売却の確定申告には税務リスクがある
- まとめ
1.マンション売却時には「減価償却費」の計算が必要になる
マンションを売却して利益が生じた場合、その利益(譲渡所得)につき譲渡所得税・住民税が課されます。譲渡所得は、マンションのオーナー自らがその金額と税額を計算し、売却した年の翌年3月15日までに確定申告をおこなう必要があります。
譲渡所得の計算では、譲渡価格から控除することができる費用の一つとして、マンションの「取得費」があります。「減価償却費」は、この「取得費」を計算する際に利用されることになります。
1-1.譲渡所得の計算における「取得費」の算出
譲渡所得税のかかる不動産売却の利益(譲渡所得)を計算する式は、次のようになります。
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+売却費用)-特別控除
この譲渡所得における取得費は、次のように計算します。
取得価格+取得の際要した費用+取得後の改良費-減価償却費(建物の場合のみ)
取得価格とは、購入時の価格や建物であれば建築費用になります。取得の際要した費用は、仲介手数料・登記費用、登録免許税・不動産取得税・印紙税などの一定の費用となります。
1-2.「減価償却費」とは
「減価償却費」とは、建物の取得価格のうち価値が減少した部分です。税務上、建物は使用または経年によって劣化し価値が減少していくと考えられており、その使用できる年数にわたって取得価格を費用化していきます。
具体的には、建物の取得価格を耐用年数で割って算出した1年ごとの「減価償却費」が、年数が経過するにつれて積み重なっていくことになります。
「減価償却費」計算の仕組みは、事業における損益計算を適正におこなうことを目的として、その建物を使用することで得られる収益に適切に対応させるためのものです。必ずしも、実際の市場価格の減少分と一致するわけではありません。
また、事業用に使用している建物と非事業用の建物とでは、「減価償却費」の計算方法が異なります。なお、土地については、経年劣化がおきず価値が減少しないと考えられており、減価償却費は計上しません。
2.マンションの「減価償却費」の計算方法
2021年9月の現行税制では、マンションのような建物の「減価償却費」の計算方法は、定額法という方法によることになっています。次の算式によって計算します。
減価償却費=取得価格×定額法の償却率
また、平成19年3月31日以前取得の場合、残存価格を考慮することとなるため、次の算式によって計算します。
減価償却費=取得価格×0.9×定額法の償却率
なお、償却率は建物の耐用年数に応じて決められており、建物の構造や用途によって変わってきます。
2-1.建物部分の取得価格の算出
マンション購入時の売買契約書から、建物部分の価格を確認して利用します。マンションの価格は、建物部分と土地部分の価格から構成されているため、建物部分の価格のみを抽出するようにしましょう。
ただし、購入時中古マンションとして購入している場合、建物部分の金額が明確に区分されていない場合もあります。そのような場合は、自分で建物部分の金額を推計することが必要になります。
よく行われる計算方法としては、固定資産税の明細書に記載された土地と建物の評価額を基に、購入価格の総額を按分する方法です。その他、建物建築時の標準的な建築価格単価に、建物の床面積を乗じて算出する方法もあります。
2-2.耐用年数は建物の構造、用途によって異なる
主な建物の減価償却費の計算における定額法の償却率は、建物の構造、用途によって定められた耐用年数に応じて下表のようになっています。ただし、これは業務用(投資用マンション・アパートなどが該当)の建物の耐用年数となります。
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
木造(住宅用・店舗用) | 22年 | 0.046 |
木造(事務所用) | 24年 | 0.042 |
木骨モルタル造(住宅用・店舗用) | 20年 | 0.05 |
木骨モルタル造(事務所用) | 22年 | 0.046 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(住宅用) | 47年 | 0.022 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(事務所用) | 50年 | 0.02 |
れんが造・石造・ブロック造(住宅用・店舗用) | 38年 | 0.027 |
れんが造・石造・ブロック造(事務所用) | 41年 | 0.025 |
金属造(住宅用・店舗用)(骨格材4mm超) | 34年 | 0.03 |
金属(住宅用・店舗用)(骨格材3mm超4mm以下) | 27年 | 0.038 |
金属(住宅用・店舗用)(骨格材3mm以下) | 19年 | 0.053 |
金属造(事務所用)(骨格材4mm超) | 38年 | 0.027 |
金属造(事務所用)(骨格材3mm超4mm以下) | 30年 | 0.034 |
金属造(事務所用)(骨格材3mm以下) | 22年 | 0.046 |
※参照:国税庁「減価償却資産の償却率表」
非業務用の場合の減価償却の計算方法と償却率
非業務用の建物、すなわち、自己居住用として利用していた建物の減価償却の計算式、償却率は、上述してきた計算方法、償却率とは異なり、次のようになります。
減価償却費=取得価格×0.9×定額法の償却率
構造 | 耐用年数 | 償却率 |
---|---|---|
木造 | 33年 | 0.031 |
木骨モルタル造 | 30年 | 0.034 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 |
れんが造・石造・ブロック造 | 57年 | 0.018 |
金属造(骨格材4mm超) | 51年 | 0.02 |
金属造(骨格材3mm超4mm以下) | 40年 | 0.025 |
金属造(骨格材3mm以下) | 28年 | 0.036 |
※参照:国税庁「「減価償却費」の計算について」
2-3.非業務用マンションの減価償却費の計算例
マンションの減価償却費の具体的な計算例をみてみましょう。新築で購入し、自己居住用として10年利用していた場合で、次のような条件のマンションを考えてみます。
- 建物取得価格:2,000万円
- 経過年数:10年
- 構造・用途:鉄筋コンクリート・自己居住用
このマンションは自己居住用として利用していたため、耐用年数は、非業務用の表を用います。非業務用の耐用年数表によると、鉄筋コンクリート造建物の耐用年数は70年、償却率は0.015となっていることから、償却率はこの数字を用います。取得価格、償却率の数字を、非業務用の減価償却費の算式に当てはめると、次のように計算できます。
減価償却費=2,000万円×0.9×0.015×10年=270万円
3.中古マンションの減価償却費
中古マンションの減価償却費の計算方法は、自己居住用(非業務用)として利用していた場合は、前述の計算例と変わりません。
しかし、賃貸用などの業務用として利用していた場合、法定耐用年数をそのまま用いるのではなく、中古として取得時の残存耐用年数を見積計算することによって耐用年数を求めます。
3-1.業務用マンションの中古見積耐用年数
業務用マンションを中古取得した場合の耐用年数は、法定耐用年数(税法で定められた耐用年数表の耐用年数)と経過年数を一定の算式に当てはめて計算します。法定耐用年数以内の場合と、法定耐用年数を経過している場合とで計算式が異なります。
法定耐用年数を経過していない場合
中古マンションの経過年数が、法定耐用年数以内の場合、次の算式によって耐用年数を計算します。
中古見積耐用年数=法定耐用年数-経過年数+経過年数×0.2
なお、経過年数に0.2を乗じるときに発生した1年未満の端数は切り捨てます。
法定耐用年数を経過している場合
中古マンションの経過年数が、法定耐用年数を経過している場合、次の算式によって耐用年数を計算します。
中古見積耐用年数=法定耐用年数×0.2
なお、1年未満の端数は切り捨て、見積耐用年数の計算結果が2年に満たないときは2年とします。つまり、法定耐用年数を何年超過しているかに関わらず、中古見積耐用年数は2年以上となります。
3-2.業務用マンションを中古で取得した場合の減価償却費計算例
賃貸用として利用していたマンションを、中古で取得した場合の減価償却費の具体的な計算例をみてみましょう。築10年経過時に購入し、賃貸用として5年利用していた場合で、次のような条件のマンションを考えてみます。
- 建物取得価格:2,000万円
- 経過年数(取得時経過年数):15年(10年)
- 構造・用途:鉄筋コンクリート・賃貸用
まず、取得時の耐用年数を見積ります。取得時は築10年で賃貸用として利用していたため、中古見積耐用年数の算式に当てはめると、次のようになります。
耐用年数=47-10+10×0.2=39年
耐用年数が39年の場合の定額法の償却率は、耐用年数表によると0.026となっているため、償却率はこの数字を用いて減価償却費を計算します。経過年数は、中古として取得した時からの年数を用います。
減価償却費=2,000万円×0.026×5年=260万円
4.マンション売却の確定申告には税務リスクがある
マンションを売却し確定申告を行う際、減価償却費の計算を誤って不必要に多くの課税をされたり、逆に過少申告をしてしまい追徴課税のペナルティを負ってしまうなどの税務リスクがあります。
これまで確定申告を行ったことがない方にとって、税務の知識を適切に備えたうえで申告書類の作成を行うには非常に手間がかかります。これらのリスクや手間を省くためには、税理士など専門家への相談も検討してみると良いでしょう。
税理士への相談や確定申告書作成の代行依頼には費用が掛かってしまうデメリットがあり、マンションの売却価格によっては依頼のメリットが大きくないこともあります。まずは費用の見積もりを行ったうえで、依頼するかどうか検討してみましょう。
例えば、税理士紹介サイトを利用して税理士を紹介してもらうという方法もあります。税理士紹介サイトでは、コーディネーターが、相談者のニーズに合った税理士をピックアップし、面談を調整してくれます。税理士との依頼内容の調整や、料金交渉などもコーディネーターに任せることが可能です。
税理士ドットコム
税理士ドットコムは、全国5,900名の税理士の中から無料で希望に沿った税理士を紹介してもらえるウェブサービスです。複数の税理士を比較することができるうえ、「費用はいくら?」「どんな税理士を選ぶべき?」といった税理士を選ぶ際の相談も可能となっています。
報酬引き下げの実績も豊富なため、すでに税理士と契約している方でも利用が可能です。コーディネーターが複数の税理士に相見積りをとり、費用についての交渉までサポートしてくれます。
利用時の主な注意点としては、提携している税理士の紹介しか受けられない点です。提携外の税理士も比較していきたい方は、自身で探してみたり、知人から紹介を受けてみるなどと並行して、利用を検討すると良いでしょう。
まとめ
マンションを売却した場合に譲渡所得の取得費を計算する際、マンションの減価償却費を算出する必要があります。
減価償却費は、マンションの取得価格に償却率を乗じることによって計算します。償却率は耐用年数に応じて決められていますが、この耐用年数は、建物の構造、用途によって異なります。
売却するマンションの構造、用途から、耐用年数表を参照して償却率を求めるようにしましょう。
自己居住用の場合と賃貸用の場合とで、減価償却費の計算式が異なるので注意しましょう。また、賃貸用のマンションを中古で取得している場合、耐用年数の見積計算が必要になることにも留意しましょう。
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